あいつのせいで、世界がヤバイ!? ~†チート勇者被害者の会†~
なにかが降りてきたので急遽書きました。
俺は一介の兵卒だ。もちろん、特別な力はなに一つとしてない。
この世界では魔物という存在が人々を脅かし、その魔物を指揮する魔族という存在と我々人族は長年戦争をを続けてきた。そうこれは過去系だ。いつまでも続くと思われた戦いは、一人の青年によってあっけなく終わりを迎える。国の総力をあげて召喚された、勇者という存在によって。
圧倒的だったらしい。その戦闘力たるや、俺のような兵卒が10人いても軽くあしらわれるヒドラという魔物を、一刀のもとに切り捨てるほど。そんな存在が本当にいるのだろうかと疑っても無理はあるまい。
そんな勇者様だが、此度の戦に参加されるらしい。
相手は……俺たちと同じ、人間だ。魔族との戦争が終わるや否や、人族はすぐさま国同士の戦争を開始した。魔族の脅威が去るまでは人族という種のためと希望を掲げて、今度は領地拡大やさらなる発展とやらのどうでもいい理想を掲げて。国の上層部なんて所詮そんなものだ。欲ばかりで俺たち下の人間のことなんて考えていやしない。
まあ、俺はこの戦争で十中八九死ぬだろう。もう諦めはついている。唯一心残りがあるとすれば、恋人にしっかりと別れを告げることができなかったくらいか。
でも、悪いことばかりじゃあないぜ?なんたって最後にあの勇者様の戦いぶりを見れるんだからな。といってもまあ、さすがの勇者様も万の軍勢相手じゃあ厳しいだろ。大方、どこぞの姫様にたぶらかされでもしたんだろうな、かわいそうに。どこの姫か言っちまうと戦う前に首が飛んじまいそうだからやめておこう。
さて、開始の合図だ。最後くらい派手にいくとしますかね。
その瞬間、なにかが飛び出した。なにかが飛び出したと思ったら、敵の軍勢が真っ二つに割れた。
「……はぁ?」
思わず疑問が声に出てしまうが咎める者はこの場にいない。彼らもまた、同じだからだ。
「お、おいなんだよあれ!」
誰かが叫ぶ。
俺ら最前線組は突撃が仕事だ。突撃さえすりゃ、あとはどうでもいい。たとえ死んでも骸が壁の役割を果たして戦場の防波堤となる。ただそれだけの役割だ。だが、俺達はその突撃を行うことすら忘れて敵の軍勢が壊滅していく様をぼーっと見ていた。すると、
「みなさん、安心してください!悪しき帝国の軍勢は俺が倒します!」
俺たちの目の前に突然、白銀の剣を持ち、煌びやかな鎧を纏った人物が現れる。…転移魔法か?初めて見たが、なんの前触れもなく現れるあたりそれしか思い浮かばないんだ。おそらくその類だろう。にしても、転移魔法なんて人一人で使えるものなのか……?
俺が思考に耽っているとどこからともなく声が上がった。
「ゆ……勇者だ…!」
勇者だと?こいつが?
たしかにあの力は勇者と言うにふさわしいものだろうが……いや、あまりにもおかしすぎる。一人であんな軍勢を真っ二つに割り、転移を使いこなすなんて人間技じゃない。いや、人間どころではない。下手すりゃあれは神や悪魔のような伝説の類のものだ!!それを生きている人間が、一人で?
だが、それにしては俺の前にいる人物はあまりにも……あまりにも若すぎる。こいつ、自分のやってること理解してるのか?
「みんな、俺に任せてくれ!犠牲を一つも出さずに、俺たちは勝利してみせる!」
「「「うおおおぉぉぉ!!!」」」
その声に、周りの兵士が歓声を上げる。
そりゃそうだ。あんな力見せつけられて、生きて帰れるという希望を目の前にぶらさげられちゃあこうなるのも仕方ない。
だが、俺は違った。
やっぱこいつはなんもわかっちゃいない!犠牲を出さないだと?ならお前が今一瞬の内に殺した帝国の兵達は、一体なんだ?お前は悪しき帝国と言ったが、お前が聞いたであろう帝国の噂は8から9割方ねつ造だ。でもそれを批判すると自分達の命がないから俺達はその噂とやらに黙って頷くしかねえのさ。帝国の奴らだって、人間だ。それなりの野望はあれど、同じ人間なんだぞ…?
「みんな、危ないから下がっててくれ!」
俺の祈りも空しく、勇者は帝国兵どもに向かって駆けてゆく。
「その気はないといえど悪事に加担した身だ。悪いが、一人残らず狩らせてもらう!」
いやその気がないわけじゃなくて、そうしないと首が飛ぶんだよ!この国と同じように当たり前のことしてるだけなんだって!あと何故全員を殺すようなことをする!?軍隊なんて3割の損害がでれば壊滅もいいところだぞ!?やるとしてもそれで十分だろうに!
説得しようにももう遅い。勇者は帝国の兵の中へと飛び込んでいき……たった数時間で戦争は終結してしまった。本当の意味での帝国兵の全滅という形で。
あいつはやばい。国に影響を与えるどころではない。一人で国、いや世界を滅ぼすほどの力を持っている。
世界がヤバイぞ!?誰だ!あんな奴をこの世界に呼んだのは!!!
「えー、以上がペンネーム、以下、名無しの兵士さんがお送りします、さんからのお便りです」
「雑そうな性格してるわりには、なかなか味のあるペンネームだね!」
そう言って茶かすが、この会話で笑う者などいない。会場は、重い空気に包まれていた。その空気の中、この会の司会を務める女性二人は淡々と言葉を紡ぐ。
「この通り、我々の勇者様(笑)は様々な被害をもたらしているわけです」
「そうだそうだ!うちの魔法学院もあいつがなんの前触れもなく新たな魔術体系を作り上げたせいで今年の生徒は激減だ!おかげで職員が何名も露頭に迷うことになっている!」
「うちの商会なんて酷いもんだぞ!ヤツが新種の回復薬を捨て値同然で売ってまわっているせいで、商売あがったりだ!おかげで何人もの仲間が首を吊った!」
耐え切れなくなったのか、周囲の不満が一気に爆発し、言葉の嵐となる。
「まあまあ、みなさんおちついて……さて、このたびはギルド、†チート勇者被害者の会†の設立にご協力くださり、ありがとうございます」
「わあ、前後についた十字架がとっても素敵!でもこれってガチの死者を意味する十字架なんだよね!なむなむ。一体何人犠牲になったんでしょ!?」
「そうですねー、いまのところの被害者総数は……と、そんなこと言ってる場合じゃありませんね。では、改めてあのチート勇者に関する問題点をあげていきましょう」
「はーい。じゃあまず一つ目だね!一つ目はー、…じゃじゃん!戦闘能力が高すぎるところ、でーす!」
「はい、一つ目のお題、あいつ戦闘能力高すぎじゃね?問題でーす」
「はっきりいってこれもうどうしようもないよね?」
「そうです。どうしようもないんですよねー。会話が成立するのは、あくまで双方にそれなりの被害がでる力関係の場合のみなんですよねー。最悪、気に食わなかったらやっつけちゃえーって選択をいつでもとれるわけですから、こちらとしても下手にでるしかありませんねー」
「で、これはどんな対策を取ればいいの?」
「いまのところはほぼないといっていいですねー。戦闘にならないようにうまく立ち回る以外道がありません。力の強さ故に手加減も苦手なようで、人なんて弁明の余地なく一瞬で蒸発しちゃいますからねー」
「毒とかも効かないですもんねー、あの人。以前やっかい払いしようと毒を盛った王族が王にあだなす不届き者としてまるごと処分されちゃいましたもんね!覆面してただけで本当は王族なのにね!」
「あのあと代わりの人物を用意するのが大変だったようですねー」
「圧倒的な暴力って、こわいね!」
「ですねー。では、次の問題。二つ目いきましょー」
「二つ目の問題はー……どどん!無知だけど目立ちたがり屋な性格、でーす!!」
「実はこれが一番の問題かもしれませんねー」
「そうなの?」
「無知とは罪です。自分がこれから行う行動がどのような結果を生むか、考えることはできても知識がないと答えにはたどり着けないのですからね」
「おお!なんかかっこいいこといってる!」
「かっこよくはありませんよ。普通のことなんです。でもその当然のことを知らないからこそ、人は知らず知らずのうちに罪を犯してしまうのです」
「へー、そうなんだー」
「それにしてもあの勇者はこの世界のことについて知らなさすぎる。なのにテンプレだの、ゲーム通り~だの、よくわからない単語を使ってこの世界を知ったつもりになっているからなおさら性質が悪いですね」
「てんぷれ、だっけ?それを知ってるならある程度はわかってることもあるんじゃないの?」
「大方、色々と曲解をしているのでしょう。あとは、自分なら大丈夫、そんなことはないという、魔界より汚染された場所からやってくる根拠のなさすぎる自信でしょうね」
「やっぱり自分が選ばれし者だって勘違いしちゃうとああなっちゃうのかなー!最初にみんなの希望だとかなんとか言ってもてはやしすぎたね!」
「いまやみんなの絶望、勇者様(仮)ですよ。我々の教育不足というのもあるのでしょうが、悲しいことです。もう愛と希望と勇気なんてないのですよ。あんなの勇者じゃありません」
「皮肉よのう!皮肉よのう!っと、あとはなんだっけ?性格?」
「そうですね。あの目立ちたがり屋な性格があるからこそ、先ほどの商会や学院のみなさんがあのようなことになっているのでしょうね。なぜか戦闘だけでなく生産のほうもチートですし」
「一人でこそこそやってる系な性格だったら、新種のポーションとか作りまくってもどこかの世界みたく平和なのかもしれないけどねー!」
「どこかの世界のことは置いておくことにして、まったくその通りですね。もう少し謙虚な方だったらあんなことにはならないかと」
「またよかれと思って実行してるってのがタチ悪いよねー!なにをするにしてもお金はかかるし、新しいものが一瞬で普及するわけじゃないのにねー!」
「そうです。新しい技術があってもお金が無ければどうしようもないんです。といってもついていかなければ取り残されるだけなのでついていくしかないんです。結果、お金の無い者や、情報の遅い者から順に人生脱落泥船シップに乗せられて黄泉路に直行することになります」
「これぞ地獄の格差社会!わかるかっ…!2000万Gは、大金だっ……!!」
「それはとんでもない大金ですね。お城とか買えちゃうんじゃないでしょうか」
「でもそれだけあっても安心できない世の中になっちゃったねー」
「ですねー。もちろんですが物価の変動も激しいですし、通貨すら信用できなくなってきてますからね」
「国が突然滅んだりするからね!」
「あの帝国のことは嫌な事件でしたね……さて」
言葉を切って、さらに周りの注目を集める。
「これらの問題を踏まえて、今後の対策ですが……」
ゴクリと、誰もが息を飲む。この一言に、自分達の全てがかかっているのだ。
「はっきりいって、もうこの世界ムリです。諦めましょう」
「「「「「そ、そんなー!!??」」」」」
こうして、我々の世界はゆっくりと滅びの運命をたどり始める。
キリのないマネーゲームは大量の自殺者を排出し、少しでも遅れた者を食らいつくそうと牙をたてる。人生とはいつか絶対に負けるギャンブルだ!ヤツがいる限りは!と、どこかのえらい人がそう言った。
救いの手などない。どーせ差し伸べられてもすぐ斬りおとされる。
希望などない。どーせすぐ打ち砕かれる。
この世界がなにをしたというのか。どんな業を背負っているというのか。
神よ……どうすればいいのですか…………?
「いや、…………正直すまんかった」
神は謝罪した。
完全なる一発ネタ
追記:みなさん評価ありがとうございます!日間コメディーランキング入り嬉しいです!