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50 転校生は何を呼ぶ?

 エルヒスタは新しく魔法学園に編入してきた美少年のリキッド・ダイヤル、減らず口野郎のレッフィー・ガルムナル、彼ら二人と奇妙で仕組まれた友情で繋がる。

 

 ユノは大書庫の奥で謎の女性の声を聞く。その声の主は、神の時代の大魔術家ホールズ。その記憶が刻まれた一冊の本と秘密の本棚だった。


 魔導書を巡り、三つ巴の戦いが始まる。

 新たな仲間、新たな敵が現れる第五話。


 ──過去の愛と憎しみに、破壊の絶望で終止符を。

    この思いを、笑わずに聞いてくれますか?

        ── Chapter 5 ──



 憂鬱以外何物でもない。いや、ずっとこの(チェリスカ)で暮らしているのだから、これから始まることも普通に当たり前の日常なはずだ。


 けれど、初日というものは気分が乗らない性分なのである。


『朝からため息つくなんて、エルくんらしくないなー』


 小うるさいおっさんも頭ん中に居候してるし。


『小うるさいとはなんだこの。それに僕はおっさんではない、瀬田真之介だ! ってかまだ19だし! ……あれ? エル君の中で過ごした時間が加算されるならもう20歳!? えまって!? ちょちょちょ!!』


(マジうるさい、静かにしてくれ)


『ねぇガチトーンやめてくれない!? 流石に傷つく!』


 というわけで今日から二学期。夏休み中もバイトで朝早かったけれど、起きた後行く先が学校だとなぜか気分が乗らない。


「今日はやけに気分悪そうだなエル!」


 アストはいつにも増して元気そうだ。そんなに学校が楽しいか?


「まあ、学期初めだからね……アストもそんな感じになった事あるだろ?」


「えっと……ああ、そうなのかな? 別にいつもとかわんねーだろーが、この学園。それに、楽しいか楽しくないかってのは自身が決めることじゃん!?」


 どうやら、楽しい楽しくないということ以前の問題であったらしい。


 俺は愚かだ、と溜息をついて学び舎の椅子に座る。今はホームルームの始まる少し前。まだ憂鬱は治らないけれど、少しは気分が落ち着いてきた。


「レプラコーンとアジリードは今日も2人ぼっちなの?」


 後ろから、少し皮肉った声色の少年が現れる。


「ああ、レッフィー。おはよ」


 レッフィー・ガルムナル。それが彼の名前。ガルムナルという家の名前は聞いたことがなかったが、商人の家の出らしい。通りで顔が広くて社交性が高くて、うるさいんだ。


 この学園には、貴族の子供──ここでの貴族は貴族等級を与えられた元平民(差別用語なので口に出しちゃダメだよ)も含む──以外にも、多くの商工人の子供も通っている。

 この学園内で俺の顔が狭いだけで、貴族以外の人たちも多い。


 この街の人だったり、才気に溢れた庶民の本当に凄い人以外は、ここに通える人なんて貴族の待遇を受けることのできる人間だけだとは思う。


 ほら、学費とかバカにならないし、それこそ今の俺たちみたいに300万の借金を抱えるかもしれないし。──流石に限定的すぎかな?


 いや話を戻そう。借金の話は聞きたくない。


 同じ寮の隣の部屋に住んでいる、彼曰く半ルームメイト。そしてもちろん、2年B組のクラスメイト。


 ちなみに隣の部屋を一人で悠々と使っていやがる。

 別にアストと同じ部屋が嫌なわけじゃないけど、隣の芝生は青く見えるし、(ひが)んじゃうよね。


「……ん? ああお前かっ。俺になんか用か!?」


 アストは相変わらず


「用とかは特にない。けどさアストゥーロ。お前は近づいてきた相手への攻撃的な態度、やめたほうがいいよ? 友達、そこのエルヒスタしか居なくなっちゃうよ? ってかもう居なかったかな?」


 彼は「俺もエルヒスタやアストゥーロと仲良くしたいんだけどなー」と、言葉を吐いてから定位置(俺らの斜め前)に座りホームルーム後の授業、生物学の支度を始めた。


「……無愛想で悪かったな、エル」


 どうしたかわからないが謝ってきたので、はにかんで返した。


 いつもと変わらない、普通の学校生活。夏休みまでかなり激動で波乱の日々だったから、何もない日だと思って今日はゆっくりとするか。


    ☆


 ホームルームが始まる。周りのクラスメイト達(もちろん俺もアストも)も雰囲気が固くなる。先生が、一言放った。


「えー、今日からこの学校の生徒となる『転校生』を紹介する。ダイヤルさん、入って」


 クラスの人間の時間が止まった。『転校生』という名前なら普通、騒つくというのに──


「我の名はリキッド・ダイヤル」


 美しい金の御髪(みぐし)


「これから、あなた方と学友となる者であります」


 紺碧の麗しい瞳。そして、


「これからよろしくお願いします」


 北方系の美しい顔立ち。


 同性の俺でも、息を飲むほどの、美形少年だ。


「ダイヤルさんは後ろの……ええ、隅で悪いけれどレプラコーンの隣……あそこの長身の子の隣ね?」


 そして、先生は俺の隣の席を指差した。


「分かりました。先生もこれからどうぞよろしくお願いします」


 もちろん、目の前から歩いてくる少年は俺の方を向いていた。そして一瞬だけ、ただ俺にだけ見えるように口を美しく歪ませる。


 そして、今の不敵を一瞬で掻き消すかのように、目の前の人間を無条件で無防備にするその天上的悪魔の微笑。


「これからよろしくお願いします、エルヒスタ・レプラコーン」


 彼は間違いない。


『ああ、エル君もそう思うかい?』


 俺は「よろしく、リキッド」とだけ言って精神世界の主人(あるじ)と会話を終わらせる。


(思うだろうさ、こいつは)


 俺の名前を前々から知っていた。先生が紹介していたり、入ってくる前に教えられてたりしているなら違うだろうけど、でも俺の時はそんなものなかった。


 だから、彼は俺のことを知る人物。俺は俺のことを知る人間を、この学校と家族以外では1人も知らない。


 間違いなく俺の過去か、『怪盗』と関わりのある人物だ。


    ☆


「そんなに旨いか、ここの飯って……リキッド聞いてる?」


「いや、この学び舎の飯はとても良いものだと思いましてねエルヒスタ。ついつい話すことを忘れてしまう、ごめんね」


 時は飛んで昼飯時。クラスメイトに囲まれた(もちろんその時俺はもっと隅に追いやられていたが)リキッドが、「今日(こんにち)はエル達と昼のご飯を食べる約束をしている」などと言うから(実際にはそんな約束していないのだが)敵視されながら何とか食堂に滑り込んで食事をしている。


 俺はいつもの特製スープとブレッド。リキッドはカレー(らしき食べ物)。

 アストはお馴染み白クリームのハザマ焼き、ジャンキーな骨付きの肉、後は芋。

 シェルトは高貴なのかもわからない謎の肉と謎なスープと謎なブレッドに謎ジャム。

 ユノちゃんは見当たらなかったから今日はいない。


「アジリードの肉少しちょーだい! ボクの『アルスフェイル風ガマーニョと味噌の煮込み』少しあげるからさ!」


 そしてソウイチ。勿論いつもの羽織付き。長い後髪をその羽織の中に隠していると知っている人間は、多分ここには俺1人。


 ソウイチを呼んだのにはしっかりとした理由がある。


 一つ目は注意人物(リキッド・ダイヤル)がいるという事をテルオ・ギルカ・ソウイチ達にも知っておくべきだろうと思ったから。


 二つ目はその3人の中で一番フレンドリーで敵意を露わにしない奴だから。


 そして三つ目は近くにいたから。まあこれが1番大きい。


「エル食べないの? あのさ、ボク食べ足りないんだけど……えっと、ねぇ、うん。食べないならさ? お願──」


「ソウイチロウはこんなゲテモノ頼むからだろうがぁ! なんっだよこの食いもん、どうしてこんな不味いやつが食堂で売られてるんだよ! あり得ねぇだろなんだよこの味付け! 塩辛いを通り越して痛いんだよ! こんなのが学園で売られていてたまるか!」


 怒るアスト。ここまで言われるやつなら……名前なんだっけ? まあそれを、一回食べてみたいとは思った。


 すると静かに優雅に食事中のシェルトが口を挟む。


「それ、ロンダーの自作だが」


「え、おいおいそれまじかよシェルト!?」


「大マジだ。数品掛け合わしてゲテモノにしている……そうだろロンダー?」


 流れる間。そして、その間で最初に口を開いたのはアストだった。


「おい、お前俺にゲテモノ食わすためだけにこれ作り出したな!?」


「いやー、そんなわけないよそんなわけ! 少しあるけど」


「あるんじゃねえか!! ってめ少し仲良くなったからってすぐ調子乗りやがって!!」


 言い合いの中、俺はシェルトの微笑みを見かける。同時、隣のリキッドの細い笑いも見つける。不意に、言葉が(こぼ)れた。


「子供達の喧嘩を見て笑う綺麗な二人……絵になるね」


「ん?」


「はっ!?」


 リキッドは首を傾げる。シェルトは動揺したように食いつく。


「おい俺()子供じゃない」


「いやアジリード()子供だよ」


 2人は相変わらず。


「びびっ、美女……?」


「ん? ああ、シェルトさんの笑い顔が……いや美女って一言も──」


 目を回しているシェルト。なんだか新鮮だ。


「ヒュー。お熱いねぇ、ここは南国ハレシマリーかn──ごぶっ!!」


 シェルトは食べようとしていたパンを、アストの顔面に向かって投げつけていた。一瞬だった。恐ろしく速いパン投げ──俺でも見逃すね。魔法より投擲(とうてき)の方が国内最強名乗れるんじゃないか?


「れれれっ、レプラコーンも! これ以上言ったら、この男みたいになるからねっ!!」


 そこで、彼女にかかる視線の数々をシェルトは理解してしまう。──とか考えてるけど、どう考えても好奇の目線なんだよね。

 シェルト、やっぱ変わったなーって思う。最初の頃は暴君って感じだったのに、今じゃそんなの見る影も……


「あっ、あははっ。あーはははは。なんでもございません、シェルト様」


 やっぱあるわ、やっぱ怖いわ。……ごめん、恐怖には負けます。魔法ぶっ放されるかもしれないって思っちゃう。トラウマになってるかも。


 シェルトは咳払いしてから、何事も無かったかのようにパンを齧る。だけどその手は震えまくっておぼつかない。


「ふふっ……」


 リキッドが急に笑い出した。


「ん、リキッドどうしたの?」


「本当に楽しそうだった。だから、笑った。──少し、いいですか?」


 なんだなんだと耳を傾ける4人。リキッドは言った。


「我も、皆さんと友達になってもよろしいか?」


 そこにいた4人は、ほぼノータイムで笑い、そして言った。


 もう友達じゃないの? と。


    ☆


 ただ、彼が注意人物であるということに変わりはない。


『そんなに気に入らない? リキッドくん』


 そんな、簡単な話じゃないよ。こいつには、何か後ろにいる。その何かは……もちろんわからないけれど。


『怪盗という可能性も、大いにあるからな』


 わかってるよ。でも、注意人物だとしても彼が怪盗だとは、考えたくなくなってくるかな。


 それこそ、これから親交を深めてけば……。あるいは。


『でも、()()()は動くだろう。魔導書の件も、解決とはいってないからね』


 ────じゃあ戻るよ、『外』のお話に。


『それじゃあエルくん。いってらっしゃい』

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