5 奴ら3人の事情と俺とユノちゃん
追記 2019 7/12 不良組3人の不良度と根幹に関わってくることを追加……しないと物語に整合性がとれなくなってしまいました。最低のミスですごめんなさい
蹴るのが収まった瞬間、土下座の姿勢からでんぐり返し。体を動かして足を浮かす。そしてそのまま──。
「ゴブフゥ!!」
ドロップキックゥ! ギルカのお腹に直撃!
「ふぅ……。そういえば、あなた方の名前を聞いていませんでしたね」
両手で制服をはたきながら、俺はわざと、邪悪そうな笑い方をして聞く。
「この……蹴りを喰らわせるとは……ああ!」
「ああ、オレの名はトゥルオーラ・リンドルードです。うちのギルカ……えっと、ギルカ・ヴェスタがごめんね……あと少し、少し付き合って?」
話す人を遮って話す人を遮って、俺が話す。あー。分かりにくい! あとしっかり名乗るのなあんたたち!
「私の名前はエルヒスタ・レプラコーン。以後、お見知りおきを」
華麗にお辞儀をする。自分で華麗って言うの、少し恥ずいな。
まあ、こんなことは言いたくないが……ヴェスタ家だったらもっとこう……優しそうな雰囲気なんだが。
俺の知らない間に変わったのか?
「このっ、野郎!」
「チッ!」
ギルカに殴られる。かなりの威力だ。単純に骨折れるくらい痛い、折ったことはないけど。
もちろん、全力で殴り返す。力は人並みくらいにはあるけど……喧嘩慣れ? とか全然ないから、人殴るの難しい。それになんか感触が嫌だ。
「くっ! このっ! 小癪なっ!!」
「……ふっ!」
一撃。まあドロップキックもあったし、普通はここまでだろう。むしろ、実力と態度が大幅に違う訳ではないようだし。強い方だ。
「グワッ!!」
違う机にたたきつけられる。近くに居た、たぶんじゃじゃ馬だろう。それに当たる。悲鳴も上がる。野次馬もどんどんヒートアップしている。
本気で怒ったのは次だった。
「やめてっ」
ユノちゃんの可愛らしい声。いやいや、可愛らしいとか言ってる暇はないか。
「っこ、! こいつがどうなっても良いのかっ!」
今度は大衆の悲鳴。彼、キャハキャハ笑ってたやつが、ユノちゃんの首に短剣……いや食堂で使う小さなナイフを当てていた。
「ほらほらぁ! どうした!? だっ……ダメだぞ! 少しはギルカに……!!!」
チッ……! 卑怯なまねを。
「じゃあワロキア……ハァ、ッッッッッ!」
「や、……やめて!」
そしてユノちゃんは、か細い声でたぶん、こう言った。
「たすけて」と。
……、……。ドスンッ!!!!
「ゴブゥ!! バッハーッ!!」
奴のいる、机の、反対側に移動して、蹴った。
もの凄い勢いで吹き飛ばされたやつは、なんかもう関節大丈夫かって感じに倒れ、気絶していた。
俺はあと一人を睨む。
「超恐いねぇ……。オレはもうこーさんですよ、降参。意味は分かってるでしょ、エルヒスタくん」
両腕を上げながら近寄ってくる。なので俺はユノちゃんを背に守りながら戦闘態勢になる。
「あー。2人を……回収? は言い過ぎか……ああ、そうそう撤収するんですよ」
リンドルードは関節外れちゃったやつを左に抱えて近寄ってきた。
「……何のつもりだ、リンドルード」
「いやいや……ちょっと言いたくてね」
リンドルードは俺の耳の真横に来て、こう言った。顔は見えなかった。
「その紺青の髪に、異様に光る金色の眼。キミ、超面白そうだからさ、オレのこと覚えておいてよ。オレもしっかり、覚えておくから……さッ!」
「ごぶッ!! くっ!! はぁ……!」
もの凄い勢いで殴られた。俺は思わずうずくまる。
「ギルカくん。帰るよ。撤収ー」
「っ、覚えてろよエルヒスタ! 次会ったときはぶん殴ってやる!」
俺は怒りが抑えられなかった。リンドルードを睨んで腕を突き出し、今できる最大級の魔法を放つために──。
「『雷一閃、稲妻よ……!」
「だめです!」
ユノちゃんに抑えられてハッとなった。
そうだ。ここでぶっ放したら駄目だ。気持ちを落ち着かせなきゃ……
「あああっ、あの……」
ユノちゃんが呟く。
「場所……変えませんか?」
「ヒュー!」
「かっけー!」
「どうしよ、先生呼ぶか?」
……。ちょっと顔が赤くなってくるのを感じ、ユノちゃんの手を引き、顔を見せないように歩く。
「場所変えよう……どこ?」
「じゃ、じゃあ! ……あの、昨日の講義室に、お願いします!」
「分かった」
俺は早歩きで3階、第5魔法講義室まで向かった。ユノちゃんの手を、ずっと握ったまま。
☆
チェリスカ魔法学園中等学部の、南館屋上。第1食堂室でエルヒスタに敗北した彼ら3人、ギルカ・ヴェスタ、トゥルオーラ・リンドルード、ソウイチロウ・ロンダーの3人が、日陰で寝ていた。
「トゥル、ソウイチ。俺様の敗因、なんだと思う? ってか、踏んだのがいけなかったか? ……でもなぁ、アレすんごく気持ちいいんだぜ?」
トゥルオーラが腰を上げて言う。
「なに、ギルカ? お前がそんなことで気に病むなんて……ワロキアじゃなくてあの、エルヒスタってやつのこと好きになっちゃったの?」
「違ーよ。そもそもワロキアはテルオの……いや、お前に聞いても埒が明らん。ソウイチ、お前はどうだ?」
ソウイチロウ、そう呼ばれた気弱そうな男がぼそっと言う。
「なんか……ハイになってたよなボク。ギルのこと『ギルカ様ァ~!!』とか言って。正直キモい。俺とか言って、キモい……。ボクキモい……キモすぎる。ナイフとか当てちゃったりして……。女の子の顔に傷つけるなんて最低男だよね……いやもう男として生きられない……ちょん切っちゃおうかな……」
自分で自分を傷つけている。言葉で自傷してる。
「あー、もういいや! 何も考えないッ!!!」
ギルカの咆哮。それは昼間の空に消えていった。
「ジャンケンしようぜ、負けた奴が飯買いに行くやつ。さっき食えなかったし、ちょうど良いだろ?」
長い沈黙の後、ギルカが言った。彼らはいわゆる不良。素行の悪い最低の人間たち。
でも、それだけが彼らを表す言葉ではない。
「その前に、今日の夜。学校に行くぞ」
トゥルオーラが言った。それを聞いて二人も耳を傾ける。
「召喚獣が現れた。それもあのクソが呼んだ奴だ、呪い含めて最悪度が超絶に違いすぎる。……とりあえず、やるぞ」
「めんどくさ、パス。ってか俺のことなんも考えてないよな、テルオも」
ギルカはぶっきらぼうに提案を断って、そしてこう言った。
「今日は俺のストレス発散に付き合え。校内なら基本、なんとかなるだろうしな」
ヤンキー3人、まだ出番あります