19 一時の休息 /協力
「むぐふぅ!!」
家に入って少し、誰も話さない状況が続いた後に、ギルカが俺に拳を振るってきた。
「殴るのはこれで終わりだ。悪かったな、あんときゃ」
「はぁ?」
どういうことだよ。あの時ってユノちゃんの時か? 次会ったらうんたんかんたんって捨てゼリフのテンプレ吐いたときか? いやでも、
「だからって何で殴る」
「俺様が覚えてろって言っただろ? だったら次会ったんだから、殴んなきゃ」
「いやどういう理屈だよ」
まあ、でも。本気で謝っているみたいし、ギルカはこういうやつなんだろう。
俺様って一人称は、かなり気になるものではあるが。
「ボ、ボクも……ごめんなさいっ!」
ユノちゃんに刃物を当てていた彼も、謝ってきた。
「あぁ、いや俺の方こそ謝らなきゃ。ちょっとかっとなっちゃって、蹴ってごめん」
俺達はお互いの顔を見あって、少し笑った。
謝ってくれた彼は、笑顔で自己紹介をしてくれた。
「ボクの名前はソウイチロウ・ロンダー。よろしくね! レプラコーン!」
「エルでいいよ。そっちの方が呼びやすいでしょ?」
「そ、そう……? じゃあ、そうする! ボクのことは……ソウイチって呼んで! この呼び方、格好いいし!」
そうか?
「じゃあ、よろしくね。ソウイチ!」
「うん! よろしく、エル!」
そして俺は笑いながら、さっきまで赤く変色していて今は黒くなっている目をした男に声をかける。ソウイチとギルカは奥で何やら話をしている。
「テルオ」
「テルオって呼ぶな、笑うな」
トゥルオーラ・リンドルード。召喚獣と『怪盗』に『復讐』をすると言っていた、多分、この三人のリーダー。
「ああ、そういえばさテルオ。『怪盗』って何だ? 召喚獣と──この騒動となんか関係があるのか?」
「だからテルオって呼ぶな。……怪盗ってのは──」
「それは私から話そう。少しいいか?」
話に割り込んで入ってきたのは、今まで壁にもたれかかっていたシェルトだ。
「じゃあよろしくね、マーキュリアルさん?」
テルオがシェルトに期待の眼差しをおくる。
地面に座って、俺達の話し合い。いや、俺への講義が始まった。
「『怪盗』は、このゼルルド国辺りを縄張りとして、ありとあらゆるものを奪っている。金銀財宝に魔法などの技術、芸術品や古代の石像、そして人、命。彼らの目的が何なのかは分からない。そして……」
彼女は胸の合間から、手紙のような紙を取り出す。……けしからん。
彼女はその手紙を広げて地べたにおいて、俺達に見せた
「レプラコーン。読みなさい?」
「え? わ、分かりました……」
なんで俺に回したか分からないが、仕方が無いので読み始める。
「『霧に覆われた祭中の街、我を失った民衆がひしめきあうその街の主よ。あなたの娘様の『魔女』の力をいただきに参上いたします。 怪盗 サモネ』……どういうことですかね?」
「私が怪盗に狙われているってことよ。祭中の街は、きっと国際体育祭中のフェーセントの街のこと。我を失った民衆がひしめきあう、というのはきっとさっきの人達のこと。これは私の父宛に届いているから、その娘というのは私。そして最後の怪盗 サモネ。サモネが誰なのかは知らないけれども、怪盗という文字で、きっと彼が私を狙っているということになるのでは無いか……と思ったのよ」
確かに、今の街やシェルトの境遇と一致している。でも……
「でも、『魔女』ってなんでしょう?」
「それは、私にも分からないわ」
テルオが話に入ってきた。
「『魔女』の力を奪う……魔力のことか? それとも魔法そのもの?」
いや、多分それは無い。シェルトの詠唱棄却速攻魔法は希少だ。世に広く出ている代物ではない、無詠唱の速攻魔法。
速攻魔法の体系は、何も魔法の名前を奪えば良いってものではない。詠唱魔法なら、『詠唱』という目で見ることのできる魔力の流れを再現することは楽だ。しかし、無詠唱の魔法など、個人で解決する魔法は独学か口伝でしか習得、再現方法が無い。なら、別の何かってことになる……か。
『魔女といえば』で考えるか。
『魔女は古来から、悪魔との契約者として伝承に残っているんだ、こっちの世界では──こっちって僕が住んでいたところね。……まあ当事者じゃないから、知識も少ないけど』
セタが助言をくれる。
『だったら魔女の力はシェルトちゃんが契約しているかもしれない悪魔のことかなぁ? でも、この子に憑いてる奴はいなさそうだよ』
(そうだよな。シェルトからは悪魔などという、そんな禍々しい魔力を感じることができない)
でも、背中の……あれは悪魔との契約の印なのか? いやもし、もしもだ。もし彼女が悪魔との契約をしていて、その印があれだとして……無いな。わざわざ背中に、それに魔法以外に意味のあることを書くわけが無い。
考えても埒があかなそうだったので俺はテルオに質問をする。
「で、最初の話に戻るけど」
「なんだい、レプラコーン?」
「復讐って……どういうことだ? 具体的にどうするんだ? そもそも、この状況を……我を失った人達を元に戻す、打破する方法はあるのか?」
ちょっと熱が入り、たくさんの物事を一気に聞いてしまう。
「そうだね……。あるには、あるよ」
テルオの、少し頭を抱えて呟いているような声が家に響く。辺りが静かになった。ギルカも、ソウイチも。こちらの話に耳を傾けている。
「あるにはっ……て。それに犠牲は出るのか?」
「出るだろうね。多少は。死人が出る可能性も、大いにあるよ」
即答、歴然の傭兵のように、黙々と。中学生が言うにしては重すぎる『死人』という言葉。
「覚悟しろよ、レプラコーン。自我を吹っ飛ばされて真っ白になってる、アジリードや民衆を助けたいならついて来い」
そしてもう一つ、テルオが口をひらく。
「協力して、それでいて戦ってくれるのであれば。俺達の復讐の理由やら、具体的にどうするか、打破する方法やらなんやらを教える──まあ、お前らもまず最初に考えそうなことだけどな」
なら俺も、と覚悟を決める。
「覚悟なんて当たり前だ。俺はシェルトのボディーガード。それが、『足が竦んでここで待ってます』なんて職務放棄できないよ。だからテルオ、協力する。でも、一つだけ条件がある」
「その条件。飲み込めなかったらどうする?」
テルオの厳しい眼差し。いつの間にか目の色が深緑に変わっていた。
決まっている。条件は、飲み込ませる。
「条件、一般人を必要だからって殺さないこと。流れ弾も禁止にして欲しい──たのむ!」
俺は、絶対の不殺を宣言した。
「分かった。極力……じゃなくて。絶対、そうするよ。俺達だって、好きで犠牲を増やしたいわけじゃ無い。ギルもソウイチも、良いよな?」
彼らは無言で頷いて、肯定の意を示した。そして、ギルカが一つ言葉を付け足した。
「俺様も犠牲は増やしたくない、絶対に。だけど、俺様たちやお前らが死んでも、ぜってー文句は吐くなよ。並大抵の覚悟で、召喚獣や怪盗に立ち向かうことはできないんだ。まあ、影の召喚獣を倒したお前なら……言うまでも無いんだろうが────対峙して分かったろ、アレはヤベーってこと」
分かってる。そう、心で言った。
「シェルトさんは、どうします?」
そう言って視線を送る。
「私は助けたい。私の街の、みんなを。だから手伝うわ。少なくとも、私は怪盗にとってのターゲット。エサ以上のはたらきは小指でこなすわ?」
大丈夫そう、シェルトも覚悟を決めたようだ。
「それじゃあ、テルオ、ギルカ、ソウイチ、シェルトさん……」
いつの間にか円形に並んでいたみんなを、俺は目で見渡す。
俺達の一時の協力が、今始まった。
「どうぞ、よろしく」
「だからテルオって呼ぶな!」
勢いよく殴ってくるテルオ。痛いからやめて欲しい。……あれ? いや、俺が悪いのか。でも、テルオって言いやすいから良いよね。
できれば評価お願いしますm(_ _)m
失速か章終わりしたら人物紹介作ります




