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QUEST  作者: 市尾弘那
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第1部第23話 風の砂漠〜ダンジョン6〜(2)

          ◆ ◇ ◆


 キグナスの『氷縛』が致命的となり再生の道を閉ざされたケルベロスは、生き残った最後の頭を失ってその場に崩れ落ちた。あっと言う間に砂化して、さらさらと本当の意味で崩れ落ちた後、シサーは剣先でその砂山をツンツンと突きながら俺に言った。

「シーフたちが遭遇したのはこいつだったかもな。魔法が使えなきゃ、再生し毒も使うこいつの相手はきつかろう」

 そのホールで僅かな仮眠をとった後、俺たちは先へ進むことにした。これ以上ホールにはめぼしいものはなさそうだったし、美術館じゃあるまいし、いつまでも壁画を眺めてても仕方ない。

 下り階段に辿り着いたのは、それから本当に間もなくだった。シサーが覗き込むと、ゆっくりとカンテラが明かりを灯す。

「なーんで下るかね」

「地上に出たいっつってんのに、どんどん奥へと拉致されてってる気がする」

 ああ、お日様が恋しい。

「ま、最終地点に辿り着きゃ、嫌でも外へ通じる道があんだろ」

「最後のアイテムを手に入れなきゃ行けない通路だったりして」

 だから……キグナス……ッ。

「しょーがねーから下りてみっかあー」

 階段は、短いものだった。10数段くらいで階下に辿り着く。取り巻く空気はますます冷たい。さっきまでの戦闘での熱さはどこへやら、既に体が冷え切っているのが服の上からでも感じられた。

 階段を下りてからは短い直進通路があって、4畳くらいの四角いスペースに行き当たる。両開きの、大きな扉がその行く手を阻んでいた。ちょっと豪華な掘り込みや装飾があって、何かラスボスでも出てきそうな感じの入り口。取っ手のすぐ下には大きな鍵穴がある。

「『3つ目の鍵』があった部屋かな」

「入れんのか、これ」

 行けなかったら、どうしたら良いんだろう。

 シサーが扉に手を掛ける。鍵がかかっていることを危惧したけれど、幸いに杞憂に終わった。このダンジョンを攻略した人……多分シンが、鍵を開け放したまま帰ったんだろう。攻略したダンジョンをわざわざ鍵かけたりして元通りに戻す理由なんかないし。

 ダンジョンそのものの入り口だとか、ここの部屋だとか、そういうところの鍵が『1つ目の鍵』『2つ目の鍵』なのかな。つまり、順番通りにダンジョンを攻略して鍵を入手していかないと、手に入らないような。

 だからこそ、攻略することが出来なかったダンジョンなんだろうし。

 ギィィィィアアァァァァァ……。

 老婆の叫びみたいな音を立てて、扉はゆっくりと開いた。何か飛び出してくるかもしれないから思わず全員構えてその様子を見守っている。開いた扉からシサーが中を覗き込んだ。

「……特に、危険はなさそうだな」

 ラスボスがいるわけじゃないらしい。

 言って扉を大きく開け放し、シサーは中へと足を踏み入れた。俺も続けて中に入り込む。

 広い部屋だった。体育館……とまでは行かないけど、広さとしてはその半分くらいはありそう。天井もかなりの高さだ。壁や天井は石造りになっていて、何本か太い柱が部屋の中に突っ立っている。床の上に、何か銅像でも叩き壊したような残骸が2つほどあった。

 何となく、京都の建仁寺の法堂を思い出していた。天井に有名な龍の絵が描かれているとこ。柱の他には特に何もないので、がらんとした感がちょっと似てる。

 入り口の正面よりやや左手……一番奥の壁の中央には、顔くらいの高さの位置に四角い穴が穿たれていて、ちょうど小さな棚みたいになっていた。ここから見る限り、そこには何も乗っている気配はない。その両サイドに門のように2本の柱が立っていて、天井までの高さはない。まるで何かの台座みたいにも見えるんだけど、それも何が乗っているわけでもない。

「ここに、鍵があったのかしらね」

 ユリアが俺に追いついてきて肩を並べながら問う。キグナスが反対側の俺の隣に並んだ。ニーナはシサーと一緒に部屋の中央へ既に足を向けている。

「3つの鍵を集めると、何があるんだろうな」

「盗賊ギルドが集めるくらいだから、宝なんじゃないの?やっぱ」

「すっげぇのあったら、どうする?」

 どうするも何も、俺たちは1本の鍵さえ手に入れてない。

「どうしようもない」

「何だよ、夢を持て夢を〜」

「そういうの、夢じゃなくて妄想って言わないか?」

 俺とキグナスのやり取りをくすくす笑いながら聞いていたユリアが不意に入り口の方を振り返って首を傾げた。

「あら?」

「ん?何かあった?」

「あれ……」

 俺とキグナスも入り口の方を振り返る。

「あ、あんなとこにも魔法陣」

 キグナスが呟いた。入り口の扉を開けたすぐ横の壁に、魔法陣が描かれていた。描かれていたって言うか、壁が掘りこまれていたって言うか。

「行ってみようか?」

 シサーたちは、正面の壁穴の前で何か探っている。……ま、いっか。見に行くだけなら別に。

 奥の壁穴はシサーたちに任せて、俺たちは魔法陣の方……入り口の方へと戻っていった。

 そんなに大きな奴じゃない。直径50センチくらい。

「……」

 ……あれ?

「同じ奴か」

 ちょっと背伸びをして魔法陣を覗き込みながらキグナスが言う。同じ……そう、見える。見えるんだけどでも何だろ……違和感。

「何だあ?また謎解きか?」

 訝しげな顔をした俺には気付かずに、キグナスがコンコンと魔法陣を叩いた。

 ……何だろ。どこがどうとは言えないんだけど、今までのと何か違うような……でも何が違うのか良くわからない。じろじろ見てたわけじゃないし……ただぱっと見た感じの印象が……。

「文字盤の配列が、違うわ」

「おわッ」

 ユリアが呟くのにかぶせるように、キグナスがぎょっとしたような声を上げた。続けてがこッと言う音。見れば、その手には文字盤にはまっていたはずの文字が刻まれた石があった。

「……壊した……」

「ば、馬鹿。勝手に外れたんだよッ」

「こっちも外れるわよ」

 腕を伸ばして隣の文字を引っ込抜きながらユリアが俺を見上げた。持ってて、とそれを俺に手渡して荷物から紙を引っ張り出すと、魔法陣を見比べながら首を傾げる。

「これの通りに入れ替えたら……どうかしらね」

「うん。とりあえずシサーたちに言ってみてからにしよう」

 とりあえず石を元通りにはめて、シサーたちの元へ向かうべく歩き出した。シサーたちもこっちに向けて歩き出している。

「何かあった?」

「『3つ目の鍵』」

「えええ!?」

「……が、ここにあったらしいってことくれえか。……最後まで聞けよ」

 じゃあ間置かないで早く言ってよ。

「ふうん。どうなってたの?」

「どっかの宝箱に鍵になるものが隠されてたんだな、多分。それを使うとあの棚みたいになってる部分の底面がスライドして開き、『3つ目の鍵』を収めた宝箱が現れるって寸法だったんだと思うぜ。……ま、詮無い話だな」

 まったくだ。……と。

「うわ」

 こっちに向かって来るシサーの顔を見つめながら話を聞いていたので足元が疎かになった。床に散らばってた銅像の残骸に蹴躓いて転びそうになる。

「……っぶな……」

「しかし、そのシンって奴が、仲間が倒れてから再度ひとりでここに挑んだんだとしたら、大したもんだよ」

 何とかコケずに体勢を整えた俺に、半ば呆れてんだか感心してんだかわかんないような声音で言いながら、シサーは爪先でその銅像の残骸を突付きまわした。

「何で」

「謎解きやトラップなんかはお得意だろうから良いんだが。それに1度、2度、このダンジョンに入ってるんなら、あんなワープトラップに引っ掛かったりせずにこの上のフロアに直辿り着くだろうしな」

「うん」

「だが、こいつ……」

 足先で尚も残骸をガシガシ蹴る。

「ガーゴイルだぜ」

「がーごいるッ!?」

 ユリアとキグナスと俺は、思わずずざーッとその残骸から体を引いた。いや、何か気味が悪いじゃん……。

「ああ。恐らくここの宝の門番だったんだろ。しかもあっちと……」

 手で、少し離れた位置に転がっている残骸を示して続ける。

「こっちとで2匹だ。そんなに恐ろしく強いわけじゃないが、こいつは魔法か魔法付与された武器でしか攻撃出来ないからな。ひとりで相手取るのはキツかったと思うぜ」

「……彫像じゃないの?これ」

「ゴーレムの一種だ」

 ふうん……じゃあ、シンのチャクラムってのは結構なワザモノだったりするんだな。

「あと気になるのは、あの……」

 言いながらシサーは背後を振り返った。『3つ目の鍵』が収められていたはずの壁穴に視線を向ける。その、壁穴の奥の壁がきらっと光ったような気がした。

「奥の壁だな」

「何か光ってるわね」

 ユリアが首を傾げる。

「ああ。鏡みたいになってる。何だかな」

「最後だからって女性冒険者があそこで化粧直しをする……」

 わけがない。キグナスを軽くどつく。

「そりゃあ無理だなあ……あの鏡板は角度がついてて天井の方を向いてる」

 シサーも答えてやる必要ないと思う……。

「ま、いいや。そっちは?壁の魔法陣、調べてみたんだろ?何かわかったか?」

「ああ、あれね……」

 どうも石が抜けるらしいことと、ユリアがメモに写した他の魔法陣との違いを述べながら魔法陣の方へ向かう。石を入れ替えて、ユリアのメモと同じ文字の配列にしてみようということを伝えたところで、魔法陣の正面に辿り着いた。

「今度はパズルかよ」

 シサーが面倒臭そうに言う。謎解きより矢を避けている方がお好きらしい。

「んじゃあいっそ、文字、最初に全部外しちゃおうぜえー」

 キグナスの言葉で文字を一斉に取り外す。文字は全部で8個。メモを見ながらユリアが指示を出すことにして、他の4人で2つずつ石を両手に持つ。

「じゃあニーナの石からいきましょうか」

 ユリアがニーナの手の中の石とメモを見比べながら言った。

「ええとこれは……右下の……ここ」

「ここ?」

「うん」

 ガコンッ。

 ニーナが穴だらけの魔法陣に石を1つ押し込んだ。

「次は?」

「これは……」

 もう片方の石を覗き込んで、ユリアがまた穴を1つ指差す。

「こっち」

 こんな調子でユリアの示す通りに、ひとつ、またひとつと石を穴に埋め込んでいった。

 ニーナ、シサー、俺と穴に石を入れ終わり、キグナスの手に最後のひとつが残される。

「よっしゃ。じゃあラスト、入れるぜッ」

 キグナスが最後のひとつを穴に押し込んだ。

 瞬間。

「うおッ」

 濃紫の光が魔法陣から放たれた。咄嗟のことで思わず目を瞑り、魔法陣の前から避ける。全員が魔法陣の前から身を引き、妨げるもののなくなった光は魔法陣の形のまま真っ直ぐに突き進むと正面に位置する『3つ目の鍵』の壁穴の壁に突き当たり、その反射で天井へ向けて走った。そして天井に反射して、床へ――……。

―――――-カッッ!!!

 魔法陣の形を崩すことなく床へ降りて来た濃紫の光は、俺たちの周囲に魔法陣を浮かび上がらせた。ワープフロアの時と同じように、床に描かれた光の魔法陣から紫の光が突き上げる。

(……?)

 やがて、目を眩ませる光の洪水が引いていくと、俺はゆっくりと目を開けた。辺りを見回す。

「……戻って来た……」

 目の前の5本の通路。そして重要な、背後の塞がれた通路。

 間違いなく、最初の、円形ホールだった。











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