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QUEST  作者: 市尾弘那
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第3部第2章第6話 神の指先(2)

「どういうことですっ?」

 いつかの『銀狼の牙』みたいに粗野な盗賊団などによる襲撃か……でも、そういう集団は旅人を襲うようなことはあっても村を直接襲撃するとは考えにくい。ロドリス以南が戦地になっている現状では戦火が及んだとも思えない。一番可能性が高いのは。

「魔物だろうな」

 トラファルガーに抑えつけられていた魔物の活動が活発になっている。それまでのストレス発散か、もしくはそれによって食糧が手に入りにくくなったなどの生活的困難があったのか、それはわからない。

 ただ、ここに辿り着くまでの魔物との遭遇率や凶暴化を思い出すに、考えられない話ではない。

 事態がようやく飲み込めたらしいハヴィも、口を噤んで俺の後を追った。元より俺は、ハヴィの追走など意に介していない。

 パレスの村の間近に迫り、それが異常事態であることが確かになった。

 黒煙のみならず、火の手は確かに上がっているようだ。そして、悲鳴や怒号が風に乗って流れて来る。

 シサーたちはどうしているのだろうか。村にはシサーとジークが残っている。パララーザにはメディレスと言う魔術師も残っていることだし、彼らの身を案じる必要はないだろうが……。

「サナはっ……!」

 ハヴィが切羽詰った声を上げる。それを聞いて、その他のパララーザ団員たちは無事かどうかは定かじゃないな、と思った。知る限り、彼らは全員が戦闘能力に長けているわけじゃない。いや、もちろん長けている人間だって何人もいるが、そうじゃない人間だって大勢いる。サナなんかは、見るからに魔物を倒せそうにはない。

「慌てるな」

 村へ駆け込んでいきそうなハヴィを引きとめ、村の入り口で中を伺う。悲鳴はあちこちから絶えず上がっており、非常事態であることは疑いようがなかった。

 この周囲は安全そうであることを確認して、村の内部へ足を進める。それから手近な物陰に身を潜め、辺りの様子を注意深く伺った。

 大きな通りの方から、何か聞くからに嫌らしい音がする。魔物が喉を鳴らす音。近くの建物のすぐ角からは、何やらがつっがつっと言うような音と粘液質な音が混ざり合って聞こえていた。誰か食われてるのかもしれない。

「ま、魔物……?」

 俺の背後で身を縮こまらせているハヴィが、極度の緊張からか抑揚のない掠れた声で呟く。それに答えずに通りの方へ目線を向けていると、やがて魔物が通り過ぎるのが見えた。片手に何かを引き摺っている。遠目ではっきりとは見えないが、多分人間なんだろう。

 その魔物を認識して、俺はひとまず気が楽になった。ホブゴブリンだ。幾度も対峙したことがある相手と言うのは、戦い方を熟知している。

 そう思った矢先、バサリと羽の音が聞こえた。軽く舌打ちをしながら一瞬視線を走らせると、予想通り馴染みのワイバーンが現れた。

「走れっ!」

 叫びながら、ハヴィを強く後方へ押し遣って俺自身は剣を抜く。ワイバーンの高度が下がって射程距離に入ったのを見定めると、剣を強く振りながら横へ跳んだ。刃がその足に深い傷を刻み、ワイバーンが再び上昇する。その隙に、腰を抜かしているハヴィを引っ掴んですぐそばの路地へ飛び込んだ。途端、物音を聞きつけたらしいゴブリンに遭遇する。既に誰かを襲ってきた後らしく、全身の至る所に血がこびり付いていた。

「ひ、ひぃっ……!」

 ハヴィが悲鳴を上げる。構わず俺はハヴィを再び突き飛ばして地面に転がした。俺が前面にいる以上、これが一番被害を受けずに済む。

 ゴブリンが剣を振り被った。俺に向けて叩き込むのを寸でのところで避ける。ゴブリン程度の攻撃なら、俺でもすっかり避けられるようにはなった。再び剣を持ち上げる前に、脇合いから深く腹を貫く。

「行くぞっ」

 どうやら団体様に襲撃されているようだ。下手に一匹と対峙している間に、次々と現れかねない。止めを刺すことを諦めて、俺はゴブリンが苦悶の唸りを上げてのたうっている間にハヴィを引っ張った。無理矢理立ち上がらせるその頭上で、先ほどのワイバーンが吼えるのが聞こえる。

 見つかる前に手近な建物の陰に飛び込むと、すかさず壁に張り付いて外の様子を伺った。ハヴィは、俺に引き摺られて床に放り出されたまま、半ば放心状態だ。

 あいつらは鼻が良いからな……。人間の襲撃者と違うのはそこだ。人間相手の場合は、相手に見つかったか否かはこちらもある程度判断が出来るが、壁一つ挟んだ向こう側で匂いを嗅ぎ付けられた日には、こちらは気がつかないかもしれない。

「ともかく、キャンプまで戻ろう」

 そこで何かわかることがあるかもしれない。シサーたちがいるかもしれないし。合流出来れば心強い。

 そう考えながら外の様子を伺っていると、ハヴィが俺の背後でぽつんと何か呟いた。聞き逃したので振り返ると、ハヴィは放心した様子のままでもう一度呟いた。

「サナ……」

 どうやら、愛すべきサナの身を案じているらしい。だが、生憎と俺には関心がない。

「パララーザに合流する方が先だ。その方が安全率が上がる」

 そっけなく答える俺に、ハヴィががばっと顔を上げた。

「お願いですっ。サナを探して下さいっ」

「この状態で明確に場所もわからないものを探すのは危険だ」

「サナは、孤児保護施設に行くって言ってました。この短時間で帰ってると思えませんっ」

 ハヴィが食い下がる。

「お願いですっ。サナを守りたいんですっ。僕一人じゃきっと助けられない。村の外れにあると言う施設に……」

「時間の無駄だ。一人で行けるわけじゃないんなら、黙っててくれ」

「あなたはっ……」

 さっさとシサーたちとの合流を果たしたい俺が短く答えると、座り込んでいたハヴィが立ち上がった。俺の腕をぐいっと掴む。振り返ると、険しい目付きで俺を睨み上げながら、ハヴィは涙を溢れさせていた。

「あなたは、誰かを守りたいと思ったことがないんですかっ……?」

「今はそんな話をしている状況じゃない」

「だったら僕一人で行くっ……」

 言うが早いか、ハヴィが建物を飛び出す。放っておいては、多分すぐに魔物の餌食になるんだろう。

 嘆息して、俺は仕方なく後を追った。一応、世話になっているシリーの手前、彼女の部下を目の前で放り出すわけにもいかないだろう。

「うわあっ……」

 形振り構わず通りに駆け出るハヴィを、魔物が見逃すはずもない。横合いから鋭い唸り声と共に飛び出してきたのは、見覚えありまくりのウォーウルフだった。間に合わない。

(ちっ……)

 駆ける俺の手元から――レーヴァテインから炎が上がる。使いたくはなかったが仕方ない。すっかり俺の意志を正確に読み取るようになったレーヴァテインが、ウォーウルフ目掛けて火炎を吐き出した。

 ウォーウルフがハヴィを地面に押し倒して圧し掛かった瞬間、火炎弾に似た炎を食らってウォーウルフの体が吹っ飛ぶ。そのまま硬い毛に火が移ったウォーウルフは、火達磨になってハヴィの向こうで七転八倒した。

 剣を下ろして、無言でハヴィに近付く。強引に引き立たせると、ハヴィはすぐにかくんと座り込んだ。腰が抜けたようだ。

「座り込んでる場合じゃない」

 すぐに移動しないと、また物音を聞きつけて魔物が来る。ハヴィを引き摺るようにして路地に引っ張り込むと、ガタガタと大きく震えているハヴィが恐怖に目を見開いたままで俺を見つめた。

「そんなんでサナのいるところまで辿り着くつもりだったのか」

「……あ、あなた、とは」

 かくかくと全身を大きく揺らしながら、ハヴィはそれでも震える声を押し出した。残念ながら、本人が意図しているだろうほどの力強さは全くない。

「あなたとは、違う」

「そんなことは知ってる」

 言いながら、俺は再び通りに目を向けた。路端に、血溜りと人の残骸が見える。魔物はどのくらいの規模の集団なのだろう。今の状態では、ちょっと判断がつかない。

 どうすべきか逡巡し、俺は仕方なく東側へ向かうことにした。サナは確か、東の外れにある教会のそばだと言っていた。ともかくもそちら方面に向かえば、何かわかるかもしれない。放っておいて、また無節操な行動をされても困る。

「行くなら、さっさと立てよ」

「一緒に、来て、くれるん、です、か」

 まだ震える声のままで、ハヴィが俺を見つめた。進行方向を伺っていた俺は、ちらりと目線だけそちらに向けると、再び前を向きながら答えた。

「そうするしかないだろ。だけど、自分の体ぐらいは自分で動かしてくれ。勘違いしてるみたいだから言っておくけど、俺だってさほど戦闘が得意なわけじゃない。魔物と君との両方を一挙に面倒見られるわけがない」

「わ、わかりまし、た」

「今なら、抜けられそうかな。走れるか」

 周囲に魔物の気配はなさそうだ。とにかく、村の東端まで駆け抜けよう。

 頷くハヴィを見届けると、俺は彼を促して走り出した。村の人はどこにいったんだろう。死体以外余り姿を見かけないと言うことは、ひとしきりパニック状態が過ぎ去った後と言うことだろうか。殺られる人は殺られ、逃れた人は建物の中に篭っているのかもしれない。それが一番賢い選択だ。ゴブリンなんかの亜人型はともかくとして、少なくともウォーウルフやワイバーンなどの獣型の魔物は、わざわざドアを開けて入ってくるようなことはない。尤も、窓なんかをぶち壊して侵入されたら逆に逃げ場はないかもしれないが。

 そう考えながら、俺とハヴィは路地から路地へ、ただ東へ向けて駆けた。途中、束になっているゴブリンに遭遇しそうになったりして幾度か道筋を急変したりもしたが、単独で遭遇した魔物に関してはレーヴァテインが物をいった。基本的には止めを刺す刺さないではなく、『逃げる』ことを最優先させる。

 俺たちがいたのが東よりのブロックだったことも幸いし、何とか二人とも無事に、どうやら東側の果てを告げる竹柵らしきものが見えた。小さな村なのでささやかな区切りではあったが、それでも村と外との境界線だ。

 さて、続いてはこの辺りでどの建物がその施設とやらに該当するかだけど……まずは教会か。その近辺にあるはず……。

「カズキさん」

 納屋のような小屋の陰に身を潜める俺の背後で、ハヴィが小さく俺を呼ぶ。その理由は俺にもわかっていた。ゴブリンなんかとは違う、少し重い足音がする。ぐぶぅ、と言うような汚らしい唸り声が、少し先の路地を通り過ぎていった。その野太い腕には、誰かの足が握られている。

 あれは……。

「オーガーだ」

 眩暈がした。あんなものまでいたのか。かつてダンジョンで対峙したことが二度ほどあるが、いずれも俺一人で戦ったわけじゃない。レーヴァテインの魔力なしでは、俺一人ではまだ片付けられない。

「出来るだけ息を殺して、気配を消して」

 見つからないことを祈るしかない。こんな、逃げ回ってるだけで物陰から何が飛び出してくるかわからない状況で、俺に戦える相手じゃない。あいつを相手取っている間に嗅ぎ付けた魔物が寄ってきたら、そこでアウトだ。

 ずしずしと軽い衝撃を地面伝いに感じながら、俺とハヴィは緊張して通り過ぎていくのを待った。どれだけ鍛えたところで、臭いだけは消すことが出来ないのが難点だ。

 ひたすら幸運を祈るしかない俺の耳に、突然オーガーが一際大きな唸り声を上げるのが聞こえた。気づかれたのかと背筋を硬くして、剣を握る手に力を込める。咄嗟に振り返って陰から顔を覗かせると、どうやらそうではなさそうなことがわかった。

「シサー」

 目を見開いて立ち上がる俺の視線の先で、白光を放つグラムドリングが一閃される。オーガーがもんどり打って倒れると、ずしんと強い衝撃が地面を揺らした。そこへ、カタカタカタ……と変な音が聞こえ、小さな矢が倒れたオーガーにいくつも降り注ぐ。そして次の瞬間、「ボンッ」と小さな爆発音が聞こえた。

「お前さんなあ……どうして毎度毎度壊れる物ばかり作るんだ?」

「壊れる予定ではないはずなんですけど……」

 どうやらジークのガラクタが、途中で壊れたらしい。

「シサー!」

 物陰から飛び出て、小声で叫びながら駆け寄る。ハヴィの気配が、俺の後からついてきた。シサーとジークが、俺の声に弾かれたようにこっちを向いた。

「カズキっ」

「無事だったんですねっ」

 とりあえずはこれで、一安心だろう。シサーとジークの顔がほころぶのを見ながら、俺は倒れ臥したままのオーガーを見下ろした。

「俺たちは村の外に出てたから、大丈夫。それより、何があったの」

「わからん。昼過ぎた辺りで、突然魔物が大挙して村に雪崩れ込んできやがったんだ」

「何で……」

「さあな。魔物が村を襲うことはそうそうある話じゃねえが、ないわけでもない。たまたまそれに遭遇したっちゃあ、それまでの話だ」

 周囲に目を配りながら、シサーがそう答えた。それからハヴィに気遣うような笑みを見せた後、俺の肩をぽんと叩く。

「ともかく、一旦キャンプの方へ戻ろうか。シリーたちも心配してた」

「シリーたちは大丈夫なの」

「メディレスがついてるし、パララーザの護衛部隊は舐めたものじゃないぜ。ただ、倒しても倒しても次々と湧いて出てきやがるから……」

「あのっ……」

 言いながら俺たちが今来た方向へ戻ろうとするシサーを、ハヴィの声が呼び止める。血色のない蒼い唇を震わせながら、ハヴィは言葉を押し出すように言った。

「僕の、幼馴染がまだこの辺りにいるかもしれないんですっ……」

「え?」

 シサーとジークが目を瞬いて振り返る。俺が手短にここまで来た経緯を説明すると、シサーは顔を顰めた。

「そりゃ放っておくわけにもいかんな。孤児施設か……無事に済んでりゃいーが」

 先ほどの俺の対応を思い出して、シサーにも同様の対応を受けるかもしれないと恐れていたらしいハヴィは、目に見えて安堵の表情を浮かべた。涙混じりに「ありがとうございます」と呟く。

「ともかく探してみるか。無事かもしんねーし」

「建物の中にいれば、わざわざ魔物は侵入して来ない確率も高いですからね」

 安心させるような笑みを浮かべて、シサーがハヴィの肩を軽く叩く。同調するジークの言葉に頷いたハヴィは、もう俺の方なんて見ようとはしなかった。

「泣くな泣くな。大丈夫だ大丈夫。ほら、行こう。カズキ、ハヴィの背後についてやれ。背後から襲われるかもしれん」

「わかった」

「ジーク。壊れねぇ武器用意しとけよ。さっきから俺ばっかり働き通しじゃねえか」

「失礼な。僕だって少しは役に立ってるでしょ?」

 軽口を叩き合いながら歩き出す二人に従って、まずは教会を探し歩く。

「この辺りの魔物は、ある程度一掃したつもりなんだがな」

 前を見据えて歩いたまま、シサーが言った。多分俺に言ったんだろう。なるほど。キャンプを境に東と西に分かれて村に侵入した魔物の排除に努めていたってところだろうか。これでもここまで辿り着く間に魔物に遭遇したと思うが、シサーたちのおかげで少なくなっていたのかもしれない。

 そのまま少し、四人で辺りを彷徨う。時折、建物の内側から外をそっと覗いている人の姿が見えたりもした。

「外は、大丈夫なのかい……?」

 俺たちの姿を見てそっとドアを開けた老人が問う。それにシサーが短く答える。

「まだ安全じゃない。ドアを閉めて閂をかけ、物音を極力立てないでくれ」

 シサーの言葉に、老人は慌ててドアを閉めた。再び辺りには人気がなくなる。

「俺たちが遭遇したのは、ゴブリンとホブゴブリン、ワイバーン、ウォーウルフ、そしてオーガーだったけど、他には何がいるの」

「俺たちが遭遇したのもそんなものだ。特にゴブリンが多いな。だから、建物に篭ったところで安全とは言い切れんのだが……」

 そこまで言って失言に気がついたのか、シサーがハヴィを振り返った。

「とは言え、その辺をふらついているよりは、遥かに生存率が上がる。施設ならただの住居よりは多少逃げ場もあるだろうし、間近に教会があるなら、そこに逃げ込んでれば魔物は入れ……」

「あれじゃないですか?」

 フォローするような言葉を重ねるシサーを遮るように、ジークが足を止めた。視線の先には、ニ階建てほどの建物があった。都心にある貴族の住居のように豪勢なものじゃない。いかにも風雨を凌ぐ為に造られたと言うような、木製の危なっかしい建造物だ。

 とは言え、この規模の村の住居が通常平屋であることを考えれば大きなものであり、そしてその斜め向かいには、やはり頼りないながらも教会らしき建物があった。

 そしてそこは、ひどい有様だった。

「サナっ……」

 そこが目的の施設だと思い込んだらしいハヴィが、血相を変えて駆け出そうとする。それを察したシサーが、素早く手を伸ばしてその腕を掴んだ。

「落ち着け。一人で飛び出して行って、万が一魔物に横合いから襲われたら話になんねぇだろ。一緒に行くから、落ち着いてついて来い」

「は、はい」

 いつでも対応出来るよう剣を握り締めたまま、俺は教会の周辺を見回した。教会の周辺に転がる幾つも肉片。土がむき出しのままの未舗装の道には、赤黒い染みが乾き切れずに濃く浮かんでいる。まるでここにある全てに染み付いているような濃い異臭。

「どうしてこんなことに……」

 ジークが呻いた。

「大方、助かろうと思って教会へ殺到した人間が襲われたんだろうよ」

 シサーの硬い声が返ってきた。

 ……なるほど。教会の中には魔物は立ち入れない。離れたところから遥々教会に避難するには、そこに辿り着くまでの道のりで魔物に遭遇してしまう為に諦めざるを得ないだろうが、この近辺の人や外にいた人なんかは一縷の望みにかけたのかもしれない。そうして、聖域である教会を目前にして、魔物に襲われたわけか。一見する限り多数の人間を受け入れられる規模の教会には見えないし、人々が殺到することによって魔物も殺到することになったんだろう。

 だとすると……。

 俺の考えが裏付けられるのは、間もなくのことだった。

 施設の敷地を覆うように巡らされている頼りない木塀の内側は、凄惨だった。

 ちょうど子供たちが外で遊んでいたところだったんだろうか。

 魔物の襲撃に逃げ惑い、教会へ向かおうとしたり施設の中へ逃げようとしたりもしたんだろう。

 だけど、教会に殺到する人々につられてこの周辺に集まった魔物たちの数は多分多く、この辺りにいた人たちは逃げ切れなかったと言うのが妥当なセンかもしれない。

 庭のあちこちに、食い散らかされた人間の遺体が転がる。俺の前を歩くハヴィから、奇妙な呻き声が聞こえた。次の瞬間、ハヴィが蹲って胃の中のものをぶちまけた。

「カズキ。まだその辺に魔物が残ってるかもしれねえから、油断すんなよ」

 そう言うシサーの剣は、今のところ警告光を発してはいない。当面のところは大丈夫だろうけれど。








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