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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
一話 夜の始まり→ファンタジーの続き
10/84

9 再戦

「っ……!」


「ゴゴグガァ!!!」


 召喚獣が吠える。昨日までとは段違いの覇気が纏われている感覚がする。


「ユノちゃん、よろしく!」


「がっ、頑張ります!『力の精霊よ、我の声を聞け──』」

 ユノちゃんの詠唱を聞いてすぐ、召喚獣へ駆ける。今の俺には、刃物もメリケンサックもない。だけど、

「魔闘真流は、もともと拳法から派生したんだぜ」


 ふん! と、勢いに任せて召喚獣を殴る。


「消えた!? ……ユノちゃん!」


 影に紛れ、昨日と同じように姿を消す。霧散したかのように見えた。

 俺の目は、はっきりと光る双眼を捉えている。けれど、あまりの速さに目が追いつかない。


「『──彼に力を【ケシラン】』!  エルヒスタ先……エル先輩! うっ、後ろです!」


 俺は振り向きざまに拳を打つ。重い一発、感覚はさながら歴戦の拳闘士。


「ふんっ!」


「ゴガァ!?」


 クリーンヒットだ。だが俺もその勢いで後ろに吹き飛ばされてしまう。

 手応えはあった。しかし、それ以上の不安もあった。


「くっ……! 『穿て、【閃光】』!」


 体は辛いが、牽制として【閃光】を召喚獣に放つ。またもやヒット。

 なんとか体を冴えさせている感覚だ。……強化魔法、やっぱり慣れないな。他人の魔力を受けつける力が、俺にはあまり無いみたいだ。

 ──協調性が無いとか言わないで! だから友達0人だったんだなんて言わないで!


「きゃっ!!」


「ゴグギィッ!!!」


 召喚獣は俺の頭上を通り越し、ユノちゃんに飛びかかる。それを見逃さず、すかさず俺は【閃光】を放つ。


「させるか! 『穿て、【閃光】』!」


 空中で体勢を崩された召喚獣は、ユノちゃんの頭上をも通り越し、軽々しく着地した。

 魔法はあまり効いていない。その黒く光らない毛皮のような皮膚が、魔力を受け付けていないのかもしれない。


「ん!」


 陣形を立て直す。俺がユノちゃんの前に出て、召喚獣から守るようなポジションにつく。


「いくぜぇ……ハッ! セイヤ! ドリャッ!!」


 殴る、殴る。殴る! 俺はもう何が何だか分からなくなるくらいまで、召喚獣を殴り続ける、そして倒す。


 やれる、殺せる。こいつを倒せる。俺の、力で! 俺が勝てる。倒せる、戦えている!




 ──多分、一瞬気を緩めてしまったのだろう。


「グッ……ガアァアア!!!!」


「ごほっ!? げふっ!!」


 ドシン! と何かが落ちる音。それが俺から発せられた音と気づくのは、俺が召喚獣に踏まれ、押し潰されそうになっていたからだった。


「エル先輩!!!」


「くっ……、があぁああ!! このぉ……ガッ!! んぐ、はぁぁぁ!!!」


 召喚獣の唸り声は、完全に怒っているものの音がしていた。悪寒と恐怖、もちろん痛み。その全てが平等に降りかかるが、俺はそれを捌き切ることができない。


「先輩……今、助けます!」


 ヤベぇ……明らかにヤバい。自分でも薄々感じていたし、それに忠告もされていた。だけど()()を経験しないと分かるわけがない。──似ているものは、魔力欠乏症。つまりは、今俺の体は、力が入らねぇ。

 これが、回復魔法重ねがけの『副作用』ってやつか!!


 クソだ、クソ食らえだ! ユノちゃんに貰ったこの力、誰のために使うかなんて明白だろうが!


「うぉぉぉ!!! っ! ……ハァ、あぁ! ツァッ!!」


「あっ……あああ。先輩……、私のせいで!」


 まず最初に脚をやられた。変な方向に、軋むような音と共に、不自然に、なにかに抗うように、ポキッと曲がった。折れた。


「があぁああ!!!!!!」


 痛い、痛い、痛すぎる。激しい痛みのあとに、鋭い痛みが走ったかと思えば、また違う鈍い痛みへと変わる。


「ユノちゃん! 魔法ーっ! こいつに攻撃を! 早く!」

 俺は右腕を曲げられる痛みに耐えるので精一杯で、魔法を、【閃光】を放って逃げるなんてできなかった。だから、ユノちゃんに頼んだ。情けなく。


「っで、でも! わっ……私、回復魔法しか使ったことないんです──」


「なっ……、ら俺の! 【閃光】……あグっ! 使え!」


 手が変な方へ向いた。ぐちゃぐちゃにされそうで、まだ形を保てているのが奇跡なくらいだ。本当に。


「簡単だ、ユノちゃんならできる! 全く無理じゃないんだろ!? 俺の詠唱を真似ろ! 『穿て』だ!」


「ちっ、違うんです……私。できないんじゃないんです。私は、普通の魔法が、怖くて放てないんです!」


 ……俺は記憶を巡らす。一瞬で思い出した。


「あの忌々しいトゥルオーラとかいう奴が言っていたっけか。何で魔法が使えないのに魔法の本読んでるんだって。──がっ!!」


 右腕が完全に折れた。──ヤバいかも……。


「でもっ、なんで! 回復魔法が使えるなら、他の魔法だって使えると思う! ユノちゃんなら、大丈夫だっ!」

 

「わっ、私……怖いんです。人がいる方に、魔法放つのが……。怖いんです! きっと、傷つけちゃうから。それに……それに!」


 俺は笑っていた。しかし、それは『B級貴族』っていう()()だったから、ユノちゃんよりも“上”にいたから笑っていられたんだ。


 貴族階級で、階級なんていうちっぽけなもので、苦しむ人もいるのだと、知った。


「私は、ユノ・ワロキアは! 先輩みたいに……格も、勇気も、それに力だって、ないんです!」


 ユノちゃんは涙をながし、俺に向かって言った。俺に向かって、怒鳴った。


「私には! 何も! 何も、ないんです!!!」

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