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53 大書庫の教師と二重言語

 チェリスカ魔法学園、その園内の中で最も敷地面積の大きい知恵の泉、『大書庫』。俺はそんな価値のある場所に足を踏み入れていた。

「『ジルク魔法史学』……『ゼルルド帝国魔法古典』……『対軍魔法教書』。こんなものまであるのか、ここ」

『それ十数秒触ってくれると嬉しい。コピーしてこっちで読めるから』

 そんな機能があるのかと、ますますセタの存在が何なのかと考えてしまう。が、今はそれどころではない。


「見せたいものがあるので、大書庫の奥に来て欲しいんです」

 そう、ユノちゃんは俺に言ってきた。正直言って何を見せたいのかわからない。俺的には、歴史的価値のある魔法教書とか、コアな歴史学の本がいいかなと思っている。


 本を触ってセタに見せながら、ゆっくりと書庫の奥に近づいていく。

「『ヘモラス式魔法陣』、『方陣』……ここは陣系魔法のエリアか」

 陣魔法は【跳躍陣】くらいしか楽に使えない俺にとっては、回復魔法よりマシだが、陣魔法は少し苦手な位置にある。


「陣魔法に興味があるのかい?」


 声がして、振り返る。


「あ、えっと……ロッゾ先生?」


 後ろに立っていたのは教師、メルスコール・ロッゾ。二学期からこの学校で働き始めた教師で、魔法陣を専門に研究している。


 テンションは低めで、少しミステリアスで、若い。と思う。多分俺よりも10歳年上な23歳以下だと思う。流石にセタよりは年上そうではあるが、俺の姉の年齢と同じくらいに見えた。


 俺は少し変で、そして疲れたような顔をしているだろう。先生はどう返答するのかと気になって。


「……実はそこまで、陣魔法はあまり好きではなくて」


「無理もないよ。魔法陣って地味だから」


 別にそんなに悪く言ったわけではないんだけど……。


「んー、そうだ。レプラコーンくん、だっけ?」


「はい、エルヒスタ・レプラコーンです」


 そうやって律儀に言葉を返す。が、感情の薄そうなロッゾ先生は返答はどうでもよかったらしく話を続ける。まだユノちゃんとの約束までは時間がある。ここで暇をつぶすのも悪くない。


「こんなこと聞くのもなんだけど。ここぐらいでしかかけないから、聞くよ。……そもそも『魔法』ってなんなんだろうね。レプラコーンくんの考えを教えてほしい」


 「え?」と、咄嗟の言葉に驚く。


「えっと……形式的な説明なら『通常では起こり得ない環境下で、魔法以外で再現可能な現象をおこす』みたいなことでいいんでしたっけ……?」


 正直、俺もそんなことを思ったこともある。セタの世界では、『魔法』と呼ばれるものはオカルトとして思われていた。


『『魔法』ってのはなんでもありじゃ無いのがまた……。この世界じゃそれが常識だっていうんだから。ファンタジーの中に少しだけリアル、だよねぇ』


 魔法とは何か。と言われても、視点は沢山ある。そして先生は、自論を語る。


「例えば魔法と言っても、発動方法は複数ある。詠唱、霊媒、記号、陣、思念……でも、それは同一なんだろうか?」


 まるで個人授業だ。本を持ちながら饒舌に展開していく。


「同一だと思わない理由は多々ある。けど、この論を展開していくにあたって、1番の壁に気づくだろう。レプラコーンくんは、なんだと思う?」


「陣魔法? 例えば【跳躍陣】なんかは詠唱して陣を発生させている。だから、現象は同一のものだと思われている……」


 頑張って考えて、こんなチープな考えしか出てこない俺に少し頭を痛めていたが、ロッゾ先生は俺の考察を半分くらい否定した。

「半分くらいは正解だ。それに気づけているのであれば話は早い。……レプラコーンくんは、『二重言語(ダブルセクション)』という技術を知ってるか?」


「いえ、ごめんなさい」


「謝ることはない。中等学部の学習範囲外だ、だけどほんの少し、名前程度は知っているかな?」


 それが全くわからない。『魔力の糸』を初めて出したモヤがかかったあの日の面影とは全然違くて、もはや霧さえ何もない場所に、何もないのだ。つまり無知。


「うーん。これは実際に見てもらったほうが早い」


 そう言って、手に持っていた本を置いて俺にその手を向ける。


「『霊異に満ちる者(テスラランジテス)あなたの心を奪う者(ヘドマラスリクシ)二律の力を(アンダララシ・)貰い受ける(ラシファール)』」


 瞬間、俺の体が揺らいだ。理解できたかも知れない。今俺は、目の前の男に()()()()()()()()。もっとわかりやすく言うと、魔力を取られた。

 根幹、存在を維持する魔力の一部、本当にほんの一部を持ってかれた。つまりは魔力を吸われたということだ。


 四節……いや三節の詠唱だけで、生命の根幹をブレさせられた。明らかに、他の魔法とパワーとか規模が違いすぎる。


「今のは……」


「ごめん。少し不快になるよね、誰でも魔力を取られたら。謝るよ。これぐらいしか簡単に分かれるような二重言語(ダブルセクション)は見当たらなかった」


 そう謝った後、ロッゾ先生は論を再開する。


「この二重言語は『詠唱』と『詠唱』を掛け合わせた裏技。霊媒を使って事を起こす魔法も、実際にその霊媒無しでも成功させることはできる。それと私は、【跳躍陣】は陣魔法というよりは詠唱魔法だと考えている。『陣』と『詠唱』が独立しているからね」


「先生の言いたいことは……『魔法はあらゆるルールの上で絡み合って、独立している』ということですか?」


 頑張って、先生の言った文字と文字を合わせていく。


「……陣魔法の一研究者として、私的には考えにくいルールだけどね。それに、これに当てはまらない魔法だって、生まれてくるかも知れない。世界って、そんな不安定なんだよ」


 ふう、吐息の後先生は


「私の独り言に付き合ってくれて、ありがとう。いいデータが取れたよ、また会おう」


 と言ってゆっくりと出口に向かって行った。


『あっぶないねぇあの先生』


 セタ、どうかしたのか?


『……まあ、あの二重言語の魔法の時に、ぼくの魔力も少し掻っ攫われちゃったかも……あとぼくの部屋めちゃくちゃにされた。扇風機壊された……また一から想像し直しかぁ』


 なんだそんなことかよ。まああれは少しビビったけど、特に問題はないだろう。


「『二重言語(ダブルセクション)』ねぇ……今度調べてみるか」


 ☆


 そして、


「やっとついたか、書庫の最奥。ユノちゃんはまだ来てないのか」


『あんだけ暇潰してたのにね』


 にしても、なんで呼び出されたのだろうか。


「こんな場所ってことは、まあ人に聞かれたくないことだろうけど……なら他のところでも良いし」


『ここでしか話せない。そしてここだから話せる。みたいな話とかかな?』


 そう思っていると、本棚からひょこっとユノちゃんが飛び出してきた。


「おっ、遅くなってごめんなさい……!」


「ううん、今きたところ。で、用って何か……え、ユノちゃん何して!?」


 めっちゃびっくりしている。何故って? 決まってる。


 ユノちゃんが、目の前にあった本棚と本棚の隙間に手を入れて、勢いよくかっ開いた。


「開けてください。()()()()


 扉が現れた。いや実際には、初めから扉はそこにはなかった。そう、現れたのだ。魔法……と呼ぶべきなのか。


『ファンタジーだねぇ、エルくん。でも少し強引が過ぎるよ……「開けごま!」とか言って欲しかったな』


 フワフワと、もやもやと現れた扉が、開いた。


「入りましょう、エルヒスタ先輩」


「おっ、おう」


 『ホールズ』という名前に、少し、不思議と引っかかるが、まあそれはそれと置いておいておこう。



 扉が、閉じた。そこには、誰かがあった。



「やあ……新顔だね。ワロキア、紹介を」


 その言葉を聞いたユノちゃんは、(ひざまず)いて頭を垂らした。


「こちら、私の先輩のエルヒスタ・レプラコーンでございます」


「あっ……あの、はい。エルヒスタ・レプラコーンでございます」


 ついかしこまってしまう。仕方ない。それほどの威厳が、目の前の存在にあった。


「初めまして、と、言えば良いのかな。レプラコーン……私の名はクリサンセマム・ホールズ、魔女。そういえばわかるかな?」


 そして、ゆっくりと、存在は顎を撫で顔を傾けた。


「新しい世界に、ようこそ」

Hello, of ignorant and stupid witch vessel's.

物語が、動く

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