第2部第1章第1話 モナの思惑(1)
――――――――――モナのギャヴァン襲撃より3週間ほど遡る。
シェインは早足を通り越してもはや駆け足で、シャインカルク城の通路を軍事関係の居館であるバイラーの館へと急いでいた。表情には切羽詰まったものが浮かんでいる。
(つくづく、足並みが揃わぬなッ……)
このままではヴァルスが、他国から攻められるより先に自滅しそうだ……!!
連絡通路となっている空中廊下を駆け抜け、バイラーに駆け込むと螺旋状の階段を段抜かしに駆け降りた。その建物の1階にスペンサーやブレアの執務室がある。
「スペンサー将軍ッ」
半ば怒鳴りながら駆け込むと、そこには既に先客の姿があった。シェインよりひと足先にスペンサーを訪ねたラウバルとブレア将軍だ。ラウバルがたった今事情を聞き終え、愕然としているところにシェインが慌ただしく飛び込んで来たのだった。何の表情も浮かべずに国軍将軍ブレアがスペンサーの隣に立っている。
「ラウバル……」
「やはり来たか」
「ギャヴァンへ向けた国軍が動きを止めた。どういうわけだ」
それには答えず、シェインは単刀直入に切り出した。スペンサーの顔に勝ち誇ったような笑みが浮かぶ。黙って、書簡を中央のローテーブルに放り出した。スペンサーを睨み据えたまま、手を伸ばす。視線を落として顔が強張るのを感じた。
「……これは」
「フレデリク公直筆の、親善書簡だ」
再び視線を書面に走らせる。
モナは現在、ロドリスの不穏な動きに対し、ヴァルスの良き盟友となるべく軍事訓練を重ねていること、ヴァルス、モナ以外で唯一海軍を保持するナタリアがロドリスと組むことは必至である為、海軍の迅速な対応を心掛けていること、その為共通海域沖で多少の演習が行なわれても大目に見ていただきたいこと、挨拶が遅れた旨を深くお詫びすると言うこと、そしてヴァルスに対し、アルトガーデンに対し、敬虔な感謝の気持ちを捧げること……。
(しまった……)
なかなかどうして抜け目がない。シェインの情報ではフレデリクは先週ロドリスを訪問し、国王らと接見しているはずだ。その際の話の流れは非常にスムースで、ロドリスとモナの同盟成立は間もなくとさえ見えたと言う。
シェインは己の放った間諜から寄せられる情報には、絶対の信用を預けている。ひとつの国に対し、複数の間諜を放つのがシェインのやり方だった。間諜同士は、複数いることも知らされていないし、当然互いの顔も知らない。与えられている命令は、同じ。つまりひとつの事柄に対し、複数の返答が返って来る。
身銭を切っている以上いささか懐が痛むが、こうしておけば身を翻して二重間諜となった者がいた場合に情報の齟齬から炙り出しが可能であるし、偽の情報に踊らされる危険性も下がる。
ロドリスとモナに関しては、放った間諜のその全てが同じ報告を寄せた。
モナの叛心だ。
そのモナ公フレデリクがぬけぬけと、よりによってスペンサーにこんな書簡を寄越したのは。
(――間諜がいる)
シャインカルク城の中に。
ヴァルス重鎮の間で対モナに関して意見が分かれていることを知っており、尚且つギャヴァンに向けて動いているはずの国軍の将軍ではなく、別系統のはずの禁軍将軍に書簡を宛てている。
理由は簡単だ。
ギャヴァンへ南下する国軍を止めるにはどっちつかずのブレアより、反モナ派の宮廷魔術師と軋轢を起こしていよいよ親モナ派として意固地になりつつある軍部最高権力者スペンサーの方が動かしやすいからだ。
(くそッ……)
間諜を炙り出さなければ、ヴァルスの情報は筒抜けになるばかりだ。
しかしまず、どうやって炙り出せば良いだろう。城内に出入りする人間は、数えていたらきりがない。スペンサーの意向を知っている人間は、それほど多くはないはずだが……。
(可能性があるとすれば……)
――国軍か?
モナを間に挟んで、スペンサー、アドルフとシェインが対立した会議の際に、その場に居合わせた人間は20人。
シェインを含めた重鎮10人と、ブレア麾下の隊長10人だ。
早急に対処しなければ、ヴァルスの方針に対し、いちいち先手を打ってこないとも限らない。
(……)
だが、なぜフレデリクはこんな書簡を寄越すことが出来たのだろう。
『親善の書簡』と言うのは、絶対ではないがそれなりに重い意味がある。公王直筆とくれば尚のことだ。極端な言い方をすれば、これは『モナはヴァルスを攻撃しない』との誓約書とさえ言える。
加えて国交とは、ビジネスライクに割り切られるものでもない。国を動かすのは人間対人間だからだ。仮にヴァルスに対して親しみ込めた書簡を送りつけ、その舌の根も乾かぬうちにヴァルスに対して兵を挙げれば、モナは国間の信用を失う。ヴァルスはもちろんのこと、現在味方となったはずの国でさえも今後信用をしないだろう。戦争で勝利を収め、大きな利益を手にしようと、これから築く長い歴史の上ではひどく不利となる。
何か手を打った上でヴァルスを攻撃出来る、建前が用意されているはずだ。あるいは思惑が。
尤も、直筆とは言え正式な契約書に調印しているわけではないあたりが……小賢しいと言えば言える。
「わかったろう、若僧。モナは、対ロドリス戦に備えている。ヴァルスの為にな。南下させた1万は、ラルド要塞へと戻し、ロドリスに備える」
「……」
対ロドリス戦に備えている――ヴァルスの為に?
(そうか……)
モナの思惑が、読めた……。
「己の浅はかさに言葉も出ぬか、シェイン殿」
(狡猾だな、フレデリクは……)
いずれにしても、この状況下でやすやすと書簡ひとつで信用をするなど馬鹿げている。
王城と言うのは、その国の気質と言うものが顕著に表れる場だ。
ヴァルスは歴史ある大国にありがちな鷹揚な気質で、良く言えば歴史を重んじる、悪く言えば事なかれ主義の傾向にある。シェインなど下手をすれば「過激派」扱いされかねない。
だが、国軍を派遣しなければ、ギャヴァンは壊滅する。モナは確実にギャヴァン上陸を目指している。
やはりキール要塞の海軍を動かすか。しかし、万が一それを刺激としてモナが迅速にギャヴァンへ上陸してしまえば、国軍をスペンサーに遮られている現状ギャヴァンは抵抗する術を持たない。
ギャヴァンはレオノーラ同様国王直轄地扱いになっている為、私兵を持つ領主が治めているわけではない。代わりに自警軍はあるが、小国とは言え一国の正規軍の前に何が出来よう。
本来ならば、ギャヴァンに危機が迫った際にはギャヴァン北東岸にあるティレンチーノ要塞からの派兵と自警軍に加え、国軍を派遣しなければならないのに、現状この有様だ。――今、モナを刺激するのは得策ではない。海軍を動かすのは、ギャヴァン防衛の策が講じられてからでなければ。
キール要塞の海軍を戦力として数えるのは当然のことだが、モナは恐らく海軍と共に陸軍を船上に収容している。ギャヴァン上陸後に備えてだ。そして海上には海軍を残し、ヴァルス海軍に備える。ヴァルス海軍は、海上に残される海軍への応戦で手一杯になるだろう。ギャヴァンまでは任せられない。
陸地で対応出来る兵が欲しい。
ティレンチーノ要塞から派兵はさせるが、どこの国とも国境を接しておらず、海からの攻撃がまず考えられない以上、そもそも大した兵力を置いていない。がら空きにするわけにはいかないから、動かせる兵だけ考えれば2,3千がせいぜいだ。
西岸にあるザウクラウド要塞は7千ほど動かせるだろうが、ギャヴァン防衛の為にある要塞でもないのでいささか距離がある。モナが襲撃を開始してから移動を始めたのであれば間に合わないことは国軍と同じだ。
きっと目線を上げたシェインを、ラウバルが横目で見て口を開いた。
「スペンサー将軍」
「何だ」
「予定通り、国軍1万は南下させてもらおう」
「なッ……」
全員の視線がラウバルに集まる。スペンサーが机を叩いて書簡を指差した。
「先ほども申し上げたはず。南の危機は既に回避した」
「その書簡を額面通りに受け取れば、モナはナタリアの海軍が南下してきて海上からヴァルスを攻めることを危惧しているな?」
「それは……」
「だとしたら自国であるヴァルスが、モナに任せきりでどうする?ロドリスが本気でヴァルスに宣戦するつもりなら、ナタリアが同調するのは確かに必至だろう。海軍が下りて来れば、狙われるのはフォルムスかギャヴァン。何もギャヴァンに向けて進軍させなくても良い。ティレンチーノ要塞に向けて南下させよ。モナの申告に対して道義に外れてはいなかろう。……不満か」
ラウバルが自分の言葉通りに考えていないのは、その表情で明らかだ。ナタリアではなくモナに対する警戒として、国軍の南下を強要しているのは明白である。だが、舌に乗せられた言葉にも齟齬はない。言葉を失ったスペンサーに、ラウバルは尚も畳み掛けるように言った。
「私の権限で、南下を命じたはずだ。私の指示なくして背くような真似は許さぬ」
「だがッ……」
「言っただろう。私が全て責任を取ると」
スペンサーに、尚も国軍を南下させるよう要請を取り付けて執務室を後にすると、ラウバルとシェインはバイラーから本城へと続く空中廊下のテラスへと出た。眩しいばかりの太陽が南天を通り過ぎようとしている。
「……助かった」
設置された木製のベンチのひとつに腰を下ろしてシェインが言う。ラウバルはそれと向き合うような形で手すりに背中を預けた。
「お前は書簡の役割は文字面以上のものがあると踏んでいる……そうだな?」
「ああ。ギャヴァンを占領する腹積もりなことは、間違いないだろうな。それが、侵攻と言う名目になるか上陸と言う名目になるかは、恐らく我々の対応次第」
「理由を聞こう」
シェインは両手をベンチの座面につけ、やや反り返って青く澄んだ空を仰いだ。対照的な赤い前髪が風に舞う。
「モナは、どちら側にでも転がる。その為のロドリスとの接見であり、ヴァルスへの書簡だろう」
「ほう?」
「フレデリクとロドリスの会見は成功に終わっている。だが、モナの目的はヴァルスと敵対することでもなければロドリスと親しくなることでもない。モナの国力増強としか考えられない」
ヴァルスがモナを信頼する態勢を寄せれば恐らくは、ロドリスが攻めて来た際にロドリスとの盟約を翻してロドリスを攻撃しよう。無論、ロドリスへ向けて進撃する為に海上からギャヴァンに上陸、占領をして。
ロドリスとの盟約を翻す名目は至ってシンプルだ。「政権交代に際し、ロドリスに叛意があるかどうか炙り出しただけのこと。最初から我が忠誠は帝国のみにある」。
そしてヴァルスに要求を突きつけるのだ。
「盟友ヴァルス及び大恩あるアルトガーデンの危機に際し、モナは支援しよう。その代償としてモナが求めるのは海上権の拡大と交易権のモナに対する行使の免除、及び王国への昇格のみ」
ギャヴァン占領と言う、人質を取るような態度で。
逆にヴァルスがモナに対して要求を飲まない、もしくは敵対する意志を示すのであれば、ロドリスとの盟約通りヴァルスを攻撃するのだ。いわく、「我々は親愛の情を示し、盟友を続ける為の条件は提示したはずだが、ヴァルスが受け入れ態勢を取らなかった為致し方ない」。
シェインの意見を聞き、ラウバルは眉を顰めた。もし本当にその考えが事実ならば……随分とえげつない。
「もしそうなのであれば、危機を回避するには書簡を真に受け、今後モナから突きつけられるであろう要求を丸呑みする手段もある」
「……だが」
「ああ。こういう手段を講じるような男であれば、ここで一度飲めば今後も要求は吊り上がって行くだろう。アルトガーデンを統べるヴァルスとしては、言いなりになるわけにはいかない。弱みを見せれば、繰り返される要求で弱体化していくのみだ」
「では、どうすれば良いのだろうな……」
いずれにしても、モナのギャヴァン占領は避けられぬと言うわけか。しかし、モナがどちら側に翻るにしろ、やすやすと甘受するわけにはいかない。モナの用意した舞台の上で踊りを演じてやるわけにはいかないのだ。
「決まっている……結論は以前と同じだ。ロドリスが動く前にモナを叩くしかない」
「と言ってこちらから攻撃を仕掛けるわけにもいかないだろう。ヴァルスに対して海上にいる言い訳を用意したモナを叩く理由は表面上、ない。この後はゆっくりとロドリスが出撃するタイミングを待つだろう。ロドリスが出撃してこそ、ギャヴァンに上陸しながら右にも左にも転がる言い訳がたつようになるのだからな」
ラウバルの言葉に、シェインは大袈裟に肩を竦めた。……いや、ことの大きさを考えれば大袈裟と言うわけでもないのだが。
「やはり、リトリアの戦力が欲しいな……」
「まったくだな。リトリアがヴァルスと共に旗揚げしてくれれば、ロドリスはそれこそ戦力を割かなければならなくなる。あるいは、リトリアにかかりきりになるかもしれない。仮にナタリアがいるとしてもな。……とあれば、ヴァルスとしてはモナとロドリスが同時に進撃を開始したとしても余裕を持ってモナを壊滅させ、ロドリスへと対峙することも出来ようものを」
各国に派遣した使者は、一部は戻らず、戻って来た回答はどれも保留と言うものだった。状況を見極めてから考えるつもりなのだろう。色良い返事はロンバルトのみだ。だが、正直ロンバルトでは心許ない。――それこそ、レガードがロンバルトの陣頭に立つのならばともかく。
リトリアに派遣した使者は、戻らない。リトリアに飛ばした間諜の報告では、消されたのではなく足止めされているようだ。
つまりまだ、返答を用意していない。
「まあ、得られぬものを欲しいとわめいていても仕方がない。とすればモナから叩き潰すには、こちらから理由もなく仕掛けるわけにはいかぬ以上、やはりロドリスが動く前に向こうから仕掛けさせるしか手はない」
「モナに仕掛けさせるに必要なものは何だ」
「そうだな……ヴァルスはモナを受け入れる態勢にないことを示し、焦らせると言うのは?モナは、ヴァルス国軍の南下を当然対モナへの備えと読んだだろう。次は海軍を動かすかもしれぬと思ったやもしれんな。陸と海、双方のヴァルス兵力を足止めする為に書簡を寄越した。これでヴァルスに対し猶予が出来たと思うだろう」
「ああ。実際、現在は国軍の南下は停止しているからな」
頷きながらシェインは腕を組んだ。
「が、あくまでヴァルスが南下を続ける」
「……ヴァルスに受け入れ態勢がないと見なしはするだろうが、ヴァルスが敢えて1万の南下を続ける場合も当然考えているだろう。その場合は海軍が行動を始めることも読んでいると考えるべきだな」
「挑発にはやはり少々弱いな。それに『ヴァルスがモナを受け入れなかった』との口実を与えてやるのはいささか気分が悪い」
そこで一度考え込むように言葉を切ったシェインは、次に顔を上げた時には人の悪い笑みを口元に刻んでいた。
「こういうのはどうだ」
「何だ?」
「フレデリクに、使者を派遣する」
「……対ナタリアに備えてか?」
さっきの自分の言を思い出して、ラウバルは苦笑した。シェインも笑って肩を竦めた。
「『親善の書簡』をいただいて返礼がないとは、ヴァルスが恩知らずと思われよう。我々は対ナタリアに備え、ティレンチーノ要塞に派兵する。ただし、『モナの友好を信じて』、半数」
「……残りの半数はどうする?」
「西岸のザウクラウド要塞に留め置きだ」
「ザウクラウドに?」
ザウクラウド要塞では、ギャヴァンが攻撃されてから移動しても到底間に合わなくなる。
「1万だと思っていたものが半数。ティレンチーノ要塞と自警軍、傭兵がいると考えてもギャヴァンに当たれるのは1万そこそこと言うことになる」
シェインの意図が読めない。モナを焦らせるはずが、安心させてどうするのか。
「敵の油断と言うのは、いつの時代も付け込む隙を与える」
ラウバルの困惑を読んで、シェインが補足した。油断……だが……。
「モナの兵力はどの程度だと考える?つまりヴァルスがフレデリクの書簡を受け取った上で、尚も南下を続ける場合、モナはどのように対応するつもりかと言う話なのだが」
「……やはりロドリスの出撃待ちだろう。モナはあくまでも、ロドリスの動きに沿って上陸したいはずだ」
「だろうな。モナが敵対意志がないと表明した以上、ヴァルスからおもむろに攻撃するわけにはいかぬことはわかっていよう。つまり猶予期間があることに変わりはない」
その言葉に、ラウバルは少し考え込むように視線を地面へと落とした。
「だが、ヴァルスの動きがどうなるかは五分五分……とすると、モナは当初から戦力として考えられ得る海軍と陸軍1万に対しては、仮に布陣されてからでも抵抗が可能だと考えていることになるな」
「モナの国軍は4万2千。国内の要塞に足止めの兵がいるだろうが、それは計算外だ。うち海軍は1万。王都をがら空きにするわけにはいかぬだろうから、王都の足止めが……1万……いや、1万5千は留め置くか?とすればギャヴァンに上陸する予定は2万前後。予測の範囲を出ぬがな。ギャヴァンにおける勝算という話なら、妥当な線か」
言いながらシェインは立ち上がってラウバルを促した。並んでテラスを抜けながら、ラウバルは眉を顰める。
「だとしたって自警軍を含めても、あちらの方が多いからな。加えてギャヴァンには強固な防護壁と門がある。籠城するにはうってつけだし、護るにあたっては攻める方より兵力は必要ない。ロドリス出兵まで持ち堪えるだろう」
「あとはどれほど徴兵を行って本国を固めているかがわからんが」
軍の編成は、国力によってその数は異なるとは言え、大きな差異はない。つまり常駐の国軍を数万保有し、戦時にはそれとは別に各地諸侯や農民らから徴兵する。基本的に軍の大半を占めるのは、徴兵された兵であり、主要な戦場及び指揮系統には訓練された国軍が割り当てられ、その他歩兵、重装歩兵には徴兵された兵士が割り当てられる。
小型快速船を主とするモナの艦隊はヴァルス艦隊ほどの運搬能力はない。海軍も同乗していることを考えれば、従軍出来る人数は限られる。最小限で迅速に陥落させたいと思えば、恐らく正規国軍で占められているだろう。本国の護りにも国軍をおかねばならぬだろうから、つまりギャヴァンへ上陸する兵力は自ずと定まる。
本城の通路を、ラウバルの執務室へ向けて歩きながらシェインは顎に手を当て視線を前方に落とした。
「ザウクラウド要塞では遠過ぎる。ティレンチーノ要塞に向けても持ち堪えるつもりがある。……どちらへ転んでも、モナに手出しさせることは不可能と言うことにならぬか」
「そうとは限らぬよ」
眉を顰めて呟くラウバルを、顔を下方へ俯けたまま目線だけでシェインは見上げた。
「では逆にモナは、我々の動きと戦力をどう予測していると思う?」
「……どう、とは?」
「言い換えよう。ギャヴァンは主要都市だ。そしてモナ艦隊がギャヴァン沖共通海域に停泊している。ヴァルスがまずすべきこととは、何だと考える?持ち駒はどの程度で、どう配置すると踏むだろうな?」
「……」
ラウバルは困惑しながら答えた。