3 影が吼える
「ヴギガァァッッ!!!」
「召喚獣……! こいつがっ!」
怪物が吼える。もの凄い迫力と風圧、威圧感。体が震える。
恐ろしい。本能が逃げろと理性に呟く。理性までもが狂乱の準備運動を始めてしまう。
真っ黒な体の中に、二つだけある異質に黄色く光る双眸。それは、俺の背後の女の子へ向けられていた。
「エル! 彼女を逃がせ!」
「アストは!」
「時間を稼ぐ! 速く!」
アストくんが魔法を使う為に右手を突き出す。朝も聞いた【アガラ】の詠唱を始めた。俺はそれを聞いて、すぐさま行動に移す。
「分かった……。キミ、こっちだ!」
「あの、私は……やっ!」
「くっ! 立てないのか! ふっ!」
半場強引に女の子を引き上がらせて負ぶった。そして走り出す。
「ヴルグァッッ!!!」
「【アガラ】ッ! なに!?」
俺は咄嗟に後ろを向く。
「んなっ!!」
そのすぐ後ろに召喚獣がいた。
「グハッ!」
鋭い速さと鈍い痛み。それを与えられたと思った時には、すでに俺の体は宙を舞っていた。
「彼女はっ!! 無事!?」
見ると、召喚獣と俺の間に、倒れて彼女がいた。
「【アガラ】ッ! エル、彼女を速く!」
「分かっ……たぁっ!!」
彼女を覆うように、背中で守るような態勢で助けに入る。
「あっ……あっ?」
「ごめん。こんな態勢で」
召喚獣はアストの【アガラ】をまともにくらい、ヘイトがアストに向いているような状況になっていた。
「悪い!」
「キャッ!!」
俺は彼女を両手で抱いて近くの窓に突っ込んだ。そして……
「アスト! 速く!」
「了解!」
カーテンを開け、窓の鍵を開け、そして窓自体を開ける。五月にふさわしくない凍えそうな針のような風。
「なに?」
アストくんが窓に近づいたとき、あの怪物が近づくのをやめたのだ。ちょうど影になっているところで止まり、威嚇をし続けている。
でもそんなことは関係ない。今は逃げるしかないと考えた俺達は、窓から飛び降りる。
「わぁー!!!」
彼女の悲鳴とか関係ない。速くしないとガチで死ぬ。だから詠唱を始める。
「「『『風よ現れ護れ 空気の力で我を跳ばせ 風の力で天へと飛ばせ 【跳躍陣】』』!」」
足下に空気の塊を作り出す跳躍の魔法陣の一つ。それを作り出すことによって落下時の足への負担を軽減しようと考えたのだが、どうやらアストくんも同じ事を考えていたようだった。
「グハァ……」
「何とか脱出成功……だな、エル。はぁ……」
木陰に三人で息を潜める。一応は回避することができた。しかしこいつが学校にいるとなると、魔導書を見ることすら困難……なのか?
「あっ、あ……の?」
まるで怖い物に触るかのような目で僕ら2人を見る女の子。そういえばこの子を助けるために……じゃなかった。思わぬアクシデントってところか。まあ、良かった。
「おう、なんだ?」
最初に口を開いたのはアストくんだった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「全然、大丈夫。こうやって危機を回避したんだからさ。だから、謝らなくて大丈夫」
俺もアストに続く。
続くけど、沈黙。無音の空間がなんか痛い。
「それにしてもお前、こんな夜更けに学校で何してたんだ?」
アストくんが、沈黙を破り聞く。
「それは……あの……、それは、」
すかさず俺がフォローを入れる。
「言わなくても良いよ。言いたくないなら別にね」
まあ、フォローなんて無くてもよかったのかもしれない。そう思った訳は、彼女が話し始めたからだ。
「あの……召喚獣は、私が──」
「あれ? そこに誰か居るのか?」
野太い声。マズい……! きっと見張りの先生、だ……ッ!
すぐさま息を潜め、待つ。その時!
「あー悪ぃ先生。俺だ、アストゥーロだ」
「アストゥーロ……またお前か~! 全く、何回言えばきがすむんだ、お前は!」
「悪ぃ悪ぃ。ちょっと用事があって、さ」
アストくんがこっちにウインクをして、先生とともに離れていく。「俺の屍を越えていけ!」みたいなこと考えてるだろ。
まあ、悪いことをした。と思った。帰ったら部屋の掃除でもしておいてやるか……。
「あああっ、ありがとうございましたぁ!【跳躍陣】!」
となりで女の子の声。きっと帰るのだろう、ささっとね。
さてと、明日も学校あるし、
「俺も帰るかぁ~「キミ、そんなところで何やってん……」
「【跳躍陣】ンッ!!」
「なあー!」
トンズラーエルヒスタ、ここに見参! みたいな感覚で逃げる。アストくんの覚悟、無駄にしたくないしね。
☆★☆★
今度はしっかり逃げ切れたみたいだ。寮にも戻ってこれたし。
「おやすみー」
誰も居ない部屋に挨拶をして床に就いた。
それにしてもあの化け物は……召喚獣、でいいのか?
ちなみに魔法には魔力なるものが必要だと思っています
と、怪物の咆哮とか声とか書けないマンです