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魔女の小瓶‥‥‥‥後編

 《マーロン》のマスター、百鬼は無事に本田留美子を、ベンツ軍団から助け出す事に成功した。

 だが、まだ災難は続き、そして‥‥‥

 次に目を覚ました時には、見覚えのある天井があった。あれ? 俺、確か留美子の家にいて誰かに電流を‥‥‥

 ぼんやりとした視界の中、イヤに枕が硬い事に気が付いた。


 「あっ、よかった〜森本さん、気が付いたんですね」


 誰だ、それ。俺の名前は百鬼だ。森本? そんな平凡な名前は知らない! 枕のくせに生意気だ!


 だが、枕はお構いなしに話しを続ける。


 「僕さっき、びっくりしましたよ。大型トラックが通ったと思ったら、ドサッて音がして」


 は‥‥‥?枕が喋ってる!!?


 惰眠を貪ろうとして、声がしたのでガバッと起き上がると、そこには本当ならいる筈のない人間がいた。


 「あっ、あれ? もしかして戸塚くん?」


 はい‥‥? あの、ところで鼻血出てませんか?


 そこは、百鬼がいつも使っている、自分の寝所であった。

 店と自宅を一緒にしてあるので、店が終って二階に行けば、すぐ寢れるようにはしているが。

 どうりで、いつも使っている白薔薇のアロマの香りがする訳だ。

 ‥‥‥百鬼は、自分勝手に店番を他人に押し付けた挙句、すっかり忘れてしまった訳である。

 しかも、膝枕に興奮してしまい、鼻血を吹き出すオプション付きで。


 「何があったんですか? あんな所で倒れてたりして、しかも擦り傷とかあったから簡単な応急処置しときましたよ」


 さあ? 一体、何があったんだろう。

 本当だ、キレイに包帯巻いてくれて、ありがと。君は良いお嫁さんになるよ。


 あれ、夜のニュースが始まり時間だなんて、もう七時が廻って‥‥‥ふと、部屋に取り付けてあるテレビを見ると、昼間に起きた事件を、ニュースに取り上げていた。


 『今日の昼頃、市立病院で働いていた本田留美子さんが、市内の自宅アパートで遺体となって、見つかりました』


 死因は溺死とみられ、浴槽に頭を浸かった状態で見つかったとのこと。現在も詳しい捜査をしております。

 アパートの大家と言い争う姿を、何人もの住人が目撃している様子。

 大家の男は、事情を聴く為に警察に連行されました。なお、容疑が固まり次第、逮捕する模様です。



 ‥‥‥‥そんなの嘘だ! デタラメだ!


 あまりの出来事に一瞬、彼はまだ夢から覚めていないのだと、勘違いしてしまった。


 確かに、坂木は留美子と言い争いもしたし、突き飛ばしりもした。だが、まだ死んでなかったんだ。それなのに!!


 ‥‥‥留美子を殺したのは。

 あの中年男に違いない! 大体、なんで溺死なんだよ。


 アイツの顔は一生忘れない。


 絶対に、あの中年男がやったんだ。百鬼は、苦虫を噛みながら、震える手を握り締めた。

 だが、どんなに怒り狂っても、どこにも訴え出れないのが現状だ。


 (虫ケラとしては、妥当な死に方であるな)


 しかし、ここで問題が浮上した。それは、留美子に持たせたアタッシュケースだ。

 あれが、違う組織の手に渡ったら、大変な事態になるのは明白だからだ。


 それから、さらなる追い討ちが百鬼を襲う事となる。


 それは、試作品として置いていた〝商品〟をくすね、使用した人間の変わり果てた死体が見つかった事だ。

 本当なら〝幻〟となり、身内だけの秘密として終わる筈だった。


 ところが、今回の事柄で〝商品〟その実物が無い状態で、噂だけが一人歩きし始めたのだ。


 皆は口々に言う。

 『死んだ女が遺した厄災』と騒ぎ、いつしか誰が名付けたのか分からないが〝幻の商品〟は《魔女の鉤爪》と、呼ばれるようになった。


 もし、万が一。アレが、他人の手に渡ったらどうなる?使い道は、無限大だ。

 殺人、脅迫、成分を調べて大量に作れば、まだまだ被害は拡大するかもしれない。


 保険の為に、仕掛けといたワナがあるから大丈夫だと思うが。

 もし、解錠されたら? 例えば、ワナが不発に終わったら?


 その前に、何とかしなければ‥‥‥

 百鬼は、その事がずっと頭から離れる事がなかった。


 それを最初に実感したのは、あの男だった。

 「おい! カマ野郎、あの《魔女の鉤爪》をどこに隠しやがった?」

 ‥‥‥‥思った通り、最初にヤツが来た。

 久保田のヤローだ。さすが、人間のクズでも鼻がよく利きやがる。

 「さて、何の事でしょう?」 

 客の居ない、時間だという事が幸いした。

 とりあえず、この男を帰さないと。

 「久保田さん、お願いですから今日のところは、お帰り下さい」

 百鬼が久保田を帰そうと、金を握らせたところで彼は、ある異変に気づいた。

 久保田の様子がおかしい。これは何だ? 目の焦点が合っていない、鼻につくイヤな匂い。ろれつの回らない言葉‥‥‥締まりのない口からは、よだれをダラダラと垂れ流している。

 「アンタ、まさか!! クスリに手を出したな」

 隠れて吸引するのは、個人の責任だが。捜査中に吸引しては、バレた時点で百鬼も、巻き添えを喰らう可能性があるのだ。


 「うるさい! 早くよこせ」 

 口から泡を吹き出しながら、百鬼に襲い掛かろうとして、首に手を掛ける。

 「なんで、お前が《魔女の鉤爪》の存在を知ってるんだ? 出処まではバレてない筈だ! まさか」


 そう、そのまさかだった。本来なら、本店と各店の店長しか知らない話しを、この男は突き止め、なおかつ根こそぎ奪ってやろう。という算段なのだ。

 ‥‥‥だが、それよりも彼には気掛かりな事があった。

 「まさか、留美子が襲われたのは!」

 久保田は、ニヤリと不気味な笑みを作る。


 だから、どうしたのだ?‥‥‥と。


 (クソッ! コイツのせいで!!)


 留美子が、襲われたり。ベンツ軍団に追い回されたりしたのは、全てコイツが原因だったのだ。

 もし、あの時に留美子は何事もなく、仕事を無事に遂行する事ができたら、事態は変わったのか? それとも‥‥‥


 「お前が、余計なことをしなければ、留美子は死なずにすんだのかもしれないのに!」


 百鬼は、怒りを抑える事ができず、力任せで首に掛かっていた手を払い除け、久保田の体を壁に叩きつけた。


 だが、クスリでラリっているせいか、平気な顔をして立ち上がり、百鬼にある言葉を投げ掛けた。


 「公務執行妨害で、森本。お前を逮捕する」


 しかも、したり顔で。


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