第2部第2章第13話 盗賊ギルド 後編(1)
「足下、気をつけて下さいね」
さっきと同様、目隠し状態の俺のそばに控えてくれているゲイトが注意を促す。幸い、武器は返却をされて手も縛られていないけど、見えないのはやっぱり心もとない。
今度はゲイトを除いて俺たちを『連行』しているメンバーは、顔触れが違った。
ジフ、シン、カイル、カイルと反対側に控えていたリグナードと言う男性、そしてゲイト。
またも暗闇を不安定な足取りで歩きながら、さすがに心が騒ぐのは否定出来ない。
俺たちがさっき連れてこられたのは第2支部と言うところで、これから移動しようとしている先は、ギルドでさえ幹部しか知らないと言う、本部だ。
そして俺たちがそこへ向かっている理由はただひとつ……『レガード』が、そこにいるからだった。
「はーい。曲がりますよー」
少しは警戒を解いてくれたのか、さっきより軽い口調で促すゲイトに苦笑しながら、俺は先ほどの話を思い出していた。
「まず、あんたたちの正体がわからんことには話せないな」
レガードの名前を口走った俺に、ジフがぐるりと首を回しながら言う。見据える目線は鋭く、口火を切った責任から俺は、何からどう話したものか迷いながら口を開いた。
「ヴァルスの現状を、知ってますか」
俺のいた世界なら、テレビがあり新聞がある。ネットもあるし、情報は細部に至るまで物凄い速さで届けられる。総理大臣に誰が就任したとか、倒れたとか、そんなの高校生の俺の耳にだって届くけれど、この世界でそういう上位階級の人間の情報と言うのがどのくらいの速さで民間人にまで下りてくるのかがわからず、俺自身、それは素直な問いでもあった。
「ヴァルスを治めていた国王クレメンス陛下が崩御されたのは、知ってますよね?」
「あぁ。まだ正式な後継者が即位したって話は聞かないけどな」
ジフのその言葉が、どの程度本音で話しているものなのかがわからないよな……。レガードのことを正確に知っているなら、即位しているはずがないことくらいわかるはずだ。
「クレメンス陛下には、娘しかいない。それがユリアです」
「それは、知ってる」
「俺たちは、彼女から依頼を受けてレガードを探しているんです」
「……」
沈黙のまま、ジフの目線が話を促す。それに従って、俺は言葉を続けた。どこまで話して良くて、どこまでが駄目なのかが微妙なんだけど……もうここまで来たら俺の判断で話すしかないだろう。まずいことがあれば、シサーやニーナが止めるだろうし。
「ヴァルスの王女であるユリアは、ロンバルトの第2王子レガードと婚約をしている。……レガードは、ヴァルスの次期国王です」
「正式な華燭の儀は行われてないんじゃなかったか」
その問いに、俺は記憶を掘り起こしながら頷いた。……そう。確かに、婚約の儀式みたいなのを行う前にロドリスと揉めて、クレメンスが倒れた。正確に言えばレガードはユリアの婚約者とは言えないんだろうけれど、ヴァルス国王が直々に認めたんだ。婚約者と言ってしまっても構わないだろう。
「あくまでそれは、形式上の話であって、実情は婚約者です。クレメンス陛下はもちろん、ユリア本人もそう思っている。段取りが狂っただけのことだと俺は認識してます」
「ま、そうだろうな。聞いてる限り、ごたごた言ってるのは外部で、ヴァルス内に異論はなかったわけだから」
「ええ。……でも、そのレガードがある日突然行方不明になった。原因も場所もわからない。だけど、何とか見つけなきゃならない。……特に今は、火急です」
既に諸国は動き出している。ユリアはヴァルスを守らなきゃならない。……だけど彼女は、諸国の他の国王と違って、戦場に立つことは出来ない。
「各国との火種が燃え上がろうとしている。ユリアには支えてくれる手が必要なんだ。レガードが、無事に戻ってきてくれることが」
「……そうだろうな」
頷いたジフは、目線を俺に定めたままで腕を組んだ。
「だが、そこであんたらがどう絡むんだ?何であんたはそんなにレガードと似てる?身内か?」
「俺は、レガードが行方不明になった経緯を掴む為に泳がされてる、囮だからです」
ここまでは、シンに話したことだ。シンがジフに話したのか話してないのかはわからない。齟齬が出ないか試されているのかもしれない。
「シャインカルクは、レガードが行方不明になった経緯を全く知らない。唐突に行方不明になったレガードの行方を知る為には、行方を絶った時と同じ状況を作り出すことが手っ取り早いと考えた。そこで選ばれたのが俺です。俺はレガードに会ったことはないけれど、見ての通りレガードにそっくりだから」
と他人に言われているだけで、俺本人は知らないが。
「シサーたちは元禁軍で、単体で戦力にならない俺のフォローをしてくれている。キグナスは、宮廷魔術師の甥です」
ジフが少し驚いた顔をした。確認するように送った視線に、キグナスが頷く。
「ヴァルス王城シャインカルクから正式に、レガード捜索を依頼されています。彼の行方に関して知っていることがあるんだったら、教えて下さい」
真っ直ぐに言ってそれきり黙った俺に、ジフも沈黙を守った。誰も口を開かない。俺がジフから視線をそらすことなくじっと回答を待っていると、考え込んでいたジフが顔をあげた。口を開く。
「俺たちが知っている人物が、あんたらの探している人物と同一人物だとは現段階で保証してやれないんだよな」
……え!?
その言葉に、思わず俺はシンを見た。だってシンはあの時……。
「『レガード』と名乗った人物の行方は知っている。そしてその人物が、あんた……カズキって言ったか?カズキと良く似た容姿の持ち主だと言うことも認めよう。けれど、それがロンバルトの第2王子……ひいてはヴァルスの後継者である『レガード』と同一人物だと俺たちが断定してやるわけにはいかない」
「……」
「なぜなら、それは俺たちも知らないからだ」
繰り返すように言ったジフに、思わず言葉を失った。俺たちは、ギルドはレガードが何者なのか知っている上でその身柄を押さえているんだと思っていたから。どうやらそこに、誤解が生じているらしい。
「ただ、身なりやシンの知る立ち居振る舞いから、身分の高い人間だろうと言う予想はついていた、とは言える。逆に言えば、ずっとその程度の認識だった」
「だってシン、じゃああの時ッ……」
レガードの婚約者はヴァルスの王女だって……。
混乱して思わず言葉を失ったままシンに視線を向けると、シンはひらりと片手を振りながら短く答えた。
「悪いな。確信が持てなかったから、嵌めさせてもらった」
何ぃぃぃぃ?
あっさり言ったシンに、唖然として立ち上がる。じゃあ、知ってたわけじゃなくてカマかけたってわけだったのか!?
「……シン……」
「こっちも確かめたかったんだ」
がくぅぅぅとテーブルに額をくっつけて突っ伏す俺に、シンが苦笑いするような声が聞こえた。あんな無表情で言われたら、信じるに決まってるじゃないか……。
この世界に来たばかりの高校生と、世間知らずの王女を嵌めるのは、盗賊のシンには実に簡単なことだったに違いない。特にシンみたいに表情も話し方も淡々としていれば尚更だ。
「ねえ、でも待って。どうして身元がわからないの?」
あっさり嵌められた自分の浅はかさについつい脱力していると、不意にニーナが背後から問う。ジフが俺を通り過ぎてニーナに視線を向けながら頷いた。
「問題はそこだよな。それについて今から話そう。……シン」
顎で微かに促すジフに、頷きながらシンがこちらを向いた。口を開く。
「俺があの後『3つ目の鍵』のダンジョンに向かったことはわかってるだろう」
「うん」
ひらひらと、俺が渡したダガーを振りながら尋ねるシンに、俺は肯定を返した。あのダンジョンに俺たちも入り、シンのダガーを見つけたことからあちこちが繋がり始めた。
「あのダンジョンには他のダンジョンには見られない特徴がある。これは、『1つ目の鍵』『2つ目の鍵』のダンジョンにも共通する特徴だが」
「ワープトラップね」
「正解」
ニーナの言葉にシンが淡々と頷く。
「お前たちがあのダンジョンのどこまで入ったかは知らんが……」
「最後の部屋まで行ったみたいだぜ」
言いかけたシンに、ジフが口を挟む。何だ、やっぱりさっきシサーが言ったあの壁画の下のプレートに書かれてたフレーズ、知ってるんじゃん。
「ほう。やるな」
だって最後まで行かないと出られないじゃないか。
微かにシンが目を見開いて、驚いた表情をしてみせる。それからまた元の無表情に戻って、俺を見た。
「なら気づいてるだろうが、正規ルートにはワープトラップはほとんどない。あるのは宝の周辺だけだ」
シンの話を聞きながらあのダンジョンを回想していた俺は、その言葉で思い当たる。……あの部屋だ。宝箱と、食い散らかされた死体。
そこから語られた話は、あの時俺たちが立てた予想を裏付けていくもの、と言える。
ギルドのメンバーをパーティとして攻略に入った彼にとっては、これまでの経験値からさほど困難なダンジョンとは思えなかった。3つのダンジョンのワープトラップの仕様が異なるせいで、引っかからなかったとは言わないが、抜け出すのにそれほど苦労はなかったと言う。ただし、ぬかりなく宝を手に入れる為に全て踏破はしたけれど。
そして戻った正規ルート。
「……油断をしていたんだろうな、多分」
そう言ったシンの声音には、どこか苦いものが混じっていた。
「あのフロアはワープフロアより魔物も弱い奴の出現率が高いし、トラップも大してない。どちらかと言えば単調なフロアの中でようやく見つけたあの部屋……鍵のかかった部屋に、気が緩んだんだ」
それは、シサーがあの時言っていたように、かなり厄介な鍵だったと言う。鍵には複数のトラップが設定されていて、その全てを解除するのはいくら盗賊とは言え大変な手間だった。
そして、魔物を呼び寄せるトラップを解除し損ねていたことを見落とした。……そう。宝箱に仕掛けられていたトラップに。
「しまったと思った時には、たったひとつの出入り口がケルベロスに塞がれていた。あの狭い部屋の中、逃げ道なんか限られている。どれだけ戦おうが再生する首。仲間が、次々にやられた」
その言葉を聞きながら、壁画の間で遭遇した三ツ首の魔物のことを思い出す。キグナスの氷の魔法が、俺たちの助けになったんだ。
――盗賊にこいつの相手はキツかろう
シサーの言葉が耳に蘇る。
「最後は俺ひとりになってな。選択の余地がなくなって、宝箱のトラップを作動させた。……お得意の、ワープだ」
やっぱり……。
そうして外に飛ばされたシンは、砂漠の真ん中で満身創痍の状態でサンドワームに遭遇し、そこを、『王家の塔』へ向かう途中のレガードに助けられた……。
……ここまでは、推測通りだ。問題は、この先。風の砂漠まで行ったはずのレガードがどうしてギャヴァンの、しかもギルドの本部なんかで意識不明に陥っているかだ。
俺の見つめる中、シンが訥々と言葉を紡ぐ。
レガードに危ないところを救われたものの、彼らの中にもソーサラーやプリーストはいない。シンの負った傷を回復できる人間はその場にはいなかった。
そこでレガードはギルザードまでシンを送ることを提案したが、何としてもすぐにギルドに戻りたかったシンが強硬にギャヴァンに戻ると言い張るのに折れ、途中まで同行を申し出てくれたと言う。
「……そのおかげで俺は、今こうして生きている。借りは必ず返さなきゃならない。だが別れてしまえば2度目があるかはわからない。そう考えて、レガードにダンジョンで手に入れた宝の一部を感謝を表して渡した」
宝?
ダンジョンの中にいくつか宝箱があったことを思い返しながら、続きを待つ。けれど何をあげたのかまでは、シンの口からは特に語られなかった。
「そしてレガードと別れ、俺は一度ギャヴァンに戻った」
ああ、戻ってしまった。レガードはどこに行っちゃったんだろーか。
でも、キサド山脈の頂上での出来事を思い出すと……シンはレガードとバルザックらの戦闘は、知らなかったんだよな。だったら一度離れてしかるべきか。
レガードの助けを借りて何とかギャヴァンまで戻ったシンは、数日をギャヴァンで過ごした。ギルドには専属の魔術師がいるらしく、傷の回復はたやすかったけれど、怪我を負ってから治療までに時間がかかった為、消えずに残った傷もあると言う。
ふうん……じゃあ、レガードと再会するのはいつなんだろう。再び風の砂漠に行ってから?でもそうすると日数的に結構ずれが……。
「そこへ、全く突然、レガードが現れたんだ」
……は?
今、ものすっごい大事なところが理解出来なかったんですが。
シサーたちも同様で、眉を顰めたり首を傾げたりする俺たちに、ジフが苦笑混じりの注釈を付け加える。
「現れたっつーか降って湧いたっつーか」
その注釈によって俺たちの混迷は一層深くなった。
降って湧いた?
口を噤んだシンの後をジフが引き取る。組んだ腕の片方の親指を顎に押しつけながら、口を開いた。
「まさしく『降って湧いた』んだよ。……ギルド本部の中に突如現れたんだ。それも、意識不明の状態で」
その時シンは、ジフやカイルなんかとギルド本部で今後の動きについて打ち合わせているところだった。そこへ、どさりと言う音が聞こえ、振り返った時には既にレガードが床の上に意識不明のまま倒れていたのだと言う。
シンの恩人だと言うことを知ったギルドは、その時からレガードの身柄を預かることになるわけだが、身元を証明するようなものを持っているわけではないし、シンでさえその正体を聞いたわけじゃない。
身なりやシンと過ごした数日で、貴族階級だろうと予想はついたものの、どこの『レガード』なのかはわからなかった。
ヴァルス王女と婚約をしているロンバルトの第2王子が『レガード』だと言うことくらいは知識として知ってはいたが、レガードと言う名前は貴族の息子にない名前ではないし、はっきり言って王侯貴族など縁がない。まさか、とは思うものの確かめようがないままでいた。
「シンがあんたを……カズキをギャヴァンで見かけて、後をつけたのはそう言うわけだったんだ。レガードの正体をつきとめる良い機会になるかもしれないしな。本当にロンバルトの王侯だとすれば、こちらも黙って見過ごしているわけにはいかない」
そんで俺をハメたわけだ……くそ。
「じゃあそれでレガードがロンバルトの第2王子だって……?」
尋ねた俺に、シンが頷く。
「いずれにしてもその可能性が強まった、とは思った。それをギルド……ジフに伝えることが出来たのは市街戦の最中だ」
「よって対応が遅れている。こちらも、市街戦にケリがついてからは修繕作業に忙しい」
悪びれた様子も見せずにジフがさらりと言った。まあ正直それどころじゃなかったってのが本音だろう。
ふうん……でも、何で突然ギルドになんか現れたんだろう?
『銀狼の牙』の説明によるとレガードは戦闘の最中に行方不明になっている。
「レガードに渡した宝ってのは、何なんだ?」
じっと黙って聞いていたシサーが口を開いた。ジフが笑みを浮かべて頷く。
「ポイントはそこだ。……シン」
ジフの呼びかけに応じて、シンが腰から何かを抜き取った。チェーンリングのようなベルトの右腰の辺りに引っかけられていた装飾品……いや、バックル?
「レガードに渡したのと同じものだ。手に入れた2つのうち、1つをレガードに渡し、1つは俺が持っていた」
つい受け取ってまじまじと見る。シサーとキグナスが一緒になって覗き込み、思わず同時に顔を上げた。
シルバーのシンプルなプレートで作られたバックルだけど、高級感が漂う。高そうなシロモノではあった。そして、中央に埋め込まれた装飾石。
「見覚えがあるだろう」
「あるも何も……」
ダンジョンの中ではずっとこいつに気をつけて歩いていたんだ。変なところに飛ばされないよう、トラップに引っかからないよう。
まだぼやーっと光る様子が目に焼き付いている。……あの石と、同じもの。
「まさか、レガードがギルドに現れたのは……」
「まず間違いないだろう。なんちゃら言う魔術師の魔法で窮地に追い込まれ、この魔法石で対のもうひとつがあるギルドに空間移動したんだ」
ダンジョンの中で、俺自身が適当に口にした言葉を思い出す。石から石へ。あながち、間違いじゃなかったようだ。
(じゃあ、レガードは……)
無事、なんだ……。
ようやくそのことに、安堵を覚える。多分もう、間違いないだろう。
俺たちが探しているレガードは、ギルドが保護している『レガード』だ。
「……会わせて、もらえるんですか」
俺はわからないけど、シサーやキグナスが会えばわかるだろう。ジフが頷いて俺に答えた。
「構わない。会わなきゃ確認出来ないだろ。ま、また不自由な思いはしてもらわなきゃなんねーけどなー」
言って立ち上がったジフに続いて俺たちも立ち上がる。
バックルをシンに渡す俺の手元を見ながら、ジフが微かに渋い表情を見せた。
「ただ、言っておかなきゃいけないことがある」
言っておかなきゃいけないこと?
目を瞬いてそっちを見遣る俺に、続いてシサーに顔を向けながらジフが言葉を続けた。
「悪いんだが、すぐにレガードの身柄を渡してやれるかどうかは、俺には判断がつかねーんだ」
「……シン」
視界を閉ざされた暗闇の中、近辺にいるはずのシンに呼びかける。
返事はない。構わず俺は続けた。
「どうしてあの時、レガードが無事だってことを教えてくれなかったの」
相変わらず、俺たちの足音だけが響く。遠くに水の流れる音が聞こえ始めて、水滴の音が『ぽちゃーん』と反響した。
しばらく回答がない。こっちも黙って待っていると、やがて前からシンの声が答えた。
「俺が話すべきではないと判断した。理由は後でわかるだろう」
後で?
レガードの身柄を今俺たちに渡せるかわからないと言うのと何か関係があるんだろうか。
視界を遮られたまま、そっと首を傾げる。ジフってギルドの頭なのに、彼にも判断がつかないってのはどんなわけなんだろう。理由はまだ、教えてもらっていない。
それに、そう……意識不明のままじゃあ、ユリアの力になんてなってくれないじゃないか。そりゃあ見つからないより良いけどさ。
何で意識不明なんだろうか。バルザックの魔法のせい?空間移動のショックとか?理由なんか何でも良いが、目覚める手段だけはわからなきゃどうしようもない。
第2支部に連れて来られた時ほどじゃないけれど、結構な距離をまた歩かされて後、目隠しをされたままで梯子段のようなものを上り下りさせられる。そこからまた歩き、やがてどこか外に出たみたいだった。俺の周囲の空気の匂いや温度が変わる。耳に、遠いざわめき。
(海の音……?)
目隠しされてるから周囲は全然見えないんだけど、波の音が聞こえる。
またしばらく歩いていくうちに、波の音がどこか遠くで反響するような不思議な音が聞こえてくる。遠いような近いような奇妙な感覚。目を瞑っているから尚更妙に感じるんだろう。やがてそれに、木々がざわめくような音が混じり始める。
(どこなんだろうな)
本部って。
どうせ俺はギャヴァンの街そのものを知らないから、わかりようがないんだけど。
そのままどこか建物の中へ連れて行かれる。今度は建物の中に入ってからもしばらくは目隠しを外してはくれなかった。ゲイトが申し訳なさそうに横で謝罪する。
「すみませんね。この辺には窓とかあるんで、外の風景とか見られたりすると困るんですよ」
「何で、本部の場所って内緒なんですか?」
聞いてみると、小さな笑いと共に「それこそ、内緒です」と言う返事が戻って来た。……まぁ、資金源を『トレジャーハント』から得ているってことは、そういう財宝管理とかってのももちろん本部なんだろうし……いろいろあるんだろうけど。
建物の中を進んで階段を下りたところでようやく、目隠しを外してもらうことが出来た。ふるふると顔を振ってから、辺りを見回してみる。
支部と同じ、無愛想な石造りの壁。天井は低く、飛び跳ねたら手が届きそう。
「この奥だ」
親指で先を示したジフの言葉にどきっとした。俺の中で緊張感が高まる。もしかするとローレシアに来てから多分1番、緊張しているんじゃないだろうか……鼓動が速まり、口が渇いた。
探し続けて来たレガードが、この先にいる。