第3部第1章第9話 メイアンの因業 前編(1)
メイアンからカサドールまでは、途中いくつかの町を経由しながら、メイアンで手に入れた馬で移動をする。
予想通り魔物の出現は多く、その道中は平穏とはとても言い難かった。
「……で、ここで留まってんだよ。だからここの部分をこう……ピックで押してやるだろ」
「え?ここ?」
「じゃねえよ。こっち。要は……ほら、ここでこう留まってんだろ。こいつを押し上げて、テンションで回転させてやりゃあ開くんだよ。簡単に言や」
「ああ……」
「で、こっちの……そう。その奥のボトムピンをまず確認すんだよ……」
そんな剣呑とした旅路の中、俺はシサーからは鍵開けの技術を、キグナスからは乗馬の技術を学んでいたりする。まったく、学ぶことが多くて大変だ。もちろん剣の稽古は未だ健在。なぜなら俺は未だにシサーから一本も取れない。
何で鍵開けなんか教わってるのかと言えば、例の海底のダンジョンでふとそんなことを思ったのを思い出したから。技術はないよりあった方が良いに決まってる。使う場所が出るか出ないかは運次第。
乗馬は、言わずもがな、だ。ひとりで馬に乗れるようになりたいから。他人の手を煩わせずに済むのならそれに越したことはない。
メイアンから移動をする間に立ち寄った町で買ったワイヤーで一番簡単な錠前の中身のモデルを作ってくれたシサーは、それを元にその仕組みを説明してくれて、更に開け方の講釈をしてくれた。それで俺が理解したところで、もうワンランク上の錠前。どうでも良いがこの人、どこでこんな知識を得たんだろう。
一番単純な仕組みの錠前の鍵開け、と言うのは、拍子抜けするほど簡単だった。まあ、これを小さな鍵穴相手にやるんだとまた違うのかもしれないが……こんなもんなんだな。それとも意外と才能あるのか?俺。
「何かあった時にピックがねぇとしょうがねーからな。靴にフックピック仕込んどきゃ、ピックもテンションも何とかなんだろ」
ともかく。
魔物と戦いながら進む道すがらそんなことをしつつ、カサドールまでは途中オスロー山地と言う割合緩やかな山越えをして、3週間ほどで到着することが出来た。鍵開けはちゃくちゃくと腕が上がり、初歩的なものなら何とかなりそうな気がする。乗馬技術の方がどちらかと言うとおぼつかない。
大体、乗馬の何が駄目って、乗ってるだけで痛くなると言うのにこれを自分で制御しようと思うと、馬を挟みつけている膝の皮が剥けてくる。太股も擦れてくるし、そもそもが鞍だって俺の住む世界ほどには発達しているわけじゃない。乗馬を制す頃には鍵開けがプロ並みになっているかもしれない。そのくらい、時間を要しそうだ。
辿りついたカサドールの街は、小綺麗で閑静な雰囲気の街だった。
何か幾何学的な模様を描いて色とりどりの煉瓦が敷き詰められた幅広の通り沿いに、こじんまりとしたお洒落な店が並んでいる。区画整理もきちんとされているような整然とした道が交差していて、通りを歩く人たちも淡い金髪や上品な栗色、青や碧の瞳が多く、西洋にいるような気がした。
「さて……とりあえずは、公庁か」
カサドールには気候や海域を調査したり研究する機関があると聞いている。気象庁と海上保安庁が一緒くたになってあると思っていーんだろーか。街並みが整然としているのも、国の公的な機関があるせいなんだろう。そういう公的機関の建物を総称して公庁と言うらしい。ここの公庁は正式には天理調査府と言うようだ。
ラウバルから書状を預かっている俺たちは、ともかくもまずは公庁へ行く必要がある。街の出入りを守っている詰め所に足を向けた。詰め所で公庁の偉い人――天理長官のカール公と言う人に中継ぎを頼み、しばらくしてカサドールの街の中心部にある公庁へと案内してもらう。
そこでまた中継ぎを頼み、書状を預け、カール公に会えたのは、応接室で待つこと10数分した頃だった。
「お待たせ致しました」
柔らかな挨拶を口にしながら姿を現したカール公は、背の高い、けれど威圧感のない爽やかな風貌の男性だった。マリンブルーの短く刈り込んだ髪が、若々しく見える。年の頃は恐らく30代後半か40代前半といったところだろうか。柔和な雰囲気の人物で、身につけた官服がしっくりと馴染む上品な人だ。
「書状は拝見させて頂きました。宰相殿から事前に通達も受けております」
下官が、テーブルについている俺たちに飲み物の入ったカップを配り終えると、彼を退室させたカール公は、おもむろに俺とユリアの前に片膝をついて深く頭を垂れた。何だ何だ。
「お初にお目にかかります。私はカサドール天理調査府調査官吏長官カール・ダーレン・フォン・ヴェルゲンと申します。レガード殿下並びにユリア皇女様におかれましては、ヴァルスの為これからツェンカーまで足をお運びとのこと。痛みいります」
参ったな。
ラウバル、俺のことをレガードだと言って通知したのか。……いや、でもカールは官僚なんだし、後々本物のレガードと会う機会があるかもしれないし、俺がレガードじゃなかったら後で「じゃああれは誰だったんだ」ってことになんのかもしれないけどさ……やりにくいじゃないか。
「レガード殿下が皇帝位に就かれた暁には、ますますお力になれるよう鋭意努力致す所存でおります。お見知り置きを」
「あ、はい」
思わずちらりとユリアを見ると、ユリアも無言で俺を見上げた。立場上、『レガード』を差し置いてユリアが応じるわけにはいかないからだろう。そう思って答えてはみるものの、プロの方々のようにいくわけがない。何とも曖昧な返事をする俺に気づく様子もなく、カール公は頭を下げたままで続けた。
「こちらにご滞在の間は、尽力を尽くして……」
いやいや、そんなに長い間、いないから。
ともかく立って座って欲しいんだがどうして良いのかわからずに困惑している俺に、ユリアが小さく吹き出した。それからカール公に声をかける。
「カール。お気持ちは良くわかりました。ともかくも、お立ちなさい」
「しかし」
「わたくしたちがこちらへお邪魔していると言うことは、公的には内密の事項となっています。あなたの様子がそのようでは、大声で宣伝しているも同然ですよ」
ユリアの笑いを含んだ声に、ようやくカールが顔を上げた。それから、笑う。
「椅子におかけなさい」
「では、失礼して」
官吏ってのは、面倒くさいなあ。公職にあるから、下手なことは出来ないんだろうけどさ。
ユリアのくだけた態度に、カール公も少し相好を崩してようやく向かいの椅子に腰を下ろした。
「レガード様。わたくしの口からお話しても宜しいですか?」
「うん……頼む」
ゼヒオネガイシマスと頭を下げたい気分だ。俺が困っているのを見かねて、だけど俺――『レガード』を立てる為にそう尋ねてくれたんだろう。気遣いに感謝。
ユリアは俺の回答に目を優しく細めてくすりと微笑むと、カール公へ改めて向き直った。
「それではわたくしから紹介しますね。こちらがシサーとニーナ。フリーの傭兵です。彼らはラウバルの指示を受けて動いています。そしてこちらがキグナス。宮廷魔術師シェインの甥です」
そこでカール公が、微かに目を見張った。紹介されたキグナスに視線を向ける。それから微笑んで口を開いた。
「さようでございましたか。シェイン様には、個人的にご恩があります」
「え?」
「私事でございますが。……失礼致しました。お続け下さい」
シェインに個人的なご恩?
レオノーラから離れたカサドールの地にまで知人がいるとは、何て顔の広い人なんだろう。
カール公の言葉に、ユリアが頷いて続けた。
「わたくしたちのリーダーはシサー。わたくしとレガード様はそのパーティの一員に過ぎません。あくまでラウバルに派遣されたシサーを中心とするパーティとして、今後振る舞って下さい。……良いですね?」
「はい。かしこまりました」
「何かあれば、全てシサーに。シサーもそのように。宜しいわね?」
「もちろん」
「では、後の話は頼みます。シサー、そしてカール。お話を進めて下さい」
そこまで言って、ユリアは身を引くようにテーブルにかけていた手を下ろした。ユリアの視線を受けて、シサーが頷く。
「あんまり堅苦しい空気は得意じゃない。ユリアもレガードも、公式訪問じゃない今は王侯だってことを一旦忘れてくれ」
「わかりました」
「じゃあ話を進めよう。ラウバルからどのように聞いているかを教えてもらえるか」
シサーの問いに、カール公が頷いた。
「現在帝国継承戦争の戦況において、ヴァルスは芳しい成果を上げることが出来ずにいると伺っています。王都ウォルムスの制圧、ロンバルトの陥落」
そこまで言って、カールはちらりと俺を見た。『俺』が『ロンバルト王子』であることを気遣って、言葉を選んでいるのかもしれない。実際は俺は、ロドリスへ行く途中にロンバルトを通過したに過ぎないんだが。
「モナに援軍を要請しているものの、モナは国内が整っていない。このままでは身動きが取れないので、レガード様とユリア様が直々にツェンカーへ足を運ばれて、協力を求められると伺っています」
言いながらカール公は、背後の壁際にある小棚に手を伸ばした。巻いてあった地図を引き寄せ、テーブルに広げる。
「その際に進路は、このカサドールから海路――モナのオラフからマカロフへ乗り継ぎ、そこから陸路を取って行かれる。我々カサドールの役目は、モナのオラフまで安全に送り届け、更にマカロフまで渡る船の手配を」
「そうしてもらえるとありがたい」
シサーの肯定に、カール公も無言で頷いた。それから、一度視線を地図に戻して短い沈黙を挟んだ後、再び吐息混じりに口を開く。
「それから、我々はラウバル殿より、もうひとつ指示を承っています」
「もうひとつ?」
「はい。カサドールは、今回の戦役にまだ兵を出していません。温存しておくよう指示を受けた為です」
「ほう」
「その温存兵力を持って、モナへ向かえと」
沈黙が降りた。
カール公は地図から顔を上げて、ぐるりと俺たちに視線を向けると、言葉を続けた。
「ひとつは、モナの国内を整える為ですね。我々カサドールは、公庁のある街の中で最もモナに移動をしやすいことから、モナの動向や彼らへの通達の役目を負っています」
「『モナ担当』か」
「その役目の一環として、モナの国内を早急に整える為に派兵を決意されたと言うことです。……理由のひとつとしては」
繰り返すように付け足したカール公に、シサーがちらりと目を上げた。微かに目を細めて、カール公を促す。
「……別の理由としては?」
「リトリアの動向の、監視です」
シサーに答えて、カール公も微かに声を落とす。どうやらそちらの理由が本命のようだ。
「リトリアの動向?」
「はい」
「どういうことだ?リトリアがロドリス側についたと言う話は聞いたが」
「ええ。リトリアは連合軍に下りました。けれど今はまだ、参戦はしていません。しかし動き始めてはいます」
「だろうな」
「……西へ」
西?
シサーが息を飲んだ。
「リトリアの狙いは、モナ?」
「の可能性があります。それがロドリスとの協議の結果の行動か、あるいはリトリアの独断かは定かではありませんが、リトリアはこの混乱に乗じてモナの制圧を目論んでいるかもしれません。だが現状、国の整っていないモナは、リトリアに攻撃されればひとたまりもない」
「放っておくわけにはいかないってか?」
「リトリアにモナを制圧され、彼らが国内を整えれば、こちらの援軍として徴収するはずだった兵力は逆にこちらに牙を剥くことになる」
なるほど……。
カール公が広げてくれた世界地図を睨みつけながら、その言葉に暗澹たる気持ちになってくる。
モナは現状、一度ヴァルスに敗北していることもあって、大した戦力にはならない。ならないけれど、進退窮まっているヴァルスとしては僅かな援軍でも欲しい。だから暫定政権の元、援軍の調整と国内の整理を進めているはずだ。とは言えそれはとても、無傷のリトリア国軍が乗り出してきて太刀打ち出来るレベルにはない。モナ軍がヴァルスの援軍として協力体制を敷いて戦うならばまだしも、リトリアがモナ本国に攻め入ってことを構えればひとたまりもなく、ヴァルスはもちろんそれを助けているどころではない。そうしている間にリトリアがモナを完全制圧し、ヴァルス援軍になるはずだったモナ軍がこちらを攻めてくるとなると……もう、収拾がつかない。
フレデリクが行方不明だってことが話をややこしくしているんだろうな、多分。
元々ヴァルスを攻めてきた公王が今もモナに君臨していればまた状況はいろいろと違った……それも、ヴァルスにとっては不利な状態で違ったんだろうが、フレデリクはおらず、暫定政権はヴァルスへ抵抗を試みているわけではないから、ヴァルスとしては戦役の敗北措置としてこちら側に引き戻すと言う手段が可能となっている。だからこそ、リトリアがモナを攻める姿勢でいれば、放っておくわけにはいかないわけだ。
「カサドールだけで、足りんのか?」
シサーの問いに、カール公は、またため息をそっとついた。力なく顔を横に振る。
「もちろん、我々だけでリトリアを相手取れと言うのは無理な話です。ですが放っておくわけにはいかず、ともかくも状況の把握、モナ国内の整備、防戦の指揮は執らねばなりません」
「……なるほど」
「ですので、すぐにでも出発をしなければならないのは我々も同じですが……」
そこまで言って、カール公は渋い顔で言葉を途切れさせた。それから、無理矢理作ったような苦笑を浮かべる。どこか疲労したような顔つきだった。
「カサドールは、荒れてきています。……それが、気がかりです」
◆ ◇ ◆
「カズキ、出かけんのか?」
「うん。その辺見てこようと思って」
カール公との話を終えて、ともかくも俺たちをオラフへ運ぶ連絡船の出発は明後日となった。今日、明日と、公庁のすぐそばにあるカール公の邸にご厄介になることにして、借りた部屋に荷物を置いた俺が階段を降りていると、上からシサーに声をかけられた。
カール公もハーヴェル卿と同じく上級貴族だ。屋敷がでかい。ひとりに一部屋与えられてしまったし、更に言えば『ヴァルス後継者』である俺とユリアは、フロアさえ違う部屋を与えられてしまった。同じフロアで良いのに。
「キグナスは?」
俺の後を追うようにトントンと階段を数段降りてきたシサーが、首を傾げる。
「カール公から面白い魔術書を借りたとかって、部屋に籠もってる」
「んじゃひとりで行くのか?」
「うん」
頷いていると、今度は下からユリアが上に上がってくるのが見えた。階段に止まったままで話している俺とシサーに首を傾げる。リボンで留めた長い髪が、動きにあわせて揺れた。
「どうしたの?」
「ユリアも連れてったらどうだ?」
「何?」
「いや……どっかその辺、散歩して来ようかと思って。……行く?」
聞いてみると、ユリアはぱっと顔を輝かせた。
「行きたい」
「そう?じゃあ……何か見てきて欲しいものとかある?」
「また、明日にでも買出しに行けば良いだろう。今日は気にしないで散歩して来ていーぜ」
「わかった。……ユリア、行こう」
「うん」
にやにやと手を振るシサーを軽く睨みつけて、ユリアを促す。階段を上りかけたままで足を止めていたユリアは、俺が降りてくるのを待って一緒に出口の方へと向かった。
俺たちがカサドールに到着したのは、昼過ぎくらいだ。そこから公庁を訪問してカール公と話し、今の時間はまだ夕刻。食事にも寝るにも早過ぎる時間だ。1時間か2時間くらい街を散歩してみるとちょうど食事の時間帯だろう。
「ユリア、レイアは?」
「どっか行っちゃったわよ。……わたし、カサドールって初めて」
屋敷を出て、長い庭を抜け、通りに出るとユリアが言った。その言葉に、俺は小さく吹き出した。
「ユリアはどこも初めてだなぁ……」
「だって……あちこち行く機会なんてなかったのよ」
俺の言葉に、ユリアが拗ねるように唇を尖らせる。
カール公の屋敷は、公庁の建物が見える、貴族の屋敷が立ち並ぶ一角にあった。この辺は上品過ぎてあまり面白そうじゃない。街の入り口の方まで戻れば、大通りに面して店とかが並んでいたから、そっちの方まで行った方がいいだろうな。
そう思いながら、ユリアと並んでのんびり道を歩く。こうしてユリアと2人で街を歩くのは最初のギャヴァンまで遡るなあなどと思いながら、何となく辺りを行き交う人に目を向けた。カール公の言葉を思い出す。
カサドールが、荒れてきていると言っていた。
カール公は、それがとても気がかりなのだと言う。
その話によれば、現在カサドールには、武器や防具などの売買を違法に行う組織が流れ込んできて、盛んに活動をしているらしいと言うことだった。
こういうご時世だ。武器や防具は需要があるし、需要があれば高値が付く。高値が付くものならば裏で商売しようとする人間はもちろん出るだろうし、違法に商売をしている人間がいれば違法に取引をしたい人間も出てくる。
戦争の影響やシー・サーペントのせいでギャヴァンやフォルムスなどの大きな港が封鎖されてもいるし、通過出来ない場所なんかも増えている。そこで、俺たちがカサドールを行路に選んだように、ローレシア北部との中継地点としてカサドール、ギャヴァンとの中継地点として更にメイアンなどが闇取引の場所として選択されているらしく、このところ治安が悪くなって来ているのだとカール公は言っていた。
でも、こうして見ている分には治安の悪さなんて感じないけどな……。メイアンならわかるが、カサドールは街並みも綺麗だし、風体の悪い人間がたまっているようなこともなさそうだし。
カサドールを拠点にしているらしいそういう組織の中でも特に悪質な……武器屋から盗み出したり、正規のルートの積み荷を襲撃したりしている組織は、果ては不法に人身売買まで行うこともあるらしい。特にやり方がえげつなく、かつ狡猾でメンバーの顔も行方も掴めない『紳士倶楽部』と言うふざけた名前の組織があるのだと言う。武器が必要なのはモナへ派兵するカサドールの軍も同じだから公庁も品不足になるし、とにかく悪質な『紳士倶楽部』だけでもモナへ派兵する前に何とか摘発したいと考えているのだが、どうにも拠点としている場所を掴めずにいるのだそうだ。これまでの調査で得た情報からすれば大した人数ではなさそうだから、拠点を押さえれば一網打尽に出来そうだと言っていた。
武器ってのは、普通にしてても高いもんな。需要が高まって、更に闇取引なんかじゃあ相当高く売れんだろう。良い商売なんだろうが。
「この街は金髪碧眼の人が多いね」
「そうね。わたし、カサドールの人に見えるかしら」
と言われても、そもそも俺にはこの世界で人を見て国の区別さえつけられない。
それに、同じ『金髪碧眼』とは言え、ユリアの髪や瞳の色が一番綺麗に思える……とは、さすがにキザ過ぎて死んでも言えない。
今はユリアは髪を長いリボンで留めているが、俺が以前あげた髪飾りは今も大切にしてくれているらしく、時折使っているのを見る。こういう機会にでもまた新しいのをあげたいとは思うものの、所詮はやっぱり他人の金。俺自身に稼ぐ手段でもあればいーんだが、そんな手段もなけりゃ時間もない。