第2話 出会い
真っ白な光が収束して行き上に向かって真っ直ぐ伸びる、それは上に伸びて行くと同時に跡形も無く消えて行くそれを見届けたアルベルトは自分の背後にある暗闇に視線を向けると、その暗闇の中から真紅の長髪をなびかせた175センチほどの美人で気の強そうな女性が歩いて来た
「おや、いらしてたんですか? リズ様」
「ふんっ、白々しい貴方ほどの人が隠れる気のない私に気付かないわけないでしょ」
「いえいえ恥ずかしながらつい興奮してしまいまして」
「そんなすごいやつだった? 顔はまぁまぁだったけど貴方の目利きは確かだものね、それにしたって意地悪し過ぎじゃないの、このテスト中級者レベルのやつじゃんこんな希少種まで連れて来て」
「でも、彼はクリアして上に登って行きましたよ?」
「相変わらずね」
そう言ってアルベルトを一瞥すると彼女は帰って行った
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気がつくとそこは森の中だった、辺りを見回しても人はいないみたいだ状況把握をしていると突然空から気だるそうな男性の声が森に響く
「あーテステス、皆さん聞こえますかー聞こえますよねー今皆さんはちょうど300人いますがー少し多過ぎるのでー減ってもらいます、50人になるまで殺し合ってください指定人数になったらその時点で終了ですそれでは始めてくださーい」
呑気な口調とは裏腹に悪魔のような台詞を言い放つと森の中の雰囲気が一変する、今までの静けさが嘘のようにあちらこちらで人の気配がして金属と金属がぶつかるような音や怒声が聞こえ始める、エドは近くに落ちていた自分の鉈を素早く拾うと目立たないように状況を把握し易いところを探す、がしかし移動してすぐにエドの前にスキンヘッドに傷のあるガラの悪い男がナイフを持って立っていた、すぐにエドを目視で捉えて獲物を見つけた狩人のような目つきで近寄ってくる
「お前弱そうだな、試験官様は人数が減って欲しいらしいしライバルも減って一石二鳥ってやつだぜってことでてめぇに恨みはねぇが死んでもらうぜ?」
「ま、待ってください何も僕達で争わなくても」
「ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさとくたばりな!」
そう冷たく言い放つと迷う事なく正面から突撃してくる、エドは分かり易い動きだなと思いつつ鉈を使って相手のナイフを捌いていく、空魚に比べれば遅い動きに対処するのは簡単だが今まで人を殺したことのないエドはなんとか殺さずに済むよう殴って気絶させられないか考えるが刃物を持った者を相手にするのは2度目で自信がなくまた自分の持ってる鉈で殺してしまう事を恐れた、どうしたものかと悩んでいると突然目の前の男は糸が切れたように力無くその場に崩れる、男の背中には肩から腰までに大きな切り傷が入っていて大量の血液がその場に流れているのが見えた、その男の後ろには血の付いたナイフを持つカジュアルショートの真っ白な髪が目立つ少し中性的な顔立ちをした同じくらいの背格好をした男がいた
「よっ、大丈夫?」
「あの、助けてくれてありがとうございます」
エドが頭を下げて感謝するのを見て少し驚いた表情をした男は少し考えてから自信満々な笑みを浮かべて自己紹介を始める
「(なんだこいつ、助けてもらったとはいえ戦場で頭下げるなんて緊張感のない奴だな、でも素直で律儀な性格なんだな)俺の名前はレイ、レイ・フィリップ・アン・ホームズだ、よろしく」
「あ、僕はエドって言いまーー」
エドの自己紹介を遮るようにエドの後ろから全速力で走る少女が向かってきた、気付くのに遅れたエド達は3人まとめてぶつかり雪玉が坂を転がるように転倒する
「いてて、何が?」
「いたたた、なんなんだ!」
「痛ーい!」
「誰なんだお前は? なんで突っ込んで来たんだよ当たり屋にしても強引過ぎるだろ!」
「誰が当たり屋だー!」
「あの、皆さんどいてくださいー重たいです」
「私は重たくない!」
立ち上がり改めてその少女を見ると157センチ程度の背丈に桃色の髪をサイドテールにした可愛らしい少女だった、少女が思い出したように何があったのか話し出す
「そうだった、こんなことしてる場合じゃない鎧武者が追ってきてるのよ」
「鎧武者? 逃げる程強いのか?」
「(よろいむしゃってなんだろ?)」
「めちゃくちゃ強かったわよ! なんであんなやつがFランクのテストに来てるのよ、ここの試験官は脳みそ空っぽなんじゃないの」
「でもその鎧武者っての来る様子ないぜ?」
「確かになんでだろ? ちょっと見に行って見ましょう」
「え? 俺たちも?」
「いいじゃないですかレイさん、面白そうですし」
「仕方ないなー」
エドの好奇心に満ちた表情に拒否する気が無くなったレイは少女が来た道を行く、少し歩くとそこには全身を赤黒い甲冑で身に纏い刃こぼれした刀を持ち顔を鬼のような面で隠した鎧武者と、それに対峙するように木こり用の斧を持った無駄の少ない筋肉をした背の高い温厚そうな顔をした男が息を切らしていた、背の高い男は自分に向けられた視線に気付き少女に向かって状況とは合っていない呑気な口調で話しかける
「あれ、逃げてたんじゃないのか?」
「あんたもしかしてそいつ倒す気なの? 追い詰められてるじゃん」
「女の子追ってる奴を見逃すのは良くないかなって思って」
「何よそれ、呆れたそんな事言われたら逃げられないじゃない、加勢するわ」
そう言い放つと彼女は腰に下げてた2対の変わったハンドガンを構える、それを見たエドはレイに説明を求める
「レイさんあの武器はなんですか?」
「え、知らないのか? アレは神気装備の一種で遠距離タイプの物だよ、なかなか珍しい物持ってるんだな見たところオーダーメイドした物みたいだな」
「(常識だったのかな?) 苦戦してるみたいだから僕も加勢してきます」
「あ、おい(チンピラに苦戦するやつが無理に決まってるだろ) 仕方ない奴らだなー」
ぼやくように呟くと呆れたように加勢する、謎の鎧武者は理性が無いのか会話どころか一言も言葉を発する事なくエドに斬りかかる、刀を受ける力の無いエドはできるだけ避けるがかなりギリギリに避けられるのはハンドガンで横槍を入れてもらっているからだ、それでもダメージが通っている様には見えない、試行錯誤する中エドは首が剥き出しになっているのを見てそれをみんなに伝えるとレイから時間を稼いで欲しいと言われ集中力を高めてなんとか避けるが3分もしない内に鎧武者の刀がエドの首目掛けて迫って来る速度が上がる、避けられないと悟ったエドは咄嗟に鉈を首まで持って行き防御に徹したが来ると思った衝撃は無くエドの頭を掠めて行く、よく見るといつのまにか鎧武者の首と足首と刀を持つ手首に縄の様な物が巻きついていてその縄の先にはレイと少女が反対側から2人同時に引っ張っていた、対極的に絡みついた2つの縄に同時に引っ張られた鎧武者は仰向けに倒れて行く
「今だ!」
レイの合図と同時に背の高い男は両手に握りしめた斧を振り上げると鎧武者は刀を振ろうとしたがレイが手首も引っ張っているため動かない、すかさず倒れた鎧武者の首目掛けて全力で斧を叩き落とす、骨の砕ける鈍い音と共に鎧武者は完全にその活動を停止した
「やったか?」
「なんとか、ありがとうみんな、レイだったか? いい作戦だった俺だけでは厳しかった」
「作戦が間に合ってよかったよ」
「ありがとうございます皆さんもう少しで首と胴体がお別れするところでした」
レイがエドの冗談に軽く苦笑いすると空からまた男性の声が森に響く
「終了ー終了ー、皆さん動きを止めて下さいー止めない場合は実力行使で止めますーこれにて第一次テストを終了します次のテスト会場に向かう前に今皆さんの1番近い人達で4人1組のパーティを組んでもらいます、細かい説明は転送後にさせていただきます」
放送が終わるとその場にいた全員が白い光に包まれ次の会場に転送される
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エド達は気が付くと休憩室のような程よく清潔感のある空間に転送され中には円卓と椅子が4つ部屋の中央にあり備え付けの小さい冷蔵庫には冷えた飲料水があった、直ぐに放送が流れ今度は先ほどの男とは別の声の男性が話す
「えー、皆さんが今いる場所がパーティの共有ルームになりますテスト時間内以外での戦闘行為または暴力行為は脱落者とみなされ最悪実力行使をさせていただきます、部屋には館内の地図が備え付けられているので10分間の休憩後1階のエントランスホールまで集合してください遅れた人も失格になるのでくれぐれも気を付けてくださいそれでは放送を終了します」
放送が終了して部屋に僅かな静寂が訪れる、先ほどの放送の内容に理解した4人は一息付いてみんな席に座るとエドが話を切り出す
「あの、とりあえず自己紹介しませんか? 僕は、エド・ジョージ・オルブライトって言います気軽にエドって呼んでください」
「俺の名はレイ・フィリップ・アン・ホームズだ、俺もレイでいいよ。よろしくな」
「え! あんたあのホームズ家の御子息つまり王子なの?」
「驚いたな、まさかホームズ家の人とパーティになるなんて」
「レイさんってそんなに有名な人なんですか?」
「なんだエドやっぱり俺の事知らなかったのか? 世間知らずもいい所だぞ?」
「ごめんなさい」
「あ、私の自己紹介がまだだったわね私はクレアって言うのよろしくね基本的に遠距離で戦うタイプだから」
「俺はアッシュ・クレモント、農夫と大工仕事をやってたから力仕事なら任せてくれ俺のことも適当に呼んでくれて構わない」
「ところで、レイさんの家はなんで有名なんですか?」
エドの素朴な疑問にその場にいた全員が驚く、なぜならこのタワー内において一般常識とも言える最もよく知られた21人の家の名前の1人なのだから
「あんた21国神徒を知らないの? タワーの頂点に君臨する神の家臣つまりは実質ほぼ最強の21人の家名じゃない、知らない方が驚きよレイはその血を受け継いでるのよ」
「田舎者の俺でも知ってるぞ」
「す、すみません僕何も知らないで」
「そんなしょんぼりしないでよ、私達が虐めてるみたいじゃない」
「そうだぜエド知らない事があるならこれから知っていけばいいだけさ、それよりどうして何も知らないのにタワーに登ろうと思ったんだ?」
「実は、誘拐された妹を探してるんですけど手掛かりが何も見つからなくて。でもタワーを登れば手掛かりを見つけられるって聞いたんですそれで」
「妹さんのこと大切に想ってるのね」
「はい、たった1人の家族ですから必ず探し出します」
「心配すんなエドこのホームズ家の第三王子レイ・フィリップ・アン・ホームズが味方するんだお前の妹は絶対見つけてやるよ!お前ら最後まで付き合ってもらうからなー」
「やれやれ、どっからそんな自信湧いてくるんだかわかんないわ」
「乗りかかった船だ、俺も協力するよ」
「皆さん、本当にありがとうございます」
「よし、そろそろ行くかエントランスホールは少し荒れそうだな」
レイの言葉に薄々勘付いてる3人はエントランスホールに向かう
とても広くて明るいエントランスホールについた4人はその場にいる他のパーティの険悪な雰囲気に先程の予測が当たった事を実感する、先程まで自分の命を狙っていた奴と無理矢理パーティを組まされ何も感じない方がおかしいだろう中にはこの事を予測して仲間になるために動いてたパーティも2組ほどいるのが見てわかるこんな状況でも焦りも憤りも感じさせないからだレイも予測はしていたがあの3人と出会ったのは偶然だ、観察が終わるのと同時にホールの奥にある低いステージに1人の男が歩いて来た、金髪でホストのような外見に端正な顔つきで泣きぼくろが印象的な長身で細身な見た目だ、そんな外見とは裏腹に丁寧で真面目そうな口調で笑顔で語り始める
「えー、皆さんお待たせしました私が試験官を担当させていただきますミル・ポレオと申します」
「試験官ということはランクは高いんですか?」
「これでも試験官の最低条件であるSランクの称号は持っています、無駄話はこれくらいにしておいて次のテストの説明に入らせてもらいます」
「待てコラおい!」
割り込むように怒鳴る2本の角が生えた男は屈強な身体に試験官よりも少し大きい身長をしていて見下すようにステージに上がってくる、ミルは呆れたような表情で男にどうしたのか聞くとその男は大きな口を開いて文句を言う
「どうもこうもねぇだろ! お前が勝手に決めたパーティのせいで俺はあんな雑魚どもと組まされる羽目になったんだぞ、どうしてくれるんだこんなもんただ不公平なだけじゃねぇか今すぐどうにかしろ!」
不公平という単語に片眉が僅かに動くミルはその細腕からは信じられない速度と力で男の胸ぐらを掴み寄せて先程までの笑顔が嘘のような形相で憤りと苛つきを感じる言葉で捲し立てる
「不公平? では貴方は今まで不公平とは無縁の人を知っていますか? 生まれも育ちも、その体つきも頭の良さも運も全て不公平なんですそれをここまで来て今更甘ったれたこと言ってんじゃねぇよ雑魚が」
冷たく言い放ち横にある10メートル先の壁に手をかざすと穴が開き腕の力だけでその男を軽々と投げ込む、物凄い勢いで真っ直ぐ飛んで行き男が穴に入るとそれは固く閉ざされた。ミルは何事も無かったかのように笑顔に戻る
「他に何か言いたい事のある人はいますか?」
こんな状況で文句を言える人はいないだろう、その場の全員がそう思ったに違いない、それを見たミルは満足気に説明を続ける
「それでは自分の置かれた立場も理解できたと思いますので次のテストについてお話しします、次のテストは陣取り合戦です」
まだまだエドの旅は続いて行きます
予定ではそこそこ長い話にするつもりですので気長にお待ちください。
まだサイトの使い方に慣れてないのでミスが多いかもですがご了承ください。
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