新人魔王に就職
とある辺境に新しく出来たダンジョン……
周りは辺境の地と呼ぶに相応しく、宏大な森林が広がっており、付近に人が住む村や町などは一切ない。
俺はこの辺境地で新たに魔王として登録された者なのだが。
ん、登録?
そう……魔王って者は登録制度で誰だって簡単に慣れちゃう時代なんだよねぇ。
魔王になると、新たな人生と領地それに極め付けは、ランダムで特殊な能力が一つ与えられるんだ。
魔王の中には、力に溺れて闇雲に一般市民を殺めてしまう者もいるのだが、その様な魔王&ダンジョンは大体冒険者ギルドによって壊滅させられる。
魔王の凄いところは、不思議な力によってダンジョンという自分の領地を創り出す事ができる事。
勿論拡張するにあたって、タダではできない。
DPと言う物を消費して拡張していくのだが、様々な獲得方法が存在している。
まずは毎日支給されるDPがある、これはダンジョンレベルによって増幅するのだが、現在の俺は新米魔王と言う事もあって無論ダンジョンレベルは最も低いレベル1となっている。
レベル1の支給DPは10ポイントらしく、正直全然足りない量となっている。
レベルが上がれば倍々に増幅していくのだが、現在は夢のまた夢……
次にダンジョン内に入ってもらう。
これが中々稼ぎ頭になってくるらしいのだが、この辺境地では難しい話だよな。
ダンジョン内に入ってもらうと、1人に付き必ず1ポイントのDPを受ける事が出来る、これは人であろうが野生の動物であろうが同じだ。
特に冒険者ギルドの近い王都周辺ダンジョンだと、1日数万DPを叩き上げるとかなんとか。
俺のダンジョンは昨日の入場者数は2だ!
無論人間ではなく、野生のウサギ1羽とタヌキ1匹だったが。
次にDPを増やす方法は、ダンジョン内で命を奪う事。
いきなり重い話になったが……とても重要な話だ。
魔王はDPを消費して、冒険者に富と名声と力を与える。
人間のみ開封可能な宝箱を創り出しダンジョン内に配置したり、ダンジョン内にDPで創り出したモンスターを配置して冒険者の戦闘経験値の糧とする事もできる。
ダンジョンで経験を積んだベテランの冒険者は、力を持ち、金を手に入れ、人々から一目置かれる存在になるのだ。
無論その中で命を落とす者もいる、ダンジョン内で命を落とした者はダンジョンの糧となりDPへと還元される。
還元されるDPは、その命の経験により変化するのだが、一般人なら3程度……しかし、熟練した冒険者などは50とも500とも言われている。
その他にも色々DPを得る手段はあるのだが、またにしよう。
「さて……ここまではDPの話を語ったのだが。少し問題事に巻き込まれてしまったんだよ……。その問題とは……」
俺は幼い時からヤンチャなガキンチョだった。街の子供達の中でリーダー的存在と言うヤツだな……
年上であれ仲間がやられたら挑んだものさ……ふっ
懐かしいなぁ!
「しかぁ〜しっ!!今回、魔王になって付与された能力が俺を見捨てやがったァァ!」
目の前の可視化画面内に表示されている能力を、俺は穴が空くほど睨みつけていく。
『魔王スキル:エピック級 【 change soul 】』
NEW 取得魂 絶世の美女 ヘレネ
※以前この世に存在した英雄1人の魂を取り込む。
(取り込む英雄の魂は1人分ランダムとなり変更不可)
※英雄の魂の能力値が反映されます。
【英雄 絶世の美女 ヘレネ】
運を除く全てのステータス値 66% ⬇︎
運、美貌、スタイル、美声、思考力、その他 150%⬆︎
俺は地面へと膝から崩れ落ち2回、3回と地面を叩いていた……
「絶世の美女ってなんだよ……何故体まで変わってしまったんだよ……運要素を除く全てのステータスが66%⬇︎のデバフってなんだよ……その他ってなんだよぉ!地面へと腕を振るうたびに揺らめく胸って……ま、まあ。これは……よ、よしとせねばな!……しかし。良い声だなぁ〜〜って、やかましわっ!!どうやって魔王として生きて行くんだよ!」
再び可視化画面内へと喰いると、俺は簡単にDP計算を済ませて行く。お、計算めっちゃ早くなってる……
思考力⬆︎の恩恵だな。
スラスラと1ヶ月先のDPが計算された気がしたが、泣けてきたのでデリートしておこう!
「昨日はウサギとタヌキがダンジョンに迷い込んでDP2+倒してDP2、デイリー10ポイント合わせて14か……最低でも食事に3、ダンジョン維持費に6最近初めて召喚したモンスター2体のコストに4」
俺は手元に可視化された画面を乱雑に開いていく、画面には総合DP0と言う項目が表示されており、額から僅かに汗が滲んでくるのを感じていた。
「最低でも毎日DP13必要だと!?こ、このままじゃ間違いなく食いっぱぐれちまう!!
最低ラインのDP3を確保しなければぁぁあ!」
調子こいてモンスターを召喚してしまったのがいけなかった……
俺が召喚したモンスターは戦闘には向いていないウーズと言うスライムみたいなモンスターなのだが、DPの少ない俺には素晴らしく嬉しい能力を備えているのだ!
なんと……
ウーズは体内のコアを破壊されなければ、倒されても時間の経過とともに復活するのだぁ!
それに小動物ぐらいであれば体内に取り込み、消化する事もできる!
それにそれに!時間経過と共に任意で分裂させる事も可能だと聞いた!
この辺境地……いや、もはや秘境とも呼べるべき場所ではDP稼ぎはとんでもなく苦労するのだ。
そんな俺にとって僅かウーズの召喚コスト、DP2ポイントであってもバカに出来ないほどのものなのだ。倒されたモンスターを何度も補給出来るほど潤っているわけじゃないのだ。
「何とかDP稼いで行かないとなぁ。
仮にダンジョン外で倒したらDPは獲得出来るのか?
よーし!!ためしてみるか!!コォーイィウゥーズゥ!!」
俺は思い立って直ぐに行動を開始した。貴重なウーズ2体へと招集をかけると作戦を考えていくのだった。
「ウーズに高度な作戦など出来るわけがない。ならば、とりあえず小動物を体内に取り込んでしまうのが1番手っ取り早いなっ!
いいか……今回はダンジョン外での捕食でDPを獲得出来るかどうかの検証だ!
とりあえず、小動物なり何でもいいから捕食した時点で終了としよう!」
自分の中ですべき事を纏め上げた俺は、ウーズに視線を落とした……
「まだ来てへんやないかぁ〜い!!」
流石にあの水餅の様なボディでは移動が不得意なのだろう。
10分後ノロノロと俺の元へ到着したウーズ二体は、その場に留まり俺の指示を待っている様に思えた。
俺はジワリと目頭が熱くなると、ウーズの頑張りを褒めてやりたくなるのだった。
「が、頑張ったなぁ!!俺にとっては何でもない距離でも、お前達には極めて困難な道のりだったはずだ……
くっ……さらに俺はぁ!コイツらにぃ!困難をぉ〜……押し付けようとしているぅ……うぅ……すまねぇっ!」
地面に崩れ落ち、2つの禁断の果実を盛大に揺らした俺は悲しさと、自分の怠慢でウーズ達を真っ直ぐに見る事が出来なかった。
勝手にウーズ達を召喚した挙句、コストで生活苦しいよねぇ!あーまじ勘弁。的な発言をしてしまったんだ……
崩れ落ち地面に手を付いていた腕に、突然ヒヤッとした感触が伝わった。
「ウーズ……お前ってヤツは……
すまない、もうくだらない想いは抱かないからな。
よし!続けぇぇ!敵はダンジョン外にあり!」
俺はダンジョン入口に向かって足早に歩くと、振り返りウーズ達を確認したのだった。俺は気がついてなかったが……世の男共が俺の振り向き姿を見たら奇声を上げて喜ぶかもしれないと言う事を。
ウーズがモゾモゾと必死に行進する姿に、思わず励ましの声援を送ってしまいそうになってしまう。
少し考えた結果、俺はサッカーボールサイズのウーズ2体を鷲掴みそのままダンジョン外へと飛び出したのだった。合計四つのボールを携え%♪$☆
「すまねぇ!良い方法が思いつかなかったんだよ……
ひとまず我慢してくれ!
これが一番機動力が上がるはずだ!」
手の中でプルプルと震えるウーズ達はヒンヤリとしていて、とても触り心地が良かった。
「今度はカバンみたいな物に入れて運んでやるかな」
ダンジョンの外は俺自身もここに配属されて、詳しくは調べていなかった。
正直このダンジョンはほんの3日前に出来たばかりなのだ……
「こんな不遇な状態にされて、サービスDP的なものをくれてもいいじゃないか……
(株)魔王育成プロダクションって会社もケチだよなっ!」
悪態をつきながらも、目の前に広がるまさにジャングルで、俺は両手に鷲掴みしたウーズを解放していく。
解放されたウーズは心なしか嬉しそうにモゾモゾと地面を這うのだった。
「よし!喰尽くせ!」
30分前にそういったのは覚えている……
「おーい……いつまで雑草溶かしてんだよ……
いい加減DP獲得狙おうよ……」
小枝で落書きしながら俺は、ウーズ達へと声をかけると、動きを止めずに雑草やら小石、様々なモノにへばり付くウーズを無理矢理引き剥がしていくのだった。
お読み頂きありがとうございます!
新人魔王に就職したものの、困難な能力を与えられてしまったようですねw
因みにエピック級の能力保持者は、現在主人公を含めて3人の魔王だけとなっております!
まだ①話と言う事もあり、詳しい世界観をお伝え出来ておりませんが……
ホント癖のある魔王が登場しそうな予感が致します笑
それは。イケメンなのか、幼女なのか、はたまた熱血なのか、冷徹なのか?
少しでも続きが気になられましたら、是非ブクマや感想、評価、レビューなどして頂けると、鬼の様に続きを書き上げるかもしれません……笑
それでは次回も楽しみにして頂けると幸いです!