9 再戦
「っ……!」
「ゴゴグガァ!!!」
召喚獣が吠える。昨日までとは段違いの覇気が纏われている感覚がする。
「ユノちゃん、よろしく!」
「がっ、頑張ります!『力の精霊よ、我の声を聞け──』」
ユノちゃんの詠唱を聞いてすぐ、召喚獣へ駆ける。今の俺には、刃物もメリケンサックもない。だけど、
「魔闘真流は、もともと拳法から派生したんだぜ」
ふん! と、勢いに任せて召喚獣を殴る。
「消えた!? ……ユノちゃん!」
影に紛れ、昨日と同じように姿を消す。霧散したかのように見えた。
俺の目は、はっきりと光る双眼を捉えている。けれど、あまりの速さに目が追いつかない。
「『──彼に力を【ケシラン】』! エルヒスタ先……エル先輩! うっ、後ろです!」
俺は振り向きざまに拳を打つ。重い一発、感覚はさながら歴戦の拳闘士。
「ふんっ!」
「ゴガァ!?」
クリーンヒットだ。だが俺もその勢いで後ろに吹き飛ばされてしまう。
手応えはあった。しかし、それ以上の不安もあった。
「くっ……! 『穿て、【閃光】』!」
体は辛いが、牽制として【閃光】を召喚獣に放つ。またもやヒット。
なんとか体を冴えさせている感覚だ。……強化魔法、やっぱり慣れないな。他人の魔力を受けつける力が、俺にはあまり無いみたいだ。
──協調性が無いとか言わないで! だから友達0人だったんだなんて言わないで!
「きゃっ!!」
「ゴグギィッ!!!」
召喚獣は俺の頭上を通り越し、ユノちゃんに飛びかかる。それを見逃さず、すかさず俺は【閃光】を放つ。
「させるか! 『穿て、【閃光】』!」
空中で体勢を崩された召喚獣は、ユノちゃんの頭上をも通り越し、軽々しく着地した。
魔法はあまり効いていない。その黒く光らない毛皮のような皮膚が、魔力を受け付けていないのかもしれない。
「ん!」
陣形を立て直す。俺がユノちゃんの前に出て、召喚獣から守るようなポジションにつく。
「いくぜぇ……ハッ! セイヤ! ドリャッ!!」
殴る、殴る。殴る! 俺はもう何が何だか分からなくなるくらいまで、召喚獣を殴り続ける、そして倒す。
やれる、殺せる。こいつを倒せる。俺の、力で! 俺が勝てる。倒せる、戦えている!
──多分、一瞬気を緩めてしまったのだろう。
「グッ……ガアァアア!!!!」
「ごほっ!? げふっ!!」
ドシン! と何かが落ちる音。それが俺から発せられた音と気づくのは、俺が召喚獣に踏まれ、押し潰されそうになっていたからだった。
「エル先輩!!!」
「くっ……、があぁああ!! このぉ……ガッ!! んぐ、はぁぁぁ!!!」
召喚獣の唸り声は、完全に怒っているものの音がしていた。悪寒と恐怖、もちろん痛み。その全てが平等に降りかかるが、俺はそれを捌き切ることができない。
「先輩……今、助けます!」
ヤベぇ……明らかにヤバい。自分でも薄々感じていたし、それに忠告もされていた。だけどこれを経験しないと分かるわけがない。──似ているものは、魔力欠乏症。つまりは、今俺の体は、力が入らねぇ。
これが、回復魔法重ねがけの『副作用』ってやつか!!
クソだ、クソ食らえだ! ユノちゃんに貰ったこの力、誰のために使うかなんて明白だろうが!
「うぉぉぉ!!! っ! ……ハァ、あぁ! ツァッ!!」
「あっ……あああ。先輩……、私のせいで!」
まず最初に脚をやられた。変な方向に、軋むような音と共に、不自然に、なにかに抗うように、ポキッと曲がった。折れた。
「があぁああ!!!!!!」
痛い、痛い、痛すぎる。激しい痛みのあとに、鋭い痛みが走ったかと思えば、また違う鈍い痛みへと変わる。
「ユノちゃん! 魔法ーっ! こいつに攻撃を! 早く!」
俺は右腕を曲げられる痛みに耐えるので精一杯で、魔法を、【閃光】を放って逃げるなんてできなかった。だから、ユノちゃんに頼んだ。情けなく。
「っで、でも! わっ……私、回復魔法しか使ったことないんです──」
「なっ……、ら俺の! 【閃光】……あグっ! 使え!」
手が変な方へ向いた。ぐちゃぐちゃにされそうで、まだ形を保てているのが奇跡なくらいだ。本当に。
「簡単だ、ユノちゃんならできる! 全く無理じゃないんだろ!? 俺の詠唱を真似ろ! 『穿て』だ!」
「ちっ、違うんです……私。できないんじゃないんです。私は、普通の魔法が、怖くて放てないんです!」
……俺は記憶を巡らす。一瞬で思い出した。
「あの忌々しいトゥルオーラとかいう奴が言っていたっけか。何で魔法が使えないのに魔法の本読んでるんだって。──がっ!!」
右腕が完全に折れた。──ヤバいかも……。
「でもっ、なんで! 回復魔法が使えるなら、他の魔法だって使えると思う! ユノちゃんなら、大丈夫だっ!」
「わっ、私……怖いんです。人がいる方に、魔法放つのが……。怖いんです! きっと、傷つけちゃうから。それに……それに!」
俺は笑っていた。しかし、それは『B級貴族』っていう地位だったから、ユノちゃんよりも“上”にいたから笑っていられたんだ。
貴族階級で、階級なんていうちっぽけなもので、苦しむ人もいるのだと、知った。
「私は、ユノ・ワロキアは! 先輩みたいに……格も、勇気も、それに力だって、ないんです!」
ユノちゃんは涙をながし、俺に向かって言った。俺に向かって、怒鳴った。
「私には! 何も! 何も、ないんです!!!」




