8 あこがれてはないけどモンスターゲット
『ふりーわ』におけるモンスターを仲間にするシステムについては、独特としか言いようがない。
最後に倒したモンスターとか、モンスター討伐数とか、肉を投げるとかそういうものではない。
ましてや特別なアイテムとかも一切不要。
何がいるかって?
それは、運。それだけ。
ただ、そっちはいいんだけど、もう1つのシステムがちょっと……。いや、そっちはどうにかできるかな?
「じゃあ、そっちの女の子は抜きで1対1ってことだけど問題ないの?」
「ちょ、オサム! あなた死ぬわよ! かすってもちょっとだけ当たっても即死よ!? なんたってレベル1!」
なんて親切なスライムだ! そして、クリス。大声で言わなくてもいいから!
僕のステータスの低さがばれるからやめて!?
「え? ……あー、レベル1ってそれは死んじゃうよ。女の子の言うとおり。命は大事に、ね。やめとく?」
あ、ごめんオサム。てへ。とか聞こえたがもうほっとこう。
そしてスライム! 甘く見やがって! よし、いいだろう戦いとはレベルの差が決定的ではないことを証明しようではないかっ!
実際はステータスの差なんだけどね! もうやけくそだ、やってやるやってやるぞ!
そしてクリス。あとからどうなるか覚えとけ! てへ、じゃない!
「大丈夫だ、問題なんて全くない! むしろこれで勝ったら絶対仲間になれよ?」
「なんでそんなに自信があるのかわかんないけど。手加減なんて出来ないからねー」
と、スライムが消え……いや、正面!
避ける間もなく、腹に直撃……!
だが、吹っ飛ばない。ノーダメージ。
正確にはダメージは受けてるんだけどね! だが体力は減ってないのさ!
痛くもないし! やせ我慢じゃないよ?
「あれ? 当たったというか当たってるよね?」
「てい」
未だにお腹にいるスライムを殴る。
「ぎゃっ! な、何が起こったんだ!? ただの拳にぼくがダメージを喰らうわけがないんだけど! まさか……伝説のモンスターハンターとか、いや、武道家!?」
「いいえ、『初心者』さんです」
悪態をつきながら後退するスライムに向けて、事実を突きつける。
「それ、一番信じられないからね! まだ伝説の職業のほうが信じられるからね! レベル1の人!」
「レベル1って言うな!」
走って距離を詰める! が、分かってる! 僕の速さではスライムに負けていることだって!
だけど、それを逆手に取る!
「あ、やっぱレベル1だね。動きは遅いからほら」
「ちょ、声かけるな」
背後から聞こえた声に、妙な体勢で反応したため、体勢を崩した!
「背後ががら――」
かっこ悪いことばで今の状態を言うと、『こけた』!
つまり背後にいたスライムは――、
「あき、って何故っ!?」
蹴っ飛ばされていた。しかも何故か相当のダメージを受けたみたいだ。
そして、僕はこけてもノーダメージ!
まるで無敵モード! いいえ、普通です。
ネタばらしは非常に簡単。
口の中に神薬草。
ガムなら何時間でも噛めます。例え味がなくなっても。
神薬草は噛めば噛むほど味が出る、ってこともないけど、ほのかな甘みがあるのでうまい。
弾力はガムのほうが上なんだけどね。
あと、『ふりーわ』のHPやMPがただの数値ではなく、ドラムカウント式というシステムになっている。
分かりやすく言うなら、例えば普通のゲームだとHP50のときに40のダメージを喰らう。
そうすると表示はすぐにHP10、となる。
だが、ドラムカウント式ではHP50のときに40ダメージを喰らうと、49・48・47とドラムを回すように回転して数値が10のところまで減少する仕組みなのだ。
つまり、即死でもカウント0の間に回復すれば、大丈夫だ問題ない、となるわけだ。
このシステムをユーザーはあえてこう言っている。
「ユーザー専用『殺ったかフラグ回収システム』」と。
ちなみにHP0を回避する際によく言われるのが、「まだ○○(敵)を倒すまではっ!」とか「オレはまだ○回の変身を残している」とからしい。ヘビーなユーザーさんはそういう点もマジ凄い。
なお、適用されるのはユーザーとその味方だけなのでその点は安心らしい。
間違っても敵に適用されたら、本当に困るシステムだ。
あくまでユーザーのみのシステムなので、NPCとかに質問しても、誰も知らない。教えてもくれない。なので、もちろんクリスも知らない。スライムも知らないのだ。
という2つのネタがあるため、無敵に等しいのだ。
「スライムさん、僕はレベル1なわけだが、全身を確認すれば分かるが」
起き上がって、全身を土汚れを払う。
3メートルくらいか離れた場所に、妙にダメージを受けたスライムがいた。
与えたのは確かに僕だが、何の要素が働いたか……、運しかないか。
「僕の武器は何もないぞ?」
ひのきの棒は、道具袋の中に入れてある。クリスに渡そうとしたら「呪いはちょっと」と拒否された。
呪いじゃないって言ってるのに。
「な、んだって……!」
「仲間に認めて欲しいのは確かに強さだ。だけど、それは武器のじゃない。ステータスでもない。そんなんじゃ計れない、心の強さだ!」
驚愕とするスライムに、ジャンプし倒れ掛かるようにパンチ!
そんなへぼぱんち、普通、当たらないよね!
僕も当たるわけないし! と思ってるんだけど!
「この少年……まさか、あの魂のぉぉぉおおおお!」
スライムが絶叫して、僕のパンチが当たった。
にゅるんというかぐにゃんというか。でも、ごるふぁあああっ! とかいう叫び声も聞こえたので。
多分勝利したんじゃないかな、と。
しかし、この仲間ゲットシステム、どうにかならなかったのかな。
武器が貧弱であればあるほど仲間ゲットの確率があがるってやつ。
運営の名目は、僕のセリフに極めて近いが、実は微妙に違う。
「武器の力じゃなく、自身のみの力を示すことで仲間になってくれる!」
というのが運営から出された、この仲間システムの売り。
実際は、「より長期に遊んでもらえるための縛りゲー推奨システム」らしい。
なんてシステムだよ!