第二十八話 「さよなら、呪いをあげよう」
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歌声に酔う観客たち。
全員の目が自分に向く様子。
それはそれは、待ち望んだ光景だった。
ある、月のきれいな夜のこと。
白い月を背に、白い月のような秘めやかな女が贈り物をくれた。
ひとつは右目。姉さんに寄る羽虫を逃さず見つけて、叩き落とすための眼。
ひとつは喉笛。姉さんの最後の夢を奪った憎い終末の魔術師への呪いを歌うための喉。
女は友のような顔をして、友のような声で、友ならぜったいに言わないことを囁いた。あれに入っているのは別のなにかだ。あるいはその中身さえ、身体の持ち主と自分とかつての友だったのかもしれないが、変わりすぎていてわからない。わかってやらない方が、彼女にとって救いなのだろうと、思っている。
身体の方だって、色が濁りすぎている。もう死んで長いだろう。死なずに濁らせるようなやつではなかったし、何より最初に自分があげたものがそばに在って、濁らすなんてことあってたまるか。
何も映さない闇色の髪になんてなってしまって、なんと可哀想なことか。
血の色が透けたような目の色さえ濁ってしまって、取り返しのつかないところまで来てしまっている。
あれに入ったやつがこれから何をするのか、何のために二つの贈り物をしてくれたのか、さして興味が無い。ただ、あれがやろうとしていることももうなくなる。右目や喉の出所だって知らない。
白刃の子だけは厄介だったが、結局自分から終末の魔術師のもとを離れてきてくれた。あの子を巻き込むのは本意ではないし、何も知らないまま、こんな島を連れ出してやりたいところだ。
そう、それからあの黒い弦楽器も、すべて終えたら一緒に連れ帰ってやらなければ。
――準備は、整ったのだ。
あの女が自分で手を下すことはない。すべて今夜終わる。
あとはもう、あのくすんだ金髪の魔術師に呪いを叫ぶだけだ。




