8 邪神様、答える。
やってきました冒険者ギルド!年がいもなくわくわくする。男はいつまでも男の子だって誰かも言ってたし、仕方ないね。
そーっと扉を開けて、中を覗いてみる。人間も、人間じゃないものも、たくさんいるみたいだ。ここなら、双黒でも目立たないかもしれない。
と、思ったけど最初に絡んできたのが冒険者だったと思い出してそのままの色で行くことにした。
忘れないようにもう一度。今現在、僕の髪は青で瞳は緑になっている。本当は白髪紅眼とかにしようと思ったのは秘密。厨二病?知らない病気ですね。
安全確認も済んだところで、扉を押し開けて中に入った。
まず目に付くのは、大量の紙が貼られた掲示板。そこに、たくさんの冒険者らしき人が群がっている。ときどき、釘が耐えきれなくなったのか紙の束がばさりと落ちるのを、職員の人が適当に止め直していた。
そして、右手側にはカウンターがある。低いパーテーションのようなもので狭く区切られた空間が、全部で10はあるだろうか。机の上には、小さな旗のようなものが立っている。赤、黄、青の三種類が、一つの区切りに一本ずつ。あれは何だろう?
最後に、左手側には当たり前のように酒場があった。昼間から飲んだくれている情けない大人がたくさんいる。見なかったことにしよう。
僕は、入り口から一番近いところにあるカウンターに近付いた。ちょっと厳しそうなおばさんだ。
「あの、」
「初めての方ですか?青い旗の受付にどうぞ」
おばさんはこっちを見もせずに告げる。表情は少しも崩れない。ちなみに、おばさんの旗は赤い。察するに、赤はベテラン冒険者用なんじゃないかと思う。
言われたとおりに青い旗の受付に行ってみた。薄茶色の髪と瞳を持つ、若い女の子だ。
「あっ、あのっ!いらっしゃいませ!本日はどうされましゅか!」
噛んだ。
見事に噛んだ。
気にしないことにしよう。お互いのためにもそれが一番だ。
「ステータスプレートを発行してもらいに来たんだけど…」
「は、はい!…ってあれ?子ども?」
マニュアルらしき紙を見ながら話をしていた女の子は、ようやく僕の顔を見て、首を傾げた。
「えっとね、君、いくつかな?」
「12歳」
適当に答えておく。ちなみに、見た目はこれでも上に言ってるんじゃないかと思う感じだ。
「え、あ、あのね、冒険者ギルドでのステータスプレート発行と登録は、15歳…大人になってからじゃないとできないの。ごめんね」
悲しそうな表情とともに、頭の上の犬っぽい耳が垂れる。言い忘れてたけど、この子は獣人だ。
僕も負けじと悲しい顔をする。
2人で悲しい顔をしていると、さっきのおばさんが話しかけてきた。
「シギ、何をしているんですか?」
「あ、ギルド長!実は…」
シギと呼ばれた女の子が説明をし始める。かくかくしかじか。
「なるほど…わかりました」
おばさんが僕に向き直り、厳しい目でじっと観察しはじめる。かなり怖い。
「私達ギルド職員は、貴方が嘘をついてもすぐにわかります。正直に答えてください」
「わかりました」
思わず敬語になった。それくらい迫力のある人だ。ギルド長なのも納得できる。
「貴方の名前は?」
「ロキといいます」
ギルド長は僕をじっと見て、ふんふんと頷くとメモに何か書き留めた。
「それではロキさん、貴方の年齢と種族を教えてください」
答えにくい質問が…。できればアース神族だとは言いたくない。嘘をついてもいいんだけど、本当にわかってしまうのならそれだけで追い返されるかもしれない。
迷っていると、ギルド長が口を開いた。
「我々はここで知りえた内容を、他の誰にも話すことはできません。他の冒険者の方の目が心配ならば別室をご用意しますので、虚偽の回答や無回答は避けていただきたいのですが」
別室かあ。悪くない。相手がこの人じゃなければ!
仕方ないから普通に答えることにした。
「歳は…忘れました。何千歳かだったと思います。アース神族の悪戯の神です」
シギがすごく怪しんでいる。というか、この子は嘘をついているかどうかわからないんだ。
「疑わしいですが、事実のようですね。髪と瞳の色は、魔法などで変えていますか?地毛ですか?」
もうどうにでもなれ、と思いながら正直に告白する。
「本当は、両方黒です。確認しますか?」
「いえ、結構です。使用できる魔法属性は?」
「光以外なら何でも」
「使用武器は?」
「武器は持っていません」
「はい、有難うございます。シギ、ロキさんにステータスプレートを」
手持ち無沙汰に突っ立っていたシギに、ギルド長が声をかける。
「え、いいんですか?まだ子どもなのに…」
「貴女より年上でしょう。私よりも」
僕の思いを、ギルド長が代わりに言ってくれた。そうだよ、年上なんだよ。
シギは「むー」とか言いながら裏に引っ込んでいった。機嫌が悪いように耳が伏せられている。
「さて、もう一つだけよろしいですか?」
シギがいなくなると、ギルド長はわずかに声を潜めた。
「はい?」
手元には、3枚ほどの書類。それを見ながら眉を顰める。
「『召喚された子どもの双黒勇者』『冒険者ナンガを倒した双黒の魔法使い』『水の髪と木の瞳を持った城への侵入者』……これは、すべて貴方ですね?」
えっ。もうそんなに噂になってるの?
それともギルド長だから?
「そうです…」
かなり動揺しながら返事をする。そんなに噂になってるならもうこの街から出ていきたい。
というか、そうか。あの冒険者はナンガっていう名前だっけ。
「すみませんが、その実力を見せていただけませんか?これは私からのお願いですので、断ってくださっても構いません。ただ、」
にっこり、とギルド長が笑う。
「見せていただけるのなら、それなりの便宜は図らせていただきます」
北欧神話の神様は大抵アース神族という種族です。
ロキは含まれるのかどうか微妙なところがありますがこのお話では含まれるということで。