第2部第1章第6話 砕けた心(1)
(やべえかもな……)
休む間どころか、反撃する余裕さえ与えない告死の刃を辛うじて弾き返しながらも足が押されて行く。増して足元は血の海。滑りやすいと言うには大分乾いているが、踏ん張るには少々摩擦が足りない。
剣の腕は、上々だと思う。が、魔性の瞳を持つ目の前のロドリス兵はそれを越える。恐らくまだ、その実力を出し切ってはいまい。
グレンが腕を一振りするごとに、シサーの顔や腕に刻まれる爪痕は増えていく。弾き返し、避けることに成功しているから斬りつけられる程度で済んでいるが、まともに当たれば首が飛ぶことは弾き返す斬撃の強さでわかる。
5合、10合と増していくごとに、腕は重くなった。体の動きが鈍くなる。このままいけば、集中力も途切れるだろう。その時が多分、最後だ。……いや、もう途切れ始めているのかもしれない。
グレンの握るセイバーが、装備している籠手の留め金に当たり弾け飛んだ。硬い音を立てて籠手が飛ぶ。衝撃で、腕に痺れに似た痛みが走った。
グレンはこれだけ腕を振るい続けているにも関わらず、顔色をひとつも変えない。そのスピードや鋭さにも、落ちがない。知性が備わっていることを考えればバーサーカーと呼ぶには値しないのだろうが、疲れ知らずの戦いぶりを思えばそう言われるのもわかる気がする。
「ッ……」
しまった、避けきれなかった。
グレンの左手から放たれた軌跡が、シサーの右腕を深く抉る。衝撃で、グラムドリングが吹っ飛んだ。視界の片隅に自分の腕から血飛沫が上がるのを認めながら、襲い来るもう1本の剣を寸でで避ける。
だが、更に襲い掛かるもう1本が避けきれない。
「……!?」
そう判断したその瞬間、グレンの気がどこかへ逸れた。琥珀色の瞳が、何かを察知したように凝縮する。反射的にシサーは、後方へと跳んでいた。頭で判断するより、体に滲みこんでいる状況判断だ。同時にグレンも己の後方へと地を蹴った。
「何だッ……!?」
2人が先ほどまで剣を交えていた場所目掛けて、赤い閃光が叩き込まれた。
「あーらら……よけられちゃったぁ……」
閃光と見紛う速さで剣を叩き付けたのは、少女だった。恐らくは17,18歳ほどの。
ただし……。
(何だこいつは……ッ!?)
それはまさしく、『バケモノ』と形容するにふさわしい生き物だった。
人間の形状をしては、いる。
いるが。
「あーそーぼーおよおおおおおお……」
ゆらり、と体を起こし、鮮紅に染まったクレイモア(長剣の一種)を払うように下方へ振る。まだどこか、幼さを残す声。奇妙に間延びした話し方が不気味さを煽る。
シサーは思わず息を飲んで、少女の異様な姿に見入っていた。
顔の左半分が、溶解している。触ったらずぶずぶと指が沈み込んでしまいそうだ。眼窩がむき出しとなり、琥珀色の瞳の歪んだ眼球が飛び出している。口半分もその形が崩れ、口なのか溶解部分なのかの判別がつかない。
溶解している肌色は、木炭のような黒。無事に残った秀麗とも言える右半分と半ばで混じり合って、凄絶としか表現のしようのない色合いを醸し出していた。良く見れば、その腕も足も、左半分が溶解した木炭のようだ。
それなりにあちこち回っているし、奇妙な魔物にも遭遇していると思うが、こんな魔物には遭ったことがない。……魔物、なのか?
「……出来損ないが」
言葉を失ったままのシサーの耳に、謎めいた一言が飛び込んできた。グレンだ。らしからぬ言い草もさることながら、その内容が。
(出来損ない……?)
『何の』?
ゆらり、と再び『バケモノ』の体が揺らぐ。その視線は、グレンに真っ直ぐ注がれていた。にやーっと、口元が弛緩するように緩められる。時折、不明瞭な発音の言葉やヴァルス語とは異なる言語が混じる、聞き取りにくい話し方。
「あんたぁ、おんなじにおいがするよぉ……?『おにいちゃん』なのかなぁ?アタシのさああああ。おーんなじ、におい、がするんだよねええ……」
言いながら、体ごとグレンに向き合う。シサーのことは完全に眼中に、ない。
グレンが微かに身動ぎをした。氷点下の冷気を含んだ視線を浴びせる。まるで、見下すように。
「ねえ……?そうだよね……?アタシたち、おんなじだよね?……そーうーだーよーねえええええッ!?」
言うなり、その身が躍動した。黒い影の残像を残して、グレン目がけて一直線に疾る。
彼女のターゲットは『お兄ちゃん』――グレンに定められたらしい。乾いた血のこびり付いたクレイモアを横薙ぐと、狂気と歓喜を迸らせて踊りかかる。
「あなたと一緒にされるのは、大変心外なんですがねえ……」
グレンが、いつも通りの口調でのんびりとぼやいた。だがその心中までは、推し量ることが出来ない。そのまま、何気ない動作で双刀を掲げ、少女目掛けて一閃させる。
「ちぃッ……」
舌打ちをして少女が間一髪でそれを交わす。壁に跳躍し、床へと降り立った。膝をつく。少女が床に与えた衝撃で、掲げられていた松明が倒れた。それをきっかけに、まるでドミノ倒しのように幾つもの松明が雪崩打って倒れていく。はためいたカーテンと床に燃え移り、一気に炎上した。
「死んじゃえば、良いのに」
「残念ながら私には私の都合と言うものがありまして。そうですね、と言うわけにはいかないんですよ……」
カーテンを飲み込むように天井へ向けて駆け上っていく、燃え盛る炎を背景に言った少女に答え、グレンはちらりと視線を走らせた。ニーナがシサーに駆け寄り、精霊魔法を発動させるような姿勢でグレンを睨みつけるところだった。
深いため息を、ひとつ落とす。
「シサーさん」
弾き飛ばされた白光する剣を拾い上げ、シサーが呼び声に視線を向ける。
「私がとらなきゃならない首は、あなたではありません」
「……」
「私はどうやらこの人の相手を強いられるらしい。……レガードさんが姿をくらましてしまった今、あなたと剣を交える理由は私にはありません」
グレンがシサーとの戦闘を放棄したのを知って、ニーナがシサーの腕を引っ張る。その間に、少女がグレンに再び踊りかかった。身をかがめてそれを避け、反動を利用して剣を斜めに振り上げる。少女の手首から先が切り飛ばされ、コールタールのような黒い粘液質の液体が噴出した。
「こいつは多分、ひとりではありませんよ」
「シサー、行こうッ……」
ニーナに腕を引っ張られながら、シサーは唇を噛んだ。
完全に、グレンフォードに負けている。このままではプライドが許さない。
だが。
「勝負は、預けましょう」
その言葉を受けて、シサーは踵を返した。その背中を、ニーナとクラリスが追う。それを見届けて、床に落ちた自分の手からクレイモアを抜き取っている少女に目を向けた。
「……はああ。レガードさんを逃したとあっては、セラフィさんのお怒りは免れないでしょうねえ……」
やれやれ、である。
今から追えば、さして遠くまでは行っていないだろうが。
(一食の恩、もありますしね……)
レガードの戦力を削るに越したことはないのだ。グレンが見る限り、『レガード』が話に聞くほどの剣の使い手であるとは考えれらない。シサーさえ消してしまえば、後の仕事は楽になるだろう。シサーには、止めを刺すべきとわかっている。
クレイモアを左手に持ち替えて、少女がグレンと同じ琥珀色の瞳を煌めかせた。その瞳に宿るのは怒りか憎悪か。
「仕方ありませんねえ……とんだ邪魔が入ったものですよまったく」
この程度の『出来損ない』が、いくら小さいとは言えひとりで村を壊滅に追い込むとは考えにくい。
恐らく仲間がいる。それも同類の。
王都間近で、こんな魔物が跳梁跋扈している事態を放置するわけにはいかない。何人いるのかわからないが、一掃して回らなければならないだろう。放置してフォグリアへの接近を許すわけにはいかないのだ。……仮にも今の身分は『近衛警備隊』なのだから。
「なにぶつくさいってるんだよ、『おにいちゃん』!!!」
少女が再び床を蹴る。はああ、と溜め息をつき直してグレンは身を屈めた。
「ローレシアでヴァルス語を話すのは見上げた礼儀ですがね……」
本来ならば彼女から紡がれる言葉はローレシアで広く使われているヴァルス語ではない。移動する間に覚えたのか、それとも『元々』知っていたのか。
瘴気渦巻く、魔の山――ファリマ・ドビトーク。
グレンにとっては馴染みの深いその山を思い描きながら、細めた目で低く呟いた。
「減俸の代償は、払ってもらいますよ」
少女の腕から繰り出されるクレイモアと、グレンのセイバーが高い悲鳴を上げて激突した。
◆ ◇ ◆
「……やっぱり、戻ろう」
それなりの距離があるはずだが、それでも夜空を焦がそうと黒煙を噴き上げて伸びる灼熱の触手は、こちらまでその熱気を送り込んでくる。
何がどうしたのかはわからないが、何らかの衝撃で松明の炎が建物に引火し、表の樽を熱して膨張、蓋を吹き飛ばして炎上ってのが妥当なセンだろうか。
キグナスは逡巡するように、視線を俺の背後に向けた。キグナスだって、シサーたちが気になっているはずだ。だがこのまま飽くまで俺をグレンフォードから引き離すべきか、躊躇っているんだろう。
構わず踵を返し、元来た道を戻ろうとして目を見張った。
炎に照らされて赤く揺れる道を、ゆらゆらとまるで酩酊しているかのように左右に体を揺らしながら近づいて来る黒い人影。
いや……人影、が黒いんじゃない。そいつが、本当に『黒い』んだ。
「誰だあれ……」
キグナスが小さく呟くのが聞こえた。勢い、その人物を見守って身動きをやめてしまう。
近づいて来たのは多分、女の子。……『女の子の形状』を思わせる、『何か』。
「まぁだ、生きて、る……」
風が運ぶ、ごうごうと炎の噴き上がる音に混じって、密やかに彼女は声を発した。掠れた、途切れ途切れの話し方。琥珀色の瞳が、眠そうに瞬かれた。
「ね……もうみんな死んじゃったと思ったのに……まだ、いたの?……ねえ、何で生きて、るの?」
無邪気とさえ言えるその言い方に、奇妙なものを感じる。
ゆらり、ゆらり……と、今や彼女はその姿がはっきり見えるところまで近づいて来ていた。腰の剣に手を伸ばす。しゃら……と刀身を引き抜く、曇りガラスのような音が響いた。
木炭を思わせる、くすんだ黒色の肌。大小とりどりの水疱が浮かび、おぞましさを感じさせる。
けれどそれを除けば形状としては、普通の女の子だった。
話し方も、ちょっと陰気でところどころ聞き取りにくい発音が混ざることを除けば……どこか普通の女の子を思わせる。
本当に彼女は魔物なのか、と言う疑惑を抱かせた。
その中において極めて異質なのは……左手に掴んだ、切り離された赤ん坊の、首。右手には斧を先端にくっつけたような形の、門兵が持っているのを良く見かけたハルベルトと言う長槍を持っている。
尤も俺は、まったくの亜人型の魔物と言うのにはまだ遭遇したことはないし、例えばニーナやレイアのような亜人種の、敵対するタイプと言うのがいないとは言い切れないのだが。
「しょうがないよねえ……死んでもらうしかさあ……。あたし、村に残ってる生きてる奴を一掃してこいって……言われてんだあ……。ちゃんとやってかないと、あのヒト癇癪起こしてウザイんだよねぇ……」
まるで掃除当番を押し付けられたようにさりげない口調でぼやき、そのままの調子で「だからさ、死んでよ……」と、まるで簡単なことを提案するように彼女は言った。……無茶苦茶だ。
その手に握ったハルベルトを軽々と操って、俺たちの方に歩を進める。軽い、足取り。
嫌々、と言うような言い方だった割に、その表情は嬉しそうだ。
途中、手に持った赤ん坊の頭部を放り出す。何とも言えない、鈍い音が聞こえた。腰を低く落として、剣を構える。
「お前、何なんだ?」
どうやら彼女が『何者』なのかわからないのは、俺だけではないらしい。キグナスがロッドを構えながら、低く尋ねた。彼女が、艶やかに微笑む。
「あたし……?」
ちょっと、小首を傾げて。
「あたしは、人間だよ……。あんたたちと同じ。人間」
人間……?
ハルベルトをバトンのようにくるんと頭上で旋回させ、軽い足取りのまま眼前に迫った彼女に、キグナスが『火炎弾』を叩き込む。だが軽いステップでそれを躱した彼女は、口元に柔らかい笑みを浮かべた。
「ふふッ……かーわいーい……見習い……?」
それからまた前線に立つ俺に向かって、歩を進めた。
「『火炎弾』は……有効、だけどね……。残念だね……それじゃあ、届かないよ……?」
そのそばからレイアが『風の刃』を疾ばす。彼女はそれをも避け、体を宙に踊らせた。俺の握る剣とハルベルトがぶつかり合い、硬い音が炎で照らされる闇に響いて吸い込まれていく。
斬撃には思ったほどの衝撃はなかった。スピードはあっても、力はさほどではないらしい。言わば俺と同タイプだ。
尤も、俺の方が男だから多少力はあるし、スピードは彼女の方が上回るが。
ハルベルトを弾き返すと、意外なほどあっけなく彼女の体が飛んだ。よろけたその隙を突いて、剣を振りかぶる。
――同じ、人間……
残酷な色合いを帯びた白刃が、彼女の体を切り裂く。確かな手応えが、手の平を通して伝わった。……はずだった。
「何だこいつッ」
キグナスから悲鳴のような怒声が上がる。それに呼応するように、ゆらり……と彼女が弾き飛ばされた肢体を起こした。
「言ったでしょ……『人間』だって……」
ゆっくりと、立ち上がる。
剣の性能を考えれば、腕が落ちていてもおかしくないはずだった。にも関わらず、彼女の腕はあるべき場所についており、あまつさえ怪我すら負っていないように見える。
「あはは……」
言葉を失った俺の前で、彼女は体をくの字に折って笑い出した。小さかったそれは、次第に狂気の色を帯びて大きくなる。
「あははははッ……おっかしー……ッ。あははッ……ねぇそれって……普通の剣ッ……!?あはははッ……。ねぇ、普通の剣だよねぇッ!?ださださだよねぇッ!?」
腹を抱えて笑い転げる。一転して滲み出る狂気……。
――『普通の剣』?
「そんなんじゃさあッ、ダメだよ!!あたしに掠り傷ひとつ負わせらんないよッ!?ねえいいのッ!?それで本当に戦うのッ!?」
「感じ悪ッ……」
さもありえないと言うように小馬鹿にした感じで笑い転げる彼女に、キグナスが顰め面でぼやいた。確かに好感度が高いとは決して言えない態度だが、現在肝心なのはそんなことではない。
「キグナス、レイア。魔法を片っ端から叩き込んでくれ」
『普通の剣』では効かないと言うことはつまり、物理攻撃なら、魔剣じゃなきゃ意味がない……。
「あははッ……ねぇ、何する気!?見習いくんの魔法なんか全然あたしに効かないよッ。さっき証明済みじゃん!?」
言いながらぶんっとハルベルトを回旋させて地を蹴る。俺に向けてその矛先を振るった。辛うじて剣先で弾き返すことに成功したけれど、斧の刃の部分が舞った俺の前髪を僅かに切り飛ばす。『火炎弾』、『風の刃』が続け様に疾るが、彼女は俺に弾かれた勢いそのままに身を屈めて側転の要領でその全てをかわした。
「だーかーらッ。効かないつってんじゃんよッ……」
……え?
今、何を言ったのかまったくわからなかった。ヴァルス語?俺の言語能力の問題なのか?
まるで癇癪を起こしている子供のようないらいらした口調で早口に何かをまくしたてると、ハルベルトが低い唸りを上げて襲いかかってきた。
が、キグナスとレイアも休むことなく魔法を彼女に叩き込む。そっちを避けながら俺に攻撃を仕掛けなければならない彼女は、どうしたって注意が散漫になり思うように動けない。おかげで俺は、難なく襲い来る長槍を弾き返すことが出来る。
「あああもうッ……当たらないって言ってんじゃんよッ!?当たんないんだよどうせッ。あきらめなよ鬱陶しいなあッ……。無駄なんだよ無駄無駄無駄ッ……」
また癇癪を起こしたように喚きながら、一層苛烈に俺に長槍を疾らせる。避けているだけじゃあしょーがない。何とかして攻撃に転じなきゃ、このままだとこちらが疲弊する一方で、いずれは長槍の餌食だ。
と言って、普通の物理攻撃は効かない。魔法は有効のようだが、キグナスやレイアの魔法では避けられてしまう。足止め程度にはなるが、命中しないので攻撃にはならない。
あと考えられる攻撃手段は魔法石くらいだが、生憎俺は攻撃を受け止めるのが精一杯で、そんなものを取り出して隙を突いて投げつけるなどと言う余裕をぶちかましている場合ではない。
……どうしたもんか。
「カズキッ」
考えあぐねている俺の耳に、複数の足音と共に救いの声が飛び込んで来た。
「ちぃッ」
少女が舌打ちをして、顔を僅かに背ける。ハルベルトを一旋させて、俺に叩きつけた。激痛に耐えて顔を歪めながら、咄嗟に足払いをかける。よろめいた隙を狙って長槍を弾き飛ばしてやると、彼女は顔を顰めて即座に懐からダガーを取り出した。避ける間もなく斜め下から斬り付けられ、予想さえしてなかった俺の頬を深く切り裂く。鮮血が飛び散った。
「カズキッ」
レイアの悲鳴。キグナスが、もはや何度目かわからない『火炎弾』を飛ばす。尚も俺に斬りつけようとしていた少女は、それをかわして横へ跳んだ。そこへ、背後から襲い掛かるニーナの『風の刃』が命中する。
「ぐはッ……」
やはり魔法は有効だ。
切り裂かれた頬の痛みに耐え兼ねて、思わずその場に膝をつくと、ぼたぼたぼたっと鮮血が地面を叩いた。
「アモル・オムニブス・イーデム。我らを守りし偉大なる女神ファーラよ。その下僕に深き慈愛をもって癒しを施したまえ」
駆け寄ったクラリスが、俺に治癒の魔法をかけてくれる。その間に、少女の前にはグラムドリングを構えたシサーが対峙していた。
「あの女の、仲間か?」
あの女?
クラリスから放たれた白い癒しの光に包まれ、脳を痺れさせるような痛みが引いていく。その俺の耳に、シサーの問う声が聞こえた。
「……」
少女は何も答えない。短い呻きを上げて体を起こし、憎々しげな視線をシサーに注いだ。