7 邪神様、振り出しに戻る。
酒場を出た僕は、城へ戻ることにした。
アンナに謝ろうと決めたものの、彼女の居場所がわからない。ついでに、魔王とやらもどこにいるかもわからない。
『異世界召喚』だとか、『魔王』だとかで、僕も相当動揺していたのかもしれない。
ということで、知り合い…?のお爺さんに、もう一度話を聞くことにした。
「ねえ、お姉さん。お城ってどっち?」
りんごらしき果物を売っていたおばさんに、子どもらしい笑顔で尋ねる。しっかり商品を買うのも忘れない。
「お城?ああ、あっちの方に高い塔が見えるだろう?あそこだよ」
「ありがとう、お姉さん!」
買ったりんごをかじりながら、教えられた方に向かって歩く。
うわ、このりんご酸っぱい!
あまりの酸味に、思わず笑ってしまった。おばさんが少し不思議そうな目で見てくる。
あ、そうだ。変身を使って髪と目の色を変えておこうかな。どうしてさっき思いつかなかったんだろう?
「〈変〉〈髪〉〈青〉〈変〉〈瞳〉〈緑〉」
やたらと丁寧に紡いでるのは失敗が怖いからです。本当に、変身の失敗は、怖い!
トールを牛にしようとして失敗したときは本当にびっくりした。
本当に…あんな……あんな筋骨隆々のヒゲが生えた女の人なんて見たくなかった。何がとは言わないけどいろいろ大きかったのが負けた気がする。何がとは言わないけど。言ったらアンに殺される。
閑話休題。
髪と瞳の色を変えたから、フードは外しておくことにした。暑いし視界が狭くなるし。
僕がお城に向かって歩いていると、妙に大きい建物があった。
そこには、僕より大きい剣を背負った人だとか、良く分からない動物の死骸を運んでいる人とか、何人もの女の子を連れたイケメンとか……そんな人達が、ひっきりなしに出入りしていた。
この建物は、明らかにあれだよね、冒険者ギルド。
行きたい!行きたい、けど…先にお城に行かないと……。
かなり後ろ髪を引かれる思いでとぼとぼとお城に向かう。
まあ、結局すぐに来ることになるんだけど。
***
お城の門は固く閉ざされていた。
僕が近付いていっても、開く気配はない。そのうえ、兵士の気配さえない。
「〈拡〉〈声〉 こんにちはー!」
……誰も来ない。何か異常事態でもあった?
「〈風〉〈飛〉」
門を乗り越え、僕が召喚された場所に向かってみる。
「貴様!何者だ!」
あ、第一城人発見!
「お爺さん…神官さんに会いに来たんだけど」
「神官殿に…?……神官殿は今、謎の敵にかけられた魔法により話ができる状態ではない!」
……それ僕の仕業だと思います。ごめんなさい。
「そもそも、何故子どもがここにいるんだ?…ステータスプレートを見せろ」
…?すてえたすぷれぇと?
「ステータスプレートって何?」
ものすごく、ものすごく驚いた顔をされた。異世界に来てからは君が1位だ、おめでとう。悪戯の神の血が騒ぐ。
じゃなくて、本当に、ステータスプレートって何?
「どこかでもらえるの?」
今更だけど無知な子どもを取り繕って聞いてみる。
「……各種ギルドか教会で発行してもらえる」
各種ギルド…よし、行こう!冒険者ギルド!
「あっ、ちょっと待て!」
僕が走り出すと兵士もついて来たけど、無視する。
「貴様、門が締まっているのにどうやっ…ぶべっ!」
あ、転んだ。かわいそう。まあ助けないんだけど。
「〈風〉〈飛〉」
顔を覚えられてもう入れてもらえないかもしれない、ということに思い至ったのは5分後だった。まあ、仕方ない。
ロキは振り出しに戻ろうとした!
しかし戻れなかった!