閑話1 ラグナロクの顛末
主人公のイメージが悪くなる場合があります。
ご注意ください。
おう、俺様だ!『北欧神話』主神のオーディンだ!
突然だが、俺様は今ひじょーに怒っている!すげぇキレてる!今なら人間滅ぼせるんじゃね?ってくらいキレてる。
あのロキの野郎のせいだ。
あの野郎、妻が大事にしてた息子、バルドルに怪我させやがった!ふざけんな!
バルドルは生まれたときからキラッキラしてて、俺様の自慢の息子だ。
そんで、こないだバルドルの誕生日だったんだが『父様、母様、最近怖い夢見るの』ってだな…カワイイだろ!
で、妻は心配症だからな…『ねぇアナタ、この世のすべてのものにこの子を怪我させないように約束させましょう』……声色が気持ち悪い?気にすんな!
俺様は頑張って約束させたわけだよ。ヤドリギはちょっとばかし若すぎて約束できなかったけどな。それが間違いだった!あのときの俺様ぶん殴ってやりてえ!
約束させたあと、バルドルになんか投げる遊びがはやった。あいつは痛くねえし優しいし気にしてなかったみてえだけどな。
そんでよお、あの野郎だ。
俺様にはヘズって息子もいる。他にも大量にいる。
まあ今はヘズの話だ。
ヘズは目が見えねえから、バルドルにモノ投げる遊びはしてなかった。やりたそうだったんだけどよ。
そしたらあのロキがヤドリギをヘズに投げさせやがって…しかもご丁寧に『ことば』で強化までしてやがる。
バルドル、大泣き。ヘズもつられて大泣き。……ふざけんなって思うだろ!?
あいつぶん殴ってやる!
今の適当にまとめて神託にしといてくれ!頼んだぞ人間!
***
「おい!予言者三姉妹!どこだ!」
俺様が叫ぶと、ノルン三姉妹のひとりが出てきた。こいつは…どれだ?この三姉妹はみんな同じ顔してやがるから見分けがつかねえ。
「どうしました?」
「おう、ロキの野郎を探してこい!」
「……既にヴェルが探しています。審判はヘイムダル様が務めてくださるそうです」
…有能過ぎて怖え…。そのうち反逆されねえだろうな…。
「っし、んじゃあ行くか!ぶん殴りに!」
ヘイムダルんとこに着いたが、ロキはまだ来てねえ。ミヤモトムサシをやる気じゃねえだろうな。
と思ってたら来やがった!殴る!
今日は大人バージョンみてえだな…あの姿だと、バンバン『ことば』をぶっぱなして来やがるからめんどくせえ。
「今回の審判は私ヘイムダルが務めさせていただきます」
ヘイムダルが前口上を言ってるあいだに殴ってやろうか。
「それでは、はじめ」
ぷあー、と変な音の角笛が鳴る。
「〈闇〉〈壊〉」
「っ!?〈光〉〈相〉〈消〉!」
……なんだ?あいつ、ガチでブチギレてやがる。怒ってんのは俺様のほうじゃなかったか?
「ロキ…?」
「|〈闇〉〈光〉〈全〉〈消滅〉〈自〉〈天地〉〈人間〉〈神〉《全部、消えろ》」
「〈審〉」
っあー、マジかよ!?
マジでヤバかった!え?なんだよあいつ!?
完全に世界滅ぼしに来てたぞ!?
つーか、
「…何泣いてんだよ」
やる気無くなるだろ!
「ヘル……」
あー、
怒る気が完全に失せた。
ヘル、っつーのはロキの娘で、半身が腐ったかわいそうな子だ。
バルドルと同じころに生まれた。
『愛される子』と、『疎まれる子』。
「八つ当たりかよ。なっさけねーなあ、ロキ」
まあ、しばらく泣いてりゃ落ち着くだろ。
あんだけぶっぱなしたし、理不尽な怒りだっつーのはこいつが一番わかってる。
「あー!おじさんがとーちゃん泣かしてる!」
……問題はこっちだな。
***
「……ごめん」
「気にすんな、だいじょーぶだ!」
僕が夜中にオーディンの部屋を訪ねると、彼は笑って出迎えてくれた。フェンリルに噛まれたところが、とても痛そうだ。
「オーディン、僕はしばらく眠ることにする」
「そうか」
まだ、心のどこかが落ち着いてない感じがする。また迷惑をかけるのも、悪いから。
「ごめんね」
もう一度謝ると、オーディンは笑った。
本当に、兄のようだ。
大人の姿なら、僕はオーディンより強い。でも、勝てないんだろうな、と思う。
「おやすみ、オーディン」
「おやすみ、ロキ」
オーディンといるときの主人公は少し子どもっぽい気がします。
余裕ぶってはいますが異世界では気を張っているのかもしれないです。