第四十二話 「コノサキに望むコト」
◇
姉さん。
ねえさん。
……ユフィーナ。
ごめんなさい。ごめん、ねえさん。
大好きだった。大切にしたかった。姉さんの幸せを、守りたかった。
姉さんのこころがもうどこにもないこと、知ってたのに。
結局こんな事態にしてしまったことを何て謝ろう。
ねえさん。
ねえさん。
だいすきなねえさん。
「――なあに、レイロット。わたしのかわいい弟」
ねえさん。いたいところはない? こわいことはない? 寂しい思いをでもしていないかな。
揺蕩う水の中にいるようで、身体の力が入らない。あるいはもう身体なんてないのかもしれない。
ひんやりとした水が身体の表面を撫でて、気持ちがいい。そのゆるやかな世界の中で、ひたすら姉さんを呼ぶ。ねえさん、ねえさん、ねえさん。
答えもまたゆるやかに、わずかに反響して返ってくる。
「ええ、レイロット。困ったわ。そんなに泣かなくてもいいのよ」
でも。
ねえさんの身体を好きにさせてしまった。オレが姉さんを諦められなかったから、姉さんの身体にへんなものが入ってしまった。月の魔眼の力は使い手の未熟も相まって、とても歪に穢されてしまった。
「いいえ、レイロット。わたしはレイロットがすごく優しくて、すごくさみしがりなことを知っているもの。むしろ謝らなくちゃいけないのはわたしのほうなのよ? 寂しがりなあなたを置いていってしまったから」
そんなこと――
寂しかったのはほんとうだけれど……
「うん、だからね、レイロットが泣くことはなんにもないわ。わたしのからだもレイロットのからだも、アキラと金髪のあの子がちゃんときれいにしてくれる。――だから、もうへいきなの」
アキラ、と、秋。そうか、うん。そうだね。
アキラのことは少し心配だけど、キリギリスがそばにいるのなら大丈夫だ。
「ええ、もう行きましょう、レイロット。かわいい弟、よくがんばりました」
うん、ありがとう、ねえさん。
もうこの世界はきっと長く持たないからせめてよい形で終われることを祈って、――オレはそこを後にした。




