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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
二話 霧が晴れて→私を隠して
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17 アストの忠告/凶変

「見知らぬ天井だ……」

 そう呟いてから、二度寝を決め込もうとした。が、

「エルヒスタ! 準備はできたか!?」


 朝、カーテンから差し込む朝日と主人様の怒鳴り声に起こされて、俺のボディーガード二日目が始まった。

「三十秒で支度しまーす」

『本当にできるの?』

 セタ・シンノスケの嘲笑うような声ももう慣れた。慣れてしまってることが嫌なこと極まりない。


 三十秒経ったあと、勝手にシェルトさんが部屋に入ってきて、また怒鳴られてしまった。


 もちろん、俺は下着姿。俺もシェルトさんみたいに怒って魔法ぶっ放していい?


    ☆


 シェルトさんの後ろでフェーセントの街を歩いていた俺は、ある人物を見つけて止まる。


「アスト!!」


 そう、アストゥーロ・アジリード。俺のルームメイトであり、親友で戦友だ。


「エル……? エル! 今までどこ行ってたんだよ! ちょうど言いたいことがあったんだよ!」


「今まで、シェルト・マーキュリアルって人の所で……」


 俺の言葉をアストは止めて言う。落胆したかのように。


「あー。そういうことね。理解」


「え? もう理解?」


「あいつ、よくやるんだよね、こういうこと。そうして帰ってきたやつは総じて言うよ、『地獄』ってさ」


 地獄……、マジかよ。


「レプラコーン行くわよ! 早くしろ!」



「ちょ、言いたいことって何? 早急に!」


「ああ。癇癪を起こされるとヤベーからな」


 アストは真剣な顔で、真剣な声色で、真剣な姿勢でこう言った。


「ユノに召喚魔法書を売った輩が、このフェーセントの街に来ているぞ」


「え?」


 思わず声が出る。


「ユノから聞いた。ユノも多分と言ってたから、上手くはわかんねーけどな。とりあえず、街に似つかわしくないレースやリボンが付きまくってるベストを着てる奴らしい。売り手にしては派手すぎるよな。見つけるかもしれねーから、そのこと覚えていてくれよ」


 レースやリボンが付きまくってるベストとかどこが『優しそうな人』だよ。


「レプラコーンッ!! 遅いっ!」


 シェルトの怒号。早く行かなきゃな。


「分かった……。ユノちゃんによろしく言っておいてくれ。じゃあな!」


「おうっ! がんばれよー」


 そんなこんなでアストとの話を終え戻ってきた。


「早くしろ」


 スタスタと前を進んでいくシェルトさん。何か、お気に召さぬことをしたかな?


『エル君の存在がお気に召さなかったとか?』


 いや、それはそれで悲しいぞ。存在否定は悲しいぞ?


    ☆


(……気になったことがあるんだ、セタ。)


 歩きを止めないシェルトさんが前に居ながら、少し気をそらして俺の精神の主、セタ・シンノスケに問いかける。


『なんだい? シェルトちゃんのパンツの色が知りたいって?』


 セタ・シンノスケ。彼はレディーのパンツをのぞき見ることを趣味としている(最低だな)。

 いったいどこから見ているのだろう。と言うか、俺との感覚器官の同期などはないのだろうか。本当にどこから見ているのか。足の甲か?


『やだなぁもう、男の子なんだから! でもね、俺知ってるんだよ、パンツの美しい色彩を。シェルトちゃんのパンツの色、それは──』


(そう言うのいらないから真面目に……真面目に何色? っ、じゃなくて!)


 パンツの色ごときで動揺するとは……なっ、あーッッ! なんだろう、黒か? 白か? 水玉か? って、いや、辞めろ、想像するな俺!


 頭からパンツが離れなくなってきていたが、一度平静さを取り戻そうと努力してから問いかける。


(なんでこの道は無人なんだ?)


 昨日は人の通りもあった道は、今は無人で淋しい感じがする。


『確かにね、でも昨日通ったのは夕方で、今は昼だ』


(魔法学園の生徒とか、競技者とか、見物客とか、誰も居ないんだよ。不自然すぎじゃないの? この状況は)


 不自然に見られている感覚が俺を襲った。


 何の気配だ、これは……。これは、昨日の……? 見ていた。人が。俺を、いやシェルトさんを──


「あ、あ、あっーっ!」


 飛び掛かってきた。目が充血するまでひらかれて、喃語のように言葉になってない叫び声を上げた、


「シェルトさん! 危ないッ!!」


 咄嗟にシェルトさんを引き寄せる。さっきまでシェルトさんがいたところには、狂った動きをする人間が。


「この人……昨日、会った。こんな人じゃない」


「っ……」


 俺はあまりの光景に呆然と、シェルトさんは止まってしまっていた。


 狂変した男は、辺りを見回すと。


「あーっ、あっ!」


 そう言いながら這ってくる。シェルトさんめがけて。

 俺は気づいた。あと何人も、この男のような気配と、普通の人間の気配が数個あることを。


 何かが起こるとは思ってはいたが、町の人を巻き込むほどの悪いことが起こるとは……それだけは思わなかった。


 俺は拳を構える。殺しちゃダメだ。気絶、難しいけど、後遺症を残さないように、綺麗に。俺には、難しすぎる。


『戦闘、ナビゲートしようか、エル君?』


 セタが問いかけてくる。俺は二つ返事で答える。


「頼んだ。力を貸してくれ!」


『真左、右上、左斜め後ろ』


 頭の中からけだるそうな、でも少し楽しそうな声が聞こえる。セタの声だ。


「あーぅっ!」


 この声は、俺から見て真左から殴りかかってきている人。最初の人とは違って、目を見開いているわけではないが、もの凄く()()()()

 襲いかかってきた人を転ばせてから、宙に浮かせている状態で背中に拳を打ち込む。多分、すぐには起き上がってこないだろう。


「ふっ! シェルトさん、大丈夫ですか!?」


 シェルトは俯いたまま動かない。いや、実際には最低限攻撃は躱していた。


「レプラコーン、絶対に守りなさい」


 シェルトが呟く。何から? それとも何をなのか。主語が無いから分からない。文脈から考えれば『私を』守りなさい、なのだけれども『この人たちの安全を』守りなさい、なのかもしれない。


「おー」


「あぃーっ!!」


 喃語のような呂律の回らない言葉を吐きながら、シェルトに危害を加えようとしている……凶人とでも呼んでおこうか。


「ふっ! せーイッ!」


 凶人二人の顎とお腹にヒットして、片方は失神して、片方は動けなくなっていた。


「シェルトさん、どうしてですか!?」


「何がだ、レプラコーン」


「あなたの領の人達がこんなことになっているんですよ! 何か、行動の一つでも起こして下さい!」


 そう、シェルトに聞く。だが、彼女の口から聞けたことは、俺からしてみれば何で彼女がそれをいうのか、そんな意外な、的を射ていないことだった。


「そうね。でも、レプラコーン。私が動いたって何も、良い方向へは傾かないんじゃない? 私がどうこうできるレベルの話なの? 確かに私は魔法が得意よ。でも、それがどうしたの? 絶句してもいい光景でしょう?」


「それは……」


 確かにそうだなと、俺は納得してしまう。何をやっても無駄では無いのだろうが、限りなく無駄に近い。


 だってそうだろう。何で街の人が狂ったように襲いかかってくるのか分からない状況で次々に凶人を沈めなければいけない。


 元凶……それがあるはずだと、思っても仕方が無いだろう。


「で、でも! シェルトさんも少しは」


「あなたは私のボディーガードでは無かったの? 身を挺して主人の身を守る。それがボディーガードでしょ?」


 俺は黙りこくってしまう。的を射ているシェルトの言い草。でも、でもさ、助けてもらったって良いんじゃ──



「あおあー!!」


 振り向かないでも、凶人が近くに居ることが分かった。まだいたのか!??


 その凶人は目を細めて()()()を、シェルトでは無くて俺の方向を向いて、敵意を発してきた。


 俺はいち早くこの凶人を黙らせて、元凶の情報を集めようと振り向く。が、


「また……か? あ!?!?」


「なっ、私たちの学校の制服……! それにあいつはっ!」


 今では冷静そうに話していたシェルトも一緒に、二人揃って取り乱す。それもそうだ。


 そこに居たのは俺もシェルトも知っている、チェリスカ魔法学園中等学部生徒。


「お、お、あー!」


「ア、ス、ト……? おいアスト! ……返事をッ」


 そう。そこに居たのはアストゥーロ・アジリード、その人。ただ一人だった。

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