1 邪神様、困惑する。
声が聞こえる。
高く、低く、なめらかに響く、まるで合唱のような。
……それが『ことば』だと、僕は知っている。
何重にも重なり合っているせいで、意味は聞き取れないけれど、
きっと僕にとっていいものではない。
それでも抵抗はできない。僕は眠っているから。
……アン…僕の敵がここまで来たのなら、アンは?フェンリルは?ヘルは?ヨルムンガンドは?
僕の愛しい家族。無事だといい。
僕を見捨ててでも、生きていて。
***
僕は、目を覚ました。
目の前で、誰かが何かを話している。その内容が、理解できない。
口を開くのも億劫だったけれど、僕は『ことば』を唱えた。
「〈考〉〈解〉」
本当は精神に関わる『ことば』を使われた時に使うものだけど、寝起きなんていうのは大概そういう『ことば』と変わらないんじゃないかと僕は常々…じゃなくて。
さっきから何か話していた人間を見遣る。頭に火を着けたみたいな色の髪に、金の瞳。とても珍しい…というか、こんな人間、いるはずがない。
「―――!――――――!!」
そういえば、言葉もわからない。
………というか、ここ、どこ?
えっ、ちょっと待って。とりあえずトールとかに連絡……取れない!
「――!」
静かにして!集中できない!
「〈精神〉〈操〉壁にでも話しててよ!」
えっと、オーディン!ほら、トールはまたヨルムンガンドと喧嘩してて気付いてないだけかも……オーディン!返事して!
「―――!」
うるさい!
「〈黙〉」
………こ、この際ヘイムダルでも…。……。
まだ笛隠したの怒ってるとか……。
……うん、認めよう。ここは僕の世界じゃない。
どうしてかはわからないけれど、転移したみたいだ。
気を取直して辺りを見回すと、さっきまで怒鳴っていた人がみんな壁を向いて黙っていた。
あれ?僕、何かした?
小説を書く息抜きの小説です。
思いつきで書いていくため、設定等に矛盾が生じる可能性があります。