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星幽探偵  作者: 10pyo
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消えた魂

「ふむ、娘さんが帰ってこない、ですか」


 青年、和泉いずみひとしは立派な机――しかし、手作りなのかどこか歪な部分もある――を挟んで依頼人の男性と話をしていた。仁は探偵業を営んでおり、対する男性は彼の依頼人の様だった。


「ええ、彩乃あやのというのですが、娘は昨晩からASでダイブしたきり起きないのです。呼びかけても反応はなく、心配になって私もダイブしたのですが見つけることができませんでした」


 ASとは、AstralShiftという、VRヴァーチャルリアリティに代わる新たな技術のことである。仮想現実を超心理学的な見知で発展させたそれは、直訳すると星幽転移といったところだ。しかし、夢や幻覚を利用するという特徴から日本では実際のところ夢幻むげん転移とも呼ばれ、VRを上回る現実感を利用者に与えた。

 また、気軽にハードを用意できる事から、(なんと最安値は100円である!)かつてオカルトとされていた体外離脱の分野に手を出す心理的な忌避感を除けば、誰でも手軽に手を出せることが最大の特徴である。


 ダイブとはASを行った先の世界、様々なサーバーに利用者の魂、アストラル体という一種のアバターを接続することである。

 西暦2050年、地球上の人類の生活圏は物質の世界だけに留まらなくなっていた。魂が科学的に証明されたことで、意識が支配する霊魂の世界にも進出していたのである。


「それで、娘さん、……彩乃ちゃんはどのサーバーにダイブしたのですか?」


「娘は友達とプレーンワールドで遊ぶと言っていました。しかし、友達は先に帰ったものの娘はまだでして」


「となると、範囲は最悪地球全域ですか。どこかのゲームの世界ならまだ範囲は絞れたのでしょうが……」


 プレーンワールドとは、市販のサーバーに接続せず、この世界そのものをサーバーとした世界である。

 魂のみの体となり物理的な拘束を抜け出したことで、飛行機や船に頼らない世界旅行も可能である。過去には他の惑星に飛び立った例もある。


「娘はまだ小学5年生です。流石に子供の能力では県内が限界でしょう」


「しかしプレーンワールドですか。……そうなると貴方がそこまで不安になる気持ちも分かりますね」


 仁の顔が険しくなる。


「あの犯罪者、リンクスが脱獄したそうですからね。しかも彼女は今この県にいるという噂もあります」


「分かりました、依頼を引き受けます。リンクスの狙いは恐らく研究材料の確保、すなわち誘拐です。以前は本人の能力が大したことなかった為あっさりと捕まりましたが、脱獄したということは何かが彼女の中で変わったということです。警戒しましょう」


「!! ありがとうございます! どうか娘をよろしくお願いします!」


 依頼人の男性は涙を流し仁の事務室を退室した。それを見送った後仁に、髪の毛を後頭部で短く纏めた女性が話しかける。

 恐らく20は過ぎているのだろうが、その顔立ちはまだ中学生の様で、身長は低くはないものの胸はまるで妖怪ぬりかべを連想させる程に平たい。ポニーテールがなければどちらが背中か判断が難しかっただろう。


「おやびん、良かったんすか、安請け合いしちゃって。リンクスを相手にするかもしれないんすよ」


 女性は呆れた口調であった。


かえでさん、良いも悪いもないでしょう。リンクスが彩乃ちゃんを浚うならそれこそ誰か戦える人が向かわなければ一大事です」


「なら警察に任せればいいじゃないっすか」


「別にそれでもいいのですが、あまり期待できないんですよね。確かに戦力はありますが、過去に一度捕まえたからって油断して取り逃がしそうですし」


「確かにそんな気はするっすけど……」


 楓はまだ不満な様だ。しかし、その様子は自分が危険な仕事をさせられるかもしれない恐怖感というよりはむしろ、仁の身を案じる様子であった。


「それに楓さんもわかっているんでしょう、僕がそんな人間だってことは。だから貴女もわざわざ僕の助手をやってくれているんでしょう?」


「~~~~! それを言われたらもう引き止められないじゃないっすか!」


 楓は赤面する。彼女には過去に仁に救助された経験があり、そういった経緯からこの探偵事務所に雇われている。


「あ〜もう! それなら私たちも早くダイブして彩乃ちゃんを探しに行くっすよ!」


 観念した楓はリンクスに目をつけられる前に、と急いでダイブの準備をする。


「すみません、精神統一の為に分解作業をさせて下さい」


「仕方ないっすね、早くしてくださいよ……って、それ私のプラモー!」


 楓は急いで仁の手からロボットのプラモデルを取り上げる。プラモが趣味の義永よしなが楓と分解作業が趣味の和泉仁、そんな二人が経営する探偵事務所の物語、ここに始まる。


「ああ、私のジェガンちゃんが見るも無残に……」


「また組み立てればいいじゃないですか。綺麗な分解技術でしょう?」


「そういう問題じゃないっす! それならおやびんが日曜大工で作ったこの机も解体するっすよ!」


「別にいいですよ、また組み立てますし」


「駄目だこの人、話がまるで通じない!」


 ……二人の物語が始まる。始まるのである。

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