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QUEST  作者: 市尾弘那
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第1部第20話 風の砂漠〜ダンジョン3〜(2)

 分かれ道なのでちょっと迷ったけど、とりあえず曲がってみたら右は5分くらいで行き止まりになっていた。戻って直進し、すぐ左手に折れる。また、角を曲がったり突き当たったり戻ったりしながら進んで行くと。

「あ」

 思わず声を上げた。

「何?」

 ウィル・オー・ウィスプが照らす、その少し先。行き止まりになっているんだけど、その突き当りの壁の手前。

「宝箱だッ」

「何ぃ♪」

 俺の言葉にキグナスが即効反応する。女性2人は「あ、そう」って感じの冷たい反応だった。……ロマンってのがあるでしょ。

「これも開いてるんじゃねえか?」

 ユリアとニーナを追い越してキグナスが俺の横に並んだ。勢い一緒に宝箱に近付く。魔法陣の小部屋にあったのと同じようなタイプの宝箱で、意外にも開けられていなかった。

「らっきー」

「でもさ、俺たち、開けられないんじゃないの」

 この中の誰かが鍵開けのスキルを持っているとは思えない。

「それもそうだな」

「魔法で開けられないの」

「そう言う魔法もあるけどなー。俺、出来ねえ」

「駄目じゃん」

「シサーは鍵開け、出来るわよ。難解なものは無理だけど」

「そうなの?」

 器用な人だ。でも今ここにいない人に頼るわけにはいかない。

「どうしようか」

「諦めたら」

 ニーナが冷静に言い放つ。それも何か悔しくないの?

「実は鍵、開いてんじゃねえ?」

 勝手なことを言ってキグナスが蓋に手を掛けた。

「そんなわけ……」

 ぱかッ。

「うっそぉ」

「ありゃりゃ」

 やったキグナスもぎょっとしたようにぱこっと開いた蓋を見つめた。ちなみに中身はと言えば。

「凄ぇ」

 何だろう。良くわかんないけど、宝石とか金貨。金目の高そうな物。ご丁寧に、それを詰める為の袋まで一番上に用意されている。

「……いくら何でも胡散臭くないか?」

「……うーん。胡散臭いなあ」

「やめなさいよ。邪魔じゃないの」

 どうでも良いらしいニーナが後ろで腕を組んで忠告した。

「大体他人が攻略した後だってのに、残ってる宝箱なんか怪しくてしょうがないじゃないのよ」

「言える」

「でもちょろっとくらいもらっとこーぜ、せっかくだし」

 と、キグナスが袋を取り上げてざらっと金貨を放り込んだ瞬間。

「ななな何の音!?」

 ガラガラガラと言う錆の入った金属音。結構重たい音だ。

「大変!!」

 ユリアが叫んだ。……うわあああ。

「キグナス、駄目だ!!、それ、戻せッ」

 戻る道の途中、ちょうど角の辺りで古びた鉄製の巨大な柵が降りてくるところだった。あれが閉まっちゃったら閉じ込められちゃうじゃんッ。

「わ、わかったッ」

 キグナスが慌てて袋ごと金貨を放り出す。バン!!と宝箱を閉めると、ギィィィィ!!!と甲高い音を立てて柵が止まった。

「ほら、言わないことじゃない」

「行きましょ」

 ニーナとユリアが戻って行く。叱られた俺たちは思わず顔を見合わせて後を追った。一度止まったはずの柵が、キィィィっと言うでかい音を立てて再び巻き上がっていく。

「なあああんの為にあんなとこに宝箱置いてんだよッじゃあッ。トラップボックスなんか用意する奴の気が知れねえッ」

 ぶちぶちとキグナスが文句をたれる。

「トラップボックスあり、と……」

「ミミックじゃなかっただけ、良かったと思うのね」

「みみっく?」

「宝箱に扮した魔物。蓋の部分が口になってて、物凄い鋭い牙がいっぱいついてんの。噛み付かれたらかなりの大怪我になるわよ」

 ニーナが教えてくれるのを聞きながら、元の道へ戻って隊列を整えて、先を急ぐことにした。


          ◆ ◇ ◆


 トラップボックスの場所からまた30分ほど歩いて、どこにも休憩出来そうな場所ってのがなさそうだったので、仕方なく行き止まりの通路のトコで座り込んで休憩に代えることにした。片方が塞がってるってことは、警戒すべきは続いている方の通路だけってことだから、まあ、挟み撃ちになる心配だけはない。でも言い換えれば、逃げられない。

「つっかれたなあー」

 キグナスがぼやく。ユリアは途中から言葉少なだ。心配になる。

「ユリア。あげる」

 ロートスの実を放ってあげた。一応、疲労回復の効果はあるはずだ。

「ありがとう」

 ユリアもキグナスも疲労回復の魔法を使うことは確かに出来るんだけど、先の見えないダンジョンでこれからどれほどの敵に遭遇するかもわからない。下手に魔法を消費したくないと言うのがあるのか、戦闘時以外では疲労回復の魔法を自分にかけたりはしなかった。

 どうでも良いけど、疲れるな。

 肉体的にもそうだけど、精神的に。もっのっすっごっく!!

 何が飛び出すかわからない、先の見えない真っ暗闇を、細々とした明りでひたすら歩くと言うのは……げんなりする。正直、飽きる。

 本当は緊張してないと危ないとは思うんだけどね。でも……だれてもくるでしょ。そんな何時間も歩かされたらやっぱし。

(あ〜あ……何してるんだかな〜)

 今頃本当だったら……夏休みだろうか。雄高と遊んだり、文句言いながら宿題やったり。そんな当たり前のこと、してたはずだ。なのに俺はなぜか、得体の知れないダンジョンで魔物と戦っている。数ヶ月前、果たしてこんな夏休みを誰が想像しただろう。……するわけねーじゃんよ。

「シサーも、ここのどこかにいるのかしらね」

 俺のあげたロートスの実をしゃりしゃりと齧りながらユリアが言った。

「だとすれば、どこかで会えるのかも知れないけど」

 ニーナがぼんやり座ったまま答える。

 この迷路が、俺が最初に思った通り正方形で構成されているものなのだとしたら、今は一応上半分の、更に半分くらいの面積は塗り潰されてきている。大雑把に言って、残り4分の3。

 ただ、もちろんシサーも移動しているだろうからすれ違いが生じている可能性も否定出来ないんだけど、かと言ってじっと待ってるわけにもいかないし。

「出来る限り地図を埋めて、それからまた、方針を考えよう」

「うん」

 そこでしばらく休憩をして、俺たちは再び歩き出した。地図で言うと段々中心部へ向かってきているはず。

 一旦、少し南へ下ってまた北へ続く直進通路を歩いていると角に当たった。左手に折れ……。

「何?何の音?」

 頭上で何かが軋むような音がした。咄嗟に見上げる。

「げええ!!」

「ダッシュだッ」

 頭上の壁が落ちてこようとしてるじゃないか!!死んじゃうっつーのッ!!!

「ひええええッ」

「きゃあああッ」

 思い思いに叫び声を上げながらダッシュで駆け抜ける。階段状に左、右、左、右とうねうねしたその通路は通り抜けるたびにいちいち、ズシン、ズシンと天井がおっこってきた。床に落下すると、ゆっくりと天井へと戻って行く。

「ひぃぃ……」

 ようやく『天井落ち』シリーズの通路を抜けたらしく、落ちて来ない天井を見てスライディングするように床に崩れ落ちた。突如の全力疾走で、みんな俺と似たような有様だ。ぜいぜいと息を切らせて床に座り込んでいる。

「ああ、もう!!ダンジョンって大っ嫌い!!何でこんな意地悪いのよ!?」

 ニーナが誰にともなく叫ぶ。

 今走り抜けた通路には、実は分岐点があったんだけど……当然そんなものを調べている余裕なんかありはしなかった。戻りたくもない。

「天井注意……」

 地図に書き込んで立ち上がる。

「ええと……さて。どっちに行けば良いんだ?」

 今俺たちが座り込んでいるのは『天井落ち』通路を抜けたばかりのところで、右にも左にも道が続いていた。どっちもずっと続いたあげくに分岐してたりすると面倒くさくて嫌なんだけど。

「どっちでも良いわよ、どうせわかんないんだから」

 ほとんど投げやりとしか言えないアドバイスをニーナがくれる。

 で、とりあえず左、つまり南下する方向に行ってみることにして5分ほど歩くと、そこはもう行き止まりだった。地図を埋めて道を戻り、北上する。右に行ったり下に行ったり左に行ったり上に行ったりを繰り返し、行き止まりに何度も遭遇したりして無駄に歩いた気もするけれど、そこそこ地図は埋まってきた……みたいだ。

「もうだいぶ……これって、中心付近にいるんじゃないの?」

 足を止めて地図を書き足した俺の手元を、他の3人が後ろから覗き込んだ。書き込んでいる文字は思いっきり日本語なんで他のみんなには読めないだろうけど、図を読み取るのに影響はさしてないはずだ。で、この地図が合ってると言う前提とすると、上半分に関して言えば中心部を四角く繰り抜いてその周囲を周ってる感じ。

「中心には、何があるのかしら」

 ユリアが首を傾げる。

「何かあると思う?」

「ぐねぐねと無駄に通路があったりして」

 キグナス……どうしてそう言う寂しい未来を示唆するかな。

「ま、行ってみればわかるだろ」

 言いながら再び歩き始めた。突き当たった道を西へ戻り、南下して行く。右、左、右とやや細かく道を折れ、右にも左にも何だか先に続いていそうな道に出たところで足を止めた。

「どうしようか」

 ちなみに正面にも道は続いている。十字路と言うやつだ。

「困ったわね。とりあえず手前から行きたいところだけど……」

 って、中心部を避けて、離れて来ちゃってるんだよな。このままだと外周……地図を書き始めた地点のひとつ内側の道まで戻ってしまう。

「んじゃとりあえず、北上してみようか」

 右手に続く道に向かって足を向けた。

 結構長い道で、10分以上歩いてもまだ先がある。このままぐるっと周って中心の方とかに続いてたりしないかな……なんて考えていた時だった。

 カツ、カツ、カツ……。

 ガシャッ、ガシャッ、ガシャッ……。

 不意に嫌な音が聞こえてきた。聞き覚えのある金属音。だらだらと続くダンジョンの探索で忘れ掛けていた恐怖が背筋を這い上がっていった。

「何……?」

 ユリアが不安そうに呟く。思わず足を止めて振り返った。耳を澄ます。間違いなく、背後の暗闇の奥からその音は響いて来ていた。

 カツ、カツ、カツ、カツ……。

 硬質の、足音。触れ合う甲冑。確かに誰かが歩いて来ている音だった。心臓が再び早鐘のように鳴り出した。

「これって、最初に追って来たのと同じ足音……」

 全くの同じ奴かはわからないけれど、同種であることは多分間違いないだろう。

「逃げよう」

「でも、また逃げている間にワープトラップに引っかかっちゃったら……ッ」

「く……」

 確かにそうだ。これまでの苦労が水の泡になる。

「とにかく、進もう」

 足音にはまだ少し距離がある。どこかで角を曲がってくれるかも知れないし、引き離せるかもしれない。

 この道の先が行き止まりかもしれないと言う可能性については極力考えないようにした。これまでに遭遇した行き止まりの頻度を考えれば、決してあり得ない話じゃない。けど、考えても道が繋がるわけじゃない。

 トラップガイドに注意しながら、可能な限りの早足で通路を進む。視界のほんの少し先は真っ暗だ。挟撃されるかも、と言う嫌な考えを、頭を振り払って追い出す。額に嫌な汗が滲んだ。

「……近付いてる」

 押し殺した声でニーナが言った。

「……うん」

 俺も低い声で答える。足音は遠くなるどころか近くなる一方だ。

 カツ、カツ、カツ、カツ……。

「あ、曲がり角だ」

 ようやく直進通路が終わって、曲がり角が見えた。知らず、歩調が速くなる。焦りが俺の背中を押していた。

 何でだろう、凄く怖い。ヘルハウンドだってオーガーだって、めちゃめちゃ怖かったのに、なぜかそれを遥かに越える恐怖が込み上げていた。……それは、ある種の予感ってやつだったのかもしれない。

 角を曲がった瞬間、思わず駆け出す。ニーナたちも同じ気持ちなのか、何も言わずに後を追って走って来た。

 カッカッカッカッ……。

 つられたわけでもないだろうが、後を追う足音も走り出す。手の平に汗が滲む。……怖い!!

「嘘ッ……」

 ニーナの悲鳴のような声が聞こえた。俺も同じ気持ちだ。まさか寄りによって……!!!

 角を曲がった通路の先は、行き止まりだった。


          ◆ ◇ ◆


「戦うしかないッ……」

 どちらにしても、もう逃げ場はない。

「ユリア、後ろに下がって」

 ユリアを1番壁際にやり、俺は剣を構えた。隣でニーナもレイピアを抜き出しながらもいつでも魔法が唱えられるように構える。キグナスがその後ろでロッドを構えた。敵の姿を少しでも早く認識出来るよう、ウィル・オー・ウィスプをやや前面に飛ばす。

 カッカッカッカッ……。

 硬い足音は、もうすぐそばまで来ていた。角を曲がる。ぶつかり合う甲冑の音。それにかぶせるように、シャキン、と剣を抜き放つ音が聞こえてきた。体中を突き抜ける恐怖は、ハンパない。剣を握る手も、膝も、かたかたと震えているのが自分でわかった震えた。

「……ッ……」

 声にならない悲鳴がユリアから漏れる。光に照らされて姿を現したのは、全身を黒い甲冑にくるんだ騎士だった。ただし、その頭部は髑髏どくろだ。

「くッ」

 キーンッ。

 剣を打ち付ける金属質の音が響いた。問答無用で何も言わずに斬りかかって来た騎士の剣を、剣で受ける。甲冑にくるまれていない剥き出しの……骨さえ剥き出しのその顔が間近に迫り、何も映さない空ろな眼窩が肉迫していた。頭蓋骨にいくつも刻まれた傷が俺の瞳に飛び込む。

(つ、強いッ……)

 その力は並大抵じゃなかった。そりゃあ俺は力があるほうでは全然ないけど……ッ。

「ゲヌイト・オムニア・フォルトゥーナ・カウサエ・マナ、ダテ・エト・ダビトゥル・ウォービース・イグニス。『火炎弾』!!」

 キグナスの魔法が迸る。だが、骸骨騎士に届く寸前、霧散した。

「何ッ……!?」

 効かない!?

「アモル・オムニブス・イーデム。大地の恵み、大気の守り、その全てを統べるファーラよ、清らかなる守りにて邪悪な者を退けたまえッ」

 ユリアが俺の防御を固めてくれる。ニーナがレイピアを翳して駆け寄った。

「きゃんッ」

 馬鹿な!!

 俺と剣を交えている片手を離し、その腕で一閃する。ニーナが弾き飛ばされた。その間も、地面に踏ん張っている俺の足はじりじりと骸骨騎士に押されて後退していく。

 くそッ……このッ……馬鹿力……ッ……。

 ずずっ、ずずっと地面の上を俺の足が押されて行く。骸骨騎士は、ニーナを弾き飛ばしたその手を俺に振った。

「……ッッッ!!」

 俺の体が壁に振り飛ばされる。剣が俺の手を離れて床に落ちた。背中から胸部にかけて、激しい痛みが俺を襲う。骨にヒビとか入ったんじゃないかと思うような痛みだ。俺が激突した振動で、壁がパラパラと粉を舞い落とした。

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