55 エージェント・ダイヤル
5/8 ガリュキン家→リュガオン家 完全ミス
占術。水晶、カード、そして紙切れなどに魔力を通して、現象を起こす。『占い』の力を、魔法にまで昇華させた技術。
その種類として、聞いたことあるものだと、太陽光を通すと全てを焼き払う光線になる水晶とか、炎が出る札とか、魔法を吐き出すカードで作られた立方体……だとか。
あとは、
「『占長札・蓮海』!」
『流れ』を操る、特殊な水分を散布させる札、とか。
水……いや、水色が付いている時点でもうそれは純粋な水ではない。大きく、拳のような魔力の塊が俺たちを押し潰そうとしてくる。すかさず魔力の糸で応戦するも、水のように掴むことはできない。だが、威力を弱めることはできた。
「ユノちゃん、絶対にホールズを離すなよ」
「は……いっ!! 絶対に、離しません!」
ユノちゃんの身は、ユノちゃんが守れる。それにいざとなったらホールズがいる。だから、目の前の……『相手』に全身でぶつかっていける。
「それと、でっかい補助、頼む」
ただ、面と向かって矛を突き立てているにもかかわらず、まだリッキーを怪盗だと思えない。
「なんで、よりによって、お前なんだよ……!!」
でも、なんで、どうして……!?
「こちらでも、そう問いたいぞエルヒスタッ!!」
その大声で、【蓮海】の出力が大きく上がる。腕が誰かに引っ張られているかのように、俺の意思に反して後ろに回される。
「だけど、魔力の糸は……防げないだろッ!!」
ビュウンッ! と伸びる魔力の糸。今、リッキーが集中しているのは【蓮海】の出力と向き。だから、術を停止して回避、又は別の占術で防御しなければならない、はずだ。その、一瞬。必ず隙が生まれる。
「『占長札・海鳴のうねり』、速度では、勝てませんよ。……絶対にねっ!」
「糸が全部巻き取られた!? 面白い……!」
【海鳴のうねり】。周りのものを巻き取り四散させる力があった。エネルギーを逃して弱体化させているというところか。
……どうりで、魔力の糸を見ても平然としていたわけだ。
「速度ならこっちも負けないっ! ……それで、どんな理由があって、お前はホールズの魔導書を狙ってるんだ!?」
「あなたに教える義理などないでしょう。それに、話をすげ替えないでくれないですかねっ! 魔導書を狙うなんて心外なのですよ我も。と、言いますかそもそもの話と……実際、狙ってるのは貴方達でしょう」
あれ? なんか、話がぐっちゃになってない??
「俺が魔導書を狙ってる? んな、わけねーだろ。俺は成り行きで今日ホールズと出会ったの! そしたら警報装置が変に壊されてやがるし、リッキーと戦わなくちゃいけなくなるしで散々なんだぞ!」
あれ?? 話が、噛み合わない……?
「ならもっといけない、いただけない! 君がそんな、芯のない人間だったなんて、我は悲しい!」
なんか、変じゃないか?
「なら、狙いはユノちゃんってことかよ。どうしてだ、どこにそんな理由が。……なんのために?」
「そうだなぁ。ユノちゃん、だっけ……君の後ろで、補助術式を三枚並立詠唱なんていう頭はちきれそうな術式の展開をしている女の子のことだろう? 戦場で、悠長に実験するようなことは危ないと言いたい」
「へぇ、アドバイスしてくれるんだ。でもユノちゃんは渡さないけどな」
「生憎、我のタイプは清楚なお姫様だからな。彼女のことを狙っていたとしても、それは外面ではなく中身の方だ」
だから、何か変だ。もし、リッキーがホールズを狙う何者かだとしたら……。
まず、そもそも、どうしてこんな場所にいるんだ? 警報が作動したのは大書庫の出入り口。ここは書庫からは近いが、出入り口と近いとは言えない。どうしてここで待ち伏せができた?
「ふぅ……もういいでしょう」
そんなことを考えている、暇もないっ!! 奴の大技が、来るっ!!
「エル先輩おわりましたです、『【マナリース・ケシラン・ドプニル】』!」
回復魔法の多重詠唱。それによる効果の増幅。三個の魔法の力が、今さっきまでの疲労を強引に吹き飛ばした。ユノちゃんは俺のことわかってる。体の負担に、少し強いってことを!
「悪いな、リッキー。お前を退けて、俺たちは帰らせてもらうぜ」
だが、その言葉を受けたリッキーはより一層濃く、魔力を放つ。大海の唸り声が夜の校舎に響き渡る。
「それはいいですねエルヒスタ。貴方こそ……この幕から、降りていただきますっ!」
「それはっ、こっちのセリフだッ!!」
魔法で強化された俺は、一歩でリッキーに近づく。
「これで! 終わ──」
「『爆檻』」
爆風があった。しかし、無音であった。なので、破裂音はなかった。
そこには、無音の衝撃しかなかった。
「ごっ……っ!!」
背中、腹、肩、足。全方位から、爆発は襲い来た。
「占術というものは、元々は占い。未来を見る、というところから来ている」
三個の回復系魔法のお陰か、痛みはさほどない。
「未来を、次の局面を見通して、先回りして……敗戦の種を潰していく。それが、占術の戦い方なのです」
しかし衝撃で、肩が脱臼してしまっている。咄嗟に元の位置に戻せたはいいものの……脱臼って簡単には治らないはずだ。ユノちゃんに言ってもいいが、まあ、この状況でどうしろと言うべきか。
どうせ、ただ語っているように思わせて、これも何かの術を発動させる前段階なのだろうか? そう思っても、確かめようはない。
「ですから、もう終いにしましょう。大丈夫です、後ろの女の子も、エルヒスタも、これ以上動かなければ怪我はさせません」
そして、俺の右肩が脱臼していることを、リッキーは分かっている。だから攻撃してこないのだ。目の前の麗男子は、俺の左拳はあんま強くないって分かってんだろう。
「断るよ、それ」
断言して、立ち上がる。肩を抑え、集中して、『魔力の糸』を自分の周囲に伸ばす。右肩に狙いを定め、セタの記憶で見た、包帯ぐるぐる巻きのギプスのように固めていく。
「本当に、やめた方がいいのです。そうでなければ……後ろの子が悲しむことになってしまう」
でも、だけど。
「だけどなぁ悪いけど、こっちにはあんだよ。ここで! お前を! 止める理由が! ……だから、戦うんだ」
拳を握った。まだ熱はある。魔力もあるし、闘争心もバリバリに研ぎ切った。
「これで、俺と戦う理由に不足はないか、リッキー!」
肩を回す。動きは大丈夫。だが、出せる魔力の糸はいつもより少ない。
だけど……これくらいあれば十分か。あとは、心だ。
「俺は勝つよ、リッキー。正面から、倒してやる」
今度もまた、正面から突進していく。
占術は、先回りしなければ使うことすら出来ないんだろう。なら……その先に、スピードで勝つ。
「『魔闘真流拳闘術奥義、隼撃雷』!」
この際、足への負担はそこまで気にしなくていい。腕が壊れているのだから、足の怪我さえふっ飛ばそうと思えば出来る。
だが、俺の最高速の奥義である隼撃雷を、リッキーは睨みながら、捉える。
「月の光と、ガラスか……『変異せよ』」
「チッ……!! 殴れねぇ……」
彼の言葉とともに、一瞬だけ魔力に大きな変化があった。今は通常の状態に変わっているが、言葉の瞬間に、ガラスから入っていく光が恐ろしく高出力に変わった。
「殺す気かよ。怪盗ってのはそこ、荒いんだな」
「そうですよね、怪盗などという野蛮な……」
攻撃が、止まった。その違和感、不自然に。
「自分たちを侮辱してるんじゃないの……か?」
「貴方こそ? おや……では、貴方は怪盗ではないのですか?」
その問いに、俺は速攻言葉を返す。
「当たり前だ! それにユノちゃんも怪盗なんかじゃない!」
「……ではなぜ我に、エルヒスタを監視せよとの命が入ったのだ? 怪盗と関わりがあるから……なら、あれ?」
「関わりって、そりゃ因縁がある。リッキーも、なんかあってこの学校に来てるってことは……俺ってまあまあ有名なの?」
少しおどけた風に弾ませるが、リッキーは思考の世界に入っており、ユニークなど通用はしなかった。
「あっ、あの……リッキーさんは、怪盗じゃないんですよね……?」
怪訝そうな目で見てくるユノちゃん。ただ、リッキーを信用しようと思っているだろうとは思う。
「そう、怪盗などという卑劣な輩にはなりたくもない。我は誇り高き竜の騎士、『王冠』を被る人間であるからな」
誇り高き竜の騎士、王冠。どこかで聞いたが思い出せない。そんな時、後ろのユノちゃんが声を上げる。
「竜の騎士って! ももっもしかして、リュガオン様の?」
「はい、そうですよ。我はリュガオン家直属部隊竜の冠、工作戦闘部隊王冠所属の占い師。名前は……『リキッド・ダイヤル』我の隊での名前だがな」
そう言ったあと、リッキーは頭を下げて謝った。
「すまない、我は貴方達を傷つけてしまった。いくら勘違いとはいえ、それはいけないことだと思っている。だから……そうだな。貸し一つ、としてまた今度頼ってくれ。あくまでエルヒスタの監視が私の任務だ。いつでも大丈夫だ」
なんだ、良いやつじゃんと俺はリッキーを叩こうとした。
しかし、俺は忘れていた。この学校の中に、魔導書を狙う怪盗が居ることを。つまり俺は油断していた。
「絶賛青春のところ、失礼するぜ」
声が響いた、無人の校舎に。
そう、何者かの手によって警報装置は壊され、爆発を起こされ、そして狙われているのは……
「予告通り、ホールズの魔導書をいただきに来た」
声を聞いたが、誰だか理解できない。おそらく、認識阻害の魔法が展開されているのだろう。だから、こう言う。
「お前が怪盗か……ロッ──」
「危ないッ!!」
こう、言おうとした。だが言葉は、目の前に飛び出してきたリッキーと、ユノちゃん目掛けて飛んできた魔法がぶつかった音でかき消された。
「これで、我の貸しは帳消しだな──」
リッキーは大きく飛ばされて、ガラスを突き破って放り出される。
「リッキーッ!!」
ここは四階。ギリギリ跳躍陣の落下上限に届かなく、それでいて落ちたら大怪我するレベルの高さ。実際、俺が落ちて気を失ったからわかる。ヤバイ。
でも、心配はしてられない。ユノちゃんと共に、目の前の影の敵を双眸で捉える。
「エル先輩……、合図で──」
ユノちゃんが少し足を引いて後ずさる。
そして、始まる。ホールズを守るための戦いが。
「おう。で合図って──」
「──今、逃げましょう!!」
ってユノさん、引っ張らなくてもいいっすよー!!




