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魔女の小瓶‥‥‥‥中編

 アンティークショップ『マーロン』のマスター《百鬼》は、かねてから意中の男性。走る宅配美青年に、想いを伝えるべく‥‥‥‥いや、違った。

 仲間のピンチを救うべく、無理矢理に店番を押し付け、車をを出すが‥‥‥

 ‥‥‥留美子から連絡を受けて、外国産の4WDの改造車に乗った、アンティークショップ『マーロン』のマスター、百鬼は約束通り、港近くの工場現場サワイの看板前に来ていた。


 「マスター、こっちよ。こっち」


 工場の資材置き場に隠れていた、留美子は手招きをして百鬼を呼び寄せた。彼女の小脇には、例のアタッシュケースが抱えられていた。

 留美子の無事な姿を確認した百鬼は、ホッと胸を撫で下ろした。


 「留美子、一体何があったんだ?」


 率直に疑問を投げ掛けるが、彼女は何も話そうとせず、サッと助手席に滑り込んだ。


 「話しは後よ。それよりも早く、車を出して」


 百鬼は、ブレーキパッドに乗せた足をゆっくり離し、ハンドルを右に切った。


 「おい! これは、どういうことだ。説明しろよ留美子。一体どこに逃げればいい?」


 とりあえず、スピードを上げてよ! もう、ここは危ないわ。できるだけ追手を撒いてちょうだい。


 は‥‥? 撒くってどういう‥‥‥そう聞こうとした瞬間。車内のバックミラーに映ったのは、無数の黒塗りのベンツが一斉にスピードを上げ、こちらに近づいてくるところだった。


 「な、なんだっアレ? シャレにならんぞ!」


 後ろを振り向いた百鬼は、度肝を抜いた。 


 「だから、早く逃げてって言ってるでしょ? 多分、このアタッシュケースを狙ってるのよ。誰かが洩らしたのよ、きっと!」


 「クソッ! 俺の大和魂ナメんなよ!」


 百鬼は、思いっ切りアクセルを踏み込んで、スピードメーターが振り切るくらいにスピードを出す。


 「ちょっと、大丈夫? こんな乱暴な運転してたらバッテリー、すぐ上がっちゃうわ」


 助けに来てやったのに、お前がそれを言うか?

 「まあ、見てろよ」


 そう言うと、工場がひしめく狭い路地を走っていた百鬼は、海がある方へと走って行った。


 「きゃああ!! 何すんのよ!」


 百鬼と留美子を乗せた4WDは、躊躇することなく海へダイブ!! バッシャャャアン! と飛沫を上げて車体ごと海へ放り込んでしまった。

 

 ‥‥‥だが、4WDは沈むどころかプカリと浮かび、平常航行をし始めた。

 これには、後ろからツケてきたベンツ軍団でも、立ち往生で為すすべなし状態。


 豆つぶ程度しか見えなくなった、ベンツ軍団を横目に航海開始。

 「見たか! これぞ水陸両用車の活用術。ここまでは追って来れまい!」


 「これ、どうやって動いてんのよ?」


 すると、百鬼はしたり顔で話し始めた。


 「これ、前の男にプレゼントされた物。タイヤは電動格納式でスクリュー噴射で走るんだよ。いいだろ〜」

 自慢気に話す百鬼に、留美子は気になる事を聞いた。で、その彼とはどうなったの?と。


 「‥‥‥女と結婚するから、コレ手切れ金だよ。って、置いて本国に帰っていった」


 「‥‥‥‥マスター、ごめん」


 暗い顔をする百鬼を乗せた水陸両用車は、20メートル程の悠々自適な水上運転をし(但し、MAXで目立っていたが)、陸へと戻っていった。

 百鬼は、言う。俺がヤツらを引き付けるから、お前はアタッシュケースを、誰にもバレなさそうな場所に隠しといてくれるか?

 彼は、待ち合わせ場所を決めた。裏の同業者が経営する《M》というパブ。そこなら留美子でも分かった。


 「事情はこっちで伝えとくから、そこで落ち会おう」


 分かったわ。そう言って、留美子を車から適当に降ろし、百鬼は追手の車を煽りに行った。



 ‥‥‥‥それから二時間後。留美子は無事に、『M』の従業員によって保護され、百鬼とも合流する事ができた。



 「マスター、どうぞ。ゆっくりして行ってよ」

 百鬼が留美子に連れてこられた場所は、彼女の住むオンボロアパートだった。


 「お前、普段は看護婦やってるんだろ? ウチの報酬だって、安くない筈なのに」


 ‥‥‥昔からの生活が、抜け出せないだけよ。


 「マスター、ビールでいい?」


 「いや、車だからヤメとく。それよりガキは、どうした?」


 息子は友人に預けた。高飛びするまで、安心はできない。子供まで危険な目に合わせれないわ。


 百鬼は、ビールの代わりに出された茶缶を受け取った。


 「留美子。聞いてみたかったんだが、お前は一体何を恐れてるんだ?」


 それは‥‥‥‥


 ドンドンドン!! ドンドン!!


 その時。玄関でうるさい程、ドアを叩く音がしてきた。

 『ちょっと! 本田さん、出て来てんか』


 大変! 大家の坂木さんだわ。マスター、押入れに逃げて! 早く。


 留美子はそう言うと、百鬼を素早く押入れに押し込んだ。


 ゴッ!! 痛てっ、ヒドい扱いだな。

 押入れの天井で頭打ったじゃね〜か。客人に手荒い歓迎だな? オイッ!!


 留美子の手によって、押入れに入れられた百鬼は仕方なく、襖を少し開け、様子を伺う事にした。

 襖からは玄関が丸見えで、大家と留美子のやりとりが、手に取るよう分かる。


 (あの巨体のおっさんが、大家の坂木か)


 「ワシは見たで、本田さん。アンタ、男連れ込んだやろ? この前は違う男、他にも若い男と一緒におった」

 憤慨している大家に、留美子は後向きで、表情までは分からないまでも困惑した様な声色が、聞いて取れる。


 「なぜ‥‥‥それを?」


 「ワシ、アンタが好きやねん。アンタの事なら何でも知ってる。なぁ、赤ん坊は中年男の子供やろ? アイツはやめとき、金は持ってるやろが悪い奴やで〜、それよりもワシと付きおうてや」


 (赤ん坊の父親が、中年男? じゃあ、今付き合ってるのが若い男か)



 「きゃあ、何すんのよ!」


 お願いや。なぁ、ええやろ? いっぺんや、いっぺんだけでエエやさかい。やらせてぇや。


 坂木は、土足で部屋に上がると、嫌がる彼女を無理矢理に、押し倒そうとした。


 やぁ 、やめて !! 彼女が、わめいた瞬間。慌てて口元を抑えようと大きな手で、顔に乗せると‥‥‥ゴキッ! 鈍い音とともに、彼女の「グェッ」という声が微かに聞こえた。


 それを見た坂木は、ヒィッ!? と情けない声を出して、慌てて部屋から出て行った。


 「‥‥‥‥る、るみ?」


 事の一部始終を、押入れから見ていた百鬼は、大家が部屋を出て行った後、這いずるように押入れから出て、ぐったりとした留美子に近付いた。

 一体、何が起きたんだ? さっきまで動いてたのに? 強く頭を打ったせいだ‥‥‥目は、まだ瞳孔が開ききっていない! 蘇生をすれば、また助かるかも。


 自分の体から、血の気が引いていく感じがする。あのクソッたれ野朗が、しでかした事に憤りを覚える。早く医者の先生に‥‥‥


 百鬼が、組織お抱えの医者の処へ、連れて行こうとした時。ふと、背中の方に殺気みたいなものを感じた。

 気が動転して、気付かなかったのだろうか? 後ろに振り向こうとした瞬間、背中にビリビリッと強烈な電流が流れ、全身が麻痺していくのが分かる。


 だが、体が動かずとも目だけ動く。耳もまだ聞こえる。霞んでいく目を必死に開く。黒いズボンを履いた足しか見えないが、一人が足二本として、一人・二人・三人くらいか? いや、まだ見えないだけで。

 (ちきしょぉぉ‥‥体が全く動かねぇ!)


 「おい、この男を連れて行け。証拠を残すなよ。足が着いたら困るからな」


 ‥‥‥背後では、どこかで聞いたことのある声。


 分かりました。声が聞こえたと思ったら、百鬼は引っ越し荷物よろしくみたいに、ヒョイっと一人の男の肩に担がれた。


 ‥‥‥その時、百鬼は微かに開けていた目で見ていた。留美子の側に立つ中年男の顔を。


 (クソッ、留美子に何しやがる!)


 だが、心の叫びも虚しく。百鬼の意識は、ここで完全に途絶えた。



 



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