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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
一話 夜の始まり→ファンタジーの続き
3/84

2 2日目にして奉仕作業

 エルヒスタ・レプラコーンの朝は早い。だが、アストくんの方が起きるのが早かったようだ。


「うぅ……おはよう」


 返事がない。なのでベットから顔を出す。どうしてか握っていたペンを退かし、頭に乗っかっていた紙をゴミ箱に捨てる。


 昨日は見ていなかったが、アストくんの机に何か置いてあった。


「これって……」


 伏せられた写真立ての隣に、貴族等級A級を示すメダルが掛けられていた。


 貴族等級とは、ゼルルド共和国内の特殊な慣しで、その名の通り貴族の等級を表す方法の一つである。等級が高ければ高いほど(たっと)く、低い者へ特権を行使してもよい、という至って非道徳的な考えだ。

 しかし、等級が高い者は特権行使を嫌がる傾向があるらしい。これはゼルルド共和国の建国と今の貴族の弱り方に起因するのだが……流石にそこまでは覚えていない。


 また、等級を示す小さなメダルが国から支給されている。だが、基本これも身分証明にはならず、単なる『名誉』の証みたいなもので……基本持ち歩くが、別になくてもどうってことは無い。


 因みに我がレプラコーン家はB級。ゼルルド辺境の臨海大領地を治めている、いわゆる辺境伯的なあれだ。

 B級は……『大きな土地だけ持ってて、直接的に国政には関わらない』と考えてもらって結構だ。


 A級は『ゼルルド共和国建国に大いに関わった名誉議員』的な。まあ、偉い人の子孫だと考えればいい。


 でも彼の家名、そういえば聞いてなかったな……。アストゥーロなんて名前聞いたことないし。


「エル! 起きてたのか!」


「あっ! あぁ。おはよう、アストくん」


 朝から元気がいいなぁ……元気人間って感じだ。


 俺の聞きたいことを察知したのか、アストくんは話し出した。


「あー。等級の事は気にすんな。言っとくが家はそこまで好きじゃねぇんだよ。お前には言っとくけど、俺の苗字、アジリード」


 凄ぇ、けど……俺的には、アジリード家にいい思い出は無いんだけどなぁ。


 アジリード家は、ゼルルドの中でもずば抜けて歴史のある名家で、(今は国内での活動しかしていないが)ゼルルド共和国軍のトップは、全てアジリードの血を流しているとも言われている。


 きっとアストゥーロ・アジリードは本家の人なのだろう。


「凄い家の出だね……」


「エルだって、レプラコーンだろ? 漁港の相当数を保有してるって言う有名な家。そして……」


 アストくんは、まるで子供が遊ぶ友達を探すように、好奇心を剥き出しにして言った。


「武道の名家……だっけ?」


    ☆


 えー、今居るのは寮の裏庭。木剣を持ってアストくんと向かい合っている。

 何があったのかというと……


 ──アストくんが「武道の名家」と言うワードをだしてから。


「まぁ、そうだけど?」


 アストくんは言った。


「俺と『手合わせ』。しねぇか?」、と──


 こんな感じ。戦闘狂ですかって、そんな。元気人間+戦闘狂……ちょっと怖くなってきたけど、大丈夫だよね?


「じゃあ、始めようぜ」


 アストくんが俺を急かす。余程闘いたかったのだろう。


 俺は木剣をベルトに差し込んで、腰を下ろして右手を前に出す戦う姿勢(ファイティングポーズ)になった。


「へぇ、それがレプラコーンの……」


 対峙している(アスト)は笑いながら、


魔闘真流(まとうしんりゅう)の構え、かぁ……ッ!!」


 剣を構えて向かってきた。


 本気で剣を突いてきてビビったが、俺は木剣を右手でいなす。そしてすぐさま右足でハイキック。アストくんの左手、防御の構えをした場所に激突。そしてすぐさま距離を取る。


 手がジンジンする。アストくんは、剣に回転をかけていたのか……。それに気づいたとき、アストくんは肩で風を切るように、


「へへっ……きいたろ? 俺も戦ったことあるんだぜ、魔闘真流使ってる奴とさ!」


「ふっ!」


 一気に間合いを詰める、そして右手でボディーブローを放つ。それもしっかりアストくんはガードする。


 ルール無用(厳格なルールが定められていない、の意)の手合わせが動いたのは、アストくんの魔法だった。かなりの距離をとった瞬間、


「じゃっ、いっちょいくか……『起きよ旋風(つむじかぜ) 一陣の風となって吹き荒れろ 【アガラ】』ッ!!」


 突き出した右手から、円の中に幾何学模様の魔方陣が浮かび上がる。その中心から真空の刃、現れて向かってくる。


 魔法。神への問いかけ……祈りを媒介する超常現象。

 物体、精神のパラメータを書き換えて、炎や水、果ては空気の刃までをも作り上げる、一つの学問である。


「『風神よ、我を守り 我に追風(おいて)を与えよ 【風神結界】』!」


 俺もすかさず魔法を使う。空気と空気の激突。辺りに突風が吹く。


「くっ、うぅ! やるっ……な、アスト!」


「おう! まだまだっ──!」


「あなた達!!」


 闘いに割り込む声。想像しやすいように言うと小言の多い姑みたいな人と言えば……まあ答えは明白だ。


「寮母!?」

「寮母さん!?」


「寮内での魔法の使用は禁止です。分かってますよね!?」


 うん、本能が言っている。恐い。


「逃げろ!」


 アストくんが悲鳴にも似た声を上げる。


「え、待て、やめろ! いやどこに逃げるんだああ!!」


 後ろを覗くと、なんと! 鋭い眼光が豪速で走り来るではないか!


「逃げればなんとかなるかも! レプラコーンッ! 走れっ!」


「おっおう! ……あれ? でもさ、今から学校なんだからあああ────っ!!」


    ☆


「はあ……結局こうなるのか」


 今は夕方、ここは寮、手に持ってるのは(ほうき)


 やっているのは『奉仕活動』だ。


 朝、手合わせを中断した俺とアストくんは咄嗟に逃げた。まずは荷物を取りに部屋へ駆ける。

 ただ、寮母さんもそれをされると読んでいて、なんか訳分かんない速さで先回りされていた。その後に荷物を人質? にとられた俺達は逃げられなくなって、捕まった。


 学校は定時に登校させてくれたのだが、帰るとき学校を出た瞬間に寮母さんに捕まり……


「掃除を強制させられている……か。こっちはまだ入学2日目なんだぞ!!」


 まあ、アストくんと手合わせできたのはうれしいし楽しかった。でもさ、入寮初日で不祥事とかどんな不良ですか。品行方正で生きたかった……


「掃除終わりぃ! エルの方はどうだ?」


 一緒に奉仕活動中のアストくんは終わったらしい。俺はまだまだだし、慣れてるのか?


「もうちょっとだよ! 手伝ってもらってもいい?」


「おう! 任せとけ!」


 いや~、手際のよいこと。今分かった、アストくんは常習犯だ。奉仕活動常習犯にしかできない動きだ。これはまずいわ、俺どんな奴と同室になったんや!


「でも仕方ない、か……」


 これからでいい、これからは品行方正で生きよう。そう心から思った。掃除は手際よくできるようになりたいが、常習犯にはなりたくない。嫌だよ、俺は。


 この学校では友達欲しいけど、それでも悪目立ちだけは回避するつもりだ。


    ☆


 この世界には、厳密にはRPG? やファンタジー作品によく出るような魔物、モンスターはいない。

 『魔物』というのは俗称で、人間が自分たちに害を為す動物たちを『魔物』と読んで忌避し、害獣として駆除をするハンターや腕の立つ農民や弱っちい辺境の貴族、豪農、社会貢献するゴロツキなどが退治をしている。


 ただ、人為的に作られる魔物は『召喚獣』と呼ばれ、何もしなければこの世界に生まれることは無かった悪しき獣として、こちらは『魔物』より嫌われている。


 ただ、召喚獣が人里に姿を現すことは滅多になく、かく言う俺も祖父の武勇伝やレプラコーン家の成立の話でしか聞いたことは無い。

 だから生態も謎に包まれており……とは言うものの、俺の好きな魔法歴史学とは切っても切り離せない関係にあるのが召喚獣だ。少しばかり知識はある。

 例えば、


「なあエル。知っているか?」


 夜になる少し前ぐらいの夕方。掃除が終わり、部屋で暇を過ごしているとき、アストくんは唐突に言ってきた。


「なに、アストくん。今、生物学の予習してるんだけど、それより大事(だいじ)なの?」


「まあ、それよりは大事(おおごと)だろうな!」


 お互いが机に向かい、お互いが背中を向けながら話す。


「学校の書庫にさ、あるんだって」


「いや何があるんだよ……」


「魔導書。神の時代に活躍した、ホールズの──」


「ふーん──ってホールズの!? え!? あれだよな! クリサンセマム・ホールズの魔導書ってことだよな!?」


 顔は見えてはいないが、きっとアストくんは今、にやけながら言ってるに違いない。いや、ドヤ顔かな? この話し方は。


 魔導書、又は魔法書。神の時代……今から500年以上も前に編纂された叡智の結晶。


 クリサンセマム・ホールズは『魔女』と呼ばれるほどの偉大な魔法使いであったとされる、ずっと昔の王様だった人間だ。

 ──やったこととか偉業とか、最期とか短命とか……色々逸話残しまくってて、殆どがフィクションの人物だろうけど、それでも歴史上の偉大な人物に変わりはない。


 ここは魔法学園だ。なら、モノホンがあってもおかしくはない。


「まじで、魔導書……凄いな、凄い」


 魔法歴史学オタクからすれば、たとえレプリカだとしても魔導書──それも神代魔導書なんて喉から手が出るほどの代物だ。


「それって本当? マジ? マジでマジ!?」


 興奮して声を荒げる。ってか、『マジ』ってどういう意味だ?

 そんなこと思いながらもやはり魔導書の誘惑に逆えず、俺はアストくんの方を向いた。するとアストは言葉をもう一度紡ぎ始めた。


「~ん。えっと、マジ? 話、校長の話を盗み聞きした」


「でもさ……だからなんなの、探すの? ──まさか! 忍び込むなんて言わないよね……!」


 アストくんは俺の方を向いた。


「そのまさかだよ、エル」


「マジ……?」


 本気で学校に忍び込むつもりなんか? 待ってよアストくん。俺この学校来たの今日が初めてなんだけど。


「いや、ならいつ行くの? アストくんだって──」


「行くよ、今から」


 邪悪に微笑みながら、いたずらっ子のように。彼は『非行』を提案した。


    ☆


「こっちだ」


 タッタッと足音が響く夜の中庭。俺達は寮を抜け出して学園へ。


 因みにすぐに侵入することができた。意外とセキュリティーが脆く、門番が眠っていた始末だ。この学校……本当に警備とか大丈夫なんだよな?


「アストくん、ここ空いてる」


「了解、あんがとな」


 何故か不自然に開いていた窓から忍び込む。


 辺りは誰も居ないような静けさに溢れていた。


「書庫ってどこ?」


「4階。真反対……静かに」


 何者かの声が聞こえたがそれは一瞬で、何の気配も感じない。変に静かだ。


 俺達は忍び足で校舎を歩いて行く。時々声が微々聞こえるが、何もない。


 お化けとかじゃないよな……。怖い気持ちと期待の気持ち。2つを変に持ちながら、ゆっくりと魔導書まで歩き始めた。


    ☆


 それは、俺達が3階に上がったときに訪れた。


「走る? 速くした方がいいと思う」


「やめた方がいーだろ。俺だって見つかるのはゴメンだ。焦るのも分かるけどよ、エルだってやだろ」


 そんな、笑い話をしていた時だった。


「キャー!!」


 誰かの、たぶん女の子の、悲鳴。耳をつんざくような大きさ──とは言えないが、少なくとも、()()()()()聞こえるべきではない音なのは確かだ。


 その悲鳴を聞いたときの、俺達の行動は速かった。


「アストくん、どこ!?」


「魔法講義室5! 3階! 入ってきたときの方角!」


 俺達はそこへ駆け足で向かう。意識が澄まされていく。だがかわりに恐怖が身体を蝕む。怖い。それを一番初めに考えてしまう。


「はっ……はっ! あった!」


 上を向きながら、標識を見るように走ってきた。アストくんの方が前を走って、先にドアを開けた


「大丈夫か!?」


「あ……っ、あばばーっ!」


 講義室には、制服姿の尻餅をついていた桃色の髪の女の子と、一体の巨大な影。


「うそ、だろ……? なんだこいつ!」


「デカいな──まさか、召喚獣……!」


 オオカミ、に見える。真っ黒な、四つん這いで、二本の大きな牙を生やした怪物。目の色が妖しく光り輝いて、顔を震わすたびに黄白色の残影が生まれる。


 災禍の具現のような狼は、大きく口を開けて、恐怖の咆哮を吐き出す。


「ヴギガァァッッ!!!」


 その音が辺りに鳴り響き、学び舎に緊張の風が吹いた。

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