第六次元:回運
今回登場する測量士は、前回まで星海衛人って名前だったけど、星海衛斗に改名。読みは同じです。
次元連続者は割と多国籍だけど、テレパシーによって会話はほぼ翻訳されてる状態。
預言者の登場する回って、フラグは立てるけど直接戦闘は少ない気がする、というわけで戦闘描写とかはないのが今回。
星の派閥・星閥の中枢を務める預言者エルハームと測量士・星海衛斗は、豪華絢爛な外観のカジノに来ていた。黄金の壁を虹色のネオンが彩る。彼らの世界にこんなカジノはない。今回は財力の派閥・財閥の副幹・金城福丸に招待されたのだ。ここは財閥の大幹部・会長が胴元として資金提供しているという公営カジノである。
エルハーム「すっご~い綺麗。来てみればいいことがあるって本当だったね衛斗お兄さん」
衛斗「カジノと言うのは景色を楽しむ観光地ではありませんよエルハームさん。広告塔さんが言ってるのは、“彼らにとっていいことがある”と言う意味でしょう」
あちこちを見回してはしゃぐ、黒髪に褐色の肌の少女・エルハームを、黒髪で目元をスコープで覆った青年・衛斗はたしなめる。同じ次元連続者相手でも、財閥は財力に物を言わせて交渉を有利に進めると聞いている。ここはカジノ、何を仕掛けてくるか想像はつくが、だからこそこちらは金では動かないと面と向かって示しておく必要がある。利益で動く財閥の下請けとなると、星閥の預言そのものの信ぴょう性が揺らいでくるからだ。
エルハーム「あのね衛斗お兄さん、あたしは普通にしゃべってるから、敬語じゃなくてもいいよ」
衛斗「副幹の僕から見れば、大幹部のあなたは上司ですからね。僕が年上だとしても、そちらの上下関係の方が優先されます」
エルハーム「む~、衛斗お兄さんってクールに見えて頑固だよね。じゃあ代わりに、その眼鏡外してみて?いつもつけっぱなしでしょ、それ?」
エルハームが指摘したのは、暗視ゴーグルのような目元をすっかり覆った代物。目の部分も暗色の大型レンズで隠れて外側からは見えない。初対面からどこでもずっとつけているため、エルハームは眼鏡の一種と思ったようだ。
衛斗「これは眼鏡ではなく、スコープです。この繁華街でも星空が見える優れものですよ」
エルハーム「だからって部屋の中でまでつけることないのにな~」
そこへ黒服の女性がカジノの外まで出迎えに来る。
黒服「預言者様、測量士様、ご高名はかねがね伺っております。金城さんのところまでご案内しましょう」
衛斗「そちらの二つ名で知られているということは、あなたも次元連続者か、その関係者ですか」
黒服「ええ、しがない商人でして、今回は副業として呼ばれました」
ご丁寧にも渡してくれた名刺には、P&Tカンパニー代表取締役・木下秋菜と書いてある。P&Tカンパニーとは、財閥が別の次元支配の際に使わせている会社名であり、財閥傘下の次元ごとに同名の企業が存在する。彼女は恐らく財閥のバックアップを受けている支社長クラスである。
衛斗「これはご丁寧にどうも。広告塔さんはどちらでお待ちですか?」
金城福丸は自ら企業のPRを行っていることから、広告塔の二つ名で知られている。恵比寿か布袋のような福々しく恰幅のいい見た目に、にこやかな笑み、耳たぶの長い福耳など、中年男性でありながら何か御利益でも感じさせるような見た目である。金城グループ社長としても莫大な個人資産を誇るため、なおさらである。いい年をして自ら企業のイメージキャラをやっているのは、いろいろな意味ですごい。
木下「VIPルームでお待ちです。私は入ったことありませんけど」
入室の許されていなかった木下にも場所は知られている部屋なのか、カジノの最上階にあるその部屋まで案内される。部屋のドアが開かれると、一際眩い黄金の輝きと、関西弁でしゃべる声が、客人を迎えた。
福丸「こんばんは、お若いお二人さん。わての招待にすぐ応じてくれて、ほんまうれしいで」
このVIPルームは、今までの金張りの部屋とは一味違った。黄金製のシャンデリアが金色に照らされた光を放ち、主な部屋の調度品はその金色の輝きを増す。部屋の平面に金が張っているだけでなく、黄金製の品々があるから、立体的な金の輝きを見せているのだ。
エルハーム「こんばんは。あたしこんな眩しい部屋見たことないよ!」
木下「照明や家具から置物まで純金製なんて…これは私じゃ入れないわけね」
衛斗「こんばんは。ここまで金へのこだわりを見せられると、最早嫌味も感じませんね…」
金尽くしの内装に、見た者たちは三者三様に驚く。
福丸「わては金が大好物やからなあ。まあ、それはわてだけやないで?この部屋のために作った黄金製の調度品が、他のVIPに商品として売れることもあるんや。ここはVIPのショールームでもあるわけや」
エルハーム「衛斗お兄さん、あたしならあの金のシャンデリアとか…」
衛斗「目を覚ましてくださいエルハームさん。今のお部屋はプラネタリウムでしょう」
エルハーム「模様替えに…ダメ?」
衛斗「無理ですね。そこまで使えるお金ありませんから」
衛斗から鋭いダメ出しを喰らうエルハーム。
福丸「いやいや、預言者はんが今後協力体制組んでくれるんなら、シャンデリアくれたるで。例えば、このカジノで今夜誰が勝つのか教えてくれたら、お土産としてすぐに渡せるさかいな」
エルハーム「本当?それくらいならやってみるね」
エルハームは賭けの勝ち負けを聞かれるだけならと、早速渡された星図で占いを始めるが、衛斗は静かに追及する。
衛斗「随分あこぎですね。勝つ人間だけ聞くとは。その人間が勝ってカジノから勝ち分を持っていかれる前に、カジノからお引き取り願うつもりですか?でなければ、ただで商品を渡すはずがない」
エルハーム「そうなの?ただ予想して欲しいだけじゃないんだ…」
途中で占いを中止するエルハーム。
福丸「いや~誤解やで測量士はん。わてはお引き取り願うなんてことはせんのや。勝った人をこのVIPルームに招待したいだけや」
衛斗「なるほど、僕の見込み違いでした。どうやら、あなたは勝ち逃げさせずに搾り取るつもりのようですね。あちらのゲームで」
衛斗が目を向けた方には、カジノらしくルーレットやトランプに使えるゲーム台がある。しかし、そちらに無造作に積まれている大量のチップ、それさえも金の輝きを放っている。
純金製のチップでやり取りということは、それ相応の高レートのゲームが行われるということだ。
福丸「興味あるんか?チップ1枚で1000ドルのハイレート、ミリオンゲームに」
木下「ミリオンゲーム!?あの噂の…」
どうやらカジノの黒服をやっている木下でも、噂でしか知らないゲームらしい。
衛斗「説明願えますか?木下さん」
福丸を無視して木下に尋ねる衛斗。ここは福丸の都合よく脚色した説明よりも、黒服の間の噂を聞いた方が確実と判断する。公の広告よりも、裏に隠れた噂の方が、真実に迫っていることもあるのだ。
木下「私ですか?えーっと、噂ではVIPルームで100万ドルの賭け金を出す金城さんを相手に勝負するゲームが行われてるって…。トランプでもルーレットでも金城さんと1対1の勝負。ゲーム後にチップか現金で負けを清算できなければ、その分負債を負う。でも、金城さんに勝ったっていう人が一人もいないから、やっぱりただの噂かと…」
福丸「大体のルールは合うてるで。ま、わてに勝ったいう奴が出てこないのはしゃあない。勝負した相手は全員負かして、わが社で負債返済に頑張ってもらっとるからのう」
衛斗「それが今回の本題ですか。僕はそんな賭け金など持ってきていませんがね」
福丸「部屋の隅に次元共通ATMあるで。そっから自分の世界の預金を引き出せる。面倒ならわてが換金してもええ。わてらのどっちかの意見を通したいなら、これで決めようやないか」
衛斗「僕は反対ですね。さっきも断った通り、金の問題とは関係なく話をしに来たんですよ、僕たちは。それに、エルハームさんの出身地であるアラブ諸国では、担保や利子付きの借金はご法度です。もし借金を作って戻れば反発を受ける結果になります」
福丸「そんなら表面上は雇用契約ってことにもできるんや。カジノ以外でも先物、株、為替相場…わての所は総合商社やから何でもアリや。預言者はん本人はどや?分け前とかもあるで」
エルハーム「今夜はやめた方がいいかな。さっきの占いの結果だと衛斗お兄さんが勝つから」
話を振られたエルハームから思わぬカウンターが飛び出す。先ほどまで勝つ前提で話していた福丸も、これには苦笑いする。
福丸「わはは、言うてくれるやないか。測量士はんは初心者やろうし、ルーレットで勝負したるわ」
衛斗「エルハームさんも今断っていたのですが、聞いてましたか?」
福丸「どの道このVIPルームに入ったが最後、買い物するか賭けをするかしないと帰したことはないねん。カジノのルールと秘密を守ってもらうためになあ。下らん逃げ口上なんて認めへんで」
これに衛斗も福丸に向き直り、いらだちを見せる。
衛斗「今度はエルハームさんの予言にケチをつけますか。では僕が勝てば正当性を証明できるでしょうか」
福丸「預言者様を煽られてやる気になったんか、ひよっこ信者はん」
木下「ちょっと、いくら挑発されたからって、ミリオンゲームを受けることは…」
衛斗「上司の前でそんな人のいい忠告はやめた方が身のためですよ。広告塔さんは勝負の中で予言の正確性を証明することを御所望のようです。それに、エルハームさんが予言してくれた以上、僕は勝てると信じてますよ」
エルハーム「衛斗お兄さん…」
福丸「根拠のない自信やなあ。そないな現実見えてへん奴は余計に負かしたくなるわ」
福丸がミリオンゲームのためにディーラーを呼ぶ間、福丸の詳細な説明が入る。
福丸「ミリオンゲームでは、わてと測量士はんがプレイヤーで、配当金はカジノから払うことになっとる。わては、会長はんが胴元のカジノから100万ドル分のチップを借りて、測量士はんは自費からチップに換金する。それが元金や」
衛斗「つまり、全てドル換算ですか」
福丸「ルーレットでは、回転させたルーレット盤に銀玉を投入して、止まった時にどのポケットに入るか、赤黒2色の0~36の番号で指定するんや。手持ちのチップをどの番号に何枚賭けてもええ。赤か黒どちらの色か、の2択なら当たった時は2倍の配当金が、カジノから払い戻されるで。当然、番号をいくつか指定するだけとか、当たる確率が低いほど、配当金の倍率も高くなるんや」
福丸「ただし、わてと測量士はんのサシ勝負である都合上、特別ルールもある。毎回わてと測量士はんで配当金を比べて、高い方はその差額と同等のポイントと配当金を交換できるんや。ゲーム終了後に、チップやなくてポイントの大きい方が勝つ。そしてそのポイント分、敗者は勝者にチップによる支払い義務を負うで。」
エルハーム「より当たりの高い方が勝ちってこと?」
衛斗「小勝ちで生き残っても、最終的には巻き上げられる可能性がある、ということですか」
福丸「サシ勝負で、賭け金節約して逃げられても興ざめやろ。測量士はんも大勝ちすれば、わてよりチップが少なくても勝てるかもしれんちゅうこっちゃ」
それを聞きながらも、衛斗は詭弁が混じっていることに気づいていた。賭け金に上限なしということは、チップの潤沢な福丸に瞬殺される危険性もはらんでいる。ポイント勝負でも、少ないチップで福丸の配当金を上回るのは難しい。
福丸「ほな、そこのATMでドルを引き出してもらおか。こっちの世界ではドルの為替相場高いけどかんにんな」
財閥の会長が支配する世界では、ドル高のプラザ合意がいまだ継続しており、ドルの価値が高騰している。1ドル=360円と言う高レートだ。日本円で引き出した資金も4分の1に目減りする計算だが…衛斗が引き出したのは5000ドルだった。
衛斗「ドルの預金はこれだけですね。他の預金は両替しなくて結構です」
木下「5000ドルって、チップ5枚ですよ…金城さんはチップ1000枚使うってわかってますか?普通、全財産をドルに換えても足りない位でしょう!?」
福丸「いやいや、頑張ってもチップ1000枚なんて用意でけへんのや。副幹言うても最近昇格したんやから、それほど自由になる金があるわけでもないやろ」
衛斗「最近昇格したということは、実績を上げるスピードではあなたに勝っているということになりますね、広告塔さん」
福丸「若いうちのスピード自慢なんて誰でもできるんや。何や、変な最近の流行か知らんけど、けったいなゴーグルつけおってからに」
衛斗「これはゴーグルではなく、スコープです。光量調節、紫外線カット、透明度最高のレンズにより、良好な視界を確保する最新鋭モデルですよ」
福丸「何にしろ、室内でつけるもんやあらへんやろ。最近の若者に多いスマホ老眼かいな」
エルハーム「あたしも外した方がいいと思うんだよね」
木下「実をいうと、私も気になってました」
衛斗「ん?ディーラーが来たようですよ。前哨戦はこの位にしておきましょう」
いいタイミングでディーラーが入室してきたため、準備開始、それぞれチップを持って、ルーレット付きのテーブルに着く。
福丸「球がルーレットに投入されたらルーレットが止まるまでに賭けるんや、準備せえ」
エルハーム「そんな短い時間で賭けるの?」
福丸「ディーラーにいらん疑いが向かんようにするためや。わてとディーラーが組んでたとしたら、球を投入する前に賭ける場所を聞いたら、ディーラーがそこに球が落ちるよう投げるかもしれんやろ」
エルハーム「あっ、そうか」
そしてまわり出すルーレット。
福丸「わてが先に賭けたる。黒に50枚や」
エルハーム「いきなり、衛斗お兄さんのチップの10倍!」
衛斗「勝てば50枚の2倍、100枚の配当金ですか」
エルハーム「衛斗お兄さんが外したら100枚分で100ポイント!そんなの負けても払えないのに!」
福丸「ええで、負けても。働きで返してもらうさかい」
衛斗「そう来ると思いましたよ。賭け金さえ十分なら小勝ちでもポイントで決着がつきますからね」
福丸「兄ちゃん、その枚数なら賭ける選択肢も限られるやろ。わてにあやかって黒に賭けてもええで」
福々しい見た目の福丸は運と言うものを信じており、勝負勘もそれなりに鋭かった。赤か黒かの2択ではまず外さない。衛斗が赤に逆張りしても、ほぼ負けるだろう。わずかに勝つ可能性もあるが、それは衛斗の思考に意地を生み、逆張りという戦術を続行させることになる。勝負勘でほぼ2択を的中させる福丸に対して、それは大幅に勝率を落とすことになる。
福丸の後追いで黒に賭ければ、ほとんどの確率で生き残れるだろう。だがそれは、福丸の動向をうかがう後手の選択であり、絶対に福丸を追い越せないドツボにはまってしまう。極論、福丸がルーレットが止まるギリギリまで賭けを保留すれば、後手に回って賭ける時間すらなくなる。
どちらを選択しても、その後の主導権を握れる公算が、福丸にはあった。
衛斗「ではお言葉に甘えて。黒の…24番に5枚賭けます」
エルハーム「5枚、もう勝負するの!」
福丸「何や測量士はん、そんなん勝負にならんやろ。1点張りで当たる確率は0~36番の内の一つやから37分の1.しかも外れたら持ってるチップをすべて失って負けやで。降参したいならリタイアすればええんやで」
衛斗「騒がなくても、すぐに結果はわかりますよ」
ルーレットの回転が止まり、球も転がる勢いを弱め、ポケットに落ちた。その番号は…黒の24番である。
福丸「何やと!?」
エルハーム「やったあ!」
衛斗「この場合両方が的中したので、広告塔さんに50枚の2倍である100枚、僕には5枚の36倍である180枚の配当ですね。80の点差なら、全てチップで受け取りましょう」
福丸「確かに差額分のポイントを考えれば、一点張りで倍率を高めて配当金を底上げするしかないやろうな。にしても何や5枚て。わての配当を超えたいなら、3枚か4枚でもええやろ!」
衛斗「理由はシンプル、勝てるからですよ。あなたは赤か黒かの勘に相当の自信を持っているようですが、僕は勘と言う大味なものではない。100%の確信を持っています」
福丸「まあ予想はついとるわ。何やかや言ってもそこの預言者はんに、これから当たる番号を教えてもらっとるんやろ?」
エルハーム「えっ、私?やってないよ、そんなこと」
衛斗「証拠もなしに僕たちを侮辱する気ですか?」
福丸「テレパシー使えば教えられるやろ。証拠はないから今の勝負だけ目をつぶったるけど、次からはそうはいかん。他の次元連続者が捕まえてればその手は食わへんで。預言者はん捕まえとけや!」
控えていた木下がエルハームの手を引いて別室に下がらせる。これでエルハームはテレパシーを使えず、一切合図も送れないはずだ。
福丸「これで百発百中の保証はない。今降りれば負債もないで。もっとも、イカサマやったから勝ち分はチャラやけどな」
衛斗「こんなゲーム今すぐ降りても構いませんが、預言者様をイカサマ扱いされて黙って帰るわけにもいきませんね。続行しましょう」
福丸「ガチンコでやる気かいな。それでも兄ちゃんの資金はわての5分の1ほどしかないで」
衛斗「十分です。あなたも人にイカサマの疑惑を掛けたからには、責任もって勝負を最後までやってもらいましょうか」
福丸「言うてくれるやないか。ほな、行こか。泣いても笑っても最後まで勝負をな」
その頃、別室のエルハームは勝負の行く末を心配していた。
エルハーム「衛斗お兄さんの運命、変わったりしてないかな…今占うのってダメ?」
木下「ダメです。通しは一切させるなと言われていますので」
エルハーム「そっかあ。じゃあ中継でいいから続きを見せて」
木下「私の一存でそれはできかねます。少しでも情報を与えれば、通しにつながるかもしれませんので」
エルハーム「私が見てるだけでいいの。お姉さんが近くで見張ってくれれば大丈夫だから、ね、お願い」
木下「お、お姉さん!?ゴホッ、ケホン!まあ、そうね。この部屋から無効に気付かれないようカメラから中継することもできるし、金城さんには内緒だからね」
見た目化粧ノリは良くても実は30代に差し掛かっていた木下は、咳払いしながらタブレットを取りだし、カメラに映った試合の映像を見せる。
エルハーム「内緒で見せてくれるの?ありがとう!本当に迷惑はかけないからね」
エルハームはもちろんのこと、木下の方も、同じくらい純粋な笑顔を見せているのは、恐らく気のせいではあるまい。
第2ゲームが開始されると、福丸が先に動く。
福丸「わては26と0と32に300枚ずつ賭けるで」
福丸は今度は3点張り、明らかに勝負勘を最大限研ぎ澄まし、賭けを絞ってきた。これでどれか一つ当たれば、12倍の配当だ。それを180枚のチップで超えるのは難しい。第一ゲームでは番狂わせがあったが、本来ならこのようにして所持するチップの少ない者は蹴散らされる。これがミリオンゲームの恐ろしさなのだ。
福丸「さ、どないする?さっき得た180枚を60枚ずつ割り振っても、差し引き240枚分の差がつくで」
衛斗「0に180枚賭けます」
福丸「せっかく増えたチップを全部一点張りやと!?」
衛斗「預言者様はイカサマに関与などしていない。彼女を遠ざけたところで、僕の確信が揺らぐこともありません」
木下「180枚に増えたなら全賭けすることないのに…今度は大丈夫なの?」
エルハーム「大丈夫。衛斗お兄さん、元から強いもの」
そして衛斗の言葉に操られる駒となったかのように、球は0のマスへと止まった。
福丸「んなアホな!」
衛斗「0、意味深い数字ではありませんか。これで預言者様の潔白は証明され、その汚名はゼロになった。そして、広告塔さんの仮説もゼロから出直し。…このままだとあなたの勝率もゼロかもしれませんね」
福丸「向こうは180枚の36倍、6480枚の配当。わては300枚の3点張りの内一つが300枚の12倍、3600枚の配当。ポイントにして2880の差やと?」
衛斗「僕は80ポイントとチップ2800枚で受け取ります」
これで、チップは衛斗が6400枚、福丸が3750枚。ポイントは衛斗が80ポイント。もう勝負が見えてきた気がしないでもない。
福丸「わて以上に的中させるってビギナーズラックかいな。そんなまぐれで勝負する気なんか?ポイントもあまり溜めとらんって」
衛斗「広告塔さんこそ、経験に支えられた勝負勘はお見事。さしずめ先ほどの賭けも統計や確率から、次は隣り合う3つの番号のどれかに落ちると踏んだのでしょう。しかし、僕の場合は絶対です。もうあなたにもわかっているはず」
福丸「どんな勘か知らんけど、早々続かんやろ、いずれチップを失ってしまいや」
衛斗「いいえ、すでにルーレットの盤上は小宇宙。銀の流れ星が、僕の意のままに運行しています。次で試して差し上げましょう」
第3ゲーム、ここでは衛斗が機先を制す。
衛斗「7に1200枚、10に2100枚、34に3100枚賭けます」
福丸「なんや一点張りやないんかいな」
衛斗「そう、広告塔さんと同じ、3点張り。さあ、どう受けますか?」
福丸はルーレットの回転よりも速く、自らの頭脳を回転させる。全額賭けた以上今回も衛斗は絶対の自信を持っている、福丸の勘も理性もそのように警戒していた。色も位置取りも全く関係ない3つの数字にバラバラの賭け金。ブラフが混じっていることは明らか。3つに同額の1250枚ずつを賭けることはできない。7番の1200枚を上回ることはできるが、もし、3100枚の34番が当たりであれば、配当金で差をつけられて一気に負けてしまう。かと言って、3100枚を当たりと決め付けるのも早い。そうやって34番を多く賭けさせる囮にして、他が当たりとなっているかもしれない。そうやって裏をかかれるとしたら、どの番号も怪しく思えてくる。カマをかけてみる時間もない。
福丸「わての勘では、7番に1830枚、10番に1230枚、34番に690枚や!これならポイント差で即負けることはないで」
衛斗「そうきましたか。それでは結果は…」
衛斗が口にした予告を合図に、運命の輪が止まる。下された判定は、23番だった。
エルハーム「衛斗お兄さんがここで外した?」
黒服「いや、これは相手も巻き込んでわざと外したのよ。2回の1点張り的中から、金城さんを“試す”なんて挑発したのはまさかこのため…」
衛斗「両方とも外したことで、チップは全て没収され、プレイヤーのチップ切れによってゲーム終了です。そして80ポイント獲得している僕が勝者となります」
福丸「あり得んやろ、あんだけリードしてたチップ全部を捨てて相手にも外させるなんて…。80ポイントの小勝ちが目的だったいうんか?」
衛斗「僕としては十分ですよ、最初のチップが5枚だから、それを取り戻して75枚分のプラスです。ポイントよりもチップの枚数が戦略的には重要でした。少なければ、相手に余力を与えてしまいますから」
エルハーム「えーっと、75枚儲かったってことでいいんだよね?」
黒服「ええ。このゲームはポイント差をつけてからリタイアするルールを利用してチップもボーナスも両得するのが勝ち筋のはず。それを、ゲーム続行ができなくなるチップ切れを利用して勝ちを確定させてくるなんて…それが前代未聞ってことよ」
衛斗「僕は広告塔さんを試すと言いましたが、その結果あなたはこれまでの経過から僕の賭けた番号の3択と考えてしまった。そしてポイント差で即決着とならないように、できるだけ全額を割り振ってきた。他の当たるかもしれない場所には賭けないと予測していたから取れた戦略です」
福丸「それやがな。なんで当たりがわかっとるのに、狙わへんねん。最初からこうやって勝つつもりだったんか?」
衛斗「広告塔さんの的中率も相当だったからですよ。僕は所詮素人、長期戦ともなれば、安定して勝てるとも限らりません。それに、ポイント差では広告塔さんの増えたチップを削りきれません。それでは正当性の証明には不十分です。だからこそ、選択を間違えない強運のあなたに、不正解しかない選択をさせました」
衛斗は広告塔に自分の力を認めさせたうえで、広告塔の潤沢なチップを全て削り、自分だけ勝ち残るパーフェクトゲームを狙っていたのだ。どんな強運であっても、正解のない選択には勝てない。
福丸「なるほど負けたで。わてと同格の副幹なだけのことはあるわ。80ポイント分の8万ドル。これなら手持ちからすぐに支払えるな」
福丸は財布から8万ドル分の札束を取り出して、衛斗に手渡す。
衛斗「どうも。こちらの世界を少し観光させてもらいましょう。それよりも、広告塔さんはチップ1000枚分で100万ドルの支払いの方は大丈夫なんですか?」
福丸「自分で負かしといてよう言うわ。会長に借金作るなんて財閥では必要条件みたいなもんやから仕方あらへん。金のつながりがある限り、縁も切れへん。こんな太い借金や、しばらくは借りたままで利子だけ返してパイプに利用させてもらうで」
銀行の融資や株の買収と同じく、巨額の資金をやり取りした以上、それを回収するためには貸した側も借りた側にもうけさせる方が得策である。この場合、福丸は100万ドルとその利子を返すための支援を、会長から受ける口実を得たことになる。会長からの支援をうまく利用すれば、毎月利子以上の利益を上げ、100万ドル以上稼ぐのもたやすいだろう。ビジネスライクな財閥において、信用とはそうやって積み上げるものらしい。
衛斗「転んでもただでは起きないと言いますか…。その調子では他の派閥と組みにくいわけです。勝者として条件を出しましょう。預言者様ではなく、僕でよろしければ、協力しましょう。報酬はお金ではなく支援物資と言う形で」
他と組みづらい財閥の内情をなんとなく察し、衛斗はそのように提案する。
福丸「せやなあ、測量士はんは凄腕の勝負師やから組んでも損はないな」
衛斗「実のところ、僕は勝負師ではありませんよ。先ほどの勝負をどうやって勝ったか、ここだけの話でお教えしましょう…」
衛斗が福丸に小声で教えたルーレットの必勝法は、エルハームの預言に頼ったものではなかった。
衛斗は天体観測で空一面の星を同時に眺め、流星の動きにも気を配るという細かな観察を生業としてきた。そのために、常人では想像が及ばないほどに視力が優れている。ルーレットの球の動きをきっちり目で追える。それだけでなく、様々な星の動きを計算してきたために、弾道計算も瞬時に行える。ルーレットの球も、その動きや速さ、跳弾する角度などを把握すれば、どこに落ちるかも計算できる。これにより、ルーレットの運行を確信を持って計算していたのだ。
カジノについて素人の衛斗は、ルーレットと聞いた時点でこの方法で勝つことしか考えていなかった。ルールに抵触するわけではないが、他人から見ればこういう必勝法とは得てしてイカサマと紙一重だろう。だからエルハームだけはイカサマしていないと主張した。
衛斗「僕はあくまで自ら観察した結果を信じているだけのことです。エルハームさんも観察の結果あってこそ信じています。自分の目は嘘をつきませんからね。計算によって勝負していました」
福丸「それをばらす意味あるんか?」
衛斗「確かに財閥のあなたから見れば、手の内をさらすのは損かもしれませんね。しかしエルハームさんのような相手に内情を見透かされていると、考えも変わるというものです。こちらから明かすのも、時には信用される結果につながります」
衛斗は、このイカサマと紙一重の必勝法ですら、財閥には認められる技術ではないかと考えたのだ。有用性は今実証したばかりだ。
福丸は金のそろばんを弾きながら考え込むそぶりを見せる。
福丸「まさか、そないなトリックとはなあ…おもろいやないか!わてとタイプは違っても、勝負師の才能はあるで。自分の判断にすべてを賭けられるんやから。むしろ測量士はんがこっちの世界でやってけるんとちゃうか」
衛斗「確かに僕とあなたは案外似ているところはありますね。僕個人でなら手伝えることもあるかもしれません」
福丸「ほんまか、わても賭けた甲斐があったっちゅうもんや。さてと、お連れの預言者はんも呼ばへんとな。わてから詫び入れとんな」
そこへエルハームと黒服を連れだって戻ってくる。
エルハーム「すごいね衛斗お兄さん、私もこんな風に勝つとまではわからなかったよ!」
一目散に衛斗のところに駆け寄ってくるエルハーム。
衛斗「見ていてくれましたか。エルハームさんほどではなくとも、僕も先見の明には自信がありましてね」
先ほどの勝負の熱が冷めたような、柔和な表情で応える衛斗。
福丸「わてが呼びに行くまで待機のはずやったけど、連れて来たんか?」
黒服「その、勝負が終わったなら、速くお連れの方に会いに行きたいとおっしゃるので…」
エルハームについ甘くしてしまったことが、改めて恥ずかしくなって口ごもる黒服。
福丸「あかんなあ、子供のわがままホイホイ聞くもんやないで。まあ今回は預言者はんやなくて、測量士はんにサシで負けたから関係あらへんけど。疑うてすまんかったな、預言者はん」
エルハーム「いいのいいの。これから衛斗お兄さんが勝つってことは、ちゃんとその誤解も解けるってことだったから、気にしてないよ!衛斗お兄さんは気にしてくれたみたいだけど」
福丸「なんやごっつええ子やなあ。参ったわ。おい、あんな子が欲しかったから甘くしたんちゃうか?」
黒服「いや、その、今は恋人とかいないから欲しくても…って何を言わせてるんですか!オホン!測量士さん、エルハームちゃんを不幸にするようなことがあったら、私が引き取っちゃいますからね!」
慌てて咳払いして、強引に話題を切り替え、衛斗に釘を刺そうとする黒服。
衛斗「後半で言ってるセリフもおかしい気がしますが…言われるまでもありません。僕は現在を見据えるエルハームさんの複眼ですから」
相変わらずスコープをつけたままだが、黒服の言葉にも目線をそらすことなく答える衛斗。
エルハーム「ん~惜しい!今のもう一回言って、眼鏡なしで!」
衛斗「ですから眼鏡ではなく、スコープです。なぜそうまでしてスコープ外させようとするんですか」
エルハーム「だって眼鏡なしの方がかっこいいもの」
衛斗「…って、僕がスコープ外してる所を見たんですか!いつどこで?」
突然、今日一番の動揺を見せる衛斗。
エルハーム「衛斗お兄さんが今朝顔を洗ってた時に鏡越しで。眼鏡外してる方が眼元が涼しそうだったよ?」
黒目がちの純粋な目を輝かせて熱弁するエルハームの言うとおり、衛斗は素顔では涼しげな眼をしている。普段はスコープに隠れているが。
衛斗「黒服さん、僕は一人で観光に行きますので、戻るまでエルハームさんは預かっておいてください。人をからかう子には我慢を覚えさせなくてはね」
冷めたトーンで黒服に頭を下げて頼むと、さっさと一人で出て行こうとする衛斗。
エルハーム「えっ、何で怒ってるの?待ってよ衛斗お兄さん~!」
黒服「私が預かるのが我慢ってどういう意味よ!あっ、ちょっとエルハームちゃんも待って!」
慌てて追いかけるエルハームと黒服。
福丸「わはは、なんやかんや言うても若いなあ。町の雑踏に紛れるまでに追いつくんやで~。カジノの中ならすぐ探せるけどな」
衛斗と、エルハーム・黒服の即席コンビは、街で観光と言う名の鬼ごっこを繰り広げ結局は、黒服がエルハームのお守りを一日引き受ける結果になったのだった。
カジノのホテルでやっと一息つく衛斗とエルハーム。
エルハーム「う~ん、分かんないなあ、何でそんなに怒るのかなあ」
衛斗「分かってほしくないから、怒ってるようなものです。知ろうとしない方がいいこともあります」
エルハーム「でも何か怒るようなこと抱えてるなら、本当に話さなくて大丈夫?」
衛斗「大丈夫、時間が解決してくれる問題です。僕の気持ち次第ですが」
そう言って話を打ち切る衛斗。彼がスコープを外さない事情とは、その言葉通り彼の負い目によるもの。彼は他人と直接目を合わせない。彼の目が人を見透かすような、透明でクールなまなざしを持っているからだ。
いや、彼の慧眼なら大抵の人間は見透かせるだろう。性格上他人に興味を持てば、どうしても観察するような態度になってしまうのが衛斗であり、それが視線に現れる。今まで彼に見透かされていると感じた人間は、みんな彼から離れて行ってしまった。若くして慧眼を持つ衛斗に見透かされていれば、劣等感を感じて穏やかではいられまい。
だからスコープを常時装着し、目を見せないようにしてきた。エルハームは、他人との間に目隠しを作ってきた彼にとっては、憧れでもある。初対面から観察しようとする衛斗とにも積極的にかかわろうとしてくれるし、何より同じようなで能力を持ちながら、自分よりも信頼を集めている。だからこそ、エルハームに自分の目で向き合うのは、本当に切れない信頼関係を築いてからにしたい。そこまでなれるかどうかスコープに隠れて、観察しなくてはならない。観察していて嫌われないか判断するために観察する…なんというジレンマ。
エルハーム「大変大変!この世界にも異教の神々が侵攻してくるみたい!」
その憂鬱な思考を中断したのは、エルハームの声だった。お土産に買ってきたこの世界の星図を指し示している。
衛斗「異教の神々…近いですか?」
エルハーム「今度はどこか他の世界にいるみたい。でも、この世界の近い未来では、そいつのせいで呪いがもたらされるみたいなの。どうする、残る?」
衛斗「もちろんです。対策は僕が広告塔さんと話し合うので、エルハームさんはどの世界が発生源かを探るのに集中してください」
エルハーム「もし呪いなんてあるとしたら、何とかなりそう?」
衛斗「いや、呪いともなると、その道の修得者でもなければ、対策はしにくいかもしれませんね。確かそんな派閥があったのじゃありませんか?もしかするとそこが発生源では…」
エルハーム「“霊閥”っていうのがあったけど、そこも数十の世界がまとまってたかな。探してみる!」
新たに現れる異教の神々を予言するエルハーム。今度予言された未来は変えられるのか。
気分転換で書こうとしたら時間かかってしまいました。次回はあの二人が再登場、異教の神々の謎が明かされる回。次は戦闘描写もあります。




