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魔女の小瓶‥‥‥‥前編

 アンティークショップ『マーロン』の地下室で、秘密の会合をする男女が二人。

 そこにいる一人は、『マーロン』の《マスター》である百鬼。そして、もう一人は本田留美子という女性。

 百鬼には、気掛かりな事があった。

 「なあ、そのガキの親父は誰なんだ? 今付き合ってる奴か? 相手は妻子持ちなのか」

 彼の正直な問いに、留美子は沈黙を貫くしかなかった。

 「俺とお前では、性的な関係は結ばれないが、同志くらいにはなれる。俺で力になることがあれば言ってくれ」

 「‥‥‥‥」

 暫しの沈黙の後。首を横に振り、留美子は堅い口を開いた。

 「マスター、息子の父親が誰かなんて教えられないわ。愛した人の子でもない‥‥‥でもね」

 多分、私の恋人はマスターの好みのタイプだと思うわ。

 「へぇ、一度は会ってみたいものだ」

 そこまで言って百鬼は、ん? と首を傾げた。

 「ちょっと待て。俺はゲイだって事を、お前に喋ったか?」

 すると彼女はフフッと笑い、もう一度首を横に振った。


 女の勘よ。そうじゃなきゃ、貴方みたいなハンサムに女の影が無い訳ないわ。こんな美人を放ったりもね。

 

 確かに‥‥‥どんな美人が近付こうが、どんなボインが来ようが、宅配兄さんの尻を目で追っかける方が好きだが。

 その時、彼は思った‥‥‥女は怖い。


 ゴホッ! 一つ咳払いすると百鬼は話を続けた。

 「話の続きだが、お前に見てもらいたい物があるんだ」

 そう言うと、彼は一旦隣の部屋に入り。お目当の物を見付けると、また部屋に戻って来た。

 両手で白い箱を抱えた百鬼は、留美子の目の前のテーブルに置いた。

 「マスター、それは何?」

 箱の中に入っていた白い粉を入った袋を一つ取り出し、さあ?と首を傾げて見せた。

 「さあ? じゃ、分からない物は運べないわよ」

 本当に知らないんだよ。本店オリジナルの麻薬らしいが、まだ発売未定らしい。

 ウチの幹部は、これが成功した暁にはコレを大々的に売り込むつもりらしいんだが、予測では億は下らないらしい。

 でも幹部としては、その前にコレを試供品として配りたいらしいんだ。

 だから、船で運んで欲しいんだが報酬は、いつもの二割増し。口座に前金として、五十万。

 そして、念の為に保険として南京錠付きのアタッシュケースを準備してるが、これには仕掛けがあって、南京錠にはニトログリセリンの入った小瓶を差し込んでいる。無下に扱うなよ。

 暗証番号は、お前に任せる。やってくれるか? 留美子。


 先程までボーッと眺めていた彼女は、ハッと我に返り、何かを思い出したかの様に、彼に頼み事をし始めた。


 「マスター、お願いがあるんだけど」

 

 ‥‥‥なんだ?


 「私‥‥‥もし私が、死んでしまったら。息子の事をよろしくお願いします」

 

 は‥‥? お前、何言ってるんだ?

 衝撃のあまりに一瞬、息をするのを忘れた。


 「いきなり、何を言い出すんだ? 誰かに命を狙われているような言い方だな」

 

 ‥‥‥狙われているような、じゃなくて。狙われてるのよ、冗談じゃなく‥‥ね。


 「誰だ、誰に命を狙われてるんだ? 息子がいるってだけでも驚きなのに‥‥まさか、ガキの父親に命狙われたのか?」


 わか‥‥‥わからない‥‥誰が私を殺そ‥‥としてると‥か‥‥ずっと、誰かにストーカーされてるのかも。でも、今の私じゃあ警察に被害届けも出せない‥‥


 留美子は、急に恐ろしくなってきたのか、しゃくり声を出しながら話をする。


 「マスター、私がもし死んだら《涼介》、あの子の後見人になってほしい。成功報酬を全て息子に譲りたいの」

 これ見て。留美子は自分の首からプラチナのネックレスを外すと、こう言った。

 「これは、今の恋人に貰ったものよ。見てよ、クローバーの裏側に文字を掘ってるでしょ。これは息子の誕生日よ、暗証番号はこの数字にするわ」

 焦りを隠せない留美子に、百鬼は宥める様に背中をポンポンと、軽く叩く。

 「とりあえず、落ち着け。ちゃんと仕事をしてくれたら、後は逃走の手引きくらいはしてやる」


 ‥‥‥本当ね? 約束よ。


 それだけを聞くと、留美子はホッとしたのか、安心した様な顔で店を出た。


 ‥‥予想外の展開が、待ち受けるとは知らずに。 



 それはある日、けたたましく鳴る電話音とともに突然訪れた。


 ジリりりィィン、ジリリ‥‥ガチャ!


 「はい、《マーロン》です」


 電話の相手は、切羽詰まった感じの留美子からだった。どうやら公衆電話かれ掛けているらしい。チャリン、チャリンと十円の落ちる音がする。

 『もしもしマスター、私よ。大変な事態になってるのよ。誰かが、この品を狙ってるみたいなの。さっきも車に跳ねられそうになった!』


 なんだって! 一体どこで情報が洩れちまったんだ?


 「分かった! 今すぐ迎えに行く、どこにいるんだ?」


 『港近くの《サワイ》て、書いた看板の工場にいるわ。早く来て』


 「待っていろ! すぐ行く」


 百鬼はそこまで言って、ある事に気が付いた。

 (しまった! そう言えば、ウチは従業員を雇ってなかった)

 それもその筈、ペーペーの店長が組織のプロから従業員を借り入れるのは、到底無理な事だった。


 だが、その時! 彼の目の前に救世主が!


 「まいど〜、いつもお世話になってます。」  

 

 そこには小股の切れ上がった色男!走る宅配便、戸塚くんが!(チェック済み)

 「あぁ、戸塚くん! いいところへ来た。君、ちょっと店番頼めるかな?」

 

 「は? 今、仕事中ですけど‥‥‥」 


 そらそーだ! でも、こちとら緊急事態! 往生しいや。


 「そこをなんとか! もし派遣切りにあってもウチが雇うからさ!」 


 約一分後、何とか説得して戸塚くんに留守番を頼める事ができた。


 「待ってろよ、留美子」 



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