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QUEST  作者: 市尾弘那
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第1部第22話 風の砂漠〜ダンジョン5〜(1)

「……ここは?」

 俺たちを包んでいた光が少しずつ地面に吸い込まれるように消えて行く。やがて光の魔法陣は姿を消し、床に刻まれた魔法陣だけが残った。……え?床に?

 俺たちがいるのは、さっきの小部屋ではなかった。目の前にぽっかり開いた5つの口。5本の通路。

「最初の……場所?」

 ニーナが恐る恐る言う。……最初の、円形ホールだ!?

「やった。さっさとこんなとこ、出よう」

 キグナスが嬉しそうに言う。が、立ち上がって背後を振り返ったシサーが顔をしかめた。

「……いや、喜ぶのはちと早い」

「何……」

 つられて振り返ると、そこにあるはずの通路を塞いでた瓦礫の山がなかった。どころか通路さえない。壁だ。

「なッ……!?」

 何で!?

「良く似てる別の場所だな、こりゃ」

 別の場所!?

「良く見ろよ」

 言われて部屋を見回すと、最初のホールにはなかった壁のカンテラに気が付いた。等間隔で壁に掛けられていて、ウィル・オー・ウィスプも『導きの光』も必要ない。

「だぁぁぁッ……。なああんだよ、もおー……」

 キグナスが床に突っ伏した。そんなこと言ったってしょーがない。脱力したいのは俺も同じだ。

「ともかく、行ってみるしかねーな」

「あれ?」

 思わずげんなりしていると、背後の右奥の壁に切り込みが入っているのが見えた。切り込みって言うか、角。微妙に死角って感じの角度でちょっと見にくいんだけど。

「シサー、あっちにも道がある」

 どの道から攻めてやろうかと通路を睨み付けたシサーの腕を引っ張る。

「え?……本当だ。じゃあれから行ってみっか」

 近づいてみると、その角に繋がっているのは上り階段だった。

「ちょっと嬉しいかもしんない、これは」

 上って良いじゃん何か。地上に続く気がして。

 階段の幅は、1メートルくらい。

 砂漠から続いていたのと同じ造りだった。狭くて急。壁の上の方にはやっぱりカンテラが掛けられていて、シサーが足を踏み入れると自動で点灯する。こんな便利なものがあるなら、さっきまでの通路にも是非完備しておいて欲しかった。

「んだよッ」

 階段を上り切った先頭のシサーの毒づく声が聞こえる。ちなみに俺はどんじりなので、まだ階段の途中だ。

 階段は大した長さじゃなくて、校舎を2階まで上った程度だ。シサーが毒づいたわけは俺のいる場所からでもわかった。左に折れて、行き止まりなんだ。

「行き止まらせるくれぇなら、階段なんか作るなッ」

 キグナスも毒づく。シサーは行き止まりの壁の辺りを立ったりしゃがんだりしながら探っていたが、やがて立ち上がってこっちを見下ろした。

「こいつ、一方通行だな、多分」

「いっぽーつーこー!?」

「ああ。床に、この壁が動いた形跡が残ってる。この向こうは多分、最初のホールに続いてるな」

 誰かこの壁を爆破して下さい。

「直にあそこに続いているかはわからんが……いずれにしてもあそこから続いてくる道だろう」

「じゃあ……」

「ああ。正規ルートに出たってことだろうな」

 ルートなんか何でも良いから、外に出たい。

「つまり、ワープトラップなんかに引っ掛かって他のフロアに飛ばされたりしなければ、最初のホールから真っ直ぐここに通じてるってわけだ。……カズキ、とりあえず戻ろう。あっちの通路に行くしかなさそうだ」

 言われて一旦階段を下り、魔法陣の辺りまで戻る。

「さーてッ。やってやろうじゃねえか、このやろう」

 シサーがやたらと燃えている。いや、やけくそって言うんだろうか、世間では。

「何だかんだ言って、楽しんでるんじゃないの?」

「ちくしょう。こーなったら攻略してやろーじゃねーかッッッ」

 だからもう攻略されちゃってるんだってば。


          ◆ ◇ ◆


 シサーが俄然燃えてしまったので、俺たちは怒涛のごとく進撃を開始した。見る限りここのフロアの通路にはワープトラップはない。走り抜ける勢いで出現する魔物を片っ端から撃砕する。ニーナもキグナスもユリアも、遠慮なしにがんがん魔法をぶっ放した。

 そんな中、相変わらず俺はマッパーを押し付けられている。人の書いた地図を散々汚いとか言った割りに、どうかと思う。

 幸いと、このフロアはさっきのフロアほど複雑にはなっていない。変な罠なんかも仕掛けられていない。

 ただ気になるのは、さっきよりずっと空気が冷たくなったことだった。砂漠の下、と言うことで、このダンジョンそのものの空気は最初から結構冷たかったんだけど、ここのフロアに移ってから明らかに空気が冷えた。気温を基準に考えれば、最初のフロアが地下2階、今さっきまでいたのが地下1階、そして今は地下3階って感じ。そのくらいはっきりと気温が違う。つまり地上との深度がかなり明確に違う。

 左端から3本目……中央の通路まで踏破した結果3本とも行き止まりで、その奥にあったのは宝箱だけだった。もちろん、空だ。

 この通路も壁にカンテラは掛けられてはいたんだけど、階段と違って進んで行っても点かなかった。……けち。それとも何か意味があるのかなあ。

「残り2本か」

「割と複雑なダンジョンじゃなくて、まだ良かったんじゃない」

 疲れた顔をしながらニーナが髪をかき上げた。切れ長の綺麗な瞳に、微かに憂いを浮かべている。

「そうだな」

 まあ迷路になっているとは言っても、あっちとこっちで繋がってて、尚且つぐるぐる回ってオチが行き止まりとかそう言うのは確かに今のところ、ない。行きつ戻りつはするんだけど、そう遅くない時点で行き止まりの道は行き止まるようになってはいる。

「にしても、古いダンジョンよね」

 順番通り4本目の通路に入る。すると、この通路は階段と同じように壁に掛けられたカンテラが、進むごとにぽわー……ぽわー……と薄暗い光を投げ掛けてきた。階段の時は便利だと思ったけど、こうしてやられてみると便利と言うよりは薄気味悪い。さっきまでの通路が、カンテラはあるものの点灯しなかったせいもあるかもしれない。何だか誘い込まれているみたいだ。

「古いって、何で」

 ニーナの呟きが後ろから聞こえてきたので、俺はマップを塗り潰す視線はそのままに後方に問い掛けた。今やほとんど、条件反射的に歩数を数え、升目を塗り潰している。ニーナの代わりに前方から返答が戻って来た。

「ワープトラップのことだろ」

「何で?ワープトラップがあると古いの?」

 造り方の問題なんだろうか。ロココ様式とかバロック様式だとか、そういうので建てられた時代がわかるとかみたいな。

 なんて思ったけど、そういうジャンルの話ではないらしい。

「いや。今は空間移動の魔法を操れる奴はいないからな」

「昔はいたの?」

「ああ。昔は空間移動の魔法が完成されてた。一度弾圧を受けてなくなったんだ。だから、魔力付与して思い通りにワープトラップを仕掛けるなんて、その頃のソーサラー……いや、エンチャンターにしか出来ない」

 ふうん。魔女狩りみたいなもん?……何か違うか。

 相変わらず魔物は出没してたけど、俺が絶対会いたくない骸骨騎士は幸いにして姿を現さず、それ以上に強い魔物と言うのも今のところ、いない。

「こういうとこに巣食ってる魔物って、どっから湧いて出んのかなあ」

「さあなあ。俺、魔物になったことねえからわかんねえなあ」

「やっぱり、砂漠とかから入り込んでくるんじゃないの?」

 俺の後ろからユリアが口を開いた。

「ふらっと入って見て『こいつは住み心地が良い』って?」

「そうそう」

「でも入り口閉まってたんだろ?どうやって入るのさ」

「その辺から湧いて出るんじゃねえか」

「そういうこと言うと湧いて出るよ」

「あ、ゴブリン」

 みんなただ歩くことに飽きて、だらだらとそんな話をしているとユリアが前方を見て目を見張った。角を曲がったところで単独のゴブリンがぎょっとしたように足を止めたところだった。俺たちを見て走って姿を消す。……何だか俺たちが魔物みたいじゃないか。

 左右に分かれる道に出て、足を止めた。シサーが俺を振り返る。

「どうする?」

 俺に聞かないで。2人して地図を覗き込んで指で辿る。

「もしかすると、なんだけど、右に行ったら多分ホールからの最後の1本に出るんじゃないかな」

「……だな。あるいは行き止まりか。本当なら一応行くべきなんだろうがどうせ宝箱があったとしたって空だしなー。マップ完成させる義理はねえし。んじゃ左行くか」

 角を左手に折れる。ぽわー……ぽわー……と進行速度に合わせてカンテラが灯った。

「これ、ありがたいんだけど、ちょっと嫌だよね」

「ああ……っと……ここもか」

 また、分岐道。右に折れる道と直進する道。この道は何か奥行きを見る限りは両方とも長そうだった。と言うことは、間違えると戻るまで苦労する。そんなに凄い奥まで見えるわけじゃないから確かじゃないけど。

「ちょっと、様子見てみる?」

 右手の通路に身を乗り出してニーナが言う。そちらの方にぽわー……とカンテラが灯った。

「あ、やだな。またすぐに分岐……」

「ちょっと俺、見てくる」

「またあ!?」

 何でこんな事態になっているのかわかってるんだろうか、この人。

 シサーの一言に俺とニーナがじろっと睨む。

「こんなワープトラップダンジョンで、また行方不明になったらどうすんのよッ」

「しねえって。このフロア、ワープトラップは仕掛けられてないみたいだし……」

「わかんないじゃないのそんなのッ」

「ぼーっとしてたってしょーがねえだろぉ!?」

 こんな魔物が徘徊している暗い地下で痴話喧嘩はやめて。

「そうそう何度も引っ掛かるほど間抜けじゃねえよ」

「じゃあ俺も行く」

 ニーナが何か言い返そうとするのを引っ手繰るように俺は口を挟んだ。このまま言い合いを続けられたらそれこそ時間の無駄だ。……何の解決にもなっていない発言だと言う自覚はあるが。

「じゃあ、そういうことで。行こうぜ」

「これで二手に分かれちゃったらどうすんのよ馬鹿ッ」

 諦めたようにニーナは吐息をついた。ひらっと手を振ってシサーが右手に折れる通路を歩き出す。それに伴って通路が仄かに明るくなり、道の先が見えた。その後を小走りに追うと、背後でユリアがくすっと笑うのが聞こえた。

「ニーナも苦労するわね」

「ホントよ。恋人選ぶんなら、じっくり考えてからにするのね」

「えッ……」

「ま、レガードなら大丈夫よ」

「……」

 振り向くと、ニーナの言葉にユリアが微かに寂しげな笑顔を返すところだった。何となく、見ていられなくてシサーの背中に視線を戻す。

「あれ?」

「お?」

 まだ幾らも歩かないうちに、左右に分かれる道に突き当たる。きょろっと道行に視線を這わせ、短そうな右手に折れた。すぐ向こうに突き当たりの壁が見え、また右に折れるのが見えたからだ。

 ただ、こっちの道に足を踏み入れても、壁に掛けられているカンテラは点灯しない。

「明かりがつかないな」

「カンテラつけよう」

 シサーが少し戻って、通路のカンテラの下で荷物を漁る。火を灯してそれを手に、再び右手の通路に戻った。すぐの角を右に折れた瞬間、何だか異臭が漂ってくるような気がした。

「……何の匂い?」

 更に左手に折れると、そこには鉄の扉が嵌められていた。

「見とくか?」

「……そうだね」

 扉の前に立った瞬間から、異臭はより強くなっている。何だか嫌な予感……それも、とてつもなく嫌な予感がした。見てはいけないものを見てしまうような気がする。

 シサーがドアを探って危険がないか確かめる。

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