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QUEST  作者: 市尾弘那
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第1部第27話 TORAUMA-傷-(1)

「だああッそっち!!そっち行ったッ」

「えッ、どっち!?」

「そっちだってばッ!!!」

「『風の刄』ッ」

「『炎の柱』ッ」

 ずばーッ!!

――どごぉぉぉんッ。

「っしゃあ。いっちょあがりー♪」

 地面に着地しながら、ぶんっとシサーが剣を振ると、その剣から振り払われた緑の粘液がびちゃっと俺の方目がけて真っすぐ飛んできた。……うわあ。

「これ、毒でしょ……気を付けようよ……」

 寸でで避けて迷惑な顔で言うと、シサーは軽い調子で「おお、悪ぃ悪ぃ」と手を振った。……だからさ。猛毒なんだからさ。

 何をしているのかと言うと、飽きもせずにサンドワームとの戦闘中である。……ってか、終わったところである。いや別に飽きるとか飽きないとかって話じゃないんだが。やりたくてやってるわけじゃないんだけどッッ。

 何とかかんとか、『3つ目の鍵』のダンジョンから抜け出した俺たちは、とにかく当初の予定通り竜巻渦巻く『王家の塔』を目指している。

 ダンジョンに入って、当面わかったことは、『どうやらシンはここに来たらしい』ってことと、『シンはレガードとここで遭遇して生命を助けられたんじゃないか?』と言う憶測の根拠になるものを得たくらいだ。……どれも想像の範疇を出ないんだけど。別にシンを探してるわけじゃないし、レガードを示すものは実際は見つかっていないわけだし。

 でも、ともかくシンが重要な鍵を握ってるってことと、逆にシンが何か知っているんであれば、レガードに緊急な危険は迫っていないんじゃないかってのが、今の段階での結論だった。

 だってシンはレガードに借りがあるって言ってんだから、レガードの行方を本当に知っているんであればレガードに害を加えるようなことはないだろうし、逆に全然の見当違いで知らないんであれば……シンを訪ねてギャヴァンに行ったって、しょうがないわけだし。

 いずれにしても確定事項でないわけだから、ともかく竜巻を探ってみようってことになっている。

「終了?」

 レイピアを鞘に戻したニーナがへたりこみそうになりながら辺りを見回した。全員疑心暗鬼で周囲に気を配る。

 だってちょっと、ひどかった。今の。

 バシリスクが出たと思って、それとわぁわぁ戦ってたらサンドワームが足元から躍り出て。サンドワームの攻撃を避けながら、やっとこさバシリスクを倒してサンドワームと対峙したらそこへまた新たなサンドワームが砂を噴き上げてきて。2匹のサンドワームが砂中遊泳を自在に操って、ばかばかと出たり入ったりを繰り返すのを必死こいて倒し終えて「いえーすッ!!」と思ったら、またドシンドシンとバシリスクが現れ、「おいおいおいおい」なんて言ってる間に別方向からまたもいそいそとバシリスクがやって来て、「勘弁して下さい」と泣きを入れつつ、シサーが機転を利かせて互いに石化させることに成功、「いくら多発地帯だって言ったって多発過ぎ!!ここは集落か!?」と怒鳴りたくなるのを堪えていると地面が揺れてサンドワームがまた現れたのだった。

 こうしてずらずら並べているだけで、いかに立て続けだったか。へとへとだ。

 大体、バシリスクだのサンドワームだのって基本単独行動なんじゃないのか?どう見たって群れてるよ、これ。

「だあーッ……休憩してええええ」

 ばすっと前のめりに砂漠の上へ倒れたキグナスがぼやいた。そこをシサーが足先で突付く。

「おらおら行くぞ。んなとこで倒れてっと、またばふーって出てくるぞ」

 ばふーって……。

「……そういうこと言うと、本当に出るからやめて」


 『3つ目の鍵』のダンジョンを出て3日、山脈麓の僅かな湧き水で奪われた水を補給した俺たちは砂漠の旅を続け、『王家の塔』の大分間近まで近付いて来ている。って言っても、まだ何キロも先ではあるんだけど。

「ぶッ……」

 進行方向から強烈な風が吹きつけて来て、思わず腕で顔を覆いながら眼を閉じた。痛いんだって!!砂漠でそんな強力な風に吹かれると。砂が顔面目掛けて飛来して来て、口の中までじゃりじゃりだ。

 ようやくバシリスクやサンドワームに追いまくられることもなくなり、俺たちはのろのろと前進して行った。徐々に風の強さは凄いことになっていっている。今はまだ先に進むことが出来てはいるけど、あと数時間もすればこれ、風の圧力で前に進めなくなるんじゃないかと言う推測が……。

 耳元にびゅうびゅうと風が吹き抜ける分厚い音が叩き付けられて、何か圧迫されてきてる感じ。足を上げるその一歩一歩が重く、まるで囚人の足につけられている鉄球を鎖で引き摺っているかのようだ。

 以前、キサド山脈から見た時にも思ったことだけど、こうして近付いてみても竜巻の規模そのものは大したものじゃない。何だろう、その渦の大きさって言うの?本当に『王家の塔』の周辺だけで渦巻いてるだけって感じで。

 ただ、小さくたって竜巻は竜巻。その中に入れるわけじゃないんだけどね。それに、その空気振動的な影響か近付くに連れてシルフが狂っていくからか、竜巻いてない半径何キロって辺りまで結構な強風。……竜巻くって変な日本語だけど。

 この辺りで魔物に襲われたりしてもまだ辛うじて戦えそうだけど、もうじき風が強すぎて戦うのが無理になりそうな気がする。それでも出るんだろーか、魔物。

「どこまで行けば良いの!?」

 片手で額のところに庇を作って目元を砂から庇いながら怒鳴る。俺、決して髪の毛が少ない方じゃないと思うけど、この風の勢いだけではげちゃいそう。

「ニーナ!!」

 シサーも怒鳴った。やや前方にいるニーナやシサーと会話するには、こうしないと風の音で掻き消されてしまいそうだ。

「どうすりゃ良いんだ!?」

「わかんないわよそんなのッ」

 ……なぜかニーナが怒鳴っているとキレているように見える。

「何か感じないのか!?」

 ニーナ以外に精霊と交信出来る者はいないので、ニーナが何か感じなければ何もわからない。当たり前だが俺なんかは論外である。『ただの強風』としか認識のしようがない。

(あ、でもレイアなんかがいたら……)

 ……とっくに吹き飛ばされちゃってるかもしれない。

「さっきから読み取ろうとはしてるんだけど……とにかくシルフの悲鳴がうるさくて」

 俺には良くわかんない話なんだけど、シルフってのは下級精霊だからとにかく風そのものの影響を実に良く受ける。つまり、原因が上級精霊のジンであろーが、魔力付与道具であろーが、不自然な作用によって風が吹き荒れていればシルフも荒れていくらしい。だもんで、シルフだけ見てる分には、その原因がどこにあるのかが一概に言えないんだそうだ。

「ジンを召還しているんだとすれば、どこかに必ず媒体となるものがあるはずなんだけどッ……」

「媒体!?」

「そう。……魔法道具ではなく、ジンの仕業だとすれば、必ずどこかに魔法陣があるはず!!」

「精霊魔法だったら、いらないんじゃねえか!?」

 キグナスが大声で問うと、ニーナは首を横に振って叫んだ。

「これは精霊魔法じゃないッ」

「何で!?」

「精霊魔法では、確かに上位精霊を召還することは出来るけれど、これほど長く拘束することは出来ないわッ。召還魔法か魔法道具しかないッ」

「召還魔法だと媒体がいるのッ!?」

「自分の下に置いている召還獣ならいらないけどねッ。上位精霊を召還獣にすることは出来ないッ。魔法陣を敷いて、呼び出して拘束するしかないはずよッ」

 召還獣と召還された上位精霊との区別がつかない。

「何で召還獣に出来ないのッ」

「上位精霊は気位も高いし、気紛れよッ。力で服従させることは出来ないし、特定の人間と契約を結ぶことはありえないわッ」

 どうでも良いが、怒鳴りまくりの会話は疲れる。

「ただ、厄介なのは、魔法陣が敷かれているのはきっとッ……」

 怒鳴り途中でニーナは視線を竜巻に向けた。正確には多分、竜巻の中心にある『王家の塔』。

「『王家の塔』にあるんだわッ……。だから、『王家の塔』を中心に発生してるんだと思うッ……」

 んじゃあ見つけようがないじゃん。

「魔法道具にしたって、塔のどこかなんじゃないのッ!?」

「かもしんねえなッ……。闇雲に進んだってしょうがねえなあッ……」

「もう少しだけ進ませてッ……」

 ニーナの言葉で、可能な限り塔へ近付くことにして、重くなっていく足をおして再び前進を続けた。

「あッ……」

「わ、平気?」

 強風に足を取られ、すぐ隣を黙々と歩いていたユリアがよろける。咄嗟に腕を伸ばして支えてあげると、俺に笑顔を見せた。

「ありがとう。……何だかわたし、転んでばかりみたい」

「足場が悪いところばかりだから、仕方ないよ」

「何の為に、竜巻なんか起こしたのかしらね」

「それはやっぱり……ヴァルスの王位を継承させたくないからなんじゃないの」

「でも、レガードは……いないのよ?」

 レガードがいなくたって、ユリアがいれば王位を継承するには十分だと思うんだけど。大体レガードは、元を質せば他国の王子サマなんだし。王位継承する正当な権利があるのはそもそもユリアなわけだし。

「何で、『王家の塔』に行かなきゃいけないの」

 いーじゃん戴冠しちゃえば、ってのはよそ者の俺の安易な考えなんだろーか。大体、レガードを風の砂漠なんかに送り出さないで、王城に閉じ込めたままさっさと戴冠させちゃえば別にこんな事態になんなかったわけで。

「何でと言われても……」

 ユリアは困ったように首を傾げた。

「『王の証』を得られなければ、王にはなれないわ」

「『王の証』って、何?」

 王錫、とユリアはやや前方の地面に視線を落として答えた。……王錫?

「王錫って、受け継がれるものじゃないの?」

「違うわ。与えられた王錫は、与えられた人間が死ぬ時に使えなくなる。ただの錫となって共に埋められるわ」

 ふうん。使えないって……何に使うんだろう。

「与えるのは?」

「ファーラよ」

 んじゃああの塔の中には女神様がいるんだろーか。いるんだったら内側から魔法陣を消して中に入れてくれないだろーか。

 なんて馬鹿なことを考えていると、ユリアが肩を竦めた。

「塔の中にいるわけじゃないけど」

 なんだ。

「中がどうなっているのかは、わたしも知らない。わたしが知っているのは、王錫をファーラに与えられた者が治めるヴァルスは、豊かに守られていること。ファーラに愛されていることが認められてこそ、ヴァルスはアルトガーデンの支配者として君臨し続けて来られたの」

「他の国には、その、『王家の塔』みたいな制度は?」

「聞いたことがないわ。ヴァルスだけ。ファーラ教を守護し、ファーラに守護される国であるからこそ、王となる者の責任は重い。だからこそヴァルスの王は継承するにあたって試練を強いられるのだし、ファーラに認められたからこそ守られる」

 うッ、真っ向から吹き付ける向かい風で足先が砂に埋もれた。

 なぜかこの辺りは少しだけ岩場っぽくなっていた。キサド山脈からの転石だろうか。結構大き目の岩が、ところどころにドカンと転がってたりする。

「エルファーラは?」

「え?」

「大教皇なんかは、最もファーラに近しい存在ってことになるんじゃないの?そういう試練みたいなの、ないの?」

「大教皇は、ファーラがお決めになるわ」

「ファーラが?」

「そう。大教皇の御印が顕れるのだと聞いているわ。そして永き生命をもたらされる。……不死ではないけど」

 ふうん。何かファンタジック。

 ……って、待って。

 ファーラに認められてこそ王錫が……『王の証』が与えられるってことは。

「『王家の塔』に入ったからって、もらえるとは限らない?」

「限らないわ。『王家の塔』でファーラに認められなければ」

 ……くそぅ。俺が何も知らないと思って、「代わりに『王の証』をもらってきてくれ」だなんていけしゃあしゃあと……。

 もらえるわけねええええじゃんか。

(やっぱ馬鹿真面目に引き受けないで、さっさと帰せって叫べば良かった……)

 ひどすぎる。

 俺が万が一にも王錫もらっちゃったら、王になっちゃうぞちくしょうッ。

 ラウバルとシェインの顔を思い浮かべて思いっきりカチンと来つつ、きょとんと俺を見つめるユリアに引きつった笑顔を浮かべた。

「王錫ってのは、塔で手に入るんだ?」

「ううん。王として認められると、大教皇の元へファーラより王に与えられた言葉が届けられるの。大教皇はそれを王錫に刻み、大神殿へと届けられる。そして大神殿より王冠と王錫が、戴冠式で新王へと授けられるのよ」

「……そう」

 んでも、もしももしもこのままレガードが見付からず、俺が本当に『王の証』とやらをもらえちゃったらどうするつもりだったんだろーか。ま、なし崩しにユリアがついてきちゃったもんだからユリアが受けるんだろうけど、最初はそんなつもりじゃなかったわけで。……俺に戴冠させる気だったのか?変だよそれはやっぱり。

 それとも『王の証』とやらは結局大神殿に預けられるわけだから、「ごくろーさん」ってことで……。

 ……それはそれで鬼なんですけど。いや別に王になれって言われても困るわけだけどさ。

「カズキ?」

 愛らしい顔でユリアが俺を覗き込む。はは……。

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