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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
一話 夜の始まり→ファンタジーの続き
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1 今日も、今夜も、はじめましてから始めよう

 エルヒスタ・レプラコーンとアストゥーロ・アジリード、そしてユノ・ワロキアが邂逅する、全ての始まりの第1話。

 ユノが召喚してしまった影の召喚獣を倒すため、三人が夜の学校を舞台に奮闘する。

         それは己が過去の記憶

         ── Chapter 1 ──


 まずは、はじめまして。どうも皆さんこんにちは。

 俺の名前はエルヒスタ・レプラコーン。B級貴族、レプラコーン家次男。

 国内でも有名な学校『チェリスカ魔法学園』の中等学部に、2年次から編入した友達0人だけど友達欲しい系の人間です。


 このプロフィールや遍歴を見れば誰だって、俺が他の学園の中等学部から、何か問題(友達関係以外)があって転校して来たと考えるだろう。


 まあ、そうやってプロフィールを偽装していることは事実だ(友達0人は嘘じゃない)。

 端的に言うと俺は、中学一年生を経験していない。


 嫌いな教科は一年次から復習しないと定着していないし、好きな魔法歴史学は並の高等部生よりも知識があると自負している。


  だから、わざわざ偽装してまで──年齢的には二年次ではあるが──飛び級してきた意味がある。理由がある。


 それには誰にも言えない、言えるはずのない俺の秘密が大きく関わっているのだ。


 そんな感じの奴って、誰にだってあるんだろ?



 12歳、初等学部を卒業し、今の学校ではない中等学部に入学しようと、準備を進めていたときのことだ。


 俺は()()()()()(うな)される悪夢を、何日も何日も見た。


 その内容は『一人の人間が、【ニホン】という国で生きそして死ぬまでの、19年間で経験した知識や思い出全て』だった。


 自分ではない誰かの記憶を、そのまま植え付けられたような感覚に俺は耐えきれなくて、精神が崩壊した。


 それで1年間、家で過ごしていたから学校には行けていない。

 故郷ミゼリコルの学校には友達も居ないし、もう顔も思い出せないから……学校とかどうでもいい。


 そんなニホンの記憶も、今ではなんとか抑えられるまでになった。表層意識に顔を出してくる、自身とは違う自分を受け入れることはできない。

 だがまだ怖い。抵抗するのにも体力がいる。この新生活、そんなものに苛まれてたまるか。


 「突っ立ってないで、空いてる席に座りなさい」と先生に言われ、慌てて1番後ろの席──ちょうど二つ空いている席の、俺から見て右側に座る。


 今日から、俺はこの学校──チェリスカ魔法学園の生徒になったわけだが……多分今日は、この学園の生徒として扱ってもらえないだろう。


 ほら、奇怪なものを見るような目が痛い痛い。


 何も無い一日になって欲しいなと思う。でも、友達の一人くらい欲しいとも思う。

 だけど友達の記憶もない俺に、すぐに友達を作るなんてできないし……する気もない。出来る気がしない。


 生まれてまだ友達もいない自分を見せないようにと、今日一日くらいは頑張って過ごすことを決めて、質問攻めの嵐に向かって飛び出した。


    ☆


 やはり来たのは、質問の連続だった。待っていた! なんて思ってたけど。


 「今まではどこの学校にいたの?」とか、「出身は?」とか、「レプラコーンってあのレプラコーン?」とか、色々と。


 全部に応じている訳ではないが、何とか捌いて一日を過ごす。どうせこれも今日で終わる。



 ──そう、捌いてしまっていた。


 愛想笑いで返したり、薄い反応をしたり。なんか、心に響かない。みんながみんな、なんか好きになれなかった。

 多分、俺のことを好きになってくれた人もいなかっただろう。


 だってそうだ。ぶっきらぼうに、一匹狼気取ってるこんな人間に友達なんて出来るはずがない。



 今はマイアの月、ニホンと呼ばれるところでは──5月と呼ばれていたか。進学・進級はじめはウェヌスの月──4月なので一月遅れ。ちょうど仲良しグループがまとまってくる頃だろう。


 なので俺は、質問攻めされた後は独りきりになる……そう思っていたけど。


「なぁ、お前!?」


 なんで厳つそうな子にマークされてるの。

 といっても、背はそれほど高くはないので、恐すぎることは無いんだけどね。


 でもやっぱり、放っているオーラが怖い。黒髪の中に金一筋。イケイケ系の匂いがぷんぷんする。


「レプラコーンだろ? ここ来るまでは、やっぱミゼリコルに居たのか!?」


「……えっとはい、そうです」


 俺が行ってない、行けなかった中学校のことを──ミゼリコル総合学園中等部は、レプラコーン家管轄の臨海地域の超有名名門中学校だ。チェリスカ魔法学園もかなりの名門中だが──苦し紛れに答えると。


「ミゼリコル……か。へぇ、いいとこ行ってんじゃん……そっか、この時期だもんな、そうだよな」


 優しい声で何かを考えている目の前の男。俺より身長が小さい、活発そうで、黒色の髪に金一筋の髪束。いかにもクラスの中心人物のような風貌。


 でも、周りには誰もいなく、それに今周りの奴らはあまり近づいて来ない。


 あれ? 意外と恐くないぞ? それになんだ、こいつも友達いないのか?


 ならいいや。こいつとなら、なんとなく話せそうだし。


「あぁ、俺の名はアストゥーロ。よろしくな!」


「ゴボフッ!」


 そんな考えを巡らしてたからだろうか。背中を思いっきり叩かれた…………とても痛い。


    ☆


「疲れた……」


 『口に出すと現実になる』という言葉がある。この世界にも。魔法学でよく使われる、都合の良い言葉だ。きっと偉大な魔法使いも、賢者も皆、「疲れた~」と口に出していたであろうに。特に今、俺みたいに、こんな事をしていれば。

 


 寮に住む事になった俺は、荷物を全部部屋に搬入する肉体労働をしている。正直言って辛い。魔法とかで全部済ましてくれよ。


「よいしょ。ふっ、ぅづがれだ~」


 この国、ゼルルドでは五月(マイア)は熱い。もちろん七月(ユルス)八月(アウグス)よりは涼しいはずなのではあるのだが、よりにもよって快晴、無風、多湿の3連単。あつくないわけがないのだ。


 因みにあいつ(ニホン)の知識だが、荷物を近くに持つと楽になるらしい。気休め程度、あと白い箱に入れて持つのもいいらしい。気持ちだけだが。


 因みに俺、今日の授業は免除、それで手続きを進める事になっている。


 それも終わり、街は夕方になっていた。


 昼ごはんはアストゥーロくんと一緒に食べた。何故か他の人は、アストゥーロくんを怖がっているらしく近づいてこなかった。いや、俺がいるからか? それだったら悪いことしたなぁ……そう思っていたとき、後ろから「エルヒスタ、手伝うか」と、声がして振り向いた。


「アストゥーロくん、ここの寮なの?」


 そこにはアストゥーロくんが立っていた。


「ここの寮って言うか……ここ俺の部屋なんだよ」


「へ?」


 俺がキョトンとした顔を見せると、彼はこう言った。

「相部屋」、と。


    ☆


 荷物搬入もアストゥーロくんに手伝ってもらって早く終わった。小柄な癖に、もの凄く力持ち。1体どこからそんな力が湧いてきているのだろうか。


「ありがとう、アストゥーロくん」


「アストでいいぜ、アストで」


「じゃあ……アストくん」


「くん付けなのな」


 仕方ない、まだ会って少ししか時間が経ってないんだ。これから何とか外すよ。と、心の中で言い聞かせる。


「じゃあ俺のこと、エルって呼んで下さい」


「よろしくな、エル! でもよぉ別にいいぜ、タメ口で。ルームメイトなんだからさ」


「……よろしく、アストくん」


「ってー、くん付けやめろよな!」


「ゴボフッ!」

 思いっきり叩かれた……でも、そこまで痛くはなかった。少し気分が良い。きっとこれから楽しくなるんだろうな、そう思った。


 お風呂に入ったが、アストくんに叩かれた場所がとっても赤くなっていた。痛い。湿布が欲しい、と湿布が何か現物を見たことがないが、あいつ(ニホン)の知識がそうやって悲鳴を上げていた。


    ☆


 夜。


 夜だ。


 今日もまた、夜がやってきた。


(今日は来るか……?)


 俺には、皆には言えない秘密がある。それはもちろん、【ニホン】の記憶を持った人間に関してのことだ。


 夜になると『彼』は現れる。


 俺の頭の中、精神世界の中に居座る彼が、気まぐれで俺に挨拶をしてくる。


 浮遊感、虚脱感、そして覚醒感。

 彼が来るサインだ。


 ──いや、()()()()は少し語弊がある。


 ()()()()のだ、彼のところに。



 ──そして、辺り一面が真っ白な空間に放り出された。



「やあ、エルくん。今日は一段と用意周到だねぇ。ペン握っておやすみかい?」


 虚空の中から、水色よりもっと白い病衣を纏った男が現れる。ゆっくりと近づいてきて、そのまま俺を通り過ぎる。


「ここで話した事、僕に会ったことも、夜寝る時になるまで忘れちゃうのに……」


「はっ、流石に俺も馬鹿じゃ無いからな! 今日はペンと紙も持ってきた。……本当は新しい場所で清々しく起きたかったんだけど、この事を書いて忘れないようにしないとな」


 クスクスと笑う男は、そんなものは無意味だと言わんばかりに言葉を続ける。


「まあまあ、とりあえず落ち着こうか、エルくん」


「……まだ、お前が表層意識に出てこないっていう確証が取れてないんだ。だから早く、俺の精神から出て行ってくれ」


「出て行けって言われてもねぇ……そうは問屋が卸さないわけよ! ……これ何回も言ったよね?」


 知らないよ、覚えてないんだし。そうぶっきらぼうに言葉を返して、無限に続く白の空間に座り込んだ。


「ちょっとはお話聞く気になった?」


「ならない。どうせ忘れるし、書けるのなんて数行だけだし」


「数行書けたら凄いんだけどなぁ」


 黒い髪を掻きながら、彼は俺の目の前に座った。


「さーて今日も、はじめましてから始めようか」


 ヒョロリとしたシルエット。


 爽やか笑顔に似つかわしく無い薄水色の病衣。


 そして、その笑顔に不釣り合いな右眼の濁り。


 そう、彼が。


「僕の名前は瀬田(セタ)真之介(シンノスケ)。きみも気軽に、セタって呼んで良いからね?」


 俺から大切な一年間を奪い取った侵入者であり……僕が初めて出会った()()なのだ。

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