第3部 ローレシアの戦禍 第2章 そして、王家の塔
第3部 ローレシアの戦禍
第2章 そして王家の塔
雲ひとつない澄んだ青空に、何羽もの海鳥が旋回するのが見える。
目を細めてそれを無感動に眺めていると、遠くから男に呼ばれた。
「おーい、坊主ー! もうじき船が出るぞー!」
その言葉に無言のまま片手を挙げて応えると、踵を返して男の方へと歩き出す。
男の立つすぐそばにはそれなりに大きな商船が停泊していた。積荷を運ぶ屈強な男たちが慌しく行き交っている。
「荷物は?」
親切に声をかけてくれる男に無言で顔を横に振った。荷物など肩に負ったこの荷袋ひとつだけだ。
「そうかい? しかし運が良かったな。ヴァルスは戦争中だから、真っ直ぐヴァルスまで行く船が今は少ないんだよ」
船への渡し板を渡る背中を、男の声が追いかけてきた。足を止めて振り返る。初めて微かな笑みを浮かべた。
「知ってる」
「巻き込まれんように気をつけるんだな」
「……。忠告はもらっとくよ」
それを最後に甲板へ上がると、彼――ゲイトは舳先に寄りかかった。
ヴァルスにある大きな港としてギャヴァンとフォルムスが挙げられる。他にも港は幾つかあるが、他大陸との窓口に使われるのは主にこのニ港だ。
しかしながら、ギャヴァンは沖に魔物が出没し、フォルムスはナタリアとの海戦が展開され、双方とも寄港出来る状況になかった。
ナタリアとの決着がつき、再びフォルムスが動くようになったのはここ一週間ほどのことらしい。ヴァルスはナタリアの撃退に成功した。
まだ戦の爪痕があちこちに残る為にフル稼働とはもちろんいかないようだが、少なくとも危険ではなくなったし、貿易による物資の出入りも期待しているのだろう。
トートコースト大陸の西北にある港にゲイトが辿り着いた時にはまだ出港を見合わせている状況だったが、ようやく船を出すことにしたようだ。ゲイトがヴァルスからこちらへ来る時には、ラグフォレスト大陸へ知人に無理を言って運んでもらうと言う手間を挟んだものだが、帰りは一本で帰れるのは助かる。
戦禍に巻き込まれないように、か。
先ほどの男の言葉を胸の内で繰り返し、ゲイトは鋭い目線を波間に投げ掛けた。
それは無理だ。自分は戦禍のただ中へ帰るつもりなのだから。
(グレンフォード)
――お前を消す為に。