4 夜の彼女と不良三人衆
今日のお昼は俺一人だ。
ん? アストくんが怒られているから一人だって?
そんなことは断じて無い。今日は開催を来週に控えた『ゼルルド・マキア国際体育祭』の選手として、練習に参加している(一人で食っててくれ、だってさ)。なので今日はアストくんはいない。
俺一人。ボッチでも何とでも言え。ってか俺、万年友達ゼロ人間だったわ。どうしてボッチ嫌ってんだろ? 友達作ればいいのに……。
って言っても、なんかボッチもイヤだ。なのでおれは、昨日の夜の彼女を探しているというわけだ。
だからと言ってはなんだが、俺は今二つある食堂のうち、来たことのない食堂に来ている。
あのとき初めて見た顔であったので、いつもの(といっても、まだ二日しか来ていないが)食堂にはいないと予想して、違う食堂に来たのだが……。
「何ここ……自習室?」
本を広げながら食べていたり、もはや何も食べていなかったりと、ここが食堂であるという事を忘れさせてしまうような光景であった。
結論から言うと、俺の予想は的中した。
特製スープとブレッドを購入して、辺りを見まわすと、端っこに夜の彼女がいた。大量の本と共に。独りで。昨日は暗くて分からなかったが、結構可愛い。
──俺のタイプとは少しズレているが。……因みに、ぐいぐい引っ張ってくれる子が比較的好きな方です。俺の最愛のお姉ちゃんとか、お兄ちゃんとかがそうだからかな?
「相席よろしいですか?」
「どっ……、どうぞ!」
全く無愛想な人だ。俺の顔を見てすぐに本に目を移した。
『魔法の構造、発動のプロセス』と書いてある分厚い本に。でも、一緒に座ることに拒絶されなかったことだけはOKか。
「あの……お名前。何て言うんですか?」
「……あ、う、へ?」
……。うん。なんか俺が口説いているみたいだなー。それに彼女も何も言わないし。名前を聞く前にまず名乗れってことなのかな?
「俺の名前は、エルヒスタ。2年の、えっとB組」
「ユノ・ワロキアっていいます! 1年生です!A組……です」
「へぇー、ユノちゃんか……後輩かぁ~」
後輩かぁ~! おいまてよぉ、ですです系後輩……可愛いなぉい。
少しだけ時間が経った。もちろん、沈黙の時間が。
それで、沈黙が嫌で少し話そうかなーなんて思いながら、スープを飲み干して、ブレッドをかじっているときのこと。
「あの……」
「ん? なんでしょう?」
その時に、ユノちゃんはちょっと聞き捨てならんことを言ってきた。
「わっ、私と一緒に居ない方が……いいと」
「え? 何で、どうし……て?」
理由はすぐに分かった。
「よーワロキア、ちょっと久しぶりか? ああ、オレだよ。まだそんな超分厚い本なんか眺めてんだ。……魔法、使えないくせによ!」
「……うん」
端的に言うとあれだよあれ。ヤンキー? DQN? まあそっち系列の人々に絡まれているから。それが理由だろう。
正直、悪を見せびらかす人は嫌いだ。アストくんは悪というよりもワル的な感じだし、まあ危害は加えているが、何だろう。悪を贔屓しちゃいけないけど……
ああ、大丈夫な理由が分かった。普通の時の見た目がワルっぽく無いからかな。見せびらかしてもないし。
「キャハーハッ! 笑えるぜ! 本なんか読んでいい子ちゃんぶってんじゃねーよ、ォラッ!」
バチンと大きな音。下を向いていて分からないがたぶん、何かを叩いた音。たぶん人肌、又はそれみたいなもの。
「きゃっ……やめ……」
「あ!? 何にも言えねーのかよ」
男三人、気持ち悪いほど胸がゴワゴワする嗤い声。
睨む。
「あ? なんだお前! この俺様に楯突くんか!?」
立ち上がった、俺は。目の前には頬を抑えて男をにらむユノちゃん。
「おいおい笑っちまうよ! こいつ、俺らを睨んでるぜ!」
こう言うのも何かだが、マジでぶっ飛ばしたい。こいつら全力で痛めつけたい。
「ユノちゃんから離れて貰えませんか?」
「──はっ! ってかお前誰だよ。……まあいいや、謝ったら離れてやるよ。どうする?」
チッ……本当に俺、この人たち嫌い。
「ごめんなさい」
「イヤだね! そんな心のこもってない『ほんとーにーごめんなさーい!』、なんて許さない。あーそうだな……土下座で許してやるか!」
「ハハッ! マジ!? 土下座か!」
「おー、超いいねぇ。土下座、土下座」
三人の土下座コール。嫌だ、嫌だが仕方が無い。場を素早く終わらせるためにも、土下座! するしかない……
「……っ! エルヒスタ先輩!?」
「マジでこいつしやがったよ!」
「ヤバいなおい!」
「超ヤベーね、エルヒスタ? ……で、2人ともどうする? オレは、今日はこれで終わりにしたほう……」
超超うるさい人の言葉を遮るように、ボス的な男……『ギルカ様』とか言ったか。が、言う。
「ふんっ! あー、いいねぇ、最高だよお前! こう! やって! 土下座! してるやつ! のっ! 頭! 蹴るのが! いいんだよっ!」
靴の痛みと、湧き立つ怒りを抑えることは……どうやらできないかもしれない。