彼女は僕にこう答えた
僕は聞いた。
「なぜそんなにいろんなことを聞いてくるの?」
彼女は答えた。
「人間なんて信じられないからよ」
僕は驚いた。
「すごくフレンドリーな感じで、いろんな人に話しかけてるのに?」
彼女はそれを聞いて、少し目を細めたように見えた。
「フレンドリーに話しかけているのと『信用している』は、必ずしも等しいわけではないのよ」
僕は、聞いちゃダメなような気がすることを、彼女に聞いた。
「苦しくはない?」
彼女はキョトンとした顔で僕を見つめた。
「そうやって頑張って1人でいて、苦しくはないの?」
彼女の言葉と表情の中に垣間見えたかすかな感情を、僕は確かに見た。
「平気よ」
けれど彼女はそれを隠して、そう答えた。
「僕も信用できない?」
僕は聞いた。
「、、、そうね」
彼女は少しだけ黙った後、そっけなく答えた。
「でも、、、」
彼女は少しだけ戸惑うように続けていった。
「いろいろ聞くのは、そいつがどんなやつか見極める以外の意味もあるのかもしれない」
なんて悲しそうに言うのだろうと僕は思った。さっきより、さらに目を細めて、視線が地面に向いている。それはまるで、何か嫌なものを思い出しているような、それでいてどうしようもなく諦めてしまっているような。そんな悲しい顔だった。
「何があるの?」
それでも僕は聞いた。
「、、、私の、自惚れが」
彼女の眉間にしわが寄った。僕は、さらに聞いた。
「うぬぼれ?」
彼女は少し掠れた声で彼女は答えた。
「、、、私に、興味を持ってくれいるのかもしれないと、思うのよ」
彼女の顔が苦しげに歪む。それはまるでそんな自分を憎んですらいるような、そんな顔で、僕まで悲しくなっているのがわかった。
「、、、その何がいけないの? それは、悪い事?」
僕にはわからなかった。たくさん話しかけてきてくれるなら、そう思っても仕方ないと思うのに、なぜそれをダメと思うのだろう。
「、、、自惚れは、自分をダメにする。傲慢だからよ」
僕はそこで聞くのをやめた。彼女があまりにも苦しげで、そして悲しそうだったから。
そして最後に、彼女は僕にこう答えた。
「人間なんて、裏切るからこその人間なのよ」
僕は何も言えなくなった。