表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

僕の初恋、あるいは君の最後の恋。

作者: 唐紅ちはや

 「私、もうすぐ結婚するの。」


 君から届いた手紙には、そう書いてあった。


 「カルーウス侯爵。名前を聞いたことくらいはあるかしら。」


 知っている。私も貴族の端くれだ。上位貴族の名くらいは覚えている。


 「すぐに伝えようと思っていたのだけれど。結婚が決まってからというもの、なかなか一人になることもできなくて。」


 それもそうだろう。彼女の家は子爵家だ。


 この婚姻を取り付けるのに、彼女の父は随分と苦労したはずだ。大事な時期に、娘に何かあれば家の一大事なのだから。


 「結婚が決まったと聞かされたとき、一番に考えたのは、あなたのこと。侯爵様には悪い気もするのだけれど、私は思っていた以上にあなたのことを愛していたみたい。」


 君は、そんなにも僕を思っていてくれたんだね。


 あのパーティーの日、たった一度顔を合わせただけの僕のことを。手紙でしか話すことのできなかった、僕のことを。

 

 「私の気持ち、あなたにはちゃんと届いていて?封筒には、しっかり入れておいたつもりだったのだけれど。」


 届いていたさ。君からの便箋は、いつも見た目より重かったんだ。


 「私があなたを愛していたこと。たまには思い出してくれるのかしら。」


 「私はずっと覚えているわ。あなたを愛していたこと。」


 僕が君を愛していたことには触れないあたりが君らしいよね。本当に。


 「12も年が離れたおじさんと誓いの言葉を言うのよ。当日は吹き出さないか心配だわ。」


 僕の脳裏に、君の顔が浮かぶ。僕ではない男と腕を組みながら、必死に笑いを堪えている君の顔。


 自分で想像しておいてなんだけど、なんて顔をしているんだい。視界が滲んでしまうくらい、可笑しいよ。


 「死が二人を別つまで、なんて。大げさよね。私たちなんて、死を待たずして別たれるのだから。」


 言葉を飾り立てるのが神官たち(忠実なる神の僕)の仕事だからね。神の方でも、きっとうんざりしているさ。


 「男のあなたには想像できるかしら。好きではない男の子を産み育てる女の気持ちを。」


 一瞬、手紙を持つ手が強張るのを感じた。


 「きっと無理ね。だって、私にだって想像できないのだから。」


 君の言うとおり、僕にはきっと想像することもできないだろう。だって、考えることさえ嫌なのだから。


 インクで書かれた君の言葉が、滲んで消えてしまいそうになるくらいに。


 「それじゃ、そろそろお別れね。」


 そうだね、素敵な時間をありがとう。


 「あなただけを愛しています。」


 さようなら。愛しい君。



ご意見や感想、アドバイスなどいただければと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ