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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
二話 霧が晴れて→私を隠して
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28 【八岐ノ大蛇】を攻略せよ/奇跡は起こすものだ

 デルシャを倒すのに、霧の召喚獣を倒すのに1番ネックなのは、多分【八岐ノ大蛇(やつまたのおおへび)】だ。あれをどうにかしなければ。ぶっ飛ばせるのか……不安だ、一瞬でも止まったら無理だ。タイミングだ、絶対にハッ倒す。


 昨日のようにはいかないぞ。温泉で疲れも取ったし、大技があることも知っている。油断はしない。でも、引きもしない。


「こっちから行く! セタ!」

 走って召喚獣の上にいるデルシャを殴りに行く。

「オマエ……なめるんじゃなイ☆ やれ、召喚獣!」


 ヴォォォォ!!!!

 召喚獣の雄叫びと共に空気の塊が何個か作られる。

『跳躍陣だ、エル君!』

 跳躍陣の展開を始める。今回は一つでは無く、数十個。この陣魔法を使って、立体的に攻める。


「──【跳躍陣】』! 3個目だッ!」

 もう、無理だ。かろうじて逃げ切れたが、これ以上もう展開するだけの暇が無い。こっからは、戦いながら展開していく。


 昨日、【跳躍陣】は地面と垂直に、触れた生物を飛ばす……と言っていたが、あれは、あの陣が地面と垂直に展開していたから。


 別に、地面と垂直に展開しなければいけない魔法では無い。影の召喚獣から逃げて、窓から落ちた時も実際には垂直に展開した訳じゃ無い。


 ただ、扱いが難しいだけ。全ての魔法は使いようだ。【閃光】だって、敵に隙を与えない、間髪入れずに放てる魔法だから、使い勝手が良いんだから。


 避ける。避けながら、【跳躍陣】を展開していく。ちょうど、デルシャに向かって円柱形になるように、【跳躍陣】を展開し終える。


「なっ!? やバ★ ッ……いけぇッ!! 召喚獣! もっと気弾を……放てテェェェ!!!!」


 大きくなった咆声と共に、召喚獣の口から放たれた数十個の気弾が俺を襲う。俺は引き抜いてある剣を、もう一度強く握りしめ、円柱形の最初にある【跳躍陣】に、足を置いた。こっから先は、もう戻れない。魔力もかなり消費しているはずだ。【跳躍陣】だってあと何個かしか作ることができないだろうし、【雷闢(らいびゃく)】だって2本作りきれるかどうかしか、残っていなさそうだ。


「絶対に……負けないッ!」

 バシュンズシュンと空を切る音が連続する。俺は、もの凄いスピードで【跳躍陣】を踏みまくり、頭で当たりまくり、脇腹から当たりまくる。そうやって気弾をかわして、デルシャの所へ、召喚獣の……亀の形をした召喚獣の背へと、猛スピードで乗り移った。借り物の剣で、怪盗を斬り裂くために横凪に振るう。


「うぉおっっ!!」

「チッ……★ 私だって剣くらい使えル☆ はァッッ!!」

 デルシャはマントで隠されていた背中から、両刃の剣を取り出して、俺の剣を止めるために剣で守った。


 剣と剣のぶつかる甲高い音が、霧のせいで静まりかえっているフェーセントの街に響き渡った。


 キリキリと軋む俺とデルシャの剣。変な音を出しながら火花を散らす。

「だったら……剣ごと……切ってやりゃっ!!!」

 こっちは勢いと体重が、剣にのっているんだ。力では、負けられない!


 ただし、このつばぜり合いを制した……いや制した、と言うよりは、明確に負けてしまったのは俺だった。

『エル君、もうダメだっ! ふひゃう!』

 変な声を出して驚くセタ。

「ちっ……勝てないっ……かっ!!!」

 デルシャとの力くらべに負けて吹き飛ばされた。この体でどんだけ力あるんだよ……! かろうじて召喚獣の背には残れたけれど、不味いことには変わりない。


 理由は、もちろん。デルシャを見る。魔法を発動する形をとっていた。来る……!

「『その光は天にあらず その怒りは地にあらず その思いは人にあらず──」

 使ってきたか……なら!


「こっちも! ふっ……ん!」

 覚悟だ、覚悟を決めろ。道を創る覚悟だ。打ち勝つ覚悟だ。強大な魔法を掻い潜って必ず、勝つんだっ! 勝って、笑うんだ! 飛び込めば、勝機がある。魔法に向かって行くなんて正気の沙汰では無いが、今考えられる最良の、この魔法を封じる手段。


 【八岐ノ大蛇(やつまたのおおへび)】。名前の通り八つの大きくて細長い魔力塊を撃ちだす魔法だろう。昨日見たのはそうだった。だが……シェルトにぶつかったときには一つにまとまっていた。つまりは、出てくる魔力塊は……!

『8本以下……ってことね。でも、あくまで予想だってこと、胸に刻んでよエル君』


「分かってる。まずは……『風よ現れ護れ 空気の力で我を跳ばせ──」

 【跳躍陣】を使って……デルシャの懐に潜り込む。ギリギリだ。


「──それは新たな放たれし魔力 八つ首の大蛇となりて敵を貪れ 【八岐ノ大蛇(やつまたのおおへび)】』ッ!!」

「──風の力で天へと飛ばせ 【跳躍陣】』ンッッ!!!」

 踏み込んで、空を飛んだ。


「おぉぉりゃぁぁぁぁッッッ!!!!」

 まずは一つ。飛んできた魔力塊を避けた。そして、二つ目を身をひねって空中でかわす。まだ、『奥の手』……いや、対抗手段は使わない。


「……ふ、ざ、ケ★ るなよ、オマエッッ!! 負けるかッ!! まだ、ダッ☆!!」


 三本目の魔力塊。素早く飛んできて、俺の脇腹を抉る。

「ぶっぐはっ!! 痛ぇ、でも……いや、いけるッッッ!!!」

 これなら、いける! 痛いが、動けないわけでは無い……これなら。一度止まった体を、立ち上がらせ前を向く。


 あと全部……少なくとも一回までは当たっても、死にはしない。

「魔闘真流──」

 慢心はしない。俺より、強い相手と対峙しているんだ。勝てることが普通と思うな。


 魔闘真流の力。俺の力を……やってやる! ここまで近づいた。ぶっ飛ばして、少しでも隙を作る。

「──拳闘術奥義……っっつ!!!!」

 剣を突き刺し、回転を使って、柄で体をうねらせながら回って躱す。四本目の魔力塊は、俺の横すれすれを飛びきった。


「もう、目の前だヨ☆ 私の魔法に勝てるかナ?」

 ……ふっ。言わせてくれるぜ。俺は昔っから、強かったんだ。故郷の、ミゼリコルの道場を巡って、鍛えまくって、当時の学校でら(中年太りしてたけど)元最強拳法家の父さんに勝ったんだ。そうだ俺ならやれるんだ、できるんだ!


「……魔闘真流拳闘術奥義ッ!!」

 魔闘真流には、拳闘術にも剣術にも、果ては調理術にも奥義と呼ばれる、魔法に打ち勝つ力、打ち勝つための体内の魔力……それを引き出す型がある。あいにく全部は履修していないが、一つできれば一つの場面に対処できる。たとえばそう、今みたいに。


 目の前から魔法が飛んできているときとか、特に俺の得意分野だ。


 足を引く。右手拳を握る、目一杯引く。全体重を右手に乗せろ。魔闘真流奥義……!

「【幕雷(まくらい)】ッッッ!!!!!」

 稲妻が閃くように打ち出された拳は、魔力塊一つをぶち破る。そして、五本目の魔力塊が消滅した。……まだ、俺の魔力は残ってる。でも、


「……は、は、ひへ、ヒャヘヘ☆ 凄いよ凄すぎるヨ! 殺害対象じゃなかったら見逃してあげたのに……。ザンネンダネ★ 余計殺さなきゃいけなくなっタ★」

 怪盗は狂喜した。まるで、自身を殺される喜びに打ちひしがれているような。


「まだ、【八岐ノ大蛇(やつまたのおおへび)】は残ってる……。私に触る前に……優しく死ねるかナ? さあいけッッッ!!!!」

 まだ、終わっていない! 六本目の魔力塊が頭上から飛んでくる。が、それを破壊することができない。なぜなら七本目の魔力塊が、まるで大蛇のように召喚獣の背を這って俺の方に飛んできているから。剣を引き抜いてまた前に進む。


 七本目の魔力塊はジャンプで、六本目の魔力塊は空中で身をひねって躱す。絶対に、当たっちゃダメだ。気を抜いてはダメだっ!

「どうりゃっ! 避けたぞっ!」

 後は、八本目のみ! 最後も躱して……斬る!


 もう一度剣を握り直す。

「……もう、目と鼻の先……だぜ。怪盗……なんで、シェルトさんを狙った?」

 こんな状況で、話すことでは無い。少しの気の緩みが、極度の緊張からほぐれたことによって浮かんできた。まだ、八本目は放たれていないのに。


 デルシャは……怪盗は勝ちを確信したかのようにニヤリと笑って俺に言った。

「団長の……パパの命令だ。分かったら……私の魔法に貫かれて死ネッ!」

 八本目の魔力塊もかろうじで、横に転がることで難を逃れた。


 さあ、走って斬りに行こう。パパの命令……か。何だろうな。この人は……そんなもので殺しをしたのか。していたのかは分からない。でも、実際俺の前でシェルトは死んだ。ふざけるなよ。同情や、悲劇だと嘆くところなのだろうか。父親の命で人殺しをするというところに。いや、そんなこと、考える必要も無い。こいつを……こいつをこ……ろして、召喚獣を殺して……街を元に戻さなければ。分かってる。こんなこと言うのは……復讐と言って協力したテルオやギルカ、ソウイチたちに悪いのかもしれない。でも。


 殺したくない。……優しくだ。優しくなら……死なない?


 恐ろしいんだ。人が死ぬのが。しかも、俺の手で。なよなよしてちゃダメだ。けど!


 俺は、剣を握って、走った。

「……うぉぉぉっ────!! っグハッ!!」

 もう、俺が斬って終わりだと、そう感じていた。だって、魔法の名前が【八岐ノ大蛇(やつまたのおおへび)】だ。八本までしか魔力塊は作れないと、誰もが、予想するだろう。


「ざン★ ねン★ オマエ一回魔法脇腹に喰らっただロ? 今、オマエに当たった魔法は……それの全部の威力のものダ☆ 脇腹に当たったのが、本当の魔法の威力の半分。今回当たったのは全部ダ☆」


「……八本だけじゃない、のか?」

「そうだヨ☆ 一本の魔力を分割しタ★ 私が半分にしたのは、脇腹に当たったのと、さっきオマエが殴ったやつサ★」

「カハッ!」

 動けない。立てない! デルシャの前で倒れ込む。そうか。俺が当たったのは分割された魔力塊。計算が……狂って、いたッ!


 何とか踏み出そうと、立とうとする。だけど。

「勝ち確誇って偉そうにダラダラ喋ってたのがいけないんだヨ☆ ……慢心野郎★ 勝てると思ってゆっくりしてたオマエが、私に踏まれているってどんな感ジ☆」

 俺は……俺はっ!!

「俺が……父親の命令を聞いて殺しをした……人形みたいな奴にッ!!! 立てっ……動、けッ!!!!!」


 そう、愚痴を漏らす俺に向かって、蔑んだ目を向けながら、踏みながらデルシャは、語る。


「……そうだヨ。私はオマエの思っているとおりパパの『奴隷』サ★ でも、パパは私のこと、愛してくれるの。『大好き』って言ってくれるノ。そのためだったら、私は、私の命まで厭わない。それでパパが喜ぶなら……たとえ壊れた人形でも、そうあるべきなノ★ ……これでいい? これで正解でいい? ──そう、あなたもなんだ。じゃあ死のうカ☆」


 剣を奪われた。手も、動くことを拒否したように、止まっている。動くのだ、まだ、動くことはできるはずなんだ。


 諦めちゃダメなんだ。勝ち目はあるはずなんだ。


 いや、生きて無くて良い。無理に生きようと、するな。まずは、死なないことを考えろ! この状況で……死なないように、自力で全力で!


 もし、ここで俺が死ぬ運命なら、その運命を覆す努力をしろ。もしここで死なない方法があるなら、全力でそこへしがみつけ。


 奇跡は……自分から動かなければやってこない!


「オマエッ! 何してるッ!! やっ……やめロッ!!」

「足掻きだっ! 生き残るための……死なないための! 全力でっ!! ガガフッ!! ……全力で、奇跡を運び込む努力をするんだッ! 未来は……明日はっ! 些細なことで変わるんだっ!」

 俺はデルシャの足に噛みついた。痛みに耐えているが、それでもデルシャは剣を落とす。だが、怒ったデルシャに蹴られて口から血が流れる。


 ……無駄な足掻きなど無い。必ず、行動には意味がある。


 そんなの、夢のまた夢だって笑う人もいるだろう。でも、動かなければ奇跡は起きない。


 奇跡は、起こすものだ。救いを求めるだけでは、神は福音を与えてはくれない。


 このゼルルド国の、海を挟んで隣の国……スメイラギ皇国には、贄という儀式があったと、親愛なる我が兄から聞いた。贄という儀式の内容は、海の荒れを防ぐために一年に一回、村で一番美しい、破瓜(はか)に満たない女性を海に投げ入れる……というものだ。


 奇跡に犠牲はつきものだ。たとえ、誰をも助けるヒーローであっても、救いを求めないものを、助けることはできない。


 逆に言えば──。


「さア☆ もう……終わりにしようッ!!」

 デルシャが剣を持つ。でも、俺はまだ諦めない。


 ヒーローは、手を伸ばしたものを──。


「私の名前はデルシャ。一生胸に刻メ☆ あぁ、もウ……死ぬのカ☆ サヨナラ★」


 諦めない。




「──【ダインハギル】ッ!!!」


 霧の街に電光が(きら)めく。一瞬だった。デルシャが剣を落とすのは。


「っオマエッ!」

「……シェルトさん!?」


 そして、周りの民家の屋根に立っていたシェルトは、召喚獣の背に飛び降りた。


「どうして、ここが……!?」

 俺は困惑していた。こんな奇跡が、起こっても良いのか?


「それは今必要かしら? 再会を祝うより、目の前と下の敵を倒してからでしょ?」

 鋭い目つきのシェルト。俺は、少し笑ってしまう。良かった、良かったと。安堵と勇気を貰う。

「ああ。そうですね、シェルトさん。奴の魔法は……分かりますか?」

「ええ。なんたって、もろに喰らいましたからね? それであれを、レプラコーンは攻略できるの?」


 その問いに、「もちろん」とかえす。


「許サ……なイ! 私は負けないッ!!」

 怒るデルシャ。目の前で奇跡を起こされてご立腹なようだ。が、俺達も容赦なんてするはずが無い。


「行きましょう、シェルトさん!」

「で、具体的にどうするか知らないのだけど……私の独断で行くわよ、レプラコーン?」


 それでOK。俺には、ビジョンが見えている。ここで、シェルトに助けられた後の、ビジョンが……!

「シェルトさん……戦いましょう。一緒に!」

ヒーローは諦めない

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