15 出会いというものは偶然であり突然であり必然である/怪盗
トゥルオーラの過去、シェルトの過去、そしてエルの『謎の力』が爆発する。シェルト様のボディーガードとして、エルの魔法と霧が渦巻き飛び交うフェーセントの街を駆け抜ける第二話。
──前提としてひとつ。
奇跡のような単純な、陳腐な、ただの都合の良い救いなど、この汚れきった世界などで起こることは、絶対に無い。
隠せ、自分の幸せを
── Chapter 2 ──
ある八月の、お祭りの日の夜のこと……。
「私の裸体、ここで綺麗さっぱり忘れさせてあげるわ! もちろん……」
「だから俺は、不可抗力だって!」
俺の目の前に、憤怒の形相をした『学園の女王』が俺に怒りを向けていた。
「それに俺は怪我人なんだぞ! お前のせいでな──」
「……レプラコーン……お前の頭を踏んで、肉塊にしてからぐちゃぐちゃにミンチにして。豚の餌にでもさせてから、綺麗さっぱりこの世のこと全てを忘れさせる!」
「だから理不尽だぁー!!!!」
どうして俺が『学園の女王陛下』様に執着されているのかというと……
話は遡る。正確に言えば、『ゼルルド・マキア国際体育祭』の前夜祭も終わり、開催を4日前に控えた『あの日』まで遡る。
その日は、俺の意識が現実世界にある時間が、本当に短い一日だった。
☆
「ふんふーん、ふふんふーん♪」
いい天気、キラッキラな陽射し、すがすがしい朝! そんな日に俺、エルヒスタ・レプラコーンは街に出ていた。
「バイト三日目、休日に高時給でパン屋の手伝い。よかった~。中等学部生雇ってて、しかも売り上げいいから見通しつきやすいし!」
休みの日だけではあるが、7時から4時までの仕事(学校の日は朝の仕込みと夜の片付けを手伝う)でけっこうの収入が得られるのはデカい。
ちなみにアストとユノちゃんは別の仕事。アストは重労働向きだし、ユノちゃんは接客業(エッチじゃないやつ!)得意そう。女の子だし可愛いし、それだけが理由。
というわけで今日は俺一人。そういえば3人で街に出たこと無いなー。まあ来て十日経ったかどうかくらいだし、俺は地図無しでは歩けないし。
「まっそんなのもう関係ないけどな! ……ん?」
ヒラヒラヒラとなにかが落ちてきた。
「これは……」
ハンカチ? そうか、どっかから落ちてきたのか……。
頭上の家に一つ、開いたドアを見つける。
「ここか、届けよう……!」
そして俺は、窓から渡すために【跳躍陣】を唱える。
「──【跳躍陣】』! よいしょ!」
蛙もビックリの大跳躍で、開いた窓にジャンプする俺。
「すいませーん。落としました……か?」
いたのは背中向きの……女性?
『薄々感づいていたんじゃないww』
セタ・シンノスケのうざったらしい声も、コレを前にしたら全く聞こえなくなった。
なぜなら……
「……は!? え……うん」
「き、さ、ま……!」
下着姿、しかし上の方はアレを付けていない女性。深紅の髪に、真っ白な肌。たぶん、同年代。そして背中には……
顔が赤くなるのを感じる。……うん、これはあれだ。
『お約束ってやつだよ、エル君。本当にきみは面白いww』
俺、怪我するんだ。お約束的に。
「あっ、こっ、こっこっこれを! 渡し──」
「見たな! 問答無用だ、【ダインハギル】!」
「ドブガーッ!!!」
俺は知らんが、たぶん超高威力の魔法を放たれ、空中に吹き飛ばされる。
「……ふん!」
あっ……やべ、目の前に……っっ!!!!!
「道ろびぎゃりふげろふん!!!」
☆
「あーあ、流石エルくん。災難だねぇ」
「おい、なんで俺がまたここにいるんだセタ!」
あの夜の学校の騒動から少しだけ時間が経ち、俺はセタ・シンノスケとのやりとりを完全に思い出すことに成功した。その時、俺はシンノスケではなくセタと呼んでいた。
だからなのかは知らないが、自然とセタ呼びに変わっている自分がいた。なんか、こっちのがしっくりくる感じがして、少し不思議だ。
「忘れたの? キミはハンカチを渡すときに少女の肢体を舐めるように鑑賞して、死んだ!」
「死んだ!?」
死んだの俺!? じゃあの女の子殺人じゃん、犯罪者じゃん!
「うーそ。生きてるよ。あのキャワイイ年齢にしてはナイスバディーなガールも犯罪者じゃない」
「うっ、嘘だぁ!? セタの嘘つき! 泥棒! 犯罪者! 最低野郎!」
「まあキミにとって、やっかいなことが起こったのは確かだ。だってエル君は、もう3日も目を覚ましてない」
うーわ、まじですかい。
「3日も!? お母さんとかお父さんや、アストとユノちゃんは、そのこと知ってるの?」
「承知済み。だけど起きても近くにはいないね。しかも、起きたら周りの風景にビックリ仰天なはず。まっ、せいぜい楽しんで来なよ!」
そう言って俺は、精神世界から放り出された。
☆
「カッ!!」
目を覚ます。お決まりのように、見知らぬ天井が視界に入った。様式美が過ぎているとは思うけど、これがファンタジーだとしたら、これってなかなかのものじゃ無いのか?
「ここは……」
辺りを見回す。……、誰かいる。脚ほどにまで伸びた赤毛に白肌が美しい……、
「さっきのハンカチの人ですか?」
俺は思いきって聞いてみる。するとその人は振り返ってこう言った。
「あ? 起きたの、ね。よかった……」
よかった~。心配されてるみた──
「よかった……これで心置きなく消せるわね……」
──みたいじゃないですね、はい~終わり。てか目の前の子ガチで魔法唱えようとしてるし
「【ダインハギル】!」
「明らかにやばそうな魔法やめてー! 誤解誤解ィ!!!」
これか、セタの言っていた『ビックリ仰天』かぁ。
仰天にもほどがあるよ! コレじゃ俺昇天しちゃうよ!!
☆
「すいませーした」
けだるそうな若い男の声が響く、とあるぼろ家。いや、ひとえにぼろ家と言っても、内装は整えられている。
「サモネか……失敗、したんだな」
だんちょー……団長と呼ばれた男は、大きな椅子に座り、少しいらだちながら“サモネ”に言った。
「召喚魔法書を一つ、無駄にしたんだ。本来は『責任』でもとらせるつもりであったが……」
「えー、それだけは許してよー。また盗りに行くからさー。それに殺しも付け加えてくれたら嬉しーなぁ」
サモネ……彼は懐から本を、魔法書を取り出して、団長に差し出した。
「サブクエスト的なのはやってきたよー。ほいこれ」
団長と呼ばれた男は、その魔法書を見ながらこういう。
「また、おつかいを頼もう。マキアとゼルルドの国境付近にある、少し大きな街でひらかれる……」
「『ゼルルド・マキア国際体育祭』ってやつすか? そこに行って、何を殺してくればいいんすか?」
サモネは別の本を取り出して、
「こいつで召喚獣を暴れさせて、混乱を……」
団長と呼ばれた男は、言葉一つ一つを噛みしめるように言った。
「……お前は極力大きなことは起こすな。それは、『怪盗』の美学に反するよ。なに、ことが終わればの話だ。これの依頼者もまあ笑うだろうさ」
「依頼者……ねぇ、まーいーか。分かりゃーした。で、怪盗ってことは……そこで何を盗むんですか? それとも殺し? 俺、強い奴か優しい奴しか殺せないよー? 特に生意気で生きよーと、頑張ってもがいてる奴好きになるかも知れんけど」
サモネの問いに、団長と呼ばれた『怪盗』は、こう言った。それはサモネに不思議と、とても不可思議を残して。
「まあだんちょーの頼みなら美しく殺してきますけど──」
「盗むのでは無い、殺しもしない。今回のは殺してはいけないし、何かを盗んでこいとも言えない。簡単に言うなら……拐わかすんだ」
「──へ、誘拐? こりゃ珍しい……で、誰を?」
『怪盗』は、笑みを浮かべて、こう言った。
「──魔女さ……。魔女。かつての大魔術師、その心を」
その声に、二人の男女が笑った。一人はきひきひと。一人はため息をつきながら。
魔女を狙って、街が混沌に霧がかる。
章初めのポエム、趣味なので入れさせて。




