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《番外編》家族

 久保田に手錠を掛けられそうになった百鬼は、寸前のところで犬居に助けられる。

 だが、二人の間には確執があり‥‥‥


 今回は、番外編。森本家の長男《烈》と次男《海》の双子の話。

 それは、いつもの朝が始まる筈だった‥‥‥

 今日の朝食は、ベーコン二枚を下敷きにした目玉焼き。バター・トーストにはシナモンをほんのり効かせ、コーヒーはスペシャル。

 もちろん、サラダも忘れずに。

 朝のテレビは、もちろんニュース。朝の顔は、ダンディな髭の似合う男に限る!

 美人というだけで、チヤホヤされる女は嫌いだ!


 これから接客業で、どんな苦手な女が来ても我慢しなくてはならない。色気を振り撒く女や、連絡先を聞こうとする女。


 も〜、ウンザリだ! せめて朝だけは、ダンディ藤浦(勝手に命名)を目の保養にして‥‥‥


 ブラウン管テレビ(まだ主流)の向こうでは、アイドル的存在のアナウンサーと、ベテランアナウンサーが頭を下げ、申し訳ございません。と‥‥‥

  

 『我が番組司会者の、藤浦稔氏が某事務所のタレントAさんと、不倫していた事が分かりました。記者会見はこの後、開かれる模様です。なお、今回の件で藤浦氏は番組を降板する予定です』


 クッソ〜! 俺のダンディ(勝手に命名)が! 返せ俺の楽しみを!! もう、やる気が半分失せたわ!!



 ‥‥‥だが、まだ憂鬱な時間は続いた。


 ‥‥悪夢だ、これは悪夢だ。もう、このままフレディの写真を抱いて、眠ってもいいですか?



 目の前では、悪魔の如く喚き立てる、同じ顔のガキンチョがふたり。


 「ギャ〜! ホモのおっさん、こっち来るな。俺ら食っても、美味くないんだ〜!」


 「怖いよ〜、怖いよ〜」


 涙ながらに訴える二人。気の強そうなのが、兄の烈。気弱なのが弟の海。ともに六歳。

 対して二人の前には、愛に飢えた二十代半ばの男が一人‥‥‥


 「誰が、食うか!!」


 こう見えても、意外と面食いな森本鉄郎(百鬼)は、怒りを内側に抑えながらも、賢明に女性客に愛想笑いをふる。

 今は開店して間もない時間帯、あまり客が逃げないようにしたいものだ。


 この二人が、『マーロン』に来た経緯はこうだ。

 話しは、二人の父親が借金をこさえて、夜逃げをしてしまった事から始まる。

 彼らの父親は、三代続く小売業を商いとしていたが、不況の煽りで店を畳んだのだ。

 母親は数年前に、離婚届を置いて家を出て行ってしまい。家政婦が二人の面倒をみていたのだが、それも給料が払えず暇を出した。

 その後、借金でとうとう首が回らなくなった父親は女を連れて、夜逃げをしたといったところだ。

 哀れ、母親にも父親にも捨てられた双子は、残された家財道具とともに売られようとしていた。

 だが、相手はまだ子供。もし売られたとしても二束三文で叩かれ、行く先は人身売買。どうなることやら‥‥‥


 流石にそこは、借金取りの彼らも考えた。こんな幼い双子を、人買いの処へ連れて行く訳にはいかないと。

 彼らも、人の子である。女の子ならば、まだ生き残れる可能性があるが、男の子ならばそれも皆無に等しい。それならば‥‥‥


 『お前ら、ホモのおっちゃんの所へ行け』


 「何が優しいんじゃ〜、ホモに犯される〜」

 「怖いよ〜、怖いよ〜」


 ‥‥‥で、現在に至る。

 つまりは、どう考えても借金を返せそうにないガキンチョ二人を、厄介払いで百鬼に押し付けた上、しかも債務は百鬼から徴収する魂胆らしい。


  うゎ〜 ん、お家に帰りたいよ !

 仕舞いには、処構わず泣き出す始末。はっきり言って、こっちが泣きたいよ‥‥‥

 ほら、見てみろ! お客様方がドン引きしてるじゃないか! もし、これで悪い噂が立ってウチが潰れたら、どうしてくれるんだ!?


 「ホモのおっさんが、怒ってる 」

 「ビェェ ン」


 ‥‥‥正直に、言わんでよろし! だからガキンチョは、嫌いなんだ。あぁ、こんな時に戸塚くんが居ればなぁ。


 すると、丁度そこにタイミングよく戸塚くんが!


 「何か、呼びました?」


 「あれ、戸塚くん? どうしたの」

 

 急に現れた宅配青年の戸塚くんに、百鬼の態度は180度、コロリと前転倒立! 

 声までソプラノ・ビート、あまりの変わり様に、双子は口あんぐり。


 だから、彼らは悟った。奴は使えると!


 つまりは、ここで戸塚という青年にお膳立てし、うまくホモのおっさんと結ばれれば、俺らは快適で平和な生活が送れる!


 ‥‥‥そうなれば、善は急げ!


 そう決まると早速、双子は戸塚に無邪気にすり寄った。


 「お兄ちゃ〜ん、遊ぼう」

 「一緒に遊ぼ〜」


 おっ、そうかい。じゃあ何して遊ぼうか?


 双子が戸塚に飛び付いたりして、遊んでいるところへ、百鬼は一人ほくそ笑んでいた。

 (ええ子や〜、お前らホンマにええ子やで。俺の恋をもっと応援してや〜)


 周りに、訝しげに見る客がいることを忘れ、一人で悦に入っていると、ふいに振り返った戸塚と目があった。


 「‥‥‥あの、森本さん」

 「どうしたの? 戸塚くん」


 この前、言った言葉を覚えてますか?


 ‥‥‥もしかして?


 「僕、今月で会社の契約が切れるんです。更新はするつもりはありません、意味分かりますよね?」


 思わず、百鬼は双子と顔を見合わせた。


 「‥‥‥あの、本当にいいの?」

 おずおずと聞く百鬼に、戸塚はそれでいいんですと‥‥‥


 いいや!!! ここで問題発覚!!

 ホモだ、恋愛だウンヌンよりも大事な事があるだろ〜が! 裏稼業の事だろ? あまり人に言えるような仕事じゃないだろ?

 もう、顔がニヤけ過ぎてノー、なんて言えないだろ? あぁ、どうしよう‥‥‥一緒に仕事してほしいし、だからと言って密輸組織に戸塚くんを入らす訳には‥‥‥

 そうこう悩んでいる内に、店の中に新たな人間がいた事に、気が付かなかった。


 「駄目に決まってるだろ!!」


 その声に、百鬼どころか戸塚までもが驚いた。なぜなら、そこにいたのは招かざる客。犬居刑事がいたからだ。


 (犬居‥‥‥!)


 犬居は、戸塚に言う。どうして、そんなに短絡的なんだ?と‥‥‥


 よく見れば、周りにいた客は皆帰っていた。


 「これは僕の意思です。貴方にとやかく言われる筋はない!」


 「大アリだろ〜が! 棺桶に、片足突っ込んでるようなモンだろ? 頼むから、考え直せ! 出なければ、お前も逮捕せざるを得ない時もある」


 だが、戸塚は首を横に振り、考えを改めるつもりは無いと言う。


 「犬居さん、もう僕の家庭の事情はしってるんでしょ?」


 え、戸塚くんの家庭の事情? 俺は、知らない。

 すると、犬居は顔を歪ませ、口をごもらせた。


 「だって、ウチが放火で焼け出された時に、確か犬居さん。貴方も現場にいた筈だ」


 ‥‥‥それは不幸な連鎖だった。

 今から数年前。戸塚の実家近くで、当時賑わせていた連続放火魔による放火事件は、大学に通っていた戸塚の家にまで及んだ。

 その時、アルバイト扱いだが現在の運送屋で、すでに働いていた戸塚はその時もバイトに勤しんでたので、難を逃れた。

 だが、事件がニュースで流れるやいなや、社長に急かされ車で送ってもらった。


 ‥‥‥その時は、意味が分からなかった。なぜ社長が慌ててるのとか、なぜ自宅の周りに人だかりが出来てるのとか、なぜ家が燃えてるのか‥‥‥

 時間は、夜の八時は過ぎている‥‥‥家族は? 父と母はこの時間帯は、家にいる筈だ。

 お願いだ、家に‥‥家に家族がいる筈なんだ! 頼むから、この手を離してくれ! 今なら助かる筈なんだ。

 社長‥‥社長! 止めないで下さい。父と母を助けるんだ‥‥‥‥おねがいだから。


 「憶えている‥‥お前は、燃え盛る炎の中に身を投じようとしてた」


 「結局、自宅は全焼。親父とお袋も亡くなった。なのに、犯人は見付からずじまい。なのに、アンタはこんな時にだけ口を挟もうとするんだ」


 俺だって、家族を持ちたいんだ。森本さんや子供たちとなら、楽しく暮らせそうなんだ。


 ‥‥戸塚くん、根本的に間違ってるよ。なんて、口が裂けても言えない双子だった。


 「戸塚くん‥‥‥」


 ‥‥‥なんか、おっさん泣いてるし。


 「‥‥‥好きにしろ! だがな、戸塚。覚えとけよ。もし現場の証拠を押さえた時には、分かってるだろうな!」


 踵を返して、店を去ろうとする犬居に、百鬼は叫んだ。


 「ガキども、塩撒くから持ってこい!」


 百鬼は、外の犬居に目掛け思いの丈を塩に込め、投げ付けた。

 

 「届け、俺の変化球! 返せ俺の俺の初恋!」


 ‥‥‥外の方では、犬居の叫び声が聞こえてきた。「そんなにモン、いらん!」と。





 ‥‥‥それから、月日は流れ。百鬼と犬居の化かし合いは続き。双子たちが、すくすくと成長するとともに、棲み家をかえていった。それから養子もドンドン増えていき‥‥‥そして話は、栗栖要くるす かなめのステージへ。

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