変人 〜恐妻家決定〜
只今、森本家では大慌て。
一時的に預かって貰っていた、蒼と紅が戻って来ていないとのこと。
久しぶりに、御馳走にありつけた戸塚らは大喜びで食べていたのだが(海と千夏司も禁が解けた)なんとも幼子2人の安否が気になった。
聞けば、預けた場所は、百鬼の行きつけの店という名のゲイバーにいるとのこと。
なんだってあんなバケモノの巣に、放り込んだりしたんだ!(やっぱり自分は棚上げ)
あの子たちは、ウチの天使ちゃんなんだぞ!!
もし帰ってきたら、フリルとショッキング・ピンクが大好きなケバ子になってたら、ど~してくれるんだ?
天使ちゃんには、パール・ホワイトと相場が決まってるだろ〜が!!
かなり、論点ズレた話に一同ア然。
同族嫌悪とは、この事なのだろうか?
そして、名付けた作戦名『ウチの天使ちゃん’s救出大作戦』
‥‥‥まんまやないか。
決行は、血が最も騒ぎ出す満月の夜!!
敵は、サバンナの猛獣。イエロー・タイガーと呼ばれた(ただし、傭兵時代)武藤ガイ!
確かに、なんとなくウマが合うし、よく飲みにも行くけど、それとこれとは全くの別。
ウチの子たちは絶対やらないんだから、覚悟しやがれ!!
百鬼は、これみよがしに武装をし始める。
なぜか、こんな都会のド真ん中で迷彩服を着込んで、顔にはペイントを施す。
これからサバゲーの予行練習をしに行くの?
え、違うですか? でも、そのマシンガンはエアガンですよね、BB弾を撃つヤツ。
本物は、銃刀法違反で捕まるからって‥‥‥アナタが今までヤッてきた事、全部ひっくるめて犯罪そのものなんですけど?
「だまらっしゃい、お前たちも来るんだよ!」
森本家ご一行様は、『マーロン』地下の隠し通路を通り、百鬼ご自慢の改造車たちが眠る車庫へと出る。
‥‥‥でも母さん、僕たちの目が節穴じゃなけりゃ、なんか人数おかしくないですか?
と、これは森本家の長男のお言葉。
なんだよ? 全然おかしくないよ。千夏司は勉強があるし、店番やってもらわないと‥‥‥
海がいない! なんで俺とケーゴさんばっか働かせて、エコひいきじゃないの?
バッキャロー!!! んなこと、あるか。アイツがいると、ストーカーの日菜子が動き出すからだ。それに、体力ゼロの海がいると足手まといになるだけだろ?
それよりも、お前は自分の操を守っとけよ。
文句を投げ掛ける長男に、完全に尻すぼみの戸塚をジープに押し込めると、否応なしにエンジンを急発進させる。
敵は、ローズ・ハウスにあり!!
都内某所。〝ローズ・ハウス〟と称されるゲイバー《アマリリス》。
大好きなショッキング・ピンクを基調にされた内装。もちろん、漂う香りはローズヒップ。
これは、ママであるベティの趣味。彼は、可愛い物好き。白にピンクにバラ色♡
今度、生まれ代われるなら、宮殿のお姫様になりたいわね。
でもママ。今の私たちじゃあ、フリルにリボンのドレスなんて似合わないわよ。上腕二頭筋に三角筋なんて、筋肉が邪魔で着れないわよ!
なによ〜、リンダ。今の私たちにはウサギちゃんが居るじゃない。私たちが着ない分、蒼ちゃんと紅ちゃんを着飾ってあげればいいじゃない?
それもそうね。でも、この子たち本当にカワイイわね♡ 赤にピンクのドレスでしょ、それにクマちゃんのヌイグルミ。後で写真撮影しましょう。
しかし、赤ん坊2人の表情は〝無〟だった。
「そこまでだ! 息子から離れるんだ妖怪ども、天誅を下してやる!」
モデルガンを片手に抱え、怒り心頭で乗り込んできた百鬼に、ママは大変にご立腹であられました。
は ? アンタが産んだんじゃないでしょ! 面白いのは、顔だけにして頂戴。
お前たち、ヤっちまいな!! 応!!
「臨むところだ! 」
テンション・ヒートアップの百鬼らに対し、戸塚らは完全にテンション・ダウン。
なぜ、素直に『ありがとう』が言えないんだろ?
菓子折り持ってさ、これからもヨロシクね。ってね‥‥‥
まぁ、確かにサテンドレスに身を包んだ、弟らを見るのはキツいけどね。
ほら、父ちゃんと兄ちゃんと一緒に帰ろ。ほら、クマのヌイグルミを置いて‥‥‥離したくない?
これは、あっしの一部ですから。だって?
向こうでは、勝手にドンパチやってるし‥‥こっちは、ヌイグルミ離そうとしないし、早く帰りたいなぁ。あ、今度は殴り合ってるし。
そうこうしている内に、双方ともダウン。
原因は、体力の限界‥‥最後に、百鬼は言った。
「ママ、喉乾いた。バーボン頂戴、ロックでね」
殺意が芽生えるとは、この瞬間だろう。と誰も彼もが思った事であろう。
顔は傷だらけだし、自慢の筋肉にも切り傷を付けられた上に、赤ん坊らを取り上げられたベティママに怒られながら「アンタに、飲ます酒なんて無いわよ」と、追い返されたそうな。
ちなみに、後ろに控えていた長男の烈は、店に出勤してきた他のオニイさん方に、口紅ベッタリの強烈なキスの手厚いおもてなしを受けてしまったという。
「あ、お帰り〜」
3男・千夏司の軽いお出迎えに、百鬼たちは〝家が1番〟と、つくづく思った。が‥‥‥
「お帰りなさい。鉄郎さん、圭吾さん」
なぜか〝店〟ではなく、自宅の書斎のソファで寛ぐ《小山日菜子》の姿が、見受けられた。
なんで、お前なんぞが家に上がり込んでんだ?
「あら、もちろん招待されてのことよ」
日菜子は、千夏司と楽しそうに談話をしている。
土産は、1日に100個限定の人気商品。ショコラ・モンブラン‥‥‥アイツめ、ケーキを餌に千夏司をも釣り上げやがったな!!
聞くところによると、次男の海は夕飯の支度をする為、買い出しに出掛けているらしい。
こりゃ、完全に日菜子に尻にひかれとるな。どう見ても将来、恐妻家決定じゃないか。こんなんじゃ、駄目だ!
怒って暴れたいのは山々、だが時間が‥‥‥
ちっくしょ〜、出勤時間だ!!!
本当なら何の情報も得られず、昔の初恋。今は天敵の刑事の犬居にホストクラブ『SIREN』で働いていたのがバレてしまったのだが、もしかしたら〝魔女の鉤爪〟関連の情報が拾えるかもしれない。
そんな淡い期待をしつつ、彼はホストクラブに出勤するのだった。