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アンティークショップ『マーロン』へようこそ  作者: 飛来颯
ホスト始めました
19/37

犠牲の仔

 「いらっしゃいませ」


 本日もホストクラブ『SIREN』は大盛況。

 先程まで、ゲイバーで大暴れして異常にテンションが高かった百鬼も、冷静さを取り戻すと、ある重大な事に気が付く。


 ‥‥‥完全に遅刻だ。


 百鬼は店に入って日もまだ浅く、本当なら誰よりも早く来て、開店準備をしなくてはならないのだ。これはヤバい‥‥‥流石にここでトンズラすることも出来ず、奥の手を出す事にしたのだが。


 「ちょっと〜、なんで私が駆り出されなきゃならないのよ?」


 心底ツマラナさそうに、短い髪をイジる女性がいた。次男・海の彼女である《小山日菜子》だ。


 まだ幼い息子の《蒼》と《紅》を、ゲイの巣窟から救い出したのまでは良かったが、刻々と時間は過ぎてゆき、大幅に遅刻してしまった百鬼が出した苦肉の策がコレ。

 もう、これ以外に何も思い浮かべなかった。同伴出勤なら誰にも文句は言われまい!

 相手が天敵なのが残念だが。


 「まぁ、そう言わず。未来の姑さんの力になれると思ったらいいでしょ? お・ヨ・メ・さ・ん」


 それもそうね。なんて、まんざらそうでもない未来の嫁候補は、納得した様子。

 なんで、俺がコイツのご機嫌取りしなきゃならんのだ? という感情は、この際あっさり捨てて、お嬢様お手をどうぞ。とエスコートして歩く美男美女はとても絵になる。


 「いらっしゃいませ、小山さま。今日も一段とお美しい」


 ニコヤカな声で話すは、この店の支配人である鷹村さん。シブいナイスミドルで、はっきり言って百鬼のタイプである。

 いつもはガミガミと、口やかましいのが玉にキズなのだが、事前に同伴出勤する旨を伝えておいたので、怒りはないみたいだ。

 百鬼は早速、日菜子を席に座らせた。


 「ねぇ、鉄郎さん。今日の店は何か様子が変じゃない? 活気がないというか‥‥‥」


 そう言われれば、なんかスッキリとした店内だなぁ、例えばゴッソリと人が居なくなったとゆうか、突っ掛かってくる人間が居ないとゆうか‥‥‥なんて考えていると。

 ちょっと‥‥‥と、手招きする人物がいた。店内1のチャラ男こと、店長の藤波である。


 「店長、おはようございます。なんか今日はイヤに静かですね」


 なんて言うと、彼は小声で「捜査が入ったから」と言った。

 え、何言ってんの? なのに平然と店を開ける仕事逞しい店長に呆れていると、そのままロッカールームに案内された。

 中に入ると、そこだけ異様な雰囲気に包まれていた。彼の話では、百鬼が思っていた人物が捕まったとのこと。その人物は‥‥‥


 「どういうことなんだよ、アキトさん。なんでアンタが、こんな馬鹿な真似をしたんだよ! なぁ、なんとか言ってくれよ」


 金切り声を出す後輩ホストに、アキトはただ俯くだけだった。

 まさか、店の古株で人望ある男が、麻薬に手を出すなんて誰が思う? それなりに責任感というものもあるだろうし。

 百鬼だって、そう思ったのだから。人畜無害なのだと‥‥‥だが、自分の目で確かめて人間は見目では分からないのだ。


 「でも、なぜ店を閉めないんです?」


 百鬼の問いに、店長の代わりに別の声が響く。


 「鉄郎。俺が、事を荒立てるなと言ったんだ。どうせ用事はそこだけだからな」


 そこには、顔色の優れない刑事の犬居の姿があった。まだ元・相棒の久保田にタックルされた腹が痛むのだろう、顔をしかめる。


 「まだ、痛むのかよ?」


 骨折れてっからな。と腹をさすった犬居は、どうやら勝手に病院を抜け出してきたようだ。じゃあ、大人しくベッドに寝ときゃいいのに。


 ところで‥‥こんな所で何があったんだ? 素知らぬ振りで状況を探ろうとするが、どっかのアホゥが出しゃばるから、教えないの一点張り。


 「どうせ、知ってたんだろ? 奴がヤクの売人だったって事を。それと久保田もな」


 それどころか、思いっきり身内だけどな。サツのガサ入れ情報を、俺ら組織に流していたのは久保田だったから。今は、コチラも不便な状況だ。

 今ここで、大掛かりな捕物があったら、逃げる術はどこにもない。

 ま、俺も奴を陥れようとした、人間の1人だが。


 「お前の事だから知ってると思うが、浅野は久保田から買い取っていたヤクを、又売りしていた。この店の従業員が客だったみたいだな」


 犬居の言う浅野というのは、アキトの本名だ。

 ここまでは、百鬼の思った通りである。やはり、久保田は〝魔女の鉤爪〟を探している! アキトが持っていた水色のクスリが、その証拠である。

 もし、これで本物が見つかり量産でもされでもしたら、世の中が廃人だらけになってしまう!!

 本物のレシピは、行方知れずになった時点で全て廃棄処分したが、今の技術を持ってすれば、解析なんてお手の物。

 留美子が、死んでまで隠し通した物を、今更暴かれてなるものか!


 「ところで、お前は宮田を覚えてるな」


 その名前に、百鬼はソッポを向いた。なぜなら、その《宮田》とは、3男・千夏司の実父だからだ。


 「そんな名前の奴なんて知らないね。昔のオトコの名前なら、忘れないんだけどな〜」


 ここで、知らぬ存ぜぬを突き通せるものなら、突き通したい‥‥‥なぜなら、千夏司の父親は極道者で、ヤクザの抗争に巻き込まれて死んでいる。

 何を今更、蒸し返そうっていうんだ?


 犬居は、神妙な面持ちで語る。


 ‥‥‥本当は、こんな話を洩らす訳にはいかんのだが、コトは急いだ方が良い。

 今、裏では血眼になって《宮田》の息子を捜している。宮田は〝組〟の重要機密を握っていた。

 奴が亡くなった時にアイツらは回収しようとしたらしいが、見つからなかったらしい。

 息子をお前に渡す時、何か聞かなかったか?


 なんだって? 正司の奴、そんな事を何も言わなかったじゃないか! 自分のせいで子供を犠牲にするつもりかよ。


 自分の弟分に怒りを憶える。だが、ここは平静を装わなければならない。


 「隠すのか? 今、引き渡すならウチで保護するが、どうする?」


 冗談じゃない! 引き渡した所で、安全だという保証がどこにある?


 「何言ってんだよ? 宮田だが何だか知んないけど、これから店が忙しくなる時間なんだよ。帰ってくんない?」


 百鬼は、それだけを言い残すと、とっとと自分の持ち場に戻った。




 ‥‥‥席に戻ると、百鬼の代わりにセナが日菜子の相手をしていた。


 「セナ、悪かったな」


 そういうと、セナはニコッとして席を離れた。日菜子は、そんな彼を横目に言った。


 「ねぇ、鉄郎さん。あの子、ウチの周りをいつもウロついてるでしょ?」


 え、なんでセナがウチをウロついてんだ? それよりも、お前はまだウチの嫁じゃないんだぜ? 聞きづてならねぇな。

 いや、それよりも‥‥‥


 「今、知り合いの刑事に聞いたんだが‥‥ウチの千夏司が狙われてるらしい」


 なんで? なんでチカちゃんが誰に狙われるっていうのよ!


 わかんねぇ、わかんねぇよ。正司が一体何をチカに残したのかも。

 早く、早く千夏司を隠さないと‥‥‥でも、どこに?


 ブーッ・ブブーッ。と、百鬼の胸ポケットに入れといた携帯電話のバイブレーションがブルった。

 確認すると、それは古賀家に潜り込んでいる《栗栖要》からであった。今度、行く《古賀麗華》の誕生パーティのプレゼントの件だろう。


 「そっか! この手があった!!」


 え、なんの事? 不思議そうな目で、日菜子は百鬼を見た。

 

 

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