41 毒舌家にも良い思い出くらいあるものだ
待ちに待った灯祭が遂に始まった。しかし……ユノ・ワロキアはまたも怪盗・召喚獣と邂逅してしまう。一緒に戦うのはエルヒスタ・レプラコーンとソウイチロウ・ロンダー。頼りない三人、それでも彼らは足掻く。
ソウイチの秘密、エルの修行の成果。
そして、ユノの決心。
成長を問う第四話。
紫に染まった煙毒は、皿まで毒を喰らい尽くす。己の想いを、焦がしてまでも。
私が、私になった日。
偽物の私が、本物の私を殺した日。
── Chapter 4 ──
ここはゼルルド共和国の都市、チェリスカ。この場所には『魔法学園』と呼ばれる、魔法などを勉強する学園が存在する。
けど私は『魔法』というものを十全には使用することが出来ないのだ。でも、そんなことはもう、私の複雑にねじ曲がったコンプレックスはもう少なくなってきているのだ。
その理由は、多分目の前のこの人。
「どうした、ユノちゃん。俺の格好そんなに変?」
エル先輩だ。先輩が私を、深い倒木林から釣り上げてくれた。
「いえ! 少し、考え事をしていただけです!」
「そう? ……ん、もうそろそろかな?」
今日は、一学期中に仲良くなった皆さん、エル先輩、アスト先輩、そして。
「ひっさしぶりー!!」
そう言って走って駆け寄るエル先輩を見て少し呆れながら、私はその女性に挨拶をした。
「似合ってますよ、シェルトさん!」
シェルト・マーキュリアル嬢、A級貴族、跡継ぎ、最強、そして女王。不釣り合いかもしれないけれど、私の初めての本以外の『友達』。
ちゃん付けも……ずっと独りだったから、友達という言葉も、それはそれは美しく綺麗に体の中に響く。でも、少しだけ苦手なところもある。
「当たり前でしょ? ……で、なにその変な格好」
彼女は少し毒舌家だということ。毒を吐きまくるということ。ちょっと荒っぽいこと。昔の、彼女からは考えられないくらいの、王女様のイメチェン。
だけど、流石に今回は同意する。だってエル先輩。
「これ、変なの? 凄い響くデザインだと思うんだけどなぁ~」
……顔の付いた紫色の花が、白いハーフパンツに直に描かれているんだもの。
「この花、サクラソウって言ってさ、家に咲いててなんかすっごい響いたんだよね……心に?」
だからって描くことは無いでしょ、そう思った。
「だからって描くことは無いんじゃ無い? あ、ユノも久しぶり!」
「狂った美的センスに、ボクは天地のひっくり返るくらいの驚きを隠せないね……でも、妙に懐かしい」
現れたのはアスト先輩……と、ロンダーくん。
アスト先輩の服は、いつもと変わらぬ制服姿。ロンダーくんも変わらず、いつもの長袖羽織を着ていた。暑くないのかな?
そう思っていると、エル先輩がシェルトちゃんの服を褒めだした。それはそれは、全く命のこもっていない、上辺だけの褒め言葉で……、私のことは褒めてくれないのかな? なんて思ってはいない。どうせ今日もリンドルードくんは来ていないだろう。
「今日も可愛いねぇ、シェルトさん!」
「うんうん! 浴衣着こなしてるね!」
ロンダーくんも茶化しに入る。
「べっ、別に嬉しくないわよ!」
ふふっ、シェルトちゃんもまんざらでもない感じだ。
「そう言えばシェルトさんと最初に会ったときの服って……やべうなじ思い出すわ」
「うなじ? エル、シェルト様のうなじ見たの……?」
こそこそ話をしているのだろうけれど、聞こえてますよ?
「うなじ……いや、うなじ以上も」
「うなじ以上!? それってはっ、肌!」
うなじ以上!? それって、もしかして!
「は、だ……か?」
言い切った。言い切ってしまったよ、エル先輩。
「ねえ、レプラコーン、ねえ。ねえ? ねえ!」
「……しぇ、シェルト様?」
「私の裸体、ここで綺麗さっぱり忘れさせてあげるわ! もちろん……」
「だから俺は! そう、不可抗力だって!!」
私たちの目の前で、憤怒の形相をしたシェルトちゃんがエル先輩に怒りを向けていた。
「それに俺は未だに怪我人なんだぞ! 首! お前のせいでな──」
「──もちろん……もちろん!! レプラコーン……お前の頭を踏んで、肉塊にしてからぐちゃぐちゃにミンチにして豚の餌にでもさせてから! 綺麗さっぱりこの世のこと全てを忘れさせる!! 忘れさせてやるんだから!!」
赤面して憤慨するシェルトちゃん。すっごい恥ずかしそう……
「だから理不尽だぁー!!!!」
【ダインハギル】を撃ち込まれるエル先輩。ダッシュで逃げ出す。首……大丈夫なんでしょうか?
で、何故か飛び火して【ダインハギル】を撃たれるロンダーくんも同じ方向に逃げ駆ける。
「いや、いやぁぁぁぁぁ!!!!! り、ふ、じん!」
「わっ、私、追いかけて連れ戻してきます!」
そう言って駆け出す。
今日は灯祭。空に明かりが灯る夜。
死者を還す、神聖な一日。
☆
「今なら、良い思い出話になると思ったのに……やっぱまだ無理なのね」
シェルト・マーキュリアルはため息をつきながら、地面に向けて呟いた。
「……どうすんのあいつら。とりあえず俺達で先に回る?」
アストゥーロ・アジリードはふてぶてしく問いかけた。
「いや、やめておくわ。私、1人で回るわ」
髪の毛を掻き、言いにくそうにアストはシェルトの服装を指摘した。
「そうか……それでさシェルト。俺思うんだけどさ、シェルトってその服似合ってないよな」
「【ダインハギル】」
間髪入れずにアストに魔法を入れる。避けようとするアストの足が変に曲がり、顔面から地面に突っ込んでしまう。
アストは地面に顔を付けながら、誰にも聞こえないような小さな声で独り言を言った。
「『魔女の力』を持ってるくせに……なんでまだ生きてるんだよ、お前は」
その目は、嫌悪や増悪を宿してはいない。そこにある感情は、銷魂。
『魔女の力』を恨み、辛み、敵視する。それはアストゥーロにとっての、苦い思い出の一つ。
誰の視点なのか? を注意して読んで欲しいです




