第1部第5話 南へ…(1)
アギナルドの小屋までは、嘘のように順調だった。天気も良いし、自然が豊かだと自負するだけあって心地良い風と木々の緑が快適だ。ひどくのどかで、昨日の出来事なんか嘘のようだ。
ユリアは王女様と言うことを思えば、驚くほど体力があった。いや、本当にあるのかどうかはわからないけど、弱音は一切吐かなかった。途中、それほど休憩を挟まない強行軍であるにも関わらず。
歩きながら、ユリアはぽつりぽつりとレガードのことを話した。身分のせいだろう、彼女の周囲には幼少の頃から同い年くらいの子供などはいなくて、当時エルレ・デルファルの学院を卒業したばかりだった、10歳年上のシェインが精一杯だったと言う。
宮廷魔術師は特に世襲制と言うわけではないのだが、祖父も父も宮廷魔術師を務めたシェインは、言わばサラブレッドのような感じで、既に将来宮廷魔術師として目されていた為王城に出入りすることが許されていたのだそうだ。庭でひとりで遊んでいたユリアを王女とは思わずに気楽に遊んでくれたらしい。
レガードが出入りするようになったのもその頃だ。ユリアの父クレメンスと、レガードの祖父アルラロナン3世は、その昔ロドリスを中心とするバート、ナタリアの3カ国連盟の反乱に対し、共にアルトガーデンを平定する為に戦った戦友であり、クレメンスの命をアルラロナンが救ったと言う経緯から親しく交流をしていた。
第2王子であるレガードを、アルラロナン3世の息子……つまりレガードの父フェルナンド7世は割と自由にさせており、社会勉強としてシャインカルク城に3年ほど住まわせたこともあると言う。
つまり、ユリアにとって2つ年上のレガードは唯一の年の近い友人でたったひとりの異性だったと言うわけだ。
シェインはそんな2人を温かく見守る、兄のような存在だったとユリアは言った。娼館に入り浸り、俺を連れては酒を飲ますという暴挙しか知らない俺は意外な一面を知ったような気がした。
年が近いと言えば、キグナスもほぼ俺やユリアと同年代なのだが、彼が王城に出入りするようになったのはごく最近のことらしい。
「レガードとシェインは、わたしにとってかけがえのない存在なの。3人で、育ってきたんだもの」
話を聞いているうちに、内心首を傾げる。ユリアのレガードに対する想いって言うのは……いわゆる『恋愛感情』なのだとばかり思っていた。立場が何せ、婚約者なわけだし。
でも、話を聞いてるとレガードとシェインってのは、ユリアの中で同列1位って感じで……それって恋愛感情か?
「……もしもさ」
「ん」
「姿を消したのがレガードじゃなくてシェインだったら、どうする?」
問われている意味がわからないように、ユリアは目を丸くしていたが、やがて決然と頷いた。
「もちろん、わたしが探しに行くわ。レガードもシェインも同じようにわたしには大切だわ」
「ふうん……?」
それって、むしろ家族?
「なーんか暇になっちゃうわねー。ぱーっと魔物の1匹でも出ないかしらねー」
手を抜いて俺の頭の上でごろごろしているレイアが猛烈にとんでもないことを言う。馬鹿言え。出られてたまるか。
「レイア。怪語れば怪至ると言ってだな……」
「だーってつまんないんだもの」
「つまるとかつまらないとか言う問題じゃないッ。この状態がつまらないなら、俺はぜひつまらない旅をお願いしたいッ」
可愛い女の子とのんびり会話を楽しみながら旅をするなら、俺はその方がよっぽどつまってる。
噛み付くように言う俺の髪をレイアが引っ張る。……いーたーいっつーのッ。
「良いコンビね」
「そういう趣味はありません、俺」
俺とレイアのやりとりに、ユリアがくすくすと笑った。ちょっとその笑顔に、どきどきする。
いやいや、普通の感情でしょ?好きだの嫌いだのって言う深い感情があるわけじゃないけど、可愛い女の子の笑顔に心洗われるのは男なら誰でもそうなはず。
最初こそ『王女サマ!!!』と言う……何て言うのかな、別次元の人間って感じで勝手に壁を作っていたわけだけど、こうして2人でずっと肩を並べてひたすら歩き続けて話をしてみると、高貴なドレスを身に纏っていない彼女は一気に距離がぐっと縮まったような感じで……普通の、女の子で。
時々ぽや〜っと蹴躓いたり、とんちんかんなことを口走ってたりするのが素直に可愛い。
「あ、カズキ……あれじゃない」
にこにこするユリアに、一緒になってでれでれ……じゃない、にこにこしていると、頭の上でレイアが言った。レイアの示す方向にはナタから聞いていた通り、小さな木々の塊が見える。そちらへ向かうべく、俺たちは右手の方へと道を逸れた。
さほど背の高い木があるわけじゃない。2、3メートルくらいの大きさがせいぜいで、枝は割りといっぱいに広がっている。足元には逆に背の高い細い草が生い茂っているから、あいている空間がちょうど俺の腰の辺りから頭のちょい上くらいまでしかないって感じ。
だけど規模自体はそんなに大きくはなさそうだ。確かに森というよりは林と言った方が良いだろう。
俺たちが入ろうとしている場所が悪いのか、それともそもそも続く道がないのか、女の子にはちょっと可哀想な道だ。先に足を踏み入れながら振り返る。
「ユリア、大丈夫?」
「ありがとう。大丈夫」
「ありがとう。わたしも大丈夫」
「……レイアは少し、自力で何とかしろよ」
俺の頭でごろごろしたまんまユリアの口調を真似て言うレイアを、見えないけど睨み上げながら、ゆっくりと木々を掻き分け、草を踏み分けた。少しでも、続くユリアが楽の通れるように気遣いながら進んでいく。
「ユリアも疲れただろ。多分もう少しだから……アギナルドさんの小屋についたら、少しは休めると思うし……」
……と、これ、道か?道かな。進んでいる間に、良く良く見てみるとそれらしきものにぶつかった。とは言え、道というには余りにお粗末と言うか、どちらかと言えば獣道と言う感じの細い道だ。どちらにしても足場はかなりよろしくない。
小屋らしきものが見えたのは、林に分け入ってからほんの10分程度のところだった。本当に小さい。
姿を現わした小屋は、レンガ造りの小さいながらもしっかりした造りなのが見て取れるもので、『隠れ武器職人の偏屈じじい』の小屋だと思って漠然と無愛想な木の小屋を想像していた俺は少しばかり意表を突かれた。
……さて。
ついてしまったがどうしよう。
小屋の前に佇んで、しばし思い悩む。問題は何と言って魔法石を略奪……もとい強奪……じゃない、お裾分けいただくかだ。ナタに言われるがままに来てしまったけど、まさかおもむろに「魔法石くれ」だの「何かいいもんくれ」だのは……言えないだろう、やっぱり。人として。
「カズキ?」
ユリアが立ち竦んでしまった俺を訝しげに覗き込む。えーと……どうしようかなあ……。
相手は、武器職人。だとすればやっぱり、攻める方向は、武器。
あ、でもそうか。ついでだから本当に、何か武器について話を聞いてみるのが良いかもしれない。俺みたいなド素人でも何とかこう扱えそうなものが存在するのかもしれないし。
そう思いついてポンと手を叩き、顔を上げたところで、不意にドアのほうが自動的にがちゃりと開いた。ので、驚く。うわぁ。
ぴょこんと顔を出したのは、何だか犬みたいな顔つきの毛もくじゃらだった。
(……魔物!?)
驚きの余り心臓が跳ね上がり、条件反射で仰け反った俺だけど、驚いたのは相手も同じだったようだ。いや、むしろ相手の方が驚いたと言っても良いかもしれない。小さな目をぱっと見開くと見てるこっちが可哀想になるくらい慌てふためいて中に飛び込んで行った。
……何だったんだ、一体。
「コボルトね」
ぼそりとレイアが頭の上から告げる。コボルト?
そう言えば、ナタが言ってたな、そんなこと。コボルトとどうとかこうとかって。……そうか、あれがコボルトなのか。シャインカルク城でキグナスが言ってたことには、コボルトはかなり大人しく内気な性質で、人を襲うことはまずないんだそうだ。手先が器用で、機械いじりみたいなそういうのが得意らしい。……危険はない、ってことだよな。
そう結論付けると思い切って、そのドアをノックしてみる。が、反応は静かなものだった。
「すみません」
もう一度ノックしてみると、恐る恐ると言う感じで再びさっきのコボルトが顔を出した。
「あの……アギナルドさんて方は……」
つられて俺も恐る恐る言うと、コボルトはぴょこんと耳を立てた。それから「待て」と言うようなジェスチャーをして、ドアを開けたままで中に戻って行った。物音はしない。
「……いないのかしら」
ユリアが俺を見上げてそう言ったところで、ペタペタと軽い足音がした。こちらへ向かってくる。
「何じゃ、おぬしらは」
突然声がして驚いた。見れば、いつの間にか俺の正面に立っていたらしい。全然気がつかなかった。何となれば、頭の位置があまりに想定していたところと違うところにあったもので。
かなり背の低いじいさんだ。頭が俺の腹の位置くらいにある。茶色い、漫画日本昔話にでも出てきそうな頭巾を頭に被り、グレーのふさふさ眉毛の下の目は鋭い光を放っていた。口の周りにもディズニーの7人の小人みたいな髭がふさふさと生えている。
「あ、あの……」
「知らぬ顔だな。用がないなら帰れ」
いやいや。俺、まだ「あの」しか言ってないんですけど。
「どうやってここにたどり着いたかは知らんが、わしに用はない。帰れ」
だから俺、まだ何も言ってないんだってば。しゃべらせてくれ。
「ナタからの紹介でッ」
ドアを閉めかねない勢いだったので、俺は口を挟まれる前に慌てて早口で言った。背を向けかけた老人の動きが止まる。
「何?ナタ?」
やだな、これで「知らぬ」とか言われたら。
内心びくびくしていると、アギナルド老は低い目線から俺を見上げて、やがてドアを閉めるそぶりもなく背を向けた。
「入れ」
おお。態度が好転した。凄ぇ、ナタ。
思わずユリアと顔を見合わせていると、中から怒鳴り声が聞こえた。
「早く入れ!!」
「ははははい」
せっかちだなあ、もう……。
老人に続く形で中に入る。家の中は全てが小作りで、けれどきちんと手入れされているのがわかった。シンプルでセンスが良い。
「座れ。ロット。客人に茶の用意じゃ」
さっきのコボルトはロットと言う名前らしい。ロットは壁際でじっと俺たちの動向を窺っていたが、老人の言葉に部屋の奥のドアから姿を消した。
勧められるままに、温かい色合いの木で出来た椅子に腰を下ろす。老人は暖炉のすぐそばの、やっぱり木で出来た揺り椅子に腰を下ろした。
「それで、何の用だ」
あ、そうだった。何て言おう。
「あの、俺、野沢……じゃない、ええと、カズキと言います。初めまして」
とりあえず挨拶なんかしてみる。初対面だし。俺は座ったままで姿勢を正して名乗った。ぺこんっと頭を下げると、愛想のかけらもない声でじじぃが言った。
「ふん。挨拶くらいは出来るようだ」
……そりゃどうも。
「ナタから、凄腕の武器職人だとお話を伺いました。少し、話を聞いてもらって……良かったら相談に乗っていただけないかと思っています」
「人にどう評価されるかなど、わしの知ったことじゃない。やりたいようにやる。それだけじゃ」
くそぅ、本当に偏屈だぞ。
話を聞いてくれるつもりがあるんだかないんだか判断に迷っていると、アギナルド老は「それで」と話を促した。一応聞いてはくれるらしい。ちょっと安心。
「俺は、ある依頼を受けて旅をしている途中なんです。だけど俺は訓練を積んだ戦士じゃない。武器の扱い方も、良く知りません。何か、力になってはもらえないでしょうか」
例えば、俺でも簡単に扱える武器とかそういうの、ないだろうか。俺は、当然ながら武器そのものの知識も浅い。
失礼にならないように言葉を選び選びお願いをする俺に、じじぃはふんと鼻を鳴らした。
「甘ったれとるな」
何だとぅ。
「この世界で訓練も積まずに旅に出て剣を振り回そうなど100年早い。修行をしてから出直すのだな」
100年も待ってられるか。明日にでも元の世界に帰りたいってのに。
けど、そんなことも言えず、まさか違う世界から来ましたとも言えない俺は勢い黙った。何かを口にすればそれが言い訳になりそうだ、いや言い訳って言うか事実なんだけど、アギナルド老にはそんなことは関係ないだろうから言い訳にしか見えないだろう。そう思えば言葉が見つからない。
ユリアが割って入ったのはその時だった。
「違うわ」
「何?」
「彼が悪いんじゃない。……わたしが、無理矢理この世界に引きずり込んだのよ」
「……」
訝しげなアギナルド老の視線にも構わずに、ユリアは続けた。……おい。そんなこと気軽に言って良いのか?そりゃあ俺もパララーザに言っちゃったけど。
「彼はこの世界の人間じゃない。彼じゃなきゃ駄目な理由が出来たわたしが、魔術師に頼んで無理矢理この世界に引っ張ってきてもらったの。彼の住む世界じゃ魔物もいなければ剣も必要がない。持ったことなんかないの、当然なのよ」
「どういうことだ」
訝しげな視線を向ける老人に、ユリアは負けじと視線を返しながら言った。
「言葉の通りよ……。異世界の人間を、この世界に引きずり込んだの。けれど修行を積むまで待っているわけにはいかない。人の……わたしの婚約者の生命がかかってる。のんびりしているほどの時間が、ないの」
「……」
「お願いです。何か、力になってはもらえないでしょうか」
老人はしばらく真偽を確かめるようにユリアをじっと見詰めたまま黙していた。それから俺に確認するように視線を向ける。それを受けて、俺も真っ直ぐ見返して頷いた。
「……情けないことをお願いしていることは、わかっています。だけど、進みながら慣れていくしかないんだと思ってます。……その前に、命を落とすわけにはいかない」
考えるように無言で俺の顔を見つめていたアギナルド老は、やがてふうっと息をついて立ち上がった。
「カズキ、と言ったな」
「あ、はい」
「ついて来い」
「はい」
ついて来いと言った割りには、俺がついて来るかどうか確かめもせずに老人はすたすたと奥の部屋へ向かって歩き出した。思わず、またユリアと顔を見合わせてから慌てて立ち上がる。その場にユリアとレイアを残して急いで老人の後を追った。入れ違いにコボルトのロットがお茶を持って現われる。
「どこへ……」
「黙ってついて来い」
はい……。
老人はすたすたと奥の廊下を進み、突き当たりの扉を開いた。中に入ると更に床に扉があり、それを引き開ける。地下に通じる階段が姿を現わした。
「その剣を寄越せ」
「え?」
その剣?って、俺の?
言われるままに、俺は腰の剣を鞘ごと渡した。老人は何も言わずに受け取り、階段を下りていく。慌てて後をついて行くと、地下にあったそれは鍛冶場だった。
「良い剣だ」
剣をためつすがめつして、老人はしみじみと呟いた。さっきのむっつりした顔はどこへやら、生き生きとした表情をしている。……ふうん。本当に武器が好きなんだ、この人。
「これなら、どんなぼんくらでも多少は扱うことが出来よう?」
ぼ、ぼんくらってあのねえ……。……ぼんくらですけど。
「軽かろう」
「あ、はい」
問われて、俺は素直に頷いた。それは、まったくそうだったので。
当然だが、剣は鉄の固まりだし、俺は通常高校生男子以上の筋肉はない。だからそれなりの重さを覚悟してはいたんだけれど。これが思いの外軽くてびっくりしたんだった。だからこそ、ウォーウルフと遭遇した時に滅茶苦茶に振り回すなんて芸当が出来たんだが。
剣って意外とそういうもんなんだ、と勝手に思ってたんだけど。そういうわけではないらしい。
「ただ、手入れが少々手緩いな。そのせいで本来の切れ味が生かせない。この剣は鉄で出来ているわけではない。知っているか?」
ふぇ?
「知りません」
あっさり答える俺に、アギナルド老はやれやれと顔を横に振った。……しょおがねえじゃん、知らないんだから……。
「これはファントム・エメリーと言う特殊な鉱石で出来ている。時折、魔剣などにも見かけるな」
「石!?」
「そのおかげで、普通の剣などのように何かを斬った後に、血錆や脂などで切れ味が格段に悪くなるようなことはまずない。錆も刃毀れもないからな。日頃の手入れさえ怠らなければ随分と持つはずだ」
「そんな特殊なもんだったんですか?」
ぎょっとして問い返す俺に、アギナルド老はちらりと俺を見た。
「高価な剣だ。一度鍛えてやれば、もっと手軽に扱えよう。尤も、魔法剣のように自動的に敵に襲い掛かったりなんかはしてくれぬがな。後は修行あるのみじゃ」
さすがお城に眠ってた剣。とりあえず安物ではないらしい。
「ナタの紹介とあっては無下に追い返せまい。剣はわしが鍛えてやる」
「あ、ありがとうございます!!」
その言葉に、俺は本心から礼を言った。頭を下げる。見ず知らずの俺の剣を鍛え直してくれるなんて……良い人なんじゃん。ってか、ナタって凄ぇ。
「鍛え直すにはそれほど時間はとらせん。そこらで適当に待っておれ」
アギナルド老の言葉通り、鍛え直すのには1時間もかからなかった。鍛え直されて、刀身も輝きを増した剣を受け取って頭を再び下げる。
「本当に、ありがとうございました。代金は……」
いきなり押し掛けて こんなことさせといて、タダってわけにはいかんでしょう。俺が荷袋に手を突っ込みながら尋ねるとアギナルド老は少し考えるようにして頷いた。
「報酬は、受け取るとしよう。……ただし、金はいらん」
へ?んじゃ、労働?
「これから旅を続けるに当たって、装備出来る者のいない武器を手に入れることがあれば、それを持って来てもらおうか。代金は別途、支払おう」
俺が剣を鍛えてもらって、そのお礼にそう言う武器を持って来るってんならともかくとして、それに代金もらっちゃったら変じゃん、それ、お礼じゃないじゃん。
そう思って返答に詰まっていると、アギナルド老は会ってから多分初めて、微かに微笑んだ。
「そう、約束をしてくれればそれで良い。わしが良いと言っておるのだから、それで良かろう」
そりゃあそーかもしれないけど……。悪いじゃん、何か。俺の気が済まないじゃん。
あくまで不服そうな俺に、アギナルド老は根負けしたのか苦笑を浮かべてロットを呼んだ。
「わかった。ならば少々労働をしてもらおう。ロットの鍛冶場の掃除を手伝ってやってくれ」
ようやく、老人の恩に報いる機会を手に入れ、俺が意気揚々とロットの掃除を手伝ってそれを終えた頃には、既にだいぶ日が傾いていた。……しまった。今からギャヴァンに向かっても、日没には間に合わない。
かくて俺は、家中の掃除と庭の掃除をも引き受ける代わりに、図々しくも老人に泊めてくれるよう要請し、ナタに『偏屈』と言わせしめた人物に「お前のような奴には会ったことがないわい」と呆れ果てたお言葉までちょうだいする羽目になったのだった。