6 二〇二号室、?、?
メノウとヒスイを、雨野は拾った。
一〇年ほど前のこと。彼らはまだ赤ん坊だった。
警察にも通報もせず、彼らを保護し、世話をした。
その内に、ある興味が沸いた。
人間は、いかようにも育てられるのだろうか。
例えば、意図的に人間を殺人鬼に育成することが可能なのか。
雨野は、メノウとヒスイで実験をすることにした。
実験は、成功した。
雨野はメノウとヒスイを浦野ハイツに放った。
鍵は用意していた。
雨野は浦野ハイツの全ての部屋に住んだことがあった。
部屋を契約すると、すぐに合鍵を作った。合鍵は隠したまま、部屋が気にくわないとケチをつけて、部屋を移った。空いている部屋に移るのは、それほど難しくは無かった。
元々は、盗みを働くためにしたことだった。
そして全ての部屋の合鍵を得た雨野は、その鍵を使用する絶好の機会を得た。
「上手くいったかい?」
「ばっちりだよ。はい、鍵」
「ありがとう」
「これ、どうしましょう」
困ったようにヒスイが言った。これとは、無論、正彦の死体である。
「一〇三に戻しておいで。通路や階段の血も、夜が明けるまでにきちんと掃除するんだよ。死体は紐をくくって運ぶと楽ですよ」
「分かった。行こう、ヒスイ」
メノウとヒスイは正彦を引きずりながら出て行った。
雨野は敷きっぱなしの布団に正座すると、ほうと息を吐いた。
メノウとヒスイは、二〇二号室に匿っている。入居者が来たら匿う場所をまた考えなければなどと思うのだが、未だに入居者はいない。
なんでも、人の気配がするのに人の出入りがない、幽霊でも出るのではないかと噂になっているそうだ。
好都合だった。
少なくとも、借り手がつかないのであれば、そのまま、メノウとヒスイを匿い続けることができる。
さて。
雨野は目を閉じる。
明日になれば、雨野松子という一人の老婆を除いて、全ての住人が殺されているのが発見されるだろう。
警察は、自分を捕まえることができるだろうか。
どちらでもよかった。
雨野は満足していた。
殺人鬼は先天的なものでは決してない。
環境と教育で、意図して造りだすことができるのだ。
それが判明しただけでも、満足だった。
雨野はその夜、熟睡した。
七四年の人生で、最も深く、充実した眠りだった。




