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QUEST  作者: 市尾弘那
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第2部第2章第25話 海底のダンジョン5 【浄化】 前編(2)

 言いながら、ようやく立ち上がる。俺の真横に座り込んでいたキグナスも一緒になって立ち上がった。

「畑のど真ん中に放り出されたな」

 あー……やっぱ、パターンが違う。

 いくつかあった祭壇ってのは、やっぱりナタが言った通りだったんだろうか。迷惑な。

 憮然と顔を顰めている俺に、シサーがほっとしたような笑みを覗かせた。

「良く、抜けられたな」

「ああ、うん。ナタが……」

 頷きながら俺は、少し離れた俺の背後でこっちを見ているナタを振り返った。みんなの視線がそっちを向く。

「……彼女は?」

「初めましてぇー」

 シサーの目線に、ナタがにーっとえくぼを浮かべて笑う。紹介しようと思って片手を挙げかけた俺は、そのまま言葉に詰まった。

「ええとー……」

 プリースト……とは、言われたくないんだろうな。

 何者か……は、俺も知らないし。

 まさか祭壇で移動出来る……なんて、どう考えても異常だろうから興味をひかずにはいられないだろうし。

 ……困った。

「そのー……」

 シサーたちが俺の紹介を待っている。

「……ナタ」

「……」

 仕方ないので名前だけ紹介してみると、シサーたちはきょとんとしたまま彼女に視線を戻した。ナタが爆笑する。……笑うなよ。あんたの紹介に困ってんだからさ。そういう態度だと言っちゃうぞ。

「えーと、その辺で知り合ったって言うか……」

「その辺ッ!?」

「ダンジョンだぞッ!?」

 ですよね。

「あのー……実は前にも会ったことがあって……あッ」

 そう言えば昔、シサーには簡単に話したことがあったっけ。確か……キサド山脈麓の、リノの村で。

「シサー、このコだよ。前に言ったパララーザの……」

 いきなり思い出したように言う俺に、シサーが首を傾げる。少し思い出すような顔つきをするその横で、パララーザに反応したニーナがシサーを横目で睨んだ。

「ああ。このコか。紫の……って」

「そうそう」

 勝手に通じあった俺とシサーに、ナタが首を傾げる。

「何?」

「いや、前にナタにヘイズで助けてもらった後……シサーに話したんだ。パララーザの話を。俺はナタってパララーザの子供だと思ってたし……。そしたらシサーはナタのことを知らないって言ってたから、あれ?って思ってさ」

「ああ」

 ナタがシサーを見上げた。

「パララーザの知り合い?」

「ってほどでもねぇけど。俺も奴らも年中うろうろしてるから、何度か遭遇したことがあるって程度の話だ」

「ふうん?」

「ヘイズって、ヴァルスのヘイズか?」

 キグナスが口を挟む。そっちに頷いて、俺はその時のことを簡単に話した。

「レオノーラから最初、シサーに会う為にギャヴァンに向かってて……深夜にヘイズについたら衛兵に中に入れてもらえなくてさ。そしたらたまたまパララーザと一緒にいたナタが、中に入れてくれたんだよ」

「んで、それが何で……」

「いや、何か再会しちゃったもんだから」

 曖昧に濁す俺に、シサーは不審げに軽く片眉を上げたが、あまり話したくないのを察したのか「まあいーや」と話を切り上げた。シサーってこういうとこ、あっさりしてて助かる。

「あ、そうだ、カズキ」

 今の話を忘れ去ったような口調で、シサーがころっと言って荷袋に手を突っ込んだ。

「これ、やる」

「え?」

 そう言ってシサーが取り出したのは……魔法石。

「ええ?」

「この階層にぽつぽつ落ちててな。ありゃああったで便利だから、拾っといた」

 言いながらシサーは、手に掴んだ魔法石をごろごろと俺の手の中に落とした。大小色とりどりの石が7……8個。

「気がつかなかった」

「便利だろ?」

「もらっちゃっていいの?ありがとう」

 礼を言いながら荷袋にしまいこんでいる俺に、シサーが笑う。

「礼を言われるこっちゃねぇだろ。カズキがそれを使う時は、援護してもらってんのはこっちだ」

 それはまあ、そうだけどさ。

「とりあえず、カイルたちが戻るのを待とう」

 促されて洞窟の入り口まで戻ると、荷物を放り出す。安心したせいか、体がふっと軽くなったような気がした。

 いや……軽くなったのは、心だったかもしれない。

「シサーたちも、会ったの?……スウィニに」

 荷物を放り出して座り込みながら尋ねる俺の前で、シサーがダイナマイトみたいな筒状のものに繋がっている『炎の種』を引火した。

「シンたちにカズキ見つかったって教えてやんないとな」

 にっと笑うシサーの手元から、煙幕じゃなくて閃光弾のようなものが打ちあがる。……へえ。こんなもん、あるんだ。

 目を丸くしてその閃光弾がぱっと空に散るのを眺めている俺の前で、シサーが手近な岩に腰掛けながら先ほどの俺の質問に答えた。

「ドワーフのガキな」

 やっぱりスウィニはそっちにも出たらしい。出迎えロボットみたいなもんか?随分な出迎えだったけど。

 スウィニは俺に『最も恐れている敵』とか何とかって言ってた。じゃあ相手によって戦う敵ってのは変わったりするんだろーか。シサーたちみたいに複数の場合ってどーなんのかなあ。俺とナタの場合は何だか一緒くたになってたけど……。

 ……あれって何でなんだろ。何かマニュアルじゃないけど、あんのかな。誰かひとりをランダムに選ぶとか、一番嫌がる度合いが高いとか。

 スウィニの言葉は、明らかに俺に向けられてた、よな。何でなんだろ。何で?

「何、された?」

 聞いてみる俺に、シサーが軽く笑う。

「何されたって……」

 けたけた笑いながらシサーは、キグナスの背後、俺の位置からは正面に聳える山を親指で示した。

「何か仲間を助けて欲しいとか言ってあの……山ん中まで連れて行かれてよぉ……」

 山ぁ?

 俺とイベントが違う。

「何につかまってるとかどうしてつかまったのかは、ろくすっぽ答えやしねぇ。何か臭ぇなと思ったら、いきなりとんでもねぇものを出しやがった」

「とんでもねぇもの?」

 黒竜グロダール、とシサーが呟く。……グロダールッ!?

「だってグロダールはッ……」

「幻影だろう。……いや、ここの言葉を借りれば『虚影』か。ともかくその類だ」

 だってあいつは、死んだんだから……と笑いを収めたシサーの目が前を見据えた。

「人生ん中で2度もあんな奴と戦う身にもなれっての……寄りによってあいつ出しやがるかんなー」

「倒したの?」

「いや。途中で消えた」

「カズキッ」

 消えた?

 首を傾げている俺の背中から、ゲイトの声が聞こえた。立ち上がって振り返る。

「無事だったのかーッ」

「ごめん。探させて。ありがとう」

「怪我はしてないか」

 心配してくれているとはとても思いにくい無表情で、シンがゲイトの後に続く。その後から更にカイルがこちらへ戻ってくるのが見えた。

「うん。大丈夫」

「すぐ、出発するのか」

 シンは俺を素通りしてシサーに尋ねた。シサーが俺に確認するように視線をくれたので、応えて頷く。

「俺は平気」

「だそうだ。じゃあ、すぐに出発することにしよう」

「これでも食っとけ」

 立ち上がって歩き出したシサーに続こうとする俺に、シンが何かを放った。咄嗟に受け止めて、目を丸くする。ロートスの実。

「ひとりで切り抜けてきたんじゃ、疲労は抜けないだろう」

 そっけなく言いながら通り過ぎるシンにきょとんとしたままの視線を送っていると、ゲイトが笑いをかみ殺すような顔をした。

「ああ見えて、結構心配性」

 あ……そうなのか。

「シン、ありがとう」

 慌てて言いそびれた礼を口にする俺に、シンがちらっと横顔だけ振り返ってひらひらと片手を振った。それきりそっけなく歩いていく。

 そうか……心配、してくれてたのか。

 ありがたくロートスの実を齧りながら、みんなの後についていく。みんなが心配をしてくれたことが、素直に嬉しい。

「よっしゃ……行くぜ」

 シサーの声に応えるように、ニーナが妖精語の言葉を唱え始めるのが聞こえた。 


          ◆ ◇ ◆


 スウィニが言っていた『扉を開ける言葉』をニーナが口にして、何もなかったはずの洞窟の奥に、するすると扉が姿を現した。そこから中に入ると狭い洞窟のような通路に繋がっていて、果てはさほど遠くはない。

「グロダールが消えたってどういうこと?」

 すぐ先に見える明かりを目指して歩きながら、先ほどの言葉の続きをシサーに問う。俺の斜め前を歩きながら、シサーはぐりぐりと首を回しながら「さぁ〜てな」と答えた。

「かんねーんだよなー。途中で、消えたんだよ。そんでスウィニがいきなり取り憑かれたみてぇにしゃべりだしたんだ」

 ここへの道筋をな、とシサーが親指でこの洞窟への入り口を示す。……ふうん……。

 グロダールは、途中で、消えたんだ?

 何だか良くわからないなあ。キグナスを除いて他の全員はグロダールとの戦闘経験があったり、なくたってギャヴァン市民なんだからグロダールの怖さって奴は多分良く知ってるんだろう。だから、グロダールが出るのはまあ……良いんだけど。

「何かのバグじゃねぇか」

 そんなゲームみたいなことを言わないでくれ。

「スウィニが何か変なことを言っていたのよね」

 扉を開けるだけ開けると、先行を盗賊チームとゲイトに攫われたキグナスに任せることにしたらしいニーナが、不意にこちらの会話に参加してくる。

「変なこと?」

「『歴史は繰り返す』」

「……」

 セリフも……俺たちに言ったものとは違うようだ。思わず、隣を歩くナタと顔を見合わせた。

「……どういう意味?」

「言ってる意味は、大体わかるのよ」

「要は、かつて村を失ったように同じことを繰り返すなってぇ話でな。人との共存、それと平行して自分たちの手で自分たちを守れってなことを言ってはいたんだが」

 ああ……言い回しは違ってても、言っている内容にそれほど相違はなさそうだ。

 そこで一度言葉を途切れさせたシサーに、ニーナが後を引き取るように顔をしかめた。

「だって、まるで何かを暗示してるみたいじゃない」

「どういうこと?」

「俺たちにとってはグロダールとの戦闘は『通り過ぎた歴史』だ。その戦闘が途中で奴が消え、『歴史は繰り返される』……まるで、終わってねぇみてぇだってさ」

 シサーは苦笑いを浮かべて、ニーナを親指で示した。

「考えすぎだって言ってんだが」

「だって」

 苦笑するシサーに、ニーナが拗ねるように唇を尖らせた。

「嫌なのよ、何だか。気持ちが悪いんだもの」

「考えすぎだ考えすぎ。倒したろ」

「それは、そうなんだけど……」

「……そう言えばさ」

 話の流れで、何となく、思う。……考えすぎ……俺こそ、考えすぎ、とは……思う、んだけど……。

「グロダールの死体って、どうなったの」

 俺の問いに、シサーが虚を突かれたような顔をした。ぽかんと俺の顔を見つめてから、考える。

「砂化した……んじゃ、ねぇかな」

「……」

 砂化……。

 何だろう。何が引っかかってるのか良くわからない。良くわからないけど……。

「ドラゴンゾンビ、ってのに、遭遇……したよ」

 ぽつっと、不意に思い出したことを口にする。シサーがちょっと嫌な顔をして俺を見下ろした。

「お前、今、凄ぇ嫌な方向に話が向かってるの、わかってるか?」

「……うん。でも、怖いよね?そういう可能性とかさ」

 真面目な顔でそう続ける俺に、シサーが何か考えるような目つきをする。黙ったシサーを置いて、ニーナが口を開いた。

「にしても、良く生きてるわね、カズキ」

「は?」

「だって、ドラゴンゾンビだなんて。難易度は相当のものよ?」

「あー……」

 うん、まあ確かに俺ひとりなら確実に死んでた。生きてるのはナタのおかげだけど、ナタが神聖魔法を使うと言えないから、しょーがない、また曖昧にごまかす羽目になる。

「はは……まあ、何とか……」

「ドラゴンゾンビか」

「? 何?」

 引っかかったような顔で呟きながら足を止めるシサーに、顔を向ける。尋ねようと口を開きかけた俺を遮るように、ゲイトとキグナスの歓声めいた声が響いた。

「おおー」

「凄ぇ〜」

 その声に、考え込んでいたシサーがはっと顔を上げる。

「ああ……抜けたらしいな」

「今、何考えてたの」

 歩き出すシサーにつられて、俺も止めた歩みを再開しながら改めて尋ねる。それに答えてシサーは口を開きかけたが、答える前に何かを振り払うように2、3回頭を軽く振って笑顔を覗かせた。

「……いや、何でもない。行こうぜ」











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