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確執

 百鬼が助け出した筈の、留美子が殺された! しかも、スタンガンで気絶する前に聞いた声は、どこかで聞き覚えのある声。

 次に目を覚ました時には、自宅で眠っていた。

 しばらくすると、クスリでラリった久保田が現れ、行方知らずの《魔女の鉤爪》を無心してきた。抵抗すると今度は、手錠を掛けようとしてきて‥‥‥

 (は‥‥‥?何を言いやがるだ、コイツ?)

 あまりの事に、百鬼は戸惑いが隠せなかった。

 まさか、これがヤツの〝手〟だというのか?ワザと相手を怒らせ、ケンカを買うのである。もし殴られたら、計画は成功。

 後は、取調室で吐かせれば、いいだけの事。


 (クソッ、やられた!)

 そうは思っても、あとの祭り。

 久保田は、嬉々として百鬼の腕を掴み、手錠を百鬼に嵌めようとした。だが‥‥‥


 「アンタ、森本さんに何するんだ!」


 突然の言葉に百鬼は振り返り、さすがの久保田も声の方に顔を向けた。


 (戸塚くん‥‥‥嘘みたいだ)


 それは、百鬼が密かに想いを寄せていた、戸塚本人だった。

 彼は素早く百鬼の側に駆け寄ると、久保田から引き離し、自分の後ろに隠した。

 

 なんだ〜、貴様。俺に楯突くつもりか?


 泡食う久保田の異変に、戸塚はイチ早く気付いたようだ。


 「森本さん、この人の様子おかしい。俺から離れないでよ」


 まるで、その姿は姫様を護る騎士様♥

 百鬼の心臓は、さっきからバクバク! もぉ〜、好きにして状態。

 だが向こうは、どんなにクズでも刑事。相手が悪すぎる。


 「気を付けて! アイツ、刑事だから職権で君まで捕まえるつもりだ!」 


 「貴様も、仲良く一緒に連れて行ってやるよ」


 久保田は態勢を変え、今度は戸塚くんに襲い掛かろうとした‥‥‥‥その時!


 「おい! 久保田。何をしてるんだ」


 怒鳴り上げるような声に驚いた、全員が一斉に玄関に目を向ける。そこに居たのは‥‥‥


 「犬居さん‥‥‥」


 犬居の強張った声に、さすがの久保田も苦手なのか、すっかり怖気づいた様子。


 「本部が、お前を呼んでいる。お前、何かやらかしたな。ここはもういいから、一旦あっちに戻れ」


 上司の言葉に、久保田は黙って頷き、その場を後にした。

 ‥‥‥嵐が去った後の静けさは、妙に虚しいものであった。


 「礼は、言わないぜ」と百鬼が言えば。「そんなもんは、いらん」と犬居が返す。


 「久保田に関しては、ウチの不祥事だ。身内を咎めれないのも事実だし、ヤツをそのまま野放しに出来ないのも事実、謝る」


 クソッ! 百鬼はイラつきながら、胸ポケットに入っている煙草の箱を取ろうとしたが、あいにく切らしていた。

 

 すかさず犬居が、スッと自分の煙草を差し出し、ひとこと言った。


 「鉄郎、覚えとけ。お前もアイツと〝同じ穴のムジナ〟だと言う事を」


 ‥‥‥‥百鬼は犬居の手を払い除け、言い放つ。アンタの施しは受けない。と‥‥‥


 「っ‥‥今更、兄貴ヅラしても遅いんだよ! 壊れちまったモンは元には戻せねぇ。アンタの正義ヅラには、もうウンザリだ! 虫唾が走るぜ」


 暴走するお前を止めるには、あの時はアレしか無かったんだ! お前を生きたまま助けるには、逮捕するしか!


 ‥‥‥戸塚は、二人のやりとりを静かに眺めていた。二人の過去に一体何があったのか。


 頼むから、アンタは帰ってくれよ! 百鬼は犬居を無理矢理、外に追い出しドアに鍵を掛けてしまった。


 「戸塚くん、ゴメン。君に変なところを見せてしまって。この前も、看病してもらったり世話をかけっ放しだ」


 戸塚は、頭を横に振り「大丈夫だから」と言う。それよりも、彼が《犬居》という刑事にとった態度の方が気に掛かった。

 そして、後で知ることになる二人の確執を。


  

 ‥‥‥それは、いつものように配達の仕事に勤しんでいた時である。

 「おい、戸塚。お客さんだぞ」

 先輩の声で振り返ると、そこには見知った顔の犬居刑事が立っていた。

 「先輩。すいません、休憩入ります」


 戸塚は犬居を連れて、他の場所へと移った。


 「‥‥‥あの、俺に何か用なんですか?」


 戸塚の問いに、犬居はこっちが聞きたい。と訝しむ。

 

 「アイツとは、どういう関係なんだ?」


 「貴方には、関係ないでしょ? それとも、まだ森本さんの事が忘れられないとか‥‥」


 何を言ってるんだ? 俺が見たところ、結構仲が良さそうだったからな。 

 一つ忠告しとく、アイツの周りには気を付けろ。人殺しでも平気でするような奴らだからな。

 殺される前に、アイツとはスッパリ縁を切れ。


 ‥‥‥やっぱり、戸塚には分からなかった。なぜ、犬居という刑事がここまで森本を警戒するのか?


 「最も近しくもなく、遠い間柄でもない関係なんだよ。俺たちは」


 彼は言う、森本との関係を。

 そして犬居に対しての怨恨についても。


 「俺と鉄郎は、同じ養護施設で育った仲間だったんだ。いや‥‥家族と言ってもよかったかな」


 俺は、両親の離婚で幼い頃に、施設に預けられたのだが、鉄郎は赤ん坊の頃に連れてこられていた。

 貧しい施設だったが、援助をしてくれる人たちもいたから、なんとか生活はできた。

 俺は施設から学校に通い、大学に入る時はアパートを借りて、奨学金で通う様になり、その後は念願叶い警察官になれた。

 少ないながらも、俺も施設に金や物を送れるようになったのは嬉しかった。シスターや先生には世話になったからな。


 ‥‥‥そんな中、事件は起きた。あれは俺が捜査課に配属されて間もない頃、アイツはまだ高校に入るか入らないかの頃だ。

 俺らの育った施設が、都市計画で立ち退き命令が出たんだ。

 とんだ田舎にだぜ? 急に言われても「はい、そうですか」なんてホイホイ応える筈ねーだろ?

 で、役所に問い合わせたら、区画整理には引っ掛からない区域に入っていたらしいんだ。


 それで、先生と鉄郎を含むガキどもが、建設業の担当者に抗議に行った訳だ。すると‥‥‥出てきたのは、土建屋じゃなくてヤクザだって訳さ。


 よくある話しさ、建設業の名を語った総会屋の話しは。俺たち警察は、民事不介入だからな。両者に割って入ることは出来ない。

 奴らと来たら、嫌がらせ同然で施設を木槌で、ブチ壊し始めた。

 施設の連中は、皆泣き叫び逃げ惑ったが、一人逃げ遅れた子供がいたんだ。

 その時、教諭の1人が子供を助けようとして、材木の下敷きに‥‥‥

 それを見てブチ切れた鉄郎が、単独で総会屋に乗り込んでいきやがった。

 俺が行った時には、すでに大事になっていた。それを抑える為には、アイツを捕まえる他に助ける方法がなかった。

 アイツとしては、自分よりも奴らを制して欲しかったんだろうが‥‥‥因果な商売だよ。

 結局、鉄郎は鑑別所送り。その後は、施設には戻らず、次に会った時は麻薬不法所持で逮捕した時だ。


 アイツは、ずっと俺を恨んでいる。何もかも知ってて、動く事のできない弱虫の俺を。

 だから、お前は考えなければならない。鉄郎とツルむことは、地獄に片足突っ込むようなものだと。


 戸塚は、何も言い返す事ができず、ボー然と犬居の背中を見送る事しかできなかった。 

 

 

 

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