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QUEST  作者: 市尾弘那
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第3部 ローレシアの戦禍  第1章 氷竜トラファルガー

第3部 ローレシアの戦禍

第1章 氷竜トラファルガー


(ちッ……しつこいッ……)

 リトリア王国とロドリス王国の国境間際リンドンの町へ差し掛かる山道を、少女はもの凄い勢いで疾走していた。その後を、複数の足音が追いかけていく。

 追われる少女の年の頃は15、16くらいだろう。まだ女性と言うには幾分幼い。流れるように艶やかな長い山吹色の髪を無造作に束ね、更に覆うように薄汚れた布でくるんでいる。栗色の瞳には険しい色が浮かび、腰には似合わぬ長剣が携えられていた。

「どこへ行ったッ!?」

「あっちだ!!足音が聞こえるッ!!」

 いかに静かに駆けようとも、山道であれば草木の揺れる音が嫌でも立つ。

 とても穏便とは言えそうにない怒号が飛び交い、届く声に、少女の表情が焦りの色に染まる。このままでは遠くないうちに確実に、追い詰められるだろう。

 剣は使える。だがひとりで相手取れる人数には限界がある。今は逃げるより他に、生き延びる術はない。捕らえられたらどうなるかなど、考えたくもなかった。

(権力に集る小蠅共がッ……)

 内心毒づきながら斜面を駆け降りかけた少女の足が、怯んだように止まった。前方からも足音……回り込まれたか。

(くそ……)

 見た目にそぐわぬ荒々しい言葉遣いで胸中に吐き捨て、半ば諦めかけて剣に手を伸ばす。ただただ捕まってなどやるものか。どうせ人生の終幕を迎えるとしても、何人かを道連れにしてくれる。奥歯を噛み締め、前方を睨みすえたまま剣を引き抜きかけた矢先、不意に脇の茂みから伸びた手が少女を掴んだ。

「何ッ……」

 驚愕が漏らした呟きごと、少女の体は茂みの中へと引きずり込まれた。口を押さえられ、言葉が出ない。無論、悲鳴をあげたところで助けてくれる人間などいはしないことはわかりきっている。

 言葉を奪われたまま、少女の体はそのまま上方へと引き上げられた。鬱蒼と茂った木の上だ。抵抗する術もなく、少女は何者かのされるがままにその大きな木の枝葉の間へと押し込まれた。眼下で、少女を追いかけていた武装兵たちが通り過ぎていく。もちろんそんなものを見ている余裕などどこにもない。

(誰……)

 口を押さえられたまま、少女は自分を押さえつけている人物に目を向けた。男性だ。屈強、とは少々言い難い。どちらかと言えばインテリ風の細面の顔……どこか、気品さえ感じさせる。

 青年は少女の口を塞いだままで、モスグリーンの瞳を暗闇に定めていた。何者かは全く判明しないが、ともかくもこの男が自分を助けようとしてくれていることだけは肌で感じる。

「何!?いなかったのか!?」

「ちッ……あの小娘、どこに行きやがった」

「探せッ。道などそれほど多くはない」

 双方の武装兵たちが、少女を見つけられぬままに出逢ってしまったらしい。怒りにまみれた声が聞こえ、そっと息を飲む少女の前で、青年がこちらに視線を向けた。自分の口元に人差し指を立てて当てると、少女に向かって上を指す。もっと上へ上がれと言うことらしい。

 それに頷いて、少女は青年の拘束から逃れた。木の幹に足をかけ、枝を揺らさぬよう慎重にもう一段上の太い枝へと足をかける。

「この辺にはいないようだな」

「もっと奥を探せッ」

 息を詰めて少女と青年が見守る中、悪意を塗した武装兵たちの声が少しずつ、遠ざかって行った。










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