51 彼らの名は“十傑”/日常に溶けていく氷
「それで……? ガーメスは死んだのか?」
まるで異界だ、いやは別の世界に違いないと、本能的にここにいる全員が理解しただろう。黒い大部屋、夜の空を感じさせるような、明かりの散りばめられた幻想的な部屋の中。
そこで、怪盗の定例会議は行われる。
「そーだよ。若人にあーっさりあしらわれてた……かな?」
怪盗の1人、オルビスは困惑していた。あの誠実な彼……ガーメスが独断で先行し──命を落としたという事実に。
「彼が私利私欲だけで動く人間だと、そういうのか? そして、そんなところで命を落とす? はっきり言って、それの考えはありえない。誰かが間違った命令を出した、違うか“サモネ”」
「私利私欲なんて言うなよー。“四傑”のオルビスにーさん。現に少年──レプラコーンの次男坊に、チェリスカ方面の計画を邪魔されているのも事実なんだからさ」
厳格そうな男──オルビスの問いを、飄々とした青年のサモネが緩く返す。男は顔を顰め、そのあと緩ませてため息をついた。
「チェリスカ魔法学園……か。厄介だな、あそこに回せるほど馴染む奴は──」
「1人、向かわせた」
今まで口を開けなかった、新たな頭が声を出した。
「ネイト、いや……っ──団長」
オルビスはその男に、疑いの念を向けていた。無論、隣にいたロロナ以外の怪盗全員が同じ考えであった。だが、ネイトは笑顔ではぐらかすことなど一切せず、淡々と言った。
「大丈夫、心配はしなくてもいい。彼は命の一つや二つくらいは獲れる男だ」
「それで? そうやって簡単に、若い人達の命を奪うと? いくら『魔女の力』が大切だからといって、感心はしないな」
オルビスはシワを寄せ苦言を呈す。
「確かに私は怪盗だ。殺しも何回も何人も、年端も行かない小さな芽を刈ってきた。だが、私利私欲のための殺人とは……先代の団長なら絶対にしないのではないのかな?」
その言葉に団長はこう返した。
「彼──レプラコーンは、魔女の力を持っている。だから、殺すのではない、奪うのだ。死なない程度に、もしくは死んでも良いから連れてこい。そう命令した」
途端、会議の席はざわついた。怪盗達の中で疑念が生まれ、それは消えず、空気と心にこびりついた。
☆
ため息を吐きながら、白クリームのハザマ焼きを貪る昼下がり。二学期が始まってから3日目、始まってすぐの休みの日。アストゥーロ・アジリードは、その快活さに見合わない場所へ来ていた。
「セキューごめんな。夏休みは少し忙しくって、最初の方しか来れなかったから」
『そらの墓場』。ここが、花が咲くチェリスカのてっぺん。数々の思いの還帰るところ。
「セキューは見てたか? 昨日、リキッドが夜に寮を出て行ったの」
リキッドの寮はアストやエルと同じところで、隣の部屋なのだ。つまりリキッドはあのレッフィーと同室ということ。
「レッフィーも居なかったが……まああいつは夜殆ど外出てるからいつものことだけど」
何も無い場所で、ハザマ焼きを砕きながら独り言。
「──ただ、あいつだけには注意しないと」
あいつとは、リキッド・ダイヤルのことだ。
仕方のないことだろう。それ以外に呼称の仕方が無いのだから。今何をしているのか、何をしようとしているのか分からないから、そう呼ばれてしまうのだ。
「ったく竜の冠だかなんだか知らんけど、リュガオン家は何を考えてるんだか」
アストゥーロは、リキッドと面識があった。それは6年ほど前のこと。社交の場で知り合った。
アストはアジリード家の家族だが、リキッド──いや、本名……俺の記憶だと『レリキュアー・リュガオン』はA級貴族、リュガオン家の少年として会食に出席していた。
……いや、彼がそう名乗っただけで、本名は違うかもしれない。現にそれ以来会食やパーティーで会っていない。
その時のレリキュアーの印象は『達観した少年』のような感じで物静かだったので、その頃の自分と似ていたアストとはその瞬間だけ友達になった。
会食の後は何も無く。疎遠どころかその時しか会っていない。リュガオンの娘……には何度か会ったが。
しかし雰囲気、そして何よりその風貌から、アストはリキッドのことをレリキュアーだと理解していた。
「また、なんか巻き込まれそうだよセキュー。ははっ、お前と一緒にバカさせてもらってた時みたいだな」
なんだか懐かしい気持ちになって来た。と、そう言って供えた花は──スイセン。元あったものと入れ替えて、アストは歩いてそらの墓場を離れた。
アストが食べるはずない、でもセキューが世界一好きだった黒あんのハザマ焼きを供えて。




